成り代わり娘の原罪   作:サブレ.

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忙しくなるのが確定したので、書き溜めを使い切ったら投稿止まります


第二十話:人魚自身は不老不死でもなんでもない

とある依頼人が平次くんのお母さんだったんだけど、めちゃくちゃ美人だった。そして強かった。ビビった。そして平次くんにはコナンくん共々お世話になっておりますと深く頭を下げたらコナンくんに脛を蹴られた痛い。

いやでも、お世話になってるのは事実じゃん!

 

 

そんなことがありつつ、美國島という若狭湾沖にある、人魚が棲むという伝説の残る島に平次くんに連れられてやって来た。

そういえば三年くらい前だっけ?テレビで聞いたことがあるような気がする。たしか人魚の肉を食べて不老不死になったというおばあちゃんが実在するのだと。

 

「アタシもその永遠の若さと美貌にあやかろうと思ってついて来てん!」

「ほほう……和葉ちゃん積極的ですね……その美貌を持って平次くんに迫るつもりだと」

「アホ!大きな声で言うたらアカン!」

 

おお、顔が真っ赤っか。まあ初めて大阪に行った時に平次くんがアプローチをかけている工藤(女性)と勘違いされたし、その時から平次くん一途なのは知ってますよ。

やはり他人の恋路は健康にいい。この美國島でも精一杯サポートさせていただきましょう!

 

+++++

 

依頼人からの内容は、『このままじゃ人魚に殺される、助けてくれ』というたった一文のみ。差出人は門脇沙織という美國島在住の女性。

と言うわけで、まずは門脇さんを探そうと思ったところで躓いた。三日前から行方不明らしい。

本土に行ったのでは?と周囲の人は言っているらしいが、それだとしたら、私たちと入れ替わったこととなる。それにもうすぐ儒艮祭りということもあり、観光客であちらこちら賑わっていて人探しも苦労しそうだ。

門脇さんが働いていたという土産物店では、土産物としては定番とも言えるまんじゅう、ストラップ、お守りなんかがたくさん売られていた。とりあえずストラップとお菓子を買ってみた。その間、父さんとコナンくんと平次くんが聞き込みをしている。

 

「………………」

「どうかしたん?桔梗ちゃん」

「んー、なんといいますか、思い出すんですよね」

 

苦い思い出を。

月光と炎を。

ピアノの音を。

 

……孤島だからか?いやまさか。

もやもやしながら次に向かったのは美國神社。そこには例のおばあちゃんこと命様とその家族が住んでいるらしい。

神社で島袋君恵さんという巫女さんに会って、命様について教えてもらう。やはり命様というのは外から見た印象であって、実のひ孫から見たおばあちゃんはもう少し違う、普通の人であるらしい。

色々話を聞いてたら、たまたまキャンセルの出た、儒艮の矢が貰える抽選会に参加できる札を分けてもらった。わーい。

という訳で、夜の祭りに参加。和葉ちゃんがなんと見事に儒艮の矢を引き当てた。すごい。

 

「き、桔梗ちゃん。アタシ……当たってしもた!」

「おめでとうございます和葉ちゃん!」

 

和葉ちゃんの豪運に喝采を送る。場所は人魚の滝へと移り、そこで花火が打ち上げられた。どおん、と火が周囲を照らしたことで、一瞬だけ世界が昼間のように明るくなり、“それ”が存在を主張した。滝の中でゆらりゆらりと揺れる、彼女が。

海老原寿美さんが、縄で吊られて死んでいた。

 

+++++

 

父さんとコナンくんと平次くんが捜査を始めたので、私の出番はないだろう。和葉ちゃんがキリッとした平次くんに見惚れていた。

あらあらまあまあ。

 

「桔梗ちゃん、平次に惚れたらあかんよ……桔梗ちゃん相手やと私敵わへんもん。桔梗ちゃん、平次の手伝いすごく上手やけど、アタシはできへんし……」

「ご安心を。私が見惚れているのは平次くんと和葉ちゃんの二人なので」

 

誰が平次くんと和葉ちゃんの仲を引き裂くものか。にしても、幼馴染同士の無自覚?両片思いってこうなるのかあ。私と園子ちゃんと新一くんだと絶対に起こり得ない出来事だから新鮮だなあ。

私と和葉ちゃんがそんな話をしている間に命様の話を聞きに行こう、という展開になったので、私たちはそのまま美國神社の島袋弥琴さんに会いに行くことになった。

案内された部屋の炬燵でぬくぬくしていると、ガラリと弥琴おばあちゃんが引き戸を開けてこちらにやって来た。

 

「ワシに用とは汝等のことか?」

「はい、私です。改めましてこんばんは、夜分遅くに申し訳ありません。私は毛利桔梗と申します」

 

まずは反射的に自己紹介。その際に勢いでうっかり、特別に弥琴おばあちゃんに用事があるのは私ということになってしまった。

目線でコナンくんに、何を聞きたいのか問いかけるが、特に決まってないとアイコンタクトで返された。決めといてよ。

仕方ない、腹を括る。私のやり方で命様と話し合いだ、どんな結果になっても受け入れてもらおうか。

 

「そうですね。では、人魚が棲まうという美國島の命様に、お聞きしたいことがありまして」

「なんじゃ、言うてみよ」

「我々人間は人魚の肉を食らうことで不老不死になれるそうですが、では、人魚そのものは不老不死の存在なのでしょうか?」

 

土産物屋で人魚と思われる死体の話を聞いて、思い浮かんだ疑問だった。人魚に死体があるのなら、不老不死ではないだろう。死体があるなら、それを食らう海の魚たちや野生動物や虫も不老不死になってもおかしくないはずだ。

なのに人間だけ不老不死になれるとは、都合が良すぎるではないか。

そうじゃのう、と老婆がつぶやいた。

 

「お主の意見を聞こうか」

「人魚もまた一つの生き物であるのならば、個体としては不老不死ではない。しかし、複数の個が集まって、ひとつの形を作り上げ、それが何代にも渡って継承されていったのだとしたら、擬似的な不死であると愚考します。

 命様は、どう思われますか」

「……長くなる話じゃ」

「なら、待ちます。何時間でも」

「何故そうまでしてワシの話を聞きたがる?」

「それは、」

 

廊下の向こうから君恵さんの声が聞こえて来た。話はここまでか。喋りすぎた。と、思っていたら、風呂が終わったら話を聞くから一人で部屋にこいと言われた。

ああ、やってやろうではないか。待って話して何かが解決するなら万々歳、解決しなくてもそれは本来推理も捜査もできない私がなんの成果も出せなかった、ゼロがゼロのまま進んだだけ。

よし、何一つとして問題はない!

 

「じゃあ私は泊まるので父さんたちは旅館に戻っててくださいね」

「お、おう」

「ではまた明日!」

 

全員を押し出して、弥琴おばあちゃんをこたつで待つ。その間、コナンくんがどこかに仕掛けたであろう盗聴器をきちんと探し出して片付けておく。まったく油断も隙もない。

そうして、しばらく経ったあと、からりと襖が開かれた。そこには君恵さんが立っていた。

 

「お待たせしました」

 

……ああ、そういうことだったのか。推理は不得意だけど、さっき自分で話したことを思い出してさすがに理解した。

こたつを挟んで自分の向かいに君恵さんが座る。こぽこぽとお茶を入れる音と湯気の匂い。

私の目の前に湯呑みが置かれたのを待ってから、口を開いた。

 

「質問をしてもいいですか」

「はい」

「あなたは、“何代目”ですか」

 

私の問いかけに、君恵さんは諦めたように笑って、答えてくれた。

 

「三代目です」

 

 

お茶を啜りながら、君恵さんは自分の母が事故死を装ってまで命様を演じていたことなどを教えてくれた。私もお茶を飲みながら、お土産屋さんで適当に買ってカバンに入れっぱなしだったお茶菓子を出した。自分用に買ったやつなので、いつ食べても問題ないもの。

 

「このお菓子も、儒艮の名前が付いています。島袋の一族が代々作り上げたものの一端ですか」

「ええ、そうね。おばーちゃんの代から命様の役を引き継いで、母さんが死んでからは、私が命様になった」

「ひとつの生命が不老不死になるには限度がありますが、複数の命がひとつの目的と意思に基づいて、君恵さんやその先代、先先代が演じ続けた命様は、たしかに不老不死の存在だったのでしょうね」

 

パッケージこそ儒艮だけど、内容物は変わり映えのしないクッキーだ。可もなく不可もなく、工業製品の量産品。

 

「このことを知っているのは」

「私だけよ」

「ほんとうに?」

「え?」

「祭りは、一人でやるものではありません。島も、盛り上げた中心こそ命様でしょうが、太鼓を叩いたのも、篝火を焚いたのも、花火を打ち上げたのも、別の人ですよ」

 

一人でできることは、結構限度がある。新一くんが一人きりで怪しい男たちを追いかけて殺されかけたように。黒羽くんが怪盗キッドを演じるに当たってJ氏の力を借りるように。

表情が固まった君恵さんの目をきちんと見る。どれだけ緊張していても、私が突きつけた言葉で私が目を逸らすわけではない。

 

「島袋の一族が背負ったものを、否定したい訳ではないのです。しかし、不老不死は人間が背負うには少しばかり重すぎる、と思うのも事実です」

「そう……あなたがそう言うのなら、そうなのかもしれないわね」

「私、ですか」

「ええ。あなた、毛利小五郎の娘なんだから。私だって新聞くらい読むのよ」

 

そういえば、恩師の事件の時は新聞記者が同席していたなと思い出した。全国紙にも記事が掲載されたはず。名前こそ出さないでもらったけど、毛利小五郎の娘という立場はすでに出ていた。

 

「桔梗さん。あなたから見て、この島は命様がいなくてもやっていけそう?」

「……島袋弥琴が消えても、この島は力強く生きていきますよ、きっと。でもそれは、命様の存在の否定にはなりません。命様を代々演じ続けた皆様方に、敬意を払います」

 

例えるならば親と子のようなものだ。直向きに愛され、庇護され、守られた時期を知っているからこそ、一人で生きていくだけの力を得た。

子が親の元を巣立っていっても、否、巣立ったからこそ、子は親の愛を忘れない。

その後もずっと喋っていたら、いつのまにか空が白んでいた。夜明けが来たらしい。結局、徹夜で話し込んでいたことになる。

今日は寿美さんの通夜の席だけど、私も君恵さんも出席はしないだろう。自首をするためだ。

二人で朝食を作って、並んで食べる。久しぶりに誰かと朝食を食べた、と君恵さんは笑っていた。そうだ、笑ってる方がいい。

後片付けをして、忘れ物がないかと戸締りをチェックして、玄関の鍵をかけた。

 

「そういえば、聞きそびれちゃったんだけど」

「はい」

「あなた、いつから私が犯人だって気づいたの?」

 

君恵さんは、寿美さんを殺した犯人だ。沙織さんも蔵に閉じ込めているらしい。このまま警察に自首するので最後まで付き添おうと思っている。

それにしても、気づいたタイミングか。

 

「君恵さんが自白した時ですかね……」

「……つまり、あなたは私が犯人だと知って追い詰めに来たんじゃなく」

「もしかしたら世襲制かもしれない、とは思いましたが。単純に、命様の話を聞いた方がいいんじゃないかなと思いまして。本気で拒絶されたら引き下がるつもりでしたが」

 

そうではなかった。

私は所詮一介の観光客。外部の人間にしか話せないこともあったのだろう。

 

「ねえ、桔梗さん。私があなたにお礼をするとしたら、何かあるかしら」

「お礼……うーんでも、美味しいご飯とか人魚の伝説なら、またここに来ればいい話ですし……なにか、儒艮の矢にまつわる面白い話とかありますか?」

「そうね、面白いかは分からないけど……この島のお祭りには、結構いろんな有名人も来てたのよ。名簿を見て島の人が囃し立てたりね」

「じゃあ、その名簿をいただけますか?コピーでも問題ありませんから」

 

まあ、何かしらの役には立つかもしれない。

このあと警察に自首して蔵に閉じ込められてた沙織さんが救出された。私は警察に事情を説明したり、通夜が終わった後に線香をあげたりしたあと、旅館で仮眠した。そして高校生探偵コンビ問い詰められたりして一日が終わった。だから、犯人だと気づいたから追い詰めたんじゃなくて、追い詰められた人の話を聞いたらたまたま犯人だっただけなんだって。

 

つかれた!

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