成り代わり娘の原罪   作:サブレ.

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第二十二話:瞳の中の暗殺者【2】

看護師さんに様子を聞かれて答えるという作業をしていたら、色んな人が入ってきた。その中にはさっきの女の子もいた。小さい男の子から目線の鋭い男の人もいて、なんだか色々ばらばらだ。

 

「大丈夫?桔梗姉ちゃん」

「……その、だれでしょう」

 

つきりと、心臓が痛んだ。心配されているのがひたすらいたたまれない。視線を遮りたくて仕方ない。大柄な男の人が私に近づいた。

 

「この子、私たちのことばかりか、自分のことさえ思い出せないの」

「お前の父親の毛利小五郎!母親の妃英理だ!」

 

父親に、母親?

……よく分からない。見上げるけど、初めてみる人でしかない。私の隣の女の人、妃英理さんは、私の母親だからずっと肩に手を乗せているのかと、初めて思い至った。振り払わなくてよかった。

 

「ごめんなさい。……なにも、わかりません」

 

 

居心地の悪い時間が流れ、しばらくして白衣を着た先生が入ってきた。罪悪感と不安で膝を立てて縮こまっていたけど、そのままの体勢でいいと言われ、そのままいくつか質問される。

自分のことや、今日の出来事を聞かれたあとに、ちょっとした地図の質問や計算問題、そしてボールペンを手渡されて、ノックするように言われる。

わかること、わからないことを一つずつ答えたら、話は終わった。色んな人がいなくなって、茶髪の女の子だけが残った。

眠っていいですよ、と言われたのでそのまま横になる。視線が減ったので、すこし呼吸がしやすくなった。目を閉じたら睡魔が襲ってきたので、そのまま身を委ねる。

ゆっくり休んでね、と言われたような気がした。

 

+++++

 

次の日の午前中、色んな機械に通されたり質問されたり、やはり、今の私は色々とおかしいらしい。午後には四人の子供たちと恰幅のよい男性がお見舞いにやってきて、自己紹介してくれたけど、やはり誰のことも分からなかった。

 

「ありがとうございます。それからごめんなさい……誰もわからないんです」

「ワシのことも覚えとらんか?阿笠博士じゃ。ほれ、君の幼馴染で同級生の、工藤新一君ちの隣に住んどる天才科学者じゃよ」

「くどう、しんいち……」

「っ!新一兄ちゃんのこと覚えてるの!?」

「いえ、その……」

 

背筋が冷えて、血の気が引いて、思考がまとまらなくなる。心臓を鷲掴みにされたような恐怖と、不安が襲ってくる。

 

「その名前を聞くと、謝らないといけないって、思うんです……」

「なにを?」

「まちがえて、しっぱいして、じょうずにできなくて、ごめんなさい……」

 

そうだ、謝らないといけない。その感情だけは強く心の内側にある。工藤新一が誰なのかは分からないけど。

茶髪の小柄な女の子が、私の手をゆっくり揉みほぐすように開いて、そこでようやく、血が出るまで手を握りしめていたことに気がついた。

 

「桔梗お姉さんは謝らなくていいんだよ」

「もしそいつが来たら、俺たちで追い返してやるからよ!」

「悪いのは犯人ですからね!」

 

わあっと私を慰めようとしてくれる小学生の言葉が耳に痛かった。

 

 

お見舞いが終わったら急に立っているのが辛くなり、ベッドに横たわった。父さんである人と母さんである人が、病室で待っていたのは、主治医の話を聞いていたからかもしれない。

 

「ごめんなさい、少し疲れてしまいまして」

「いいのよ、ゆっくり休みなさい」

 

ベッドに寝そべってぼんやりと天井を見上げる。これから、どうやって生きていけばいいんだろう。

 

+++++

 

二日後、病院から出ることになった。雨の中の外の景色は全く見覚えのないものばかり。車の中で何度か話しかけられたけど、どう答えていいのか分からないものだらけ。

最終的に到着した建物、毛利探偵事務所の看板を見て、そういえば私の名前も毛利桔梗だったなあと病院の会話を思い出した。

ぼーっと見上げてたら、父さんがドアを開けてくれたので、車から降りようと視線をずらす。

 

「、ひ」

 

瞬間、工藤新一という名前とは別の恐怖が突き抜けて思わず目を逸らす。母さんやコナンくんに宥められながら、なんとか帰宅、をした。相変わらず、まったく見覚えがないけれど。

案内された自室はベッドと机、本棚、クローゼットがあった。本棚を見ていると、動物の写真が載った冊子がいくつか手に取りやすい場所に置いてある。

 

「それは、お前が取り寄せた大学のパンフレットだな」

「何年も前から、獣医になると目標にしていたのよ、あなたは。覚えてない?」

「……覚えてないです。あ、」

 

写真立てに私と、園子ちゃんと、もう一人の男の子の三人組の写真が置いてあった。園子ちゃんの話を思い出す。

 

「その、この人が、もしかして」

「ああ。こいつが工藤新一だ。ったく、なにをお前に吹き込んだんだか」

「あ、あの、悪いのは私なんです。工藤新一さんは、悪くなくって、その……」

「いいのよ。自分を追い込まなくても」

 

パタンと、父さんが写真立てを伏せた。私が何も覚えてないせいで、暗くなってしまった。なんとかしないと、必死に口を回す。

 

「……その、大丈夫です!すぐに、全部思い出します!」

「そうだな!今日は桔梗の退院を祝って、何かウマいもんでも食うか!」

 

そう言ったら、みんなの雰囲気が少しだけ明るくなった。良かった、私の振る舞いは間違いじゃなかった。

 

 

翌日。

子供たちと園子ちゃんが訪ねてきたので、一緒に園子ちゃんが持ってきたアルバムを見たりしたけど、やはりどれもこれもピンとこなかった。

自室のベットで横になりながら、これまで生きてきた私の存在について考えてみる。いつまでこの環境に甘えられるのだろうか。

もやもやと思考を巡らせていたら、かちゃりとドアが開いた。

 

「桔梗姉ちゃん。お風呂、空いたよ」

 

お風呂上がりで首にタオルをかけたコナンくんが入ってきた。たしか、コナンくんは工藤新一と知り合いなんだっけ。

聞いてみようかな。

 

「あの、ひとつお聞きしていいですか?」

「なあに?」

「その……工藤新一さんから見た、私って、どんな人ですか?」

 

そう問いかけると、コナンくんは困ったように俯いてしまった。難しい質問だったかな、と発言を撤回する前に、コナンくんがゆっくりと答えてくれた。

 

「えっと、すごい強くて、優しくて、気が回って、頼りになる……相棒(ワトソン)みたいな人だって思ってる、んじゃないかな。桔梗姉ちゃんは、小説家でも医者でもないって返してたけど」

「信頼、してたんですね」

「うん。すごく信頼してるよ。今もずっと」

 

今も、してるんだ。

なんだかすごく不思議な気分だ。私は、ずっと謝らなければと思っているというのに。

どう反応したものか悩んでいると、母さんが顔を出した。明日、銀座でショッピングをしないかというお誘いだった。

 

「どうもあの人といるとイライラしちゃって。パァーッと買い物でもしてうさを晴らしましょう?コナンくんも」

「うん!」

「それじゃあ、桔梗はお風呂に入ってらっしゃい。お風呂が終わったら包帯を巻くからね」

 

腕を怪我して縫った関係で、腕には今でも包帯がある。利き腕じゃないから包帯の巻き直しくらい自分でやれるけど、不思議と母さんが毎回やりたがる。

コミュニケーションの為とのことだった。嫌ではないのでお任せしているが、少し申し訳ないなと思う。

いつまでもお風呂を先延ばしにするのもいけない。もやもやする思考にけりをつけて、気合を入れて立ち上がった。

 

+++++

 

日光がさんさんと照りつける日だった。母さんとコナンくんと並んで、ホームで電車を待っていた。眩しさに一瞬目を細めた瞬間、背中をどん、と押し出された。

バランスを崩した、と思ったら線路に投げ出された。甲高いブレーキ音が妙に遠くに聞こえる気がする。

怖いが、これも一つの結末……天罰?と思ってたら、私の名前を呼ぶ人影が線路に飛び降りてきた。そのまま体を引っ張られて、ホーム下の待避スペースに連れ込まれる。

か、間一髪。というか。

 

「───大丈夫ですか!?」

「桔梗、姉ちゃん?」

「なんて危ないことを、線路に飛び込むなんて」

 

肩で息をしているコナンくんに怪我はないか、狭いスペースでべたべた触って確認してしまった。良かった、怪我はしていないようだ。

ほっとしたことで気が抜けたのか、線路に落とされたときにぶつけた背中や腕がじくじく痛む気がする。

その後、電車が走り去った後で私たちは救出されて、そのままちょっと前まで入院してた病院に救急搬送された。

いやもう、ほんとうに、ごめんなさい。

 

 

顔を真っ青にして謝り倒してたら鎮静剤を打たれて寝ることになってしまった。今はちょっと落ち着いて、最上階にある談話室に行けるまでに回復した。お見舞いに来てくれた園子ちゃんが連れ出してくれたのだ。

 

「でも、ほんと怪我がなくて良かった」

「ありがとうございます」

 

入院はせず、帰ってもいいと言われているので、お迎えがあるまでここで待機している状態だ。園子ちゃんに他愛無い話に付き合ってもらっていると、談話室に置いてあるテレビがニュース番組の中継を映し出したのが目に入った。

 

「……あれ、ここ」 

 

トロピカルランド。なんだっけ、とても大事な場所だった気がする。

 

「見たことある、でもどこだろ……」

 

考え込んでいたら、園子ちゃんも一緒に理由を考えてくれて、そして記憶がない私ではなく、園子ちゃんが原因を突き止めた。

 

「そうだ!あんた新一くんと二人で一緒に行ったんだよ!」

 

 

私の記憶の蓋は、もう開く寸前にまでなっているらしい。私の記憶の蓋の鍵が工藤新一にあることは誰の目からも明らかで、トロピカルランドは私と工藤新一が最後に会った場所。その日のトロピカルランドの事件を最後に、工藤新一は姿を消したから。

だから、その場所に行ってみれば記憶が戻るかもしれない、という話になった。

思う存分不安に駆られて迷っただろう。いい加減、記憶を取り戻して、私がいったいどんな悪いことをしたのかはっきりさせないと。

コナンくんは何か大事なことをしているようなので、彼を無理に参加させなくてもいいのでは?と提案したら受け入れられて、コナンくん抜きで計画が立てられた。

 

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