「戦場に限度はないんだよ」
■ ■
『COMBAT』。
それは極限のリアルアクションを自ら創り上げる事を目標としている、
一つの映画でありながら一つの
彼らが活躍するバトルシーンは動きの一つ一つが洗練されており、リアルである筈なのにまるでアニメを観ているかの様な感覚に落ちる事で有名だ。
編集抜きで速く、強く、鋭い。攻撃する動作、回避する動作の全てが我々が普段見るモノとは根本から異なるものである。
中でも、個で群を墜とすバトルシーンは最も有名であり、COMBATの名を一躍有名に跳ね上げた理由そのものだ。
『インセクト』という小説を原作としたドラマ化したアクション映画がある。
それに出演したのがCOMBATに所属する俳優の一人であり今ではCOMBATの顔とすら言われる人気俳優、逆上俊。
彼が演じるラスボスの殺し屋「漿果」による一個中隊を壊滅するワンシーンが、原作の読者も視聴者も虜にしてみせた。
アクションにおいて様々な実績を持つCOMBATだが、彼らの目標は極限のリアルアクションを自ら創り上げる事。数多の実績はそれを創る為の足掛かりなのだ、と。
とまぁ、我らがズタボロ主人公がスカウトされたのがこの事務所な訳なのだが。
「なんでお前来るかな? わざわざ兄貴まで連れてさ」
「だって気になるしー? 大丈夫、いざとなったらお兄ちゃんに助けてもらうから!」
「勝手に巻き込んでそれか?」
原作主人公二人が、今作主人公と共に事務所に訪れております。
主人公の友人である星野ルビー、そしてその実の兄である星野アクアがCOMBATの事務所に来訪し、訓練で疲れた彼の前に立っていた。
ちなみに怪我は完治している。2日で。
「そんで争いが起こる前提で話を進めるな。コイツの話聞く限りじゃ逆立ちしても勝てないだろ俺」
「そりゃそうだろ。社長と先輩は特にバケモノなんだから」
「自分の社長と先輩をバケモノ呼ばわりしてる件について」
「星野兄も
遠い目をして笑う。それはもう虚空を見つめている。
前世において医者をやっていたアクアにしてみれば、人間なのに残像を残す事が出来るなんてにわかには信じ難い話である。
「本当に人間かそれ? 多分生まれてくる世界間違えてるぞ」
「だからバケモノつったろ。少なくともこの平和な世界で生きてる人間の強さじゃない。異世界からやってきた軍人ですって言ってもらった方が頷ける」
「自分に限っては軍人じゃないですけどね」
「そうですね、俊さんは訓練受けただけですから」
「………あのですね、それあんまやらないで欲しいんスけど、マジで。本当に心臓悪いんで」
「いきなりどうしたの? 幻覚見てる?」
「でも目は俺らの方を向いてるぞ」
「後ろ見りゃ分かる」
「後ろ?」
青い顔をして後ろを指す少年。それに従って顔を背いてみれば―――
ルビーの背後にはニット帽を被りサングラスを掛けた男性が、アクアの背後には髪の後ろを一房に纏めた男性が自然と立っていた。
間髪を置いて―――
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
悲鳴が上がった。勿論の事、腰が抜けた。
当の本人二人はあはは、とにこやかに笑っていた。
「いやぁ、すいません! そこまで驚かせるつもりはなかったんですけど」
「師匠が悪ノリしたので自分もやりたくなっちゃって」
「本当にやべぇっスよ、洒落ならんっス。考えてくださいよ、普通に話してたらいつの間にか音も気配もなく背後に男が立ってるんスよ?」
「その時は殺れば済む話ですから」
「そういう事じゃねぇのッ! 戦闘者目線じゃなくて凡人目線で考えろよ、物事を! 普通ならビックリして腰抜かして当然だっつの!」
腰を抜かして崩れた二人を庇う様にしながら放たれた反論は、まさしくその通りである。
サングラスを掛けた男性こそ、黒淵敏彰。COMBATの創設者にして代表取締役、かつてアメリカのPMCに就き、傭兵として戦場を経験した事がある凄腕の元傭兵。
その隣に立つ男こそ、逆上俊。COMBATを代表するアクション俳優であり、世にリアルアクションの何たるかを知らしめた俳優にして黒淵直々の唯一の弟子である。
「いやいや、驚かせてしまってすいません! 初めまして、星野アクアさんと星野ルビーさん。事務所COMBATの社長をやってます、黒淵と申します」
「自分も悪ノリしてしまってすいません。COMBAT所属、逆上俊です。今日は存分に見学してってくださいね」
「ど、どうも…」
謝罪しながら、二人は腰を抜かしたアクアとルビーに手を差し伸べた。浮かべているのは柔和な笑顔だ、とても人当たりが良さそうではある。
だが、二人は思う。その笑顔が逆に怖いと。
(ねぇお兄ちゃん、もしかして私達ってヤバい所に来ちゃった?)
(もしかしなくてもヤバい。柔和に笑ってる筈なのに恐ろしい何かがあるのが素人の俺でも分かる。本当にヤバいぞ此処)
「そうだぞー、本気でヤバいぞ。スタントマンも含めて完全に慣れてるからバケモノの巣窟だと思っとけ」
「いやぁ、師匠はともかく俺は違うでしょ?」
「アンタも同類ッスよ。普通に類友だわ。そもそも社長とワンマンで修行やって大した怪我なく生きてる時点で十分バケモノッスよ」
「後で覚悟しとけよー?」
「マジすんません土下座でも何でもするんで勘弁してください。訓練の度に体ぶち壊されちゃ堪らんッス」
刹那の土下座。目にも留まらぬ速さで土下座が繰り出された。ルビーはうわぁ…とドン引きした。
だが勘違いしてはいけない。これは彼だけにドン引きしたのではなく、訓練の度に体をぶち壊す逆上達も含まれている。
身体能力が人間離れしている超人が、卓越した身体能力を持っている訳でもない人間にボコボコにされるという現実にもかなり引いている。
「師匠が加わらないだけマシでしょ」
「それが笑えない。まずそこが可笑しい。なんで俳優同士の訓練で社長が出張ってくるのかが不思議で仕方ない。せめてサポートに徹してくださいよ」
「(技のアドバイス的な意味で)サポートしてますよ?」
「それが普通じゃねぇのよッ!」
「じゃあ、そこら辺も含めて見学してもらいましょうか。お二人は彼と同じで陽東に通ってらっしゃるんですよね?」
「あ、はい。私はクラスメイトです」
「自分は顔見知りです。身体能力の高さから学校でも名前が上がってたので」
「卓越してますからねー」
「社長に言われても嫌味にしか聞こえないのよね。マジ泣きそう」
「俊さん、お願いしますね」
「了解です」
「容赦無さ過ぎて笑えない。あー、くそ! いいぜやったろうじゃねぇか! 良いか、よく見とけよ! 瞬殺ってのはこういう事だと!」
死んだ目で叫ぶ様は少しばかり恐ろしい。
あ、今日ヤバいかも。そんな事をようやく確信した二人だったけれど、別に君達がどうこうなる訳ではないのだ。
どうこうなるのは彼だけである。なに、心配は要らない。ズタズタのボロボロになるだけだ。