成り代わり娘の原罪   作:サブレ.

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第二十四話:バスジャックは突然に

藤代紫苑が何かを知っているかもしれない。コナンくんは私の報告を聞いてその人に接触したがっていたけれど、なかなか機会は訪れなかった。一度黒羽くんに聞いてもみたけど、紫苑さんは多忙であるらしく、またビッグジュエルショーの予定もうまく噛み合わない。

スキーに行こう、となったのはそんな頃だった。

風はないが雪は降る、という雪遊びには絶好の日だった。コナンくんが少年探偵団と阿笠博士と一緒にスキーに行くというので顔出し挨拶だけしよう、と集合場所に一緒に行ったら、阿笠博士がそれはそれはひどい咳をしていた。ので、思わず口をついて出たそれ。

 

「……もしよければ、私が代わりに引率しましょうか?」

 

 

そんな一言により、阿笠博士は哀ちゃんの厳命もあってお留守番が決定。私が引率役に収まった。阿笠博士も歳なんだからこういうときは素直に薬を飲んで寝ていたほうがいいと思う。おかゆ作ってきたから、餓死するってこともないだろう。

久々にスキーをするのもいいな、と思いながら少年探偵団の話に付き合い時に宥める。ヒートアップすることはあっても、注意すれば素直に聞くのはこの子達のいいところ。

次のバス停で、二人組の乗客が乗ってくる。そのうちの一人に見覚えがあった。コナンくんも同様なので、声をかけている。

 

「萩原さん!」

「久しぶりだな、コナンくん」

 

鈴木財閥警備隊の萩原さんと、一緒にいるもう一人は友人だそうだ。マフラーに顔の半分を埋め、軽く頭を下げてから窓側の席にさっさと座ってしまう。コナンくんは萩原さんから紫苑さんのことを聞き出そうとしているが、本業が警備隊と作詞作曲家では接点が少ないのか、収穫はなさそうだ。

コナンくんと萩原さんの会話曰く、二人はスキーではなく温泉が目当てらしい。確かに、あのスキー場の近くには温泉があった。スキー帰りの温泉ルートが鉄板としてお勧めされていたはず。

さらに次の駅では、ジョディ先生と新出先生の二人も合流してきて、周囲の邪魔にならない程度に騒がしい。

さらにその後から、スキーの格好をしてスキー板の袋を抱いた二人組も入ってきた。萩原さんたち、ジョディ先生たちと並んで三組目の二人組。二人組流行ってるのか?と思ったのと、懐から銃が取り出されたのはほとんど同時だった。

 

「騒ぐな!騒ぐとぶっ殺すぞ!」

「!」

 

甲高い悲鳴がバス車内に響く中視線だけで周囲を確認。まずは子供たちがパニックになっていないか、幸いなことに場数はかなり踏んでいるためか少年探偵団は緊張していてもパニックにはなっていない。

様子を伺うに一番不安なのは哀ちゃんだろうけど、コナンくんが隣にいる、フォローはコナンくんに一任すべきだろう。通路を挟んでいるので、下手に動けば犯人の目に止まる。

私の今の役割は少年探偵団の引率。私は彼らを無事に親元に帰す義務がある。

 

「バスジャック……」

 

自分にしか聞こえない声で状況を口に出す。ジェスチャーで静かにするよう、そして探偵バッヂを絶対に見られないよう三人に指示を出した。犯人が携帯電話機を回収しているので、私も素直に差し出す。萩原さんたちもおとなしく差し出していた。

そしてコナンくんはこの状況を打破しようと動き回っては何回か犯人に殴られたり撃たれそうになったりしていた。おいこら、落ち着け!特にジョディ先生!

と声をかけたくても状況がそれを許さない。こうなったら後でほっぺた引っ張ってやろう。

 

しかしながら、手をこまねいていたら犯人の手で踊り続けることになる。こちらからコナンくんに適当に手を貸すべきだろう。

行動を横目で観察した結果、コナンくんは一番後ろに座る三人に何かしらの目星をつけたらしい。二人組の目をかいくぐって後ろを確認する。

ニット帽を被った咳をする男、補聴器をつけた黒い服の男、ガムを噛んでいる女の人。

さて、犯人当てするか、外しても三択から二択にくらいは減らすか。

 

「……ご、ごほ」

 

軽い席から始めて、少しずつ咳を酷くしていく。一度犯人に問い詰められたときに、咳止めの効果が切れてしまったと言い訳をしつつ。

しかしながら、ニット帽の人と咳の二重奏になっても犯人の動きに変わりはない。

コナンくんとアイコンタクトを取る。意図を察してくれたのか、ウインクで返されたのを確認してから少し深く背中を預けた。

ヒントは捻り出したんだ。あとは頼む、名探偵。

 

+++++

 

「おい!そこの眼鏡の青二才と奥のカゼを引いた男!前へ来い!」

 

犯人が銃を向けながら、男性二人を指名して前へ来させた。二人組の若い男性なら萩原さんとその友人を指名しても良さそうなものだけど、それをしなかったのは萩原さんが“鈴木財閥”の関係者であるからだろうか。

警備関係者は基本的に顔は出さないけど、ごくごく稀に表に出るとしたら、隊長の肩書きを背負う萩原さんである。

新出先生とニット帽の男の人がスキーウェアを着せられて犯人のような出で立ちになる。真っ暗なトンネルの中、スキーウェアの二人に注視しているこの瞬間。

コナンくんにスキー板のような何かを渡された。おとなしく受け取り、掲げ持つ。

そして。

 

バスがトンネルを抜けてすぐ、急ブレーキが踏まれた。爆弾がうっかり作動しないようにしっかり固定しつつバランスを保つ。銃を持った三人のうち一人はコナンくんが、もう一人はジョディ先生が制圧。隠れ犯人の人質役の女性は新出先生が確保した。

止まったバス車内。そこに外部から警察の声が聞こえてくる。そして、女性の犯人の悲鳴のような発言も。

 

「今の急ブレーキで時計をぶつけて起爆装置が作動しちゃったのよ!爆発まであと三十秒も無いわよ!?」

 

まじか、これ爆発するのかよ。

避難の邪魔にならないように持ってた爆弾を席の横に立てかけ、大慌てで避難する乗客たちを見送る。

今日の私は少年探偵団の引率役。仕事は、彼らを無事に親元まで送り届けること。万が一逃げ遅れていたら洒落にならない。

 

「哀ちゃん!逃げないんですか!?」

 

一人座り込んで逃げない哀ちゃんの元に駆け寄ろうとして、腹のあたりに腕を回された。そのまま一気に持ち上げられる。

 

「萩原さん!待ってください哀ちゃんが、まだ」

「大丈夫、そっちもちゃんと助けるから!」

 

そのまま、抱えられながらバスから降ろされる。少し後に、萩原さんの友人が哀ちゃんを抱えてバスから降りてくるのが見えた。ほっとするのも束の間、バス内の爆弾が爆発を起こし、四人揃って爆風で吹き飛ばされた。私は平均的な女性の体格なので、男性の中でも身長が高い萩原さんにすっぽりと抱え込まれることができてしまう。大きな手と腕が私の頭を守るように後頭部に回されて、大きな背中で熱風が遮られた。

 

「…………」

 

心臓がバクバクしている。顔に熱が集まっているのは緊張からだろうか。冬だから外気は冷たく、萩原さんの体温が熱い。

 

「っと、大丈夫か?」

「はい。ありがとうございます」

 

萩原さんがゆっくりと離れた。少しだけ名残惜しい。私は軽い擦り傷くらいしかないが、萩原さんは派手にコートが擦りむけているし、所々に血が滲んでいた。見た目だけだよ、と笑っているけど。

振り向くとさっきまで乗ってた乗り物が燃え盛る火の塊と化していた。怖ぁ。

 

「……!そうだ、哀ちゃん!」

 

哀ちゃんの無事を確認しないと。そう思って振り向いたら、哀ちゃんはさっきまでの私と同じように男の人に抱えられていた。周囲の無事を確認してから、そっと身体が解放される。萩原さんと同じようにコートは煤けて、飛んできた破片で所々に血が滲んでいるが、哀ちゃんは無事だ。

 

「あなた、なんで……」

「……色々あんだろ、お前も。けどな、諦めるのはまだ早いんじゃねえのか」

 

ぽつりと、まるで自分自身に言い聞かせるかのような言葉に聞こえた。呆然とする哀ちゃんにフードを優しく被せなおし、頬についた煤を拭っている。

 

「気張れよ、正念場だ」

 

男の人が立ち上がった。お互い粉微塵になるところだった、縁起でもねえな、と軽口を叩いているところに警察の車両がやってくる。機動隊もいるので、爆弾のことは既に警察に共有されていたのだろう。

コナンくんが駆けつけてくれたので、哀ちゃんはそのままお任せした。適当に警察官を言いくるめて、子供たちは病院を経由して帰してもらうようお願いする。もちろん、コナンくんも。

コナンくんを呼び寄せて、膝を折って顔を近づけた。

 

「哀ちゃんの怯えを見るに、早めに遠ざけたほうがいいでしょう。少年探偵団ごと帰しますのでフォローを。事情聴取は私が請け負います」

「ああ、頼む。事情聴取の時に探っておいてくれ」

「了解しました。高木刑事が送ってくださることとは思いますが、道中気をつけて下さいな」

 

そうしてヒソヒソ話を終えて、哀ちゃんはコナンくんにお任せ。そうして一息ついた私たちは、背後でこそこそと交わされた会話に気づくことはなく、後始末のためそれぞれ行くべき場所に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにこのオールスター」

「犯人に同情したくはねえけど、運無さすぎだろこいつら」




「それにしても、よく車内に爆弾があると分かりましたね」
「伊達くんの知り合いがたまたまバス内に乗っていたようで、そこからの情報提供だ」
「なるほど」
「では今回、乗客からの事情聴取は伊達さんが」
「することになるでしょうね。リハビリには丁度いいのでは?」
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