成り代わり娘の原罪   作:サブレ.

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第十六話:世紀末の魔術師【2】

あの後、黒羽くんはJ氏と紫苑さんによって保護されて、駆けつけた萩原さんによって万一に備えて提携していた病院に駆け込んだらしい。

位置情報を後で見たけど、萩原さん、どんだけ車かっ飛ばしたんだ。

メモリーズエッグは急遽展示を取りやめて、船で東京に持ち帰ることになった。私たちはメモリーズエッグのお供で東京に随伴。萩原さんは大阪府警に狙撃犯について調査協力をするため大阪に残留。平次くんは追跡中にバイクを狙撃されて骨に異常ができたので大事をとって入院。黒羽くんらチーム怪盗キッドは、狙撃犯がメモリーズエッグを狙っている可能性が高いため、再び狙撃されないよう別口で行動予定。

 

「とんでもないことになってしまった」

 

これくらいの独り言は許してほしい。

兎にも角にも、まずは東京まで豪華客船の旅。ついでに商談も行うのか、あの日集まっていた学者さんや古美術商、さらには祖母がメモリーズエッグの図解を所持していた香坂さんという人なんかも大集合していた。

豪華客席の中で、コナンくんがメモリーズエッグに仕込まれていた特殊な細工───魔鏡を見つけ出した。暗い部屋の中、ライトによって照らし出されたそこには横須賀に聳えている西洋風の城が映し出されている。

なるほどなあ、まだまだ謎は残っているということか。

 

+++++

 

今後、メモリーズエッグ目当ての人たちと横須賀のお城に行く段取りを付けて、その場は一旦解散となった。一旦部屋に戻って、軽く荷物を整理していると、甲高い電子音が鳴る。持ち込んでいた携帯電話機が着信を知らせた音だ。持ち上げて、通話ボタンを押した。

 

「もしもし」

『よお、船旅は順調か?』

「黒羽くん、無事なようで何よりです」

『死ぬかと思ったけどな〜』

 

電話相手は黒羽快斗だった。口調からは全然そうは思えないが、なかなか大変だったらしい。そりゃそうだ、狙撃されたんだから。

黒羽くんはしばし軽快に当たり障りのない話をした後に、静かに声色を変えた。

 

『名探偵も一緒にいるのか?』

「ええ、そうですが」

『他に人は』

「いません」

 

コナンくんにジェスチャーでドアのロックを閉めるように頼むと、コナンくんも色々と察してくれたので即座に鍵を閉めた。念のため他の人に聞かれないように、ボールペンとメモ用紙を用意して、コナンくんが見える位置でいつでも書き込めるようにする。

 

「どういったご用件でしょうか」

『俺を狙撃した犯人についてだ。気になるだろ?』

「それはまた……しかしながら、見つかってはいないはずでは?」

『そうだな。ただ絞り込んだってだけだ』

 

会話をしながらさらさらと内容を要約してコナンくんに伝えていく。コナンくんの視線が鋭くなったのを確認してから、黒羽くんに続きを促した。

 

『大阪府警が即座に検問を張り、さらには萩原さんとJちゃんがそれぞれの視点から今回のショーに当たって逃走経路をかーなーり絞り込んでいた。つまり、捕捉されずに車で遠方に逃げ出すのは不可能ってことだ』

「執念……」

『萩原さん相手に車とかバイクで逃げるの、マジで悪手だから、覚えとけ』

「そういえばカーチェイス回ありましたね」

 

いつどこで使うのか分からない豆知識を頭の片隅に書き込んでおく。というかあのアクション映画顔負けド派手カーチェイスの追っ手側萩原さんだったのかよ。

黒羽くんが、自分が狙撃された概ねの位置と、そこから推察される狙撃手の大まかな座標を教えてくれた。詳しいな……と思ってたら、紫苑さんがそういうのに詳しいらしい。

何者だ紫苑さん。

 

『ま、そういう訳で、どっか遠くに逃げ出した線は限りなく薄い。つまり───』

「狙撃手は収録範囲の中心地たる鈴木近代美術館の近くに存在していたと?」

『その可能性が高いと思うぜ。被害者としての一意見だ、参考にしてくれよ、名探偵』

 

電話がかかってきた時と同じように、唐突にふつりと電話が切れる。コナンくんはじっと何かを考える体勢に入った。黒羽くんに私から掛け直そうにも、向こうは公衆電話を使っていたようで掛け直しようがない。搬送先も秘匿されてるしなあ。

少しの沈黙ののち、コンコンと扉がノックされた。園子ちゃんのお茶のお誘いに、一度思考を切り替える。ずっと考え詰めても疲労がたまるだけだ、優雅なお茶会を楽しんだっていいだろう。

 

+++++

 

その翌日、自室で右目を撃ち抜かれている映像作家の寒川さんが発見された。右目といえば、キッドも右目に片眼鏡を付けていたなと思い至ってコナンくんに目を向ける。似たような思考に思い至っているのを確認して、特に助言は必要ないだろうと判断。

あとは大人の人が警察を呼んでくれるだろう。

 

 

「桔梗、黒羽にもう一回連絡取れねえか?」

「まあ連絡先は交換しているので試してはみますが……」

 

コナンくんは阿笠博士に“右目を撃つ狙撃手”の検索を依頼していた。近くそういった特徴のある指名手配犯がいるならすぐに情報は送られてくるはずだ。

あの日ロッジで交換しておいた携帯電話機の番号にもう一度掛けてみるが、やはり出ない。これが病院にいるため携帯電話の使用を避けているのか、なにか目的があって電話に出ないのかまでは不明だけど。

 

「やはり出ません。大人たちが近くにいるので余程のことはないでしょうが」

「ダメか……」

 

その後、コナンくんが再び阿笠博士に電話をかけて、狙撃手と思われる指名手配犯の存在が判明した。スコーピオンと呼ばれる通り名の強盗犯。ICPOに手配されているというのだから、よほどあちこちで悪事を重ねているのだろう。問題は、そのとんでもない指名手配犯スコーピオンがクローズドサークルと化したこの客船の中にいることだが。

 

「とりあえず、警部や父さんにスコーピオンがこの一連の事件に関連している可能性を伝えなければなりませんね」

「ああ。頼むぜ桔梗」

「無論です、コナンくん。ではまず打ち合わせと参りましょうか」

 

概ね何をどのように伝えるか、思考を誘導するかを話し合う。また、コナンくんに寒川さんの殺人についての推理も教えてもらった。二つの事件が重なったって……スコーピオンも悪いけど赤の他人に罪をなすりつけようとした寒川さん何やってんだ。

それだけ二つのメモリーズエッグが魅力的という話なのかな。

 

「あの、コナンくん」

「なんだよ」

「黒羽快斗くん、自分を狙った犯人がスコーピオンの可能性にとっくに辿り着いていると思いません?」

「俺もそう思う」

 

ただスコーピオンの名前は言ってなかったけど、犯人特定に必要な情報は全部普通に教えてくれたし、コナンくんや警察が捜査するなら普通に上ってくる存在でもあるから、出し惜しみされた感はあまりない。

勘で確信は得てるけど、証拠がないから言葉にしなかったと言われたら納得できる程度だ。

とにかく、コナンくんと二人がかりでスコーピオンの存在を周知したが、高木刑事が救命艇が一つ降ろされていたと教えてくれた。

スコーピオンが逃亡したのか、それとも、偽装工作なのか。コナンくんは五分五分だと思っていそうだけれど。

 

 

東京に着き次第、香坂家の所有する城でメモリーズエッグの謎を解くことで合意する。みんな目の色を変えてメモリーズエッグを狙っているので、何かしらの秘密があるのは間違いないだろう。コナンくんは置いていくと主張する父さんを頑張って言いくるめて、同行の許可をもぎ取った。

客船における私の仕事は一旦ここまででいいかな。

刑事さんや父さんらが諸々の打ち合わせをする中で、コナンくんと一緒に少しだけ距離をとって膝を曲げて、顔を近づけた。内緒話にはこれくらいしないと。

 

「さてコナンくん───黒羽くん、来ると思いますか?」

「ああ。来るだろうな」

「それは、それは」

 

随分と、心強い援軍だ。

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