成り代わり娘の原罪   作:サブレ.

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お久しぶりです。投稿再開します


第九話:幼児化は一人とは限らない

「今日は阿笠博士の家に泊まる?いえ別に阿笠博士のところなら構いませんけれど……一応私も来てくれ、ですか。まあいいですよ」

 

父さんが酔っ払っているのを確認して、名目としてコナンくんの服を用意した。そして足が必要になった時のためにバイクを使って阿笠博士の家へ。

慣れた調子で中に入ると、初めて会う女の子がいた。コナンくんが演技もせず警戒しているので、普通の子でないのは確かだろう。まあ、私が普通かと言われたら首を傾げるのも事実ではあるけれど。

 

「はい、着替え持って来ましたよコナンくん。彼女は?」

「おお、桔梗くんすまんの。彼女は灰原哀といって、ワシの親戚なんじゃ」

「ま、正体は例の組織の幹部だけどな……」

「そうなんですね。初めまして、毛利桔梗と申します。コナンくんの居候先の先住人です、よろしくお願いします」

 

膝を折って、目線を合わせた。この子が組織のコードネーム持ち幹部だったのかあ。今は小学生で、阿笠博士の親戚って設定で通すべきだというのは理解した。

話しかけても、哀ちゃんはこちらを向かずに黙っている。特に気にすることなく立ち上がる。こちらからの挨拶は終えた。向こうが私と仲良くしたいと思うかは、哀ちゃん次第だ。

 

「さてコナンくん、彼女が縮んでここにいる理由を」

「ああ、実は───」

 

ふむ、なるほど。唯一の家族だった姉を組織に殺されたので反抗、その際にAPTX4869を飲み込んで幼児化した。新一くんが飲まされた薬ってそんな名前だったのか。組織といえど一枚岩ではなさそうかな。

そしてこの子は研究者、つまり奪う側ではなく産み出す側だったと。

 

「ここに至るまでの状況は理解しました。その、APTX4869とやらのデータはどうにかなりそうですか?私としては、江戸川コナンくんが工藤新一くんに戻れそうなら、それに越したことはないのですが」

「ああ。それなら、南洋大学教授の広田正巳教授が持ってるらしいぜ。つーわけで付いてきてくれ」

「全部わかってるじゃないですか。私、必要ありますか?」

「念のためだよ。ほら、この中で一番強いのは桔梗だろ?」

「わかりました。南洋大学……静岡県ですか。私は博士の後ろから追走しますね」

「乗らねーのか?」

「乗りませんよ。境遇が同じコナンくんや恩人の阿笠博士と違って、私は今が初対面の素性も知らない女ですよ?密室で警戒させてどうするんですか」

 

しかも私呼ばれたの戦闘要員だし。危ない人間として警戒されるくらいなら少し離れた位置にいますよ。怖がらせたいわけじゃないし。

そして三時間後、なんとか目的地に到着した。

お邪魔して、三人の一歩後ろをついていく。しかし、目的の広田正巳先生は自室にいたけど、鍵をかけていて、中に入れない。

 

「桔梗!」

「はい」

 

コナンくんを持ち上げて天井近くのガラス張りの部分から中を覗かせる。コナンくんの直感通り大変なことになっていたようだ。すぐさまコナンくんを退かして、阿笠博士と広田正巳先生の奥さんの登志子さんの前に割って入る。

息を整えてドアをぶち破ると、中で広田正巳先生が棚に押しつぶされていた。コナンくんが見たのはこれか。

登志子さんが悲鳴をあげ、阿笠博士が警察を呼ぶ中、私とコナンくんと哀ちゃんはひどく冷静だ。この子も慣れてるってことなのかな。

 

「さてコナンくん、事故と殺人どちらに見えますか」

「おそらく、殺人……」

「了解。調べる際は指示を。もし本日中に推理を行う場合、探偵役は阿笠博士ですか?」

「ああ」

 

やるべきことはそこまで多くない、か。阿笠博士がいなかったら私の仕事の割合はもう少し大きかったに違いない。

そんなことを思いながら、外に出てパトカーを誘導しつつバイクを邪魔にならない場所まで移動させた。

 

+++++

 

家の中に戻り、警察官に挨拶してコナンくんと合流。ここは静岡県なので目暮警部は当然ながらいない。コナンくんと哀ちゃんがあちこち探っているけど、表だった衝突はなさそうだ。無理に割り込まない方がむしろ自然だろうか。

しかし、哀ちゃんがここに目をつけたように、組織もまたここにフロッピーディスクがあることを掴んでいたらしい。何本か入っていた留守電のうちの一本がウォッカという幹部のものだった。

これがウォッカの声と抑揚か、覚えておこう。

考え込んでいると、背後から声をかけられた。哀ちゃんの呼びかけに、膝を折って目線を近づける。

 

「ねえ、あなた」

「なんでしょうか?」

「あなたは工藤君のように、この事件を殺人だと思っているの?」

「さあ。強いていうならどちらとも言えない、でしょうね。私は謎を解くのには向いていないので、精々お手伝いに留まりますよ」

「あら、ジョン・H・ワトソンにでもなったつもりかしら?」

「ご冗談を。私に小説家の才能はありません」

 

確かに医者というか、正確には獣医志望ではありますがね。知り合いに工藤優作とかいう頭何個も抜けた天才小説家がいるのに小説家になれるわけないだろ。

 

「私は、正直に言って謎解きはどうでもいいんですよ。でも、コナンくんは違うでしょう?なら手伝いますよ。友達で幼馴染です。彼が一生懸命にしているから、私は彼を手伝う、それだけです。それに、関わる事件を選り好みできるほど器用な性質でもないもので」

 

大切な人が関わった時だけ本気を出せるほど、私は器用じゃない。目の前の他人を真剣に助けられないのに、いざ大切な人が危機に遭ったときに助けられるとは思わない。

それに、私は工藤新一の役に立たなければならない存在だ。ならば、工藤新一が一生懸命に取り組むことを支えるのは自然なこと。

私の意識なんてそんな程度だ。自分に事件の解決なんて期待などしていない。

 

「さて、コナンくん。謎は解けましたか。チェックメイトにはまだ早いでしょう?」

 

散らばったチェスの駒を見て、そんな単語が転がり出てくる。コナンくんはチェックメイトという単語とチェスの駒で、本当に何かを閃いてしまったらしい。

 

「ああ、解けたぜ。オメーのその言葉でな、桔梗」

「お気遣いどうも。あとはお任せします」

 

あとはコナンくんと阿笠博士にお任せしよう。謎解きは性に合わないから、哀ちゃんを誘導して部屋の片隅に移動する。

 

「……私がそうであるだなんて思い上がりはしませんが、存外、頼りになる人はあちこちにいるのかもしれませんね」

「そうかしら」

「ええ、きっと」

 

そうして始まった推理ショーが進んでいく。コナンくんがいるのに隠し通せると思わないことだな、やはり犯罪はするものじゃないな、なんてありきたりなことを思う。

人殺しも、また。

 

「さて、これで事件の迷宮入りは防げましたね。お疲れ様でしたコナンくん」

「ああ、フロッピーに関しちゃ博士がなんとかしてくれるだろうしな」

 

警察官から隠れてこそこそ話をする。とりあえず組織の情報は得られそうでよかった。宮野明美さんがフロッピーを送っておいてくれたおかげだな。この人なかなか切れ者の予感がする。

 

「…………なんで」

 

震える女の子の声で話しかけられて、二人揃って哀ちゃんの方を向いた。

 

「なんでお姉ちゃんを、助けてくれなかったの?」

 

哀ちゃんの広田正巳の名前が、過去に毛利探偵事務所を訪った広田雅美の名前と重なった。彼女の本名は確か、宮野明美だったっけか。

ああ、そうか。

彼女が、灰原哀のたった一人の家族だったのか。

周囲全てが敵の中で、たった一人の味方を失うなんて、それはどれほど、辛いことだろうか───。

あの日無力だった私が、何を言えるはずもなくただただ港の光景を脳裏に思い浮かべた。

 

 

もしかして、彼女も、誰かに助けて欲しかったのだろうか。

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