「酒巻監督を偲ぶ会に怪盗キッド関係者として代理出席?」
黒羽くんから電話がかかって来たと思ったら、奇妙なお願いをされた。酒巻監督、この前亡くなった著名映画監督なのは知ってるけどなぜだ、と思ったら晩年ビッグジュエルショーの大ファンだったらしい。
「というか、そういう話は、それこそ
『あの人別名義で呼ばれてるから出れないんだよ』
「えっ、そうなんですか?」
『あの人の本業、作詞作曲家だからな』
初めて知った。なんでも酒巻監督が撮った映画に楽曲提供したことがあるらしく、その縁で呼ばれたらしい。だから、ビッグジュエルショー関係では出席不可。
「J氏がNG出してるとして、黒羽くんは?」
『変装して出ようかと思ったんだけど、狙撃されたばっかだからJちゃんに止められた』
「あ〜……」
『萩原さんは鈴木財閥の警備関係者だから、こっちもダメ。で、前々回の収録で江戸川コナンと一緒に映ってた名探偵・眠りの小五郎の娘で事件解決の実績もある毛利桔梗なら何とか、ってとこでさ』
「まあ、そういう理由なら問題ありませんが」
『最初の挨拶だけで帰ってもいいし、紫苑さんは最後までいる予定だから、何かあったら助けてくれるって』
毛利小五郎は例の客船のショーで一秒も映ってなかったから代表とするには少し不適格。コナンくんは小学生だから除外というところか。
制服は礼服に当たるし、軽い挨拶くらいなら顔を出してもいいかな。その程度の認識でOKを出した。
+++++
当日。
父さんには事情を話してあるので、学校帰りにそのまま会場となる杯戸シティホテルへ寄った。二人のご飯はポアロか何かで済ませてくれるだろう。
一度レストルームに寄って軽く化粧を直し、身だしなみを整える。クロークに上着や防寒具、手荷物を預けて、受付に記名を行う。ランダム配布となるハンカチは紫色のものを受け取って、会場となる大広間へ。それにしても見事に名前の花と同じ色のハンカチ受け取ったな。
偲ぶ会ということもあり、会場は比較的穏やかだ。
なんか自分が場違いな気がするので、とりあえず壁際に寄ってドリンクだけちびちび飲んでたら、ふと目の前を見覚えのある小さな人影が横切った。隣にいる男性に一声かけてから、こちらに向かってくる。
「久しぶりですね、桔梗ちゃん」
「どうも、お久しぶりです紫苑さん」
「ごめんなさい、いきなり代役お願いしてしまいまして。K氏は大事を取ってて……」
「これくらいならまあ……さっきの方は?」
「作曲家の羽賀響輔さん。わかりやすい曲だと、ビッグジュエルショーのテーマ曲、あるでしょう。あれを作られた方です」
「それはすごいですね」
びっくりして羽賀さんを向くと、ニコニコして手を振ってくれた。小さく手を振りかえして、紫苑さんに意識を戻す。私はいつもの制服姿だけど、紫苑さんはパンツスタイルの喪服を着ていて、この人もれっきとした成人女性なんだなあと改めて思った。
「この後はどうされますか?主催者への挨拶だけ終わらせて帰るという方法もありますが。顔出ししてないとはいえ、私がマネージャーであることはこの場にいる方なら大体分かっていますし、帰っても問題ありません」
「では、挨拶だけ……っと、失礼します」
念のため制服の内ポケットに持ち込んでいた携帯電話が鳴っているので、一声かけてから会場から出る。一度通話を切り、念のため女子トイレに駆け込んでから履歴を確認すると、覚えのある番号だった。
そのままその番号にかけ直す。
「もしもし、何か御用ですか、コナンくん」
『桔梗!オメー、まだ杯戸シティホテルにいるな!?』
「ええ、そうですね?」
『酒巻監督を偲ぶ会で今日、ピスコっていう組織の幹部が標的を射殺する予定なんだ!』
「…………はい?」
『俺も今そっちに向かってる。桔梗も怪しい奴がいねえか張り込んでてくれ!』
「ちょま、切れた……」
めちゃくちゃ重要なことを一方的に言われて切られた。とにかく、挨拶だけして帰るという選択肢は無くなったことになる。というかその情報、どこで得た?
念のため水を流してからトイレを出ると、同じ会に出ているのだろうお爺ちゃんとばったり鉢合わせした。困ったように何かを探している視線が私を捉えた。私の物珍しい制服姿を上下観察される。
うーん、これは。もしや。
「何かお困りですか?私でよければ、お手伝いできることでしたら、お力になりますが」
たまに、毛利小五郎の娘だからとそういった相談を持ちかけられることも、無いわけではない。その時の目というか、雰囲気というか、そういうのが近い気がして話しかけてみた。
お爺ちゃんは一瞬驚いて、そうだな、と私の問いかけに応えた。
「うっかり、時計を二つ持って来てしまったんだ」
「……?」
「だから、君が預かっていてくれないか」
「はい、構いませんが…………」
クロークに持っていかないのか、という話をする前に有無を言わさず渡された時計は、金属ベルトの男性用のもので、ついでに言うと私でも名前を知ってる高級ブランドのやつだった。英語で刻印がされている。いいのかと問いかける前にその人は会場に戻ってしまった。
試しに自分の腕に嵌めてみるも、男性用のため当然ブカブカだ。仕方ないので一度コインロッカーに寄って預けた。どうせ最後まで帰れないのだから、最後に返そう。
+++++
戻って来たら、羽賀さんが紫苑さんにアプローチをかけていた。紫苑さんも満更ではなさそうで、コナンくんの電話で発生した若干の頭痛が治っていくのを感じる。やはり他人の恋愛事情は健康にいい。
紫苑さんに頭を下げて、主催者へ一言挨拶をしてから、立食パーティーなので空腹を満たすために適当に食べながら壁際にもたれかかった。美味しい、空腹に染み渡る。
紫苑さんは体調がすぐれないのか、羽賀さんと共に一度退席して外で身体を休めてから戻ってくるらしい。軽く手を挙げてから、改めて会場全体をぐるりと見渡した。
「結構色んな人いるんだなあ……」
改めて、私が場違いすぎる。無心で食事に熱中していたら、小さくスカートを引っ張られた。足元にはメガネをかけた女の子と、メガネをかけていない男の子。
コナンくんと哀ちゃんの組み合わせがそこにいた。
「こんにちは?えーと、
適当に、怪しまれないような偽名を作って、それっぽいことを言う。膝を折って顔を近づけて内緒話の体勢に入った。
「ピスコはわかりそうか?」
「無理です、黒服で特定しようにも人数が多すぎます」
まあ直感的に、この人は違いそうだなあというのはあるけど。さっきの紫苑さんとか、羽賀さんあたりは。
というかピスコの名前だけで特定するの普通に無理だから。
「桔梗はこのまま見張っててくれ」
「警察には?」
「工藤新一の声で、もう伝えてある!」
そのままコナンくんは哀ちゃんを連れて何処かに行ってしまった。相変わらず猪突猛進すぎる。
そのまま料理を食べながら監視を続けていたけど、スライドショーのためにふっと電気が途絶えた。どうでもいいのでもっもっと料理を頬張っていたら、大きな音と共にシャンデリアが“降ってくる”。
その真下で、一つの死体が生まれていた。
…………これか。標的の始末というのは。
+++++
この後、刑事さんたちに会場に留め置かれ、マスコミがもの凄いたくさん集まってくる。私は一応容疑者の一人なので、その場に待機するしかない。
その後、紫色のハンカチを持った人間を容疑者として留め置くようにと、この殺人を予見していた工藤新一から連絡が入ったらしい。
「………………そうきたか」
混乱を利用して即座に携帯電話機を作動させ、イヤリング型の携帯電話に繋げた。すぐにコナンくんが応答する。
『桔梗か!?今灰原と逸れたんだ。悪いが捜索を』
「無理です。私は、紫色のハンカチを配られましたから」
『っ!そうか、あの名簿、オメーの名前が……』
焦るあまり、私が容疑者であることすら頭からすっぽ抜けていたようだ。落ち着け、とコナンくんに言い聞かせる。
「私はこれから事情聴取を受けます。顔見知りですし私が殺した証拠は出ないでしょうが、紫色のハンカチで犯人を絞り込む以上、私もまた犯人候補者です。携帯電話の通話もこれからしばらくできないでしょう。私の助けは、期待しないでくださいね」
刑事さんに呼ばれる。そのまま終了ボタンを押して、携帯電話機を預けた。
さて何時間拘束されるのだろうか───。
あの後、全ての事情聴取が終わって解放された後も私はそのまま刑事さんの元にいた。と、いうのも。目暮警部から父さんに連絡が入って、迎えにいくまで預かっててほしいと頼まれたからだ。やがて父さんがタクシーで乗り付け、そのまま家に帰される。
翌日コナンくんと哀ちゃんに会いに行ったが、哀ちゃんはあちこちに怪我をしていた。助けられなくて、盾になれなくて申し訳ないと謝りつつ、その時の状況を教えてもらう。
「ピスコが桝山さん……ん?」
あの騒動で忘れていた、預かっていた腕時計を思い出す。あの腕時計、ピスコからもらったのか!?危ないセーフ、あの腕時計を持った状態でピスコの名前は出してない、コナンくんと哀ちゃんの名前も呼んでない。コインロッカーに預けっぱなしセーフ!
とりあえずこのことをコナンくんと哀ちゃんに伝えると、コナンくんは手に入ったかもしれない情報に目を輝かせ、哀ちゃんは身を固くした。
「しかし、どうするんじ。盗聴器か何かを確認するとして中を見て見ないとなんとも」
「だったらいっそ、何も知らない人に、盗聴器などがあるかだけ見てもらいましょう。幸い、貸しのある当てがひとつあります」
携帯電話機で、黒羽快斗の名前を呼び出した。鈴木財閥の警備状況を盗聴盗撮し、突破できる技術の持ち主だ。蛇の道は蛇、頼らせてもらおうか。
〜side藤代紫苑〜
病院の駐車場に、一台の黒い車が静かに停まった。雪の中静かに迎えを待っていた紫苑が、助手席に乗り込む。少しの時間だが体が冷えたのか、運転手が差し出した温かいペットボトルからお茶を流し込み、ブランケットを巻きつける。
車は静かに発進した。車の中は、運転手にとっては少し過剰なほどに暖められている。
しばし身体を休めた紫苑に、運転手が話しかけた。
「災難だったな」
「貧血で休憩中に起こったのです、流石に止められませんよ……まあ、私自身、紫色のハンカチを持っていましたから、外に出ていたのは良かったかもしれませんね」
どこか淡々とした口調にも、運転手は苦笑で返す。スムーズに走っていた車が赤信号で停車したのと同時に、運転手の目つきが鋭くなる。
「ところで、例の腕時計ですが」
「ああ。あれは本当に、ただの腕時計だ。イミテーションの、だけどな」
「なるほど。しかしながら、何故ピスコがなんの理由もなくイミテーションの腕時計を預けたのでしょう?」
「イミテーションで、理由がないから、じゃないかな」
「はあ、そうですか」
分かったような口を聞く運転手に、紫苑は納得しないまま、とりあえず頷いた。この運転手が問題ないと断言したのなら、紫苑が突き詰める理由もない。
青信号に変わり、再び車が動き出す。その時には、車の中の雰囲気はすっかり元に戻っていた。
「じゃあ、私は少し仮眠します。着いたら起こしてください、諸伏くん」
運転手にそう告げて、紫苑は瞼を閉じた。
お迎えに来た車:ホンダFREED
採用理由:筆者が唯一見たことあるガンダムが機動戦士ガンダムSEED FREEDOM