まあ、言いたいことも不満もわからなくもない。
「言いよる男どもの目当てはみんな、桔梗あなたじゃない!」
「なんかごめんなさい?」
別に私、言い寄られて嬉しいわけじゃないんだけど。私の方がナンパされることが多いのは私のせいじゃないと思いたい。需要と供給が一致しないことは、世の中ままあることではある。私は当分、下手すれば云年、彼氏とかできないだろうしなあ。
そんな会話をしていたら園子ちゃんが声をかけられた。念願のナンパおめでとう、と思いながら手を振ろうとしたら、視線で助けを求められた。そういえば、一人でついてくのは初めてか。
園子ちゃんに頼られちゃ仕方ない。私も一緒に、コナンくんも含めて四人で海の家で少し時間はずれの軽食タイム。
園子ちゃんと、道脇忠彦という米花大学の大学生がおしゃべりをするのを、なんとなくラムネを飲みながら眺めている。
すると、ドン!という大きな音と共にグラスが一つ置かれた。
「生ビールお待たせしました……」
「あ、どうも……」
「………………」
なーんか、見たことある気がするなあの人。なんだろうか。目で追ってたら、園子ちゃんからあんな人やめときなよ、と言われた。言われなくても盗らないよ。
「今の方、会ったことあるような気がしたんです」
「会ってるもなにも、私たちが泊まっている旅館の主人の息子さんよ!夏休みだから手伝いに帰ってるんだって」
「へえ」
孝行息子というやつか。ちなみに道脇さんは私たちの泊まっている瓦屋旅館の近くのホテルをとっているそうだ。レストランの話や、殺された女性の幽霊の噂はとりあえず頭に入れる。オカルト系、信じてはいるけど怖がりはしない、というのが私のスタンスであるので。
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茶髪の女性が滅多刺しにされて殺されていたという噂を聞いて野次馬に紛れて私たちも現場にやってくると、本当に死体があった。観光客であるらしい。
「なんか怖い……」
「大丈夫です園子ちゃん、私とコナンくんで守るので」
そこらの男よりは強い自信がある。道脇さんも守ってくれるって言ったけど、正直私の方が強いと思うな。
念のため食事の場所を変更して、遊び半分だったカメラの持参もなしということで、一度瓦屋旅館まで戻ってきた。雨宿りしながら道脇さんを待っているが、なかなかこない。すると園子ちゃんが財布をとりに一度旅館の中に戻って行った。
「そういえばこの旅館の息子さんの京極真さん、どこかで覚えあるんですよね」
「それ本当か!?桔梗、どこで見たんだ?」
「うーん……」
どこだっけ。
考えながら、なかなか戻ってこない園子ちゃんの様子を見に私たちも旅館の中へ。名前を呼びながら扉を開けたら、園子ちゃんが暗闇の中で涙目になりながら咳き込んでいた。慌てて園子ちゃんの隣にしゃがみ込む。
「大丈夫ですか、園子ちゃん。何かありましたか?」
「へ、変な男がいきなり襲ってきて、窓から外に……」
「!コナンくん、外は?」
「いや、逃げた後みたいだ……」
恐怖で泣き出してしまった園子ちゃんを抱きしめて宥めつつ、部屋の中を念のため見渡す。犯人が潜伏しているということはなさそうだ。背中をさすりながら詳しく状況を聞き出していく。コナンくんの判断材料になればいいが。
迎えにくる予定だった道脇さん、そして騒ぎを聞きつけた京極さんも合流してくる。
「肉体に噛み付いたということは、歯型があるはずですが……」
京極さんは毛深さから違うから論外。犯人候補から外していいだろう。なんか園子ちゃんのことを怒らせるような言動してるけど、多分、心配しているのだろう。
ツンツン夫婦の娘を舐めるな。
「えー……とにかく、園子ちゃんはなるべく私が守りますが。もしも私が近くにいなかったら、お願いしますね」
そう言葉にしたら、道脇さんが勿論だよ、と返してくれた。とにかく、瓦屋旅館では園子ちゃんの側から離れないようにしなくては。
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翌日は道脇さんと例の呪いのレストランへ出かけた。園子ちゃんも一緒だったけど、寝不足だからと車の中で留守番することに。
……どうしよう心配だ。
「園子ちゃん大丈夫ですか?タクシー呼んで先に瓦屋旅館に戻りましょうか?」
「桔梗は心配性なんだから……鍵かけて寝てるわよ、大丈夫」
「エアコンは付けておくし、クーラーボックスに飲み物入れておいたから、いつでも飲んでね」
「はーい!」
うーん、園子ちゃんがここまで言うなら、まあ……。
気を取り直してコナンくんと道脇さんと食事を楽しむ。おすすめ通り、本当に美味しかった。食後のお茶を飲みながらのんびり雑談していると、例の京極さんが遅れてレストランに入ってきた。茶髪の彼女、すなわち園子ちゃんの居場所を聞かれて車を指差しながら外を見る。
「は?」
あ、まずい。車が動き出してる。あのままだと崖から海に突っ込むな。
状況を理解した瞬間体が動き出していた。ドアから外に出て、一気に地面を蹴って加速する。車の速度自体はそこまで速くないのが幸いした。
一度、車を追い抜かして構えを取る。タイミングを合わせて窓ガラスをぶち抜き、そのまま内側から車のドアを開けた。
「園子ちゃん!話は後です私に掴まってください!」
「へ?」
なんとか車から園子ちゃんを引きずり下ろすと、車はあっという間に崖下に突っ込んでいった。
せ、セーフ……まさか車ごと落とすとは。殺意強い、怖ぁ……。
この後警察を呼んでお勘定を済ませて状況を説明。その後、車が怖い園子ちゃんの意思を尊重して、歩いて最寄りの警察署まで向かうことに。
しかし、どうして園子ちゃんが狙われるのだろうか。コナンくんもそこが疑問であるらしい。糸口は掴めているようだから、もう少しだとは思うのだけど。
ふと、自分たちとは違う足音がして振り向くと、私たちのそばで時々目撃されていた大柄な男の人が後ろをついてきていた。思わず立ち止まって確認した瞬間、道脇さんが園子ちゃんの腕を掴んで、林の中に走り出してしまった。
「えっ、いやちょ、園子ちゃん!?」
一歩遅れて慌ててコナンくんと一緒に園子ちゃんを追いかけるが、それなりに鬱蒼としていて見失ってしまった。コナンくんは逸れていないことを目視で確認する。
こうなったら一度直接確認しておこう。
「あの!失礼ですがあなたは誰ですか!私たちに何の用ですか!?」
「桔梗!?」
振り向いて大声で怒鳴るように問いかける。男の人は驚きを見せつつも即座にポケットに手を入れた。
「千葉県警の刑事です!とある事件を追っていて、その関係で道脇を探っていました!」
「っ、わかりました、園子ちゃんを追いかけます!」
なんてこった、殺人犯と二人きりにしてしまった不覚だ。コナンくんと並走しながら周囲を注意深く見渡す。
「しかし、園子ちゃんは二の腕に噛み付いたと言っていましたが歯形はありませんでした。あれは?」
「多分暗闇で見間違えたんだよ!普通サンダルに靴下は履かないだろ!?噛み付いたのはふくらはぎ、その歯形を隠すために靴下を履いたんだ!」
「なるほど、ヒントはあったということですね!」
さらに、車を落としたトリックは氷の車止めをタイヤに噛ませたことによる時間差トリックであるともコナンくんは見抜いていた。そういえばクーラーボックス持ち込んでたなあ!
「っいた!いました園子ちゃん!あそこです!」
遠目に、女性に馬乗りになってナイフを振りかざす男がいた。間に合わないかもしれないと思いながらそれでも走り出す。
しかし私より先に、大柄な男性が二人の間に割って入った。その類稀な身体能力に、思考がかちりと繋がる。
「…………!思い出しました、彼!空手の試合会場に居たんです!」
「そういやオメー、空手の大会よく見にいってたな……」
「高校生男子、いえ、世界最強クラス!杯戸高校空手部主将、蹴撃の貴公子、京極真!」
京極さんが道脇さんを危なげなく倒して、無事に園子ちゃんの安全は確保できた。ついでに今回の旅の目的であった、殿方との出会いもあったようで何より。京極さんに惚れたかー、うんうん。
ちなみに京極さんが園子ちゃんに惚れたのは、私について来た空手の試合でとある選手を一生懸命に応援していた姿に惚れたらしい。
内面に惚れたのか、見る目のある人だ。