成り代わり娘の原罪   作:サブレ.

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時計仕掛けの摩天楼にあたる出来事は、なんやかんや起こった後に解決しました


第二十六話:天国へのカウントダウン【1】

西多摩市、ツインタワービル。父さんのゼミの後輩がオーナーなのだという。たまに思うけど、父さんのツテもなかなかに広い。

オープン前に特別に招待してくれたとのことで半無理やりついてきた。父さん、美人さんにはデレデレになるのでちょっと、いやかなり心配だった。

あと、ツインタワービルがあの森谷帝二の弟子の建築家に設計されたらしいという噂を聞いたので興味が出た、というのもある。

帰ったらコナンくんに共有しよう、と思いながら父さんの運転する車から降りたら、ちょうど良く阿笠博士と少年探偵団が一緒にいた。

共有の手間が省けた。

 

「どうも、偶然ですね」

 

一緒にきた園子ちゃんと共に事情を説明しつつ、どうせなので阿笠博士と少年探偵団を交えて完成したばかりのツインタワービルの案内を受ける。

数十階の高層ビルのフロアのうち、31階から先は全てTOKIWAというコンピュータ系の会社が占めている。最初に案内されたのは2階と3階にまたがって作られたショールームで、専務の原さんという人が様々な機械を案内してくれた。10年後の顔がわかる機械で写真を撮ったりして遊び、次は75階のパーティルームへと案内された。

VIP専用の直通エレベーターは透明で、父さんを横目でチラリと見たら顔を顰めていた。父さん、高いところ苦手だもんなあ。

エレベーターを降りてパーティルームへ。どうやら私たちが最後の到着だったらしい。常盤美緒さんが挨拶してくれるので、父さんの横から私も口を出す。

 

「初めまして、娘の桔梗です。母がくれぐれもよろしくと申しておりました」

 

一応娘であることを強調しておく。父さんがラブラブしてるのを見たいのは母さんだけなんだよなあ。

そのままの流れで、園子ちゃんや阿笠博士たちの紹介に入る。もっとも、園子ちゃんは鈴木財閥のご令嬢なので顔を知ってるかもしれないけど。

常盤さんからも、他に呼ばれた市議会議員や日本画家の大御所先生、ツインタワービルの建築家の人を紹介してもらう。

……この人かー、森谷帝二の弟子って。

爆破はしてくれるなよ、と心で思ってたら自分からネタにしてきた。この人の心臓には剛毛が生えているに違いない。

わあわあきゃあきゃあと騒ぐ少年探偵団は、このビルを紹介する大人たちにとって理想的なリアクションであるようで、気前よく色々なことを教えてくれる。原さんに次の日曜日に遊びにこないか、と誘われているのを聞いた。

コナンくんと哀ちゃんはいつも通りに一歩引いて……いや、いつも以上に距離を取ってる。

バスジャックが尾を引いてるのかな。

 

「哀ちゃん、何かありましたか?」

「……別に」

 

フラれてしまった。まあ、私と哀ちゃんそんなに仲良くないしな。仕方ない。

哀ちゃんにフラれたあと、光彦くんと歩美ちゃんに多分恋愛相談されたので頷く。面白いことになりそうだ。

と、背中でコナンくんが駆け出した。この焦りよう、例の組織の手がかりでも掴みかけたのかな?いつもの猪突猛進を眺めていると、コナンくんはVIP専用エレベーターで一気に下へと降っていった。

やれやれ。

 

+++++

 

翌日。今日は少年探偵団の相談の梯子である。ハンバーガーショップで光彦くん、ドーナツ屋で歩美ちゃんの話を聞く。

と、いうか。百人中百人が吊り橋効果と断言できる過程で一回り年上の男性に片想いしてる女子高校生を、相談相手に選ぶのは間違ってるような気がしなくもない。

真面目に聞きますけどね。

 

 

光彦くんの悩みは、二人の女の子を同時に好きになっていいのだろうか、という疑問だった。ふむ、どう答えたものか。

 

「まず、人間も動物であるという前提のもとお答えします。広い視点で見れば、一匹のオスが複数のメスをつがいとして囲う、所謂ハーレムですね、そういった例は数多く存在します」

 

この辺りは博識の光彦くんなら知っていることだろう。頷いたのを確認してから話を続ける。

 

「それを踏まえた上で、光彦くんが同時に二人の女の子を好きになった。これに関しては何もおかしなところはないと思います」

「はい」

「しかし、その心においてどう行動するか、は非常に大切です。私の視点からアドバイスするのならば、ですが。……まだ今は、二人に対して、友達として仲良くしてもいいのかと思います。これから、どんな心の変化が現れるかはまだ誰にもわかりません。光彦くんにも、もちろん私にも。

焦らなくてもいいと、今の友達を大事にする心があれば十分だと、思いますよ」

 

いつ何が起こって恋愛模様が変化するかわからないよね……と萩原さんに絶賛片想い中の自分としては思う。

恋が電撃に例えられたのがよくわかる。

 

 

次の歩美ちゃんの疑問は、コナンくんは例の犬の事件の時に会った蘭さんのことが好きなのか、という質問だった。

うん、歩美ちゃんが産まれるより前から片想いしてるね……とは流石に言えない。

 

「……そうですね。好きですよ、一途です。私が見聞きした、何十倍も」

 

これだけは断言できる。世界トップクラスのミュージカルを目の当たりにしてダンスシーンより好きな子の横顔が気になるレベルの入れ込みようだからね。ミュージカルの後に声かけようとしたら殺人事件が発生してチャンスを逃し、後で全力で落ち込むくらいには一途だ。

でも、誰かを好きになる心は悪いものじゃないとフォローを入れてたら、藪蛇だったらしい。

 

「桔梗お姉さんは、好きな人はいないの?」

「いますよ」

「ええっ!どんな人?」

「黙秘します。私の場合、脳の錯覚のようなものですしね」

「錯覚?」

「ええ。人間は案外、単純な構造でできているものですよ」

 

楽しいから笑顔になるのか、笑顔を見て楽しいと思えるのか。鶏が先か卵が先か。

私の恋心はそういう理屈で生まれたものだ。

 

「じゃあ歩美、桔梗お姉さんのことも応援するね!」

「……ええ、ありがとうございます。歩美ちゃんのお心、確かに受け取りました」

 

小学生のまっすぐな心が眩しい。しかし、失恋がほぼ確定している恋なんだよなあ、これ。

その分新一くんや園子ちゃん、平次くん和葉ちゃんの恋は思う存分応援しつつ楽しみたいと思っているのである。

 

+++++

 

ツインタワービルに出かけた数日後。プログラマーの原さんの家に遊びに行くコナンくんを見送った数時間後に連絡が来た。原さんが死んでたらしい。

相変わらず人が死ぬときは急転直下の展開だなあ。少年探偵団が第一発見者なので一応父さんにも連絡を入れてお迎えに行った。私に連絡入れたってことは、つまり来てほしいということだろう。

案の定、コナンくんは私を見るなり駆け寄ってきた。

 

 

「……組織の人間の犯行の可能性、ですか」

「ああ。ツインタワービルに入った日、ジンの愛車のポルシェ356Aが停まってたってのは言っただろ?」

「成程。即ち、TOKIWAの関係者に組織がなんらかの理由で目をつけていたと考えている、と」

 

事情聴取から解放された帰り道。バイクに乗って適当な人気のない公園まで走る。自販機で適当な缶ジュースを二本買って、そのまま情報共有タイムとなった。

 

「ですが、ただ単に原さんが何かしらの理由で怨恨を買っていた可能性もあります。それに、パソコンのデータが消されていたのでしょう?産業スパイ関連の可能性は?」

 

自分の思考の整理のため、コナンくんがすでに検討したであろう可能性を口にしてみる。すると予想外にも、コナンくんは首を縦に振った。

 

「痕跡がねえんだ。桔梗が言った今の可能性も否定できねえ。警察はそっちの線も追うと思う」

「すなわち、コナンくんは“警察が絶対に追うことのない可能性”の方面を疑ってみると」

 

一般的に考えられる可能性は警察に丸投げして、チリほどの可能性である組織の犯行は探偵であるコナンくんが追う。理にかなった分業だ。

 

「ですが、組織関連で何か手がかりがあるのですか?」

「ああ。最近、灰原の様子がおかしい。どこかに電話しているようなんだが……もしかしたら組織に」

「うーん。様子を見るに、それはないと思いますけどね。確かに思い詰めているようですが」

 

なるべく哀ちゃんのことは気にかけるようにしている。バスジャック以降、何かと塞ぎがちなのは分かっていたので。

裏切ったはないと思うんだよなあ。あの怯えっぷりと、萩原さんの友人だという男の人とのやり取りの様子を見るに。

 

「そろそろフォローが必要な頃合いなのかもしれませんね」

「分かった、そうしてみる。博士にも伝えておくよ」

 

コナンくんの分も空き缶をもらい、二つまとめて握りつぶす。そのまま放り投げた二つの空き缶は、弧を描いて公園にあるゴミ箱へと吸い込まれ、カランと硬質な音がなった。

ふっとコナンくんが笑って私を見上げる。

 

「桔梗姉ちゃん、ナイスショット」

「どうも」




「殺したいほど憎らしい、その気持ちは理解しますが……時期尚早と助言させていただきます」
「止めはせんのか」
「時期がくれば殺意も消えるかと。どうせ近々崩壊する運命です。あの忌まわしいツインタワービルはね」
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