成り代わり娘の原罪   作:サブレ.

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第二十五話:ペットの命名は結構フリーダム

バスジャックの前後の情報を共有したが、どうやら哀ちゃんがバスの中で例の黒の組織のメンバーの誰かの気配を察知したらしい。あの怯えようはそれだったのか。

事情聴取だけでは流石に探り切れず、悶々としたものだけが残った。そして、バスジャックのことを思い出すたびにオプションのように萩原さんの心臓の音とか、体温とか、大きな手の感触を思い出して心臓がバクバクするようになった。

 

「吊り橋効果だよなあ……」

 

今まで何度か顔合わせしていた時は普通だったから、そうとしか思えない。ベッドで悶絶したり足をバタバタさせたりすることが増えたら、流石に何かに勘付かれたのか、コナンくんが気晴らしのお出かけに誘ってくれた。

 

「阿笠博士の知り合いの愛犬家のところに行くんだけど一緒に来るか?」

「行きます!」

 

+++++

 

流石に車に全員は乗れないので、私は愛車のバイクで追走する。四人は先に家の方に降りて、私たちは近くの駐車場に車とバイクを停めて、阿笠博士と哀ちゃんと三人で歩く。

 

「哀ちゃん、もうお出かけは大丈夫そうですか?」

「さあ。……貴女も、私のせいで逃げ遅れるところだったのよ?」

「結果、こうして三人で歩いているじゃないですか。それで十分ですよ」

「あら。工藤くんから、貴女の様子がおかしいって聞いているんだけど」

「吊り橋効果の恐ろしさを、実感しているだけです……」

「なにそれ」

 

バスジャックで生まれた疑問はいくつかあるが、しかし明瞭なこともある。哀ちゃんを抱えて助け出した萩原さんの友人だという男性は、間違いなく組織の人間ではないということ。

何故ならば、哀ちゃんはその男に抱えられている間も、話しかけられた時も、一点の怯えさえ見せなかったからだ。

案外、その萩原さんの友人から攻めた方が良いのか……?と思いながら歩いていたら、目的地の大きな家に着いていた。

そして、玄関で私たちとは別のお客さんとばったり出会した。私と同じくらいの女の子はビーグルの繋がれたリードを手にしていて、小学生くらいの子は真っ白なふわふわした小型犬のリードを持っている。

高校生くらいの子、ものすごく見たことあるんだけど。

具体的にはNYで。

 

「こんにちは、藤代蘭といいます」

「初めまして、ボクは藤代薊だ!」

「ご丁寧にどうも。私は毛利桔梗、こちらは阿笠博士と、灰原哀ちゃんです」

「哀ちゃんか、ヨロシクな!」

「……よろしく」

 

薊ちゃんがぴょいと哀ちゃんに近づくが、哀ちゃんは博士の後ろに隠れてしまった。しかし興味津々で近づく二匹の犬までは遠ざけられないらしく、ふんふんと匂いを嗅いで見上げてくる二つの視線に居心地が悪そうだ。

 

「蘭ちゃん、とお呼びしても?」

「勿論です!あの、桔梗さんのことはお姉ちゃんから聞いてます。それに、NYでお会いしたことがありませんか?」

「さん、は結構です。同い年くらいでしょうから。NYに関しては、そうですね。例の劇場の件でしょうか?」

「やっぱり!」

 

立ち話が弾んだ。蘭ちゃん曰く、二人は加納さんと同じ愛犬同好会で知り合ったらしい。哀ちゃんをそっと伺えば、薊ちゃんに促されてビーグルの毛並みに触れていた。二匹とも、丁寧に世話をされているのがよくわかる。

 

「ちなみに、この子達の名前は」

「白い子がハロ、茶色い子がトリィ」

「トリィ……犬、ですよね?」

「しょうがないだろ、名前つけたの紫苑姉なんだから」

 

おおう。意外な真実。

あの気障で言葉遊び大好きな暗号文をホイホイ作り出すチーム怪盗キッドのマネージャー、命名センスは独特であるらしい。

 

 

そんな立ち話を経由して、五人と二匹で家にお邪魔した。さらに増えゆく犬。芝犬、パピヨン、シェットランドシープドッグ……わんちゃん天国。来てよかった。

ちなみに、コナンくんは蘭ちゃんを一目見るなり顔を赤くしてガッチガチに固まった。わかりやすいなオイ。

 

「あ、あの。こんにちは、蘭さん!」

「こんにちは。君が江戸川コナンくん?お姉ちゃんから聞いてるよ、とってもすごいキッドキラーでライバルだって!」

「本当!?僕のこと知ってるの!?」

 

面白……と思ってたら、服を引っ張られた。哀ちゃんと薊ちゃん、二人とも何かを聞きたそうな様子であったので、そっと膝を折って二人に顔を近づけた。そういえば、哀ちゃんとこんなふうに内緒話をするのは初めてかも。

 

「どうしましたか」

「工藤くん、知り合い?」

「似たようなものというか、十年間背負い続けた初恋と言いますか……」

「ふうん」

 

年季そこそこあるんだよなあ、工藤新一の初恋。二人は、そう、と少しだけ寂しそうな表情を見せた。仕草が似ているな、と思った。

まあ、コナンくんがかっこいいのは分かるけど、私は彼の初恋応援勢なので、申し訳ないが二人、というか歩美ちゃん含めて三人の応援はできそうにない。ごめんね。

 

「コナンくん、あまり蘭ちゃんに迷惑をかけてはいけませんよ」

 

一生懸命に蘭ちゃんに話しかけるコナンくんを一旦回収。君今小学生だって理解してるか?

ちなみに今回は、加納さんが骨董品を処分する過程で、どうせならと譲ることにしたというのが、阿笠博士たちが招かれた理由だ。愛犬同好会の蘭ちゃん薊ちゃんはこの場に同じく招かれた人たちとも顔見知りであるらしく、楽しそうに会話して犬と戯れていた。

私は骨董品系は遠慮して全力で犬を撫で回していた。最高。

 

「桔梗ちゃんは、犬は飼ってないの?」

「大人になったら飼います。おおきな犬に、男の子だったらロボ、女の子だったらブランカと名付けるのが昔からの夢です!」

 

今はどうしても環境的に飼えないからなあ、そういう意味では母さんが羨ましい。近々遊びに行こう。犬もいいけど猫もいいよね。

 

+++++

 

その後、パピヨンのドイルが行方不明になる事件が発生した。門の鍵が開いていたので外部犯がどこかに連れ去ったのでは?という話になったが、コナンくんと薊ちゃんがそれを同時に否定した。その後も、二人揃って捜査をするためか、ゴチン!と頭がぶつかるシーンもある。

 

「薊ちゃんも、探偵さんなので?」

「そうなの。あっという間に謎を解いて、まるでホームズみたいに。よく謎を作ってくれる友達に挑戦してるのよ」

「ふむ、コナンくんに匹敵する探偵がいるなんてすごいですね。平次くんくらいしか知りませんでした……あ、服部平次くんって知ってます?」

「知ってる!西の高校生探偵だよね。でも、桔梗ちゃんだって時々事件を解いて新聞に取り上げられるじゃない」

「私は推理はからきしなんですよ。沢山のヒントがあってなんとかです。蘭ちゃんは推理は?」

「私も全然……薊ちゃんとか、お姉ちゃんがお世話になっている探偵さんにお任せしてるかな。あと、探し物はトリィに」

 

私はコナンくんの、蘭ちゃんは薊ちゃんの推理を心から信頼しているので、いなくなったドイルを探すときにそんな話が弾んだ。トリィは蘭ちゃんの後ろをてくてく着いて歩いている。かわいい。

やがてコナンくんと薊ちゃんの活躍によりドイルは発見された。どうやってドイルを隠したのかというトリックも動機も暴かれる。

 

「ものすごく欲しいからって、隠したらだめじゃないか!家族がどれだけ悲しい思いをすると思ってるんだ!」

 

と、薊ちゃんはたいそうご立腹していた。しかしここは愛犬同好会の集まり。犬のためなら矛を納めるし協力もする。犯人の綱島さんが欲しがっていた宝石を加納さんが自ら手渡すことで事件は解決を見せた。

そして、蓮木さんが加納さんのプロポーズにOKを出したと思われるやり取りも聞いてしまい、蘭ちゃんと二人できゃあっと盛り上がる。

 

「あーあー、お姉ちゃんも早く覚悟決めないかなあ」

「あれ?パーティで会った際は羽賀さんといい雰囲気だと思いましたが……」

「両片思いなのよ、いまだに!お姉ちゃんだって満更でもないのに、ずっと告白は拒否してるの!桔梗ちゃん、今度お姉ちゃんに会ったら発破かけて!」

「請け負いました!」

 

楽しそうなのでOKを出した。哀ちゃんもこの事件とわんちゃんセラピーを受けて元気が出たようだし、少年探偵団も薊ちゃんと打ち解けてきゃっきゃと笑っている。私も友達が増えたし、ちょっとした事件は起きたけど、とても楽しい一日だったと言えるだろう。

 

「じゃあな、コナンくん、哀ちゃん、元太くん歩美ちゃん光彦くん!また会おうな!」

「桔梗ちゃん、またね」

「おう!」

「ばいばい!」

「また遊びましょう!」

「メアドありがとうございます!」

 

先にホンダのFREEDがお迎えに来たので、蘭ちゃんと薊ちゃん、ハロとトリィは車に乗って颯爽と帰っていった。さて、私もバイクを持ってこなくては。

このままコナンくん乗せて二人乗りで帰ることにしたので、阿笠博士たちとはここでお別れ。コナンくんにヘルメットをあげて、背中に乗せると、やけに真剣な声で話しかけられる。

 

「なあ」

「なんでしょう」

「蘭さんの写真撮っただろ?くれよ」

「……ツーショットでいいなら」

「あと、メアド」

「流石にそれはお断りします」

 

メアドは流石に自分で手に入れてください。

初恋の女の子に明らかに小学生対応されて若干落ち込むコナンくんを背にバイクを走らせた。こういうとき、高校生が縮んだ時の悲哀を強く感じる。

まあ、がんばれ。




ハロ:お迎えに来た諸伏さんが預かってる犬。今日は用事があったのでハロだけ集まりに参加した
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