成り代わり娘の原罪   作:サブレ.

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第十話:天才マジシャンにも苦労がある

平次くんに大阪にお呼ばれしたので遊びに行った。最高だ平次くん、フォーエバー平次くん。我らエラリィとアガサで繋がった仲。まあ私あの後崖下の海に捨てられたんだけどね、ふざけんなよ。思い出しても腹が立つ。しかも大阪ではまた事件が起こったし。

でも和葉ちゃんというお友達ができたのは良かった。また遊ぼうね和葉ちゃん。

で、こんなふうに大阪で遊び倒したら東京の友達も恋しくなるというもの。

 

というわけで、園子ちゃんの奇術師愛好家連盟のオフ会に同行させてもらうことにした。バイクで行こうかとも迷ったけど、父さんが送り迎えしてくれるそうなのでお言葉に甘える。

コナンくんも助手席に乗ってるけど、園子ちゃんの初心者マジックをさらっと解き明かしてるの探偵の悪いところだよ。

ロッジは崖を渡す細い吊り橋の向こう側にあった。ロッジ自体はかなり大きく、複数人が宿泊できるようになっている。

オーナーの荒さんを始め、参加者が次々と挨拶していく。園子ちゃん以外にも、インターネットの向こう側で性別を偽っていた人は多いらしい。私たちは参加者の中で最年少だった。

 

「ああ、そう言えば君たちの他に高校生が一人参加しているんだ。今は二階にいるけど……」

「高校生だって!」

「意外ですね、誰だろう……」

 

園子ちゃんと顔を見合わせたのと、階段から人が降りてきたのは同時だった。フード付きの厚手パーカーにジーンズというラフな服装で、ひょっこりと顔を覗かせた男子高校生。

 

「あ、こんにちは。魔法使いの弟子さんですね。これで全員かな?」

「…………わあ」

 

この顔を見るのは数ヶ月ぶりであり、この人物と出会うのは約一年ぶりだ。足元でコナンくんも目をまん丸にして驚いている。

 

「探偵ボウズ!?」

「新一くん!?」

 

そうか、父さんと園子ちゃんは初めて会うのか。この、ドッペルゲンガーも真っ青な工藤新一に瓜二つの男子高校生に。まあ、名前は私たちも知らないんですけど。

新一と呼ばれたその人は、ぱちりと瞬いたあとに落ち着いて呼びかけを否定した。

 

「あ、違いますよ。よく高校生探偵の工藤新一とそっくりだって言われますけど、オレ、ハンドルネーム“レッドヘリング”の土井塔克樹っていいます。探偵じゃなくてマジシャン志望です」

「土井塔さんでしたか、失礼しました」

「いえ、知名度は向こうのほうが上ですしね」

 

園子ちゃんの代わりに一歩前に出て挨拶を行う。一年前に一回顔合わせしてるから、驚きはこちらの方が少なくて済む。

 

「改めまして、私は毛利桔梗です。こちらの魔法使いの弟子こと鈴木園子ちゃんの友人として参加します」

 

園子ちゃんを紹介して、他の参加者とも顔合わせが行われるのを確認してから一歩引く。コナンくんが興味を示しているのは、一年ほど前に彼が新一くんの一目惚れした藤代蘭さんという人と一緒にいたのを目撃しているからだろう。

 

「おい、探っといてくれよ」

「期待しないでくださいね?」

 

父さんに連行されていくコナンくんに頼まれたので私の調査能力の低さに釘を刺しておく。此度のメインは私ではなく園子ちゃんであることをお忘れか、コナンくん。土井塔くんは暫し、コナンくんと父さんの背中を目で追っていた。

私もまた明日迎えにくる予定の二人を見送り、ロッジの中に入った。

 

「いやー、それにしてもビックリしたわ。あんなに似てることってあるのね」

「他人の空似なのか、何か私たちにも知らないドロドロとした血縁関係があるのかは不明ですが……驚くのはわかります」

「でも新一くんみたいに気障ったらしくはないのよね」

「たしかに」

 

根っこはだいぶ違う気がするので、素直に同意した。容貌があまりに似ているので、園子ちゃんもアプローチする気にはなれないらしい。素直に奇術師同好会を楽しむのもいいと思うよ。

 

+++++

 

奇術師同好会同士で会話が弾む中、私は若干蚊帳の外のような立ち位置にいた。ここに集まったのはステージに立つ側、それに対して私は完全に観客側なのだ無理もない。舞台裏を覗き見できるのは楽しいので、来て良かったとは心から思ってるけど、口数はどうしても少なくなる。部屋の端っこで会話を聞いてたら、隣に静かに土井塔くんが立っていた。

 

「よ、楽しんでるかー?」

「おかげさまで。観客として舞台裏を覗き見るのも楽しいものですね……そういう土井塔くんは、そこまで楽しくないのですか?」

 

スッと、土井塔くんの目が細められた。猫を思わせるその相貌を見つめ返すと、土井塔さんはにこっと笑った。工藤新一ではなかなかお目にかかれない表情だ。

音もなく土井塔くんが席を立つ。他のメンバーが気づいていないのを確認してから、私もそれに続いた。人気のない廊下で、声を抑えながら対峙する。

 

「よお、素顔だと一年ぶりだな、ワトソンくん」

「その呼び名は小恥ずかしいですね……お久しぶりです。今は土井塔克樹くんとお呼びしますが、別に名前があるのでしょう?」

「あの名探偵と一緒だよ。本名を名乗らないほうが良いこともあるってな」

「わかりました」

 

一年前、アメリカ以来の邂逅だ。事件のゴタゴタで本名を確認することもできないでいたけれど。こんなに落ち着いて、しかも新一くんを挟まずに顔を合わせるとは思いもしなかった。

というか正体気づいてるんですねあなた。いつの間に。

 

「で、なんでオレが元気ないって思った?」

「土井塔くん、父さんとコナンくんが帰るのを残念がってたような気がしまして。もしかしたら、探偵が必要な事態が差し迫っているのかもしれないと」

「へえ、バレたか。オレのポーカーフェイスもまだまだかな」

「ご冗談を。わざとでしょう?」

 

少なくとも、彼は真正面から探偵を呼び止めるほどの証拠を持っていない。直感にほど近い予感にすぎないのだろう。そんな彼が、力になってくれるかもしれない相手にポーカーフェイスで不安を隠し通す理由などない。

 

「それで、どのような不安があるのですか?私に解決能力があるかは甚だ疑問ですが」

「オイ」

「それでも、誰かがとても困っていることに気がついて、話を聞いて、探偵や警察のところに連れていくことはできますから」

「優しいな、さすがは名探偵の相棒か?」

「別に、ただ、とても反省するような出来事があっただけですよ」

 

宮野明美も、それにもしかしたら、浅井成実も。

困っていたことに気づいてあげられたら、何かが変わったのではないかと思ったのだ。

視線が交差した。ほんの少しの沈黙を得て、土井塔くんが口を開く。

 

「マジシャンの知識は?」

「流石にみなさんには劣ります。教示を願っても?」

「そうだな、まず───」

 

土井塔くんから、ネットで行われた大まかなやり取りについて聞いた。彼自身が気づいた情報や参加者の素性。ふむ、と考える。推理は下手くそ極まりないが、幸か不幸か場数だけは踏んでいる。

 

「今の段階で私たちができることは限られています。なので、最悪の事態を想定して、それが絶対に起こらないことを目指すのはどうでしょう」

「最悪の事態?」

「人が死ぬこと、です」

「───殺人か?」

「殺人でも、それ以外でも」

 

沖野ヨーコの事件で部屋の中で殺人に見立てた自殺死体があったことを思い出した。それに、病死や事故に見立てた殺人事件だってある。それらは偽装も多いけど、本当に起こる可能性だってゼロじゃない。

土井塔くんはといえば、私の言葉で殺人事件が起こる可能性に思い至ったようだった。声が鋭くなるのを感じ取る。

 

「しかしながら、今の時点で殺人を疑うのはあまりに突飛が過ぎます。よって次善策を提案します」

「見張るってか?」

「土井塔くんは人を、私は橋を、ですね。ここのロッジは橋が落ちたら簡単に孤立しますので。それに土井塔くんは、概ね誰が殺人になりうる動機を持っているか把握しているのでしょう?対人はお任せします。皆さんへの言いくるめ手伝い、お願いしますよ」

「随分手伝ってくれるんだな」

「私はただの観客ですが、マジックショーに血も人死もいらないですよ」

 

密談もそろそろ限界が近い。私に関しては、コナンくんの風邪がうつっていたことで、今になって体調が悪くなったで押し通せるだろう。口数も少なかったから丸め込めるはず。

あとはうつさないように部屋を分けてもらって窓から出て、橋を見張っていればいい。

 

+++++

 

結果として、橋で待ってたら土井塔さんに付き添われた田中さんが来た。土井塔くんの言った通り、彼女は春井風伝の孫娘で、チャットで祖父の死を嘲笑した二人を殺そうと思っていたらしい。もうすでに一人、殺してしまっているのだとか。ああ、来てない人。

田中さんがぽつぽつと過去の犯行を自白して、祖父に向けられた嘲笑への怒りとやるせなさを二人で聞いていたら車の音。黒羽くんの「あ、名探偵」の声に振り向くと、コナンくんが駆けつけてきた。少し置いて父さんも。

そのまま事情を話して警察を呼んでもらって、田中さんは一足先に警察に連れて行かれて、おしまい。父さんは一度警察に、私とコナンくんはこのまま一泊。突然の事態に盛り上がることもできず、なし崩し的に広間の集まりは解散した。

 

「ワトソンくん、ありがとな」

「土井塔くん、お疲れ様でした」

 

田中さんを突き止めた労いのため、私と土井塔くんが人気のない廊下で会話してたら、コナンくんが私を呼びにきた。そして、高校生の工藤新一と同じ顔の土井塔くんをじっと見上げて、告げる。

 

「お前キッドだな?」

「へ?怪盗キッド?」

土井塔克樹(どいとうかつき)は怪盗キッドのアナグラムだ。しかも今回ほとんど事件に関わってねえオレを名探偵呼び。気づかねえ訳ねえだろ、バーロー」

 

思わず土井塔くんを振り向くと、彼はふっと、下を向いて笑い。

次の瞬間には、もう舞台の上に立つエンターテイナーの顔をしていた。

 

「ご名答。改めて───オレはビッグジュエルショー主演、怪盗キッド役スタントマン、黒羽快斗だ」

「一年前に一緒にいた藤代蘭が、チーム怪盗キッドの代理人(マネージャー)である藤代紫苑さんの妹ってか」

「ま、繋がりとしてはそんなところだな。ああ、言っておくとオレは紫苑さんの妹にアプローチはかけねえよ。オレのサファイアは一つだけだ」

「藤代蘭さんにそっくりの彼女ですか。彼女は紫苑さんや蘭さんと血縁ではないと」

「ないな。青子はオレの幼馴染で、藤代蘭とはただの他人の空似ってやつ」

 

ふむ、なるほど。

一年前にアメリカで邂逅した三人組がこれで判明した。一人が新一くんにそっくりの黒羽快斗、黒羽くんの幼馴染のナントカ青子、そして黒羽くんのマネージャーの妹の藤代蘭。

もう一人いた全身真っ黒な男の人は保護者だろう。

思いがけぬところで一年前の不可思議な出会いの縁ができた。人生、何が起こるかわからないなあ。

この後土井塔くん改め黒羽くんと連絡先交換した。ちなみに偽名を名乗ってた理由としては、父親の黒羽盗一の知名度が高いからその威光を借りたくなかった、らしい。

父親と息子が同業だと大変だね。

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