横須賀の香坂家の所有するお城に揃ってお出かけしてきた。黒羽くんことチーム怪盗キッドはすでに香坂家執事の沢部さんの許可を得て敷地内に入る手筈を整えているとのこと。合流できそうなら合流するかも、という割合のんびりした連絡があったそうだ。仕事が、早い……!
「お城だなあ」
なんというか、遊園地やアニメーションや漫画で想像するような、一番わかりやすい形をしたお城だ。CM撮影などで使われることも多いと聞いたけどさもありなん。
「ドイツのノイシュ、バン、シュタイン城!言えた!みたいですね」
頭からいつだったか新一くんに教えてもらった知識を思い起こしながら、首を捻りつつ見上げていると、阿笠博士が車で乗り付けて来た。哀ちゃんを含めた少年探偵団の、いつものメンバーもひょっこりと顔を出した。
何かを頼んでいたようだけどその関係だろうなあ、と思っていたら、メガネを交換していた。スコーピオン対策という訳か、こちらも仕事が早い。
やるべきことが済んだのでお城の中へ。チーム怪盗キッド側の存在は確認できない。まあ合流できたらするくらいの温度だったしな。
何ヶ所かの部屋を見てまわるけど、さすが城と言わんばかりの調度品や装飾の数々にちょっとビビる。流石にこのクラスの自宅で平然とできるのは園子ちゃんとかじゃないと。
乾さんが暴走してトラップにかかったり色々ありつつ、秘密の地下室への扉が開いた。ちなみに、この地下室に辿り着くために必要だったパスワードはロシア語だが、それを和訳すると『世紀末の魔術師』となる。
「K氏、どこまで把握してるんでしょうね」
世紀末の魔術師、今回のショーに当たって作られた暗号文に刻まれた怪盗キッドの自称でもある。早く合流してくれないかな、と思いながら、地下室に入る面々に続いて私も階段を降りた。
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懐中電灯やライターで先を照らしながら歩いていくと開けている空間に出た。そこでどっからか入り込んできた少年探偵団と合流。話を聞いたらとんだからくり城のピタゴラスイッチで落ちて来たらしい。なんだそれは。
秘密の地下室があるくらいだから、秘密の通路くらいあるってことか。
少年探偵団を加えて賑やかになりつつ真っ直ぐに進み、行き止まりの壁もからくりが組み込まれていて、さらに下につながっていた。進めば大きな棺が置いてあり、中には遺骨と更にもう一つのインペリアル・イースター・エッグが収められていた。
「副葬品、という訳ですか」
この遺骨は香坂家に嫁いだ曽祖母のものである可能性が高いとのこと。諸々と調べたのち、歩美ちゃんがマトリョーシカじゃない?と指摘を入れたので、もう一つのエッグと関連する可能性が浮上した。香坂さんが持参したエッグの図解もこのことを示していたのだろう。
しかし、ここにはあのメモリーズエッグはない。どうしようか、と悩んでいると、かつんとわざとらしいくらいに足音が響いて、全員が一斉にそちらを向いた。
そこには、大阪に残った筈の萩原さんが立っていた。
「いやー、すごい道のりだったな」
「萩原さん!」
「ねえ、萩原さんだけ?キッドチームは?」
「さあ。俺はエッグを配達に来ただけたし?」
パチン、と軽くウインクをして、萩原さんは持っていたショルダーバッグから緑色のメモリーズエッグを取り出した。今まさに必要としているものが届けられたことで、周囲もざわめき立つ。
「コナンくん、手伝いは?」
「ライトの用意!セルゲイさん、エッグ貸して!」
「了解」
コナンくんがマトリョーシカ状にしたエッグを台座の上に乗せて、ライトを当てる。するとエッグがひとりでに動き出し、幾つもの写真が光で映し出された。どうやら中で一家がめくっていたのは本ではなくアルバムであったらしい。
故にこそメモリーズエッグ……いやだから黒羽くんどこまで把握してたの?
セルゲイさんはエッグの所有権を放棄、鈴木財閥には萩原さんと父さんが口添えすることで、この二つのエッグは香坂家が所有する可能性が高くなった。
これでめでたしめでたし、なら良かったんだけどね!
満足げな父さんのにレーザーポインターが光っていれば嫌でもわかる。ここに、スコーピオンがいることくらい。
「父さん今すぐ伏せてください!」
「桔梗?」
よく分かってない父さんに無理やりしがみつき頭を伏せさせる。間一髪で銃弾が横を掠めた。コナンくんの叫びで一斉に逃げ惑う中、どさくさに紛れて誰かがエッグを掠め取って逃げ出す。
「クソッ、逃すかよ!」
「コナンくん先走りすぎです!」
「桔梗姉ちゃん、灰原たちを頼む!」
「俺が後を追うから、避難してね」
コナンくんの後を萩原さんが追いかけてくれたので、とりあえず何とかなるだろう。兎にも角にも暗がりのここは危険すぎる。
散り散りに逃げた少年探偵団のことを一人ずつ捕まえて生存確認。父さんも他の人が無事なのを確認したので、一度少年探偵団が入って来た入り口を逆行する形で脱出を試みる。
哀ちゃん頼りになるなあ。
この後無事に脱出して、青蘭さんことスコーピオンを捕まえた。そして萩原さんが警察を呼んで、そのまま警察を呼んでお持ち帰りいただいた。知らぬ間に殺されていた乾さんの死体も搬送されている。
「ツァーリの末裔と怪僧の末裔のエッグの奪い合い……まあ香坂さんは別に奪おうとはしてないどころか、正当な所有者だった訳ですが」
街の光の届かない郊外の城だからか、月がよく映える。暗闇の中ぼんやりと見上げていたが、やはり外からは夢いっぱいのシンデレラ城にしか見えない。あんなびっくりドッキリからくり城だとは夢にも思わないのだろう。
「というか、チーム怪盗キッドって結局どこで何をやってたんですか?」
萩原さんにずっと気になっていたことを聞く。結局黒羽くんも紫苑さんも、J氏と思しき人も、誰とも会ってない。
私の他にも父さんやセルゲイさんや香坂さん、多くの視線を集めて、萩原さんがいつもの笑顔のまま口を開く。
「ガソリン盗んでたよ」
「ガソリン、ですか?」
「スコーピオン、この城を燃やすつもりでガソリン用意してたみたいでさ。危ないから水入りポリタンクと交換する作業を」
「えええええ」
マジか。さすが厳重な警備下でビッグジュエルの偽物とすり替える盗み技を披露するチーム怪盗キッド、ガソリン盗難くらいお手のものだと。いやそのおかげで城燃えずに済んだけど。
怖っ。何が怖いって城丸ごと燃やす気だったスコーピオン。
メモリーズエッグはスコーピオンから取り戻され、コナンくんから香坂さんに手渡された。無事に、メモリーズエッグは所有者の元に辿り着いたようで、何よりだ。
それぞれが今回の事件について胸の内を吐き出す中、コナンくんの元に近づいて膝を折った。顔を近づけて内緒話の体勢になる。
「にしても、よく無事に捕まえられましたね」
「ああ、Kの奴に助けられた」
「K氏ですか?あれっ、でも追いかけてったのは萩原さんでは?」
「萩原さんに化けてたんだよ、あいつが。ま、今の萩原さんは本物だろうけどな」
「はあ……」
何か思惑か狙いがあったのか、萩原さんに化けてあの場にいたのは黒羽くんであるらしい。何故だろうかと萩原さんに視線を向けるも、微笑まれて終わる。特に深い理由はあるのかないのか。
案外、あのメモリーズエッグの美しい光の魔術を直に見ておいでという、年長者心だったりするのかもしれないけど。
スコーピオンも逮捕されたことだし。
これでようやく、インペリアル・イースター・エッグの謎は、終わったようだ。
「誰に変装しようかな〜」
「俺にしなよ」
「じゃあそれで」
「萩原研二が二人……来るぞ!」
「何がだよ」