成り代わり娘の原罪   作:サブレ.

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第二十七話:天国へのカウントダウン【2】

結局、哀ちゃんは宮野明美さんの留守電メッセージを聞きたいがために毎日電話をしていたらしい。もうやめる、と一旦の解決を見せたらしい。

揃って招待された常盤財閥のパーティに向かうため、父さんが借りてきたレンタカーと阿笠博士の車に分譲する時には、いつも通りの哀ちゃんに戻っていた。コナンくんと阿笠博士が頑張ってくれたようで、よかったよかった。

 

「わあ、園子ちゃん髪型変えました?」

「イメチェンよ、イメチェン!どう、似合う?」

「ええ、とても!」

 

我が親友(マイフェアレディ)の印象の変わりぶりに小さな拍手で応えていると、コナンくんが何かに気づいたそぶりを見せる。

ふむ、まずいやつかな?あとで確認しておこう。

 

 

大きな富士山を眺望できる大窓はいつ見ても圧巻だ。とはいえ、同じように招かれている日本画家の先生は随分と腹立たしげだが、誰かを探しているようにも見える。

声かけてみるか。

 

「こんにちは、お久しぶりです如月峰水先生」

「ああ、キミは……毛利小五郎の娘か」

「はい、毛利桔梗と申します。どなたかお探しですか?必要でしたら、お手伝いを」

「いや、手伝いというほどでもないが……ワシよりもかなり小さい、ドレスを着ていない女を見なかったか?」

「いえ、見ていません」

「ならば、いい」

 

如月先生は、私の言葉で完全に肩の力を抜いてしまった。探すのをやめて、面倒くさそうにパーティ会場の隅にとどまっている。

とりあえず大丈夫そうかと理解したので、素直にビュッフェスタイルの食事に手をつけた。

あっ美味しい。

やがて司会の常盤さんが登壇してパーティが始まった。30秒当てゲームは辞退して、もっもっと食べることに集中する。

和やかにパーティが進むこと、しばらく。

どおん、と振動が伝わってきた、と思ったらパーティ会場が停電した。

記憶喪失事件の時のことを参照するに、配電室になんか仕組まれたな、と判断。

 

「園子ちゃん無事ですか?」

「桔梗も大丈夫そうね!」

「ええ。少年探偵団も……無事なようです。阿笠博士と父さんも」

 

この場で一番非常事態に慣れているのは父さんだ。父さんの仕切りによって、VIPエレベーターと非常階段で避難する組に分かれる。

VIPエレベーターの定員は大人九人。しかし子供と女性だけがエレベーターに乗るので、十人、もしくは十一人くらいならいけるかもしれない。

 

「父さん、お気をつけて!」

「ああ。桔梗、気をつけて避難しろよ」

 

エレベーターでの組み合わせに配慮しつつ、少年探偵団は先発、私とコナンくんと園子ちゃんは後発に分かれることとなった。そういえば、如月先生の言っていた女性はいない。

もしかして先に帰ったのか?と思いながら後発のエレベーターに全員で乗った。乗れなかったら、この中で一番体力のある私が階段で降りることになっただろうから、運が良かった。

 

「でも、このエレベーターだけ別電源で良かったよね。そうじゃなきゃ、階段で降りるなんて大変だよ!」

「そうですね、」

「桔梗!園子姉ちゃん守って!」

「っ、!」

 

コナンくんの叫びに応じて、咄嗟に園子ちゃんの頭を抱えて伏せる。それと同時にドン!とエレベーターに銃弾が着弾。エレベーターが停止した。

……狙撃。そういえば、コナンくんが何かを思いついていたけど、これか!

いや、思考を巡らせるより、今は脱出をすべきだ。

 

「コナンくん、敵は!?」

「レーザーポインタは消えた、多分もう狙ってない!」

「了解!天井から抜けます、肩に!」

 

天井からエレベーターの上に乗り込み、扉を腕力でこじ開けて脱出を整えた。

偶然にも45階、このまま走れば連絡橋を使って隣の塔に逃げられる。

幸い走るのが難しい老人がいないので、全員で猛ダッシュして隣の塔へ移動する。

が、突然60階の連絡橋が“降ってきた。”リーチの短いコナンくんと、合わせてしんがりを走っていた私と二人だけが燃え盛るビルに取り残される。

 

「桔梗!無事!」

「はい生きてます、ご安心を!」

 

私とコナンくん以外は、瓦礫に押しつぶされることもなく無事に隣の塔に辿り着けていたようだ。ほっとしたのも束の間、隣にはコナンくんがいる。そして、連絡橋周辺は炎に囲われている状態だ。

私一人ならともかく、コナンくんだけはきちんと生きて返さなければいけない。私の命に替えてでも。

使えるものがないか見渡す。この炎の勢いではもはや役立たずとなった消火設備の放水ホースが目に入った。

 

「コナンくん、あのホースを使って、下の階に飛び降りようと思います。いいですね?」

「……!ああ、頼むぜ、桔梗」

 

ホースを手近な瓦礫に巻き付け、コナンくんを抱っこ、ホースの先端を自分とコナンくんにぐるぐる巻きにする。しっかりと結びつけて、断崖となった橋に立った。

 

「大丈夫です、コナンくんはちゃんと生きて返します。私の命に替えてでも」

「違うだろ」

 

ぱちん、とコナンくんが私の両頬の挟んだ。青い瞳が、私の紫色の瞳をじっと覗き込む。どこかいたずらっ子のような、幼馴染の工藤新一の表情をした少年がここにいた。

 

「俺の命、預けた。一緒に帰ろうぜ、ワトソンくん」

「───ええ、そうですね。共に帰りましょう」

 

名探偵(ホームズ)にそう言われたのなら、そうするしかないじゃない。

ぎゅう、とコナンくんを一度抱きしめ、覚悟を決めた。そのまま、たん、と床を蹴って空中に身を踊らせる。

重力に導かれるように落下する体が、ホースによって繋ぎ止められた。ガクン!と体にかかる衝撃で、吊り下げられたことを知る。

コナンくんは、ちゃんと腕の中。勢いのまま外から窓にタックルする。ヒビは入ったけど、割れるまではいかない。

つまり、もう一度やれば窓を破ることができる。気合いを入れ直して、窓を蹴った。ブランコの要領で勢いをつけて、再び窓に突っ込むと、今度こそ窓を突き破って建物の内部へと入り込めた。

 

「「ふぅ〜……」」

 

思わず二人で床にへたり込んでため息をつく。な、なんとかうまくいった……。ホースはとっくに先端が黒く焦げて燃え尽きている。こんな危機一髪、滅多にない。

 

「お疲れ様でした」

「やっぱすげえよお前。さ、いこうぜ」

「はい!」

 

二人で長い階段を徒歩で降りきって、ようやく地面にたどり着いた。助かった、と思った途端に園子ちゃんが駆け寄ってきたので受け止めた。父さんは一周回って呆れたような表情で、私も思わず苦笑い。確かにとんでもない無茶をした。

 

「これで、全員だな?」

「全員……灰原たちは?」

「実は彼らは取り残されてしまったんじゃが……どうやら、同じく取り残された大人がいたようでな、その人と一緒に屋上からヘリコプターで脱出したようじゃよ」

「「大人……?」」

 

つぶやきがコナンくんと重なった。視線を合わせて、内緒話ができるよう少し離れた場所に移動する。疲れたから人気のない場所で休むと言いくるめるのを忘れない。

さて。階段から降りる間に整理したことをまとめようか。

 

「エレベーターで狙撃を受けた際、実際に着弾した弾は、園子ちゃんの命を狙った、ジンの放った銃弾ではない」

「ああ。誰にも当たらないような場所を狙って撃たれていた。おそらく狙いは二つ。一つはエレベーターを連絡橋のある階で確実に停めること。二つ目は狙われていることをエレベーターの乗客に周知すること。ジンの狙撃から人を守り、ジンを仕留めるための狙撃だと思う」

 

一度狙われていることさえわかれば、伏せたり上着などで目張りするなり対策が取れる。それを狙ってのものだろう、とコナンくんは言う。

それに、ジンはエレベーターへの狙撃を見て園子ちゃんへの攻撃を取りやめた。それだけでも、銃弾の価値はあったのだろう。

連絡橋を爆破するのまでは想定外だったのか手が回らなかったのか。

 

「そして、エレベーターの園子ちゃんを狙っていたジン自身にも、レーザーポインタが当たっていた」

「ああ。爆弾を使って避難経路を誘導、狙撃をするなら、ジンがポイントに立つタイミングもかなり分かりやすくなる。おそらく本命の狙撃手がいたのは、俺たちと同じツインタワービルA塔だ」

 

すなわち獲物を狩るための絶好の狩場を整えたが故に、ジンの居場所もまた特定しやすくなる、そのタイミングを狙っていたのだという。もっとも、その企みは失敗したようだけど。

 

「逃げましたか」

「ああ。ギリギリでその二人の狙撃手の狙いに勘付いたんだろう。間一髪ってところだけどな」

「では、“逃げ損ねた大人”が、ジンのことを狙った狙撃手であると」

「その可能性は高いと思うぜ」

「では、お迎えに上がるとしましょうか、少年探偵団と付き添いの大人の方を」

 

 

ヘリコプターかバラバラと轟音を立てて着地する。やがて扉が開き、半ば興奮状態の少年探偵団が降りてきた。どこかすっきりとした表情の哀ちゃんもちゃんと一緒だ。もっとも、少年探偵団が彼女を置いていくとは思えないのだけれども。

そして、最後。コナンくんのギラギラとした視線の先で、付き添いだという大人がゆっくりと降り立った。

 

「……へ」

「なっ……」

「おお、付き添いとはあなたのことでしたか。無事で良かった───如月先生!」

 

如月峰水先生。確かにこの人は階段で降りる、と言っていたし、老齢だから途中で諦めたとしても、理解できる。しかし、納得していいものだろうか。

普段割と適当に物事を飲み込んでしまえる私でさえそうなんだから、コナンくんは余程だろう。予想通り、難しい顔で考え込んでしまった。

 

「どう思いますか?あの燃え盛る45階から逃げられるとは思いませんが……」

「いや、爆破されると知っていたら、あらかじめ逃げ道が生まれるように防火扉を閉めておくことや、一部の爆弾の解体、耐火装備を用意することが可能だ。おそらくその狙撃手は、自分が逃げられるギリギリまで粘り、そしてあらかじめ確保していたルートで逃走したんだ」

 

私たちは連絡橋周辺の45階の惨状を見て、逃げるのなら上しかないと少しの間でも思い込んでしまったのだ。試しに周囲をぐるりと見回してみるが、怪しい人物はどこにもいない。

私たちのわずかな思い込みの時間で、逃げられてしまったのだろう。

思わずため息をついてしまったのは、仕方ないと思いたい。

 

「……なかなか、手強い相手のようで」

「ああ。黒づくめの男たちも……そいつらと敵対してる狙撃手もな」




「熱いし疲れたし逃げられました。骨折り損のくたびれもうけとはこのことですかね」
「向こうもプロってことだな」
「誰ですか燃えるビルからジンを狙撃しようと言い出したのは」
「お前だ」
「そうでした!」
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