伊豆旅行やりなおさない?と
こんどこそ無事に伊豆旅行を終えたい……!と思いながらビーチで遊んでたらコナンくんたち少年探偵団と遭遇した。せっかくなのでみんなでワイワイすることに。
ちなみに園子ちゃんは髪型を共に戻した。ウェーブも可愛かったけど、髪型変えた日に狙撃されたのだから元に戻す気持ちもよくわかる。
園子ちゃん、鈴木財閥関係ないところで命を狙われすぎてはいないだろうか?こんど京極さんに念押ししておくべきかな……。
その後、少年探偵団も含めて遊んでいたが、一人輪の中から外れていた哀ちゃんの様子がおかしい。少し様子を見に行ったら、純粋な体調不良のようだった。
「哀ちゃん、少し持ち上げますね」
休ませたほうがいいだろうと判断、声をかけてからその体を抱き上げる。阿笠博士の待機しているビーチパラソルの下に避難。熱中症だな、軽度のうちに対処できてよかった。
コナンくんと阿笠博士にとりあえずの対処を任せて、私は海の家で事情を話し氷水をもらってくる。戻れば、少しずつ顔色も戻ってきたので医務室や病院のお世話にならなくて済むようだ。
「調子はどうですか?」
「体温が下がってきたし、どうにかなりそうじゃよ」
「それは良かった。念のためもう少し冷やしますか。氷水、当てますね」
手当のために触るなら同性の私の方が良いだろう、と阿笠博士に許可をとってから声をかけつつ色々と用意する。初期に対応できたのもあり、回復が早いのは良いことだ。
「でも、次からは体調が悪いと思ったら、早めに休むか、誰かに伝えてくださいね。次も私が気付けるとは限りませんので」
一番良いのは熱中症にならないことだけど、次に大事なのは熱中症を自覚したら自分から回復のための行動を取れること。
そう思って伝えたら、哀ちゃんは小さな声で逃げるのがしゃくだった、と反論してきた。
「イルカは海の人気者……暗く冷たい海の底から逃げてきた意地の悪いサメなんかじゃ、とても歯が立たないでしょうけど……」
「……うーん」
言いたいことはなんとなく分かった。きっと一朝一夕では解決しない、けど哀ちゃん自身で見つめなければならない現実。
「おい、何言ってんだ?イルカだったらサメのほうが」
「強いんじゃないのか?」
男性陣は少し黙っててほしいかな。
「哀ちゃんは、狼王ロボを知っていますか?シートン動物記に登場する狼です。人間を翻弄することに長けた、私がかの物語の中で最も愛している、狡猾な魔物、美しくも気高き
……サメもまた、真っ直ぐに力強く泳ぐその姿は、きっと見惚れるほどに美しいのでしょうね」
害獣と呼ばれる生き物でも、その生き様に何かを見出すことがある。結局は、どうやって戦うかということだ。
「イルカもサメも、私は等しく好きですよ。いえ、違いますね、愛しています。意地が悪い?ええ、その通り。私はそのように評される獣の生き様に惚れたのです」
私にとってのシートン動物記は、新一くんにとってのシャーロック・ホームズのようなものであると、優作さんや有希子さんに指摘されたことがある。新一くんみたいに大々的に語ったことこそないけれど。
それでも私の部屋に揃ったシートン動物記は、私がお年玉やお小遣いでコツコツと買い揃えた宝物であり、獣医になりたいという夢の原点であることに間違いない。
「……大海を泳ぐための鰭は、サメもイルカもなんの違いもなく、美しいものだと思います。大事なのは、どう泳ぐか、ではないでしょうか?」
さて、これ以上言葉を尽くすのは無粋かもしれないからそろそろ退散させてもらおう。私の言いたいことは伝わったはず。
ゆっくり休んでね、と最後に伝えてからレジャーシートから立つと、後ろからコナンくんの声が聞こえた。
「イルカは哺乳類だけどサメは魚類だろ?」
だからそういう話じゃない。
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その後、ビーチで死体が発見されたらしい。伊豆旅行リベンジならずといったところだろうか。私はホテルの部屋で哀ちゃんと一緒にお留守番していたのでよく分からない。
事件自体はコナンくんがいるしどうにかなるでしょう。と思ったところで電話がかかってきた。相手は多分現場にいるだろうコナンくん。
「どうしましたコナンくん」
『桔梗、オメーは誰が犯人だと思う?』
「はあ?」
『勘というか、追い詰められてそうな人というか……』
「わかりません。というか、私は今日はほぼ哀ちゃんと一緒にいましたので」
『分かった。ありがとう』
ぶつりと電話が切れる。さて、応援にでも行こうかな、と思って立ち上がったら、同じ部屋でテレビを見ていた哀ちゃんがこちらを見上げていた。
「どこかいくの?」
「ビーチで殺人事件が発生したようです。私はコナンくんの応援に行きます。哀ちゃんはどうしますか?」
「なら、一緒に行こうかしら」
「わかりました」
一度コナンくんの荷物を勝手に漁って、蝶ネクタイ型変声器を手にとってポケットに入れる。今日の謎解き役は阿笠博士かな、と思いながら哀ちゃんと二人でゆっくりしたペースでホテルを歩いた。
部屋でルームサービスを頼んだので、レストランほどではないけど二人ともそれなりに晩御飯は済ませてある。
「今更ですけど、私と二人きりで息苦しかったですかね」
「……別に。それに、お礼も言いたかったし」
「お礼?」
さて、お礼を言われるようなことをしただろうか?と思って首を傾げていると、哀ちゃんが立ち止まって袖を引いた。膝を折って視線を合わせる。
「……バス、私を降ろすために残ったでしょ」
「ええ、そうですね。でも実際に降ろしたのは私ではありませんよ」
実際の哀ちゃんの恩人は、萩原さんの友人だという男の人だ。私自身は萩原さんに哀ちゃんと同じようにバスから引き摺り出された。
「私のせいで逃げ遅れたようなものだと思うけど」
「そうですね。だから次は、コナンくんや少年探偵団と一緒にすぐに逃げてくださいね」
「次?」
「ええ、次です。これから気をつけてもらえれば十分です。命の危機だったことは事実ですが、私も哀ちゃんも生きているじゃないですか」
そもそも私自身、細かいことは気にしないというか、まあいっかで飲み込んでしまえる方だから、別に哀ちゃんが何か気にすることもない。
というか、哀ちゃんが気にしていることを私が忘れている可能性だってある。
廊下を歩き、エレベーターで一階に降りて、人で騒がしいビーチに降り立った。
「コナンくんお届け物です」
「桔梗姉ちゃん!に、灰原?」
「あら、悪い?」
変声器を手渡す。あとはコナンくんが謎を解いて事件を警察にすべてお任せして終わりだ。
コナンくんが謎を解き、犯人がポツポツと動機を自白し、それに関して少しだけ会話をしてこの事件は終わった。一晩で終わってくれてよかった。
さて、もう夜遅いから少年探偵団を部屋で休ませなければならないね。子供達を誘導して、阿笠博士の今後の予定を確認して、私と園子ちゃんが取ったツインの部屋に戻る。
翌日、波打ち際で白い鳥がたくさんいたので戯れていたら、哀ちゃんが自分からこっちに近づいてきた。そういえば、いつも私から構うか言って一定距離を保つかのどっちかで、哀ちゃんから近寄ってくるのは初めてかな。
「───私は、灰原哀。よろしくね」
初対面のときを思い出した。あのとき彼女の名前を教えてくれたのは阿笠博士であって、彼女自身ではなかったはずだ。
自分から名乗ってくれた変化に心がふわりと温かくなるのを感じながら、私もそっと微笑み返す。
「毛利桔梗と申します。よろしく」
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