期待のアクション俳優はいつもズタボロ   作:全智一皆

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「本気で言ってんのかアンタ!?」
「冗談言ってる様に見えるか?」



序章「骨折なんてアクションしてたら珍しくない」

■  ■

 此処は、私立陽東学校。

 あらゆる高校に必ずしもあるであろう一般科の他に、芸能人になる為に芸能業界の知識を蓄え、育成する芸能科がある高校である。

 そんな芸能科のクラスF組に、今作の主人公たる少年が遅れて登校してきた。現在時刻8時30分である。

 

「すんませーん…遅れました」

 

 がらがら、と朝のホームルームが始まった直後の教室の扉が開かれる。

 ホームルームが始まるのは8時25分辺り。5分くらいの遅刻である。普段は遅刻する様な生徒ではないのに、と少し不思議に思った担任。

 それに声色も元気がない。なんと言うか、自信という自信を完全に根底からバキバキにへし折られてしまった様な元気の無さだ。

 

「君が遅刻なんて珍しいですねって、えぇ!?」

「おはざーす…」

「いやいやいやいや!!!! おはざーす…じゃないでしょ! どうしたんですかその怪我!?」

 

 少年はあまりにも痛々しい姿をしていた。はっきり言えば、それはもう凄いくらいズタボロになっていた。

 頭には包帯が巻かれ、左腕は骨折したのかギプスが付けられ首から括った布でぶら下げられている。頬にもガーゼが付けられているが、傷口から溢れた血の所為で赤く滲んでいる。

 そんな少年の痛々しい姿に、クラスでもざわめきが生まれている。

 

「いや…胃の中の蛙である事を知ったと言いますか……俺って調子乗ってたんだなって言うか…世界すげーなって言うか…」

「本当に何があったんですか!?」

「別に…なんもないッスよ。ただアクション俳優としてスカウトされただけで…」

「スカウトされて普通そうはならないでしょう!? 完全に複数人に集団リンチされた様な具合になってますよ!? レイプ目になってますよ!?」

『教師が何言ってんだよ!!!!』

 

 生徒達からキレッキレのツッコミがぶっ飛んで、取り敢えず四限目までは居るとの報告を受けてホームルームは終わった。

 生徒を心配する教師にあるまじき発言である。もしかしてそういう性癖でも持っているのだろうか。

 まぁ、それはともかくとして、少年は席に着いて間もなく大きなため息を零した。

 

「はぁぁぁぁぁぁ……………」

「すごいため息だね。フグみたい」

「合うてる様で合うてへんね、フリルちゃん…」

「本当に凄い怪我だね…どうしたの? 理解(わから)せられた?」

 

 吐かれたため息と共に、一人の少年の下に三人の美少女達が集い始めた。

 歌って踊れて演技も出来るマルチタレント、不知火フリル。

 Gカップという脅威の胸囲を持つグラビアアイドル、寿みなみ。

 左目に星を宿す、アイドルを志す新人、星野瑠美衣。

 何とも羨ましい事この上ない。男子からの嫉妬不可避確定のメンツだが、少年は鼻の下を伸ばす事すらしていない。普段からではあるが。

 

「星野が正しいかな…」

「えぇ…マジなの? 誰にヤられたの? 大丈夫、私はちゃんと友達のままだよ」

「出来れば慰めか暖かい言葉が欲しかったね星野さん…。あと、正確に言うとヤられたんじゃなくて殺られかけたんだわ……」

「殺人未遂!? ちょ、ほんまにそれ大丈夫!? 警察に連絡した!?」

「してない…」

「なんで!?」

「言いたくないっす」

「急に目が据わった!?」

 

 光を失っていた筈の目に光が宿った。ハイライトの電源が入った様だ。

 それはそれとして、ここまでズタボロにされているにも関わらず警察に連絡していないのはどういう了見だ、と寿みなみは少し怒った。友の為に。

 なんと優しい娘だろう。少年が惚れてしまわないか心配だ。

 

「理由は分かれへんけど、ちゃんと警察に通報せんと! 殺されかけたんよ!?」

「いやぁ…その…ボコられた原因の大半は俺にあると言いますか……さっきも言ったけど調子に乗ってたと言うか…それに、理由もくだらないし…」

「いつもの自信に満ちた雰囲気がないね。ちょっと可愛いかも」

「惨めにしか見えないけど私」

「あんま心抉る事言わないでくれないかな星野さん。泣くよ? 人目も憚らず大泣きするよ? 大泣きしながら学校中駆け回って星野に泣かされたって言いまわるよ?」

「キッツいなぁ…」

 

 ズバッと斬り捨てるルビーさん。流石に容赦がなさ過ぎる。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「ちょっ、本当に泣かないでよ!」

「はい」

「うわぁ急に落ち着くな! 何今の、嘘泣き!?」

「中々上手かっただろ? 六割は本気だったけど」

「わりとギリギリやん!?」

「今のも可愛かったね」

「フリルちゃん!?」

「知ってるかい、不知火? 男はな、可愛いって言われてもあんまり嬉しくないんだぜ?」

「じゃあ気持ち悪い」

「なんでそうなるかなー!? 何なのお前ら!? 特に不知火と星野! マトモなのは寿だけか!」

「ごめんね、うちも今のはちょっと…」

「遂に寿にすら見放されたか…ちょっくら死にに行ってこようかな、社長ん所まで。こんな状態で昨日みたいにボコられたら流石に死にそう」

「え?」

「あ」

 

 自分から暴露していく。お約束である。

 みるみると顔を真っ青にしていく少年に、三人が問い詰めを始めた。

 ちなみに、世の中ではこれをご褒美ではなく尋問と言う。

 

「どういう事かいな?」

「いやー、えっと……その……」

「スカウトされたって言ってたよね。もしかしてボコしたのって君をスカウトした事務所の社長さん?」

「しゃ、社長なんて言ったかなぁ?」

「流石に無理でしょ、その言い訳。で、どういう事なの? ちなみに私、人の嘘って結構分かるよ」

 

 美少女三人に詰められている。その場面だけで見れば何とも羨ましい限りではある。

 ではある、のだが……状況が状況なのでこの場限りでは全く羨ましくない。

 なんせわりと本気で目が怖いから。それだけ少年を友人として心配している証拠ではあるのだけども、それについては後々の話で語るとしよう。

 

 まぁ、閑話休題。

 

 少年は降参する様に、右手を挙げた。ハンズアップだ。左手は骨折しているので挙げられない。

 

「分かった、分かったから! 全部話すからちょっと離れてくれ!」

 

 詰められると流石にドキドキしたらしい。

 

「えっと…あー、どう説明すればいいかな…まずさ、俺って超スゲェじゃん?」

「いきなり自慢から入る?」

「いやいや、真面目だっての。事実、身体能力とな超スゲェだろ?」

「まぁ、そうやな」

「非公式だけどワールドレコード更新してるよね」

「うん、確かに凄い」

「だろ?」

「身体能力だけだけどね」

「体動かすしか取り柄ないみたいな言い方すんな? って、そうじゃなくて。まぁ、自分でも俺めっちゃスゲェ!って自覚はあった訳で、調子乗りまくってた訳じゃんか」

「自信すごかったよね」

「うん。でも、嫌味っぽくはなかったし、寧ろ接しやすかった」

「そりゃどうも。で、そんな俺がボコられた経緯なんだけど……」

 

 そうして、少年は語り出した。

 自らをズタボロにした挙げ句に、自分をスカウトした相手とその経緯について。

 

 

 

 

 

           ❖

 まず、昨日は学校帰りに適当にぶらついてたんだよ。そんで、丁度公園があったから立ち寄って、懐かしいなーって思ったからブランコだったりジャングルジム登ったりしてたの。

 だからね、不知火? 可愛いって言うのやめろくださいね。星野はキツイじゃねぇ、黙りなさい。

 で、そんなこんなで時間潰してたらさ、全身黒ずくめのおっさんが公園に入ってきたんだよ。うん、一人。別に麻薬の取引してたとかじゃないからな?

 何だ、ただのおっさんか。気にも留めず目線から外そうと思ったんだけど、つい二度見しちまったんだよ。

 何もしてないよ。ただ立ってるだけ。立ってるだけだったんだけど…その立ち姿が異常だったって言うか。

 隙が全く無かったんだよ。ただ其処に立ってるだけなのに、棒立ちしてるだけなのに、どこを見ても全然隙が無くてさ。仮に後ろから殴り掛かっても俺が仕留められるって確信出来るぐらい。

 うるさい。分かるもんなんだよ、直感的に。そういうもんだって納得してくれ、話が進まないから。

 それはもうマジマジと見てたもんだから、おっさんにも気付かれてさ。「どうかしましたか?」って声掛けられた。ちょっと声ガラガラで、喉痛めてんのかな?って思ったりもしたけど、それより聞きたい事が結構あってさ。

 もう初っ端から「おっさんって自衛隊の人?」って言っちゃって。やべ、失礼だったかなって焦ったけど別に気にしてなくて、「正解ではありませんが、惜しいですね。よく分かりましたね、驚きました」っ気さくに笑ってた。

 もうそれで完全に気抜いて、そっからおっさんに色々聞いたりしてたんだけど、途中から強さ自慢みたいなのになってさ。

 

 そのおっさん、今でも自衛隊とか特殊部隊の人達に戦術とか技とか教えてる人らしくて。昔は外国の警備会社に勤めてた事もあるんだと。

 まぁ、俺も燃えちゃってさ。自分がめっちゃ身体能力すげーって言いまくって、「試しにスパーリングでもしてみます?」って言われたからそれに乗った。

 いや、分かるよ。今思えば、初対面の、しかも高校生相手にスパーリング提案する時点で「あれ? この人もしかして結構アレな人じゃね?」ってなるよね、でもならなかったのよ俺。心めっちゃ燃えてたから。

 「遠慮せずに本気で良いよ」って調子乗って俺言ったんだけど、そしたら「じゃ遠慮なく」って言った後に―――視界におっさんの姿が写ってるのに横からおっさんに殴られた。

 は?ってなるよな、俺もなった。マジで何も分からんかったし。んでもってさ、くっっっそ痛かったのよね。

 身体めっちゃ硬くて、小学校の図工の授業でトンカチがズレて指に当てても全然痛くなかった俺だが、おっさんの拳がマジで痛かった。

 なんか、皮膚を打つ感じじゃなくて骨そのものに来る痛みって言うか、骨を直で鉄骨でぶん殴られたみたいな感じ。鉄骨で殴られた事ないけど。

 おっさん曰く残像を残したんだと。自分が考案したそういう戦闘術を応用したらしいんだけど、この戦闘術がマジでやべぇの。

 態勢立て直して、もう我武者羅って感じで距離詰めて拳抜いたら、アニメみたいに避けられた。首を傾げるみたいな動作で弾とか避けるシーンとかあるんだけど、まんまそれ。

 で、避けたと同時に俺の顔面に拳が迫ってた。避けらんないよね、直撃したわ。さらには腹に膝蹴り入れられてからの肘使ったアタックで左手がお釈迦になった。

 ちなみにこれ、約40秒くらいの出来事ね。一分も立たずに、文字通り瞬殺されたわ。

 で、もう意識も朦朧としてる中で、俺は思った。

 え…めっちゃカッケェ……って。

 バカって言うな。おい、寿までバカって言うな。女子三人からバカって言われるのわりと心に来るから止めなさい。俺じゃなかったら死んでるよ?

 いや、マジでカッコよかったんだもん。今までこんな一方的にやられた事なかったのもあるけど、動きの一つ一つがめっちゃ綺麗で洗練されてた。しかも殺さない様に急所狙ってないの。くっそ格好良くね?

 で、そのおっさんから「君にはアクションの才能がある。その類稀な身体能力を、アクションに使ってはみないか?」ってスカウトされて、それ受けた。

 で、気絶した後におっさん…社長から手当てしてもらって、今に至る。一人暮らしをここまで喜んだ事はないね、親に何言われるか分かんなかったし。

 おい、なんで詰めてくるんだ。なんでグーしてんの? ちょ、待て待て待て! いやー! 誰か助けてー、美少女三人に嬲られるー!

 

 あああああああああああああああああああああ――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




おっさんのモチーフは例の戦術戦技アドバイザー
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