東京スピリッツが劇的な逆転勝利を決めた夜のコナンくんのテンションはそれはそれは高かった。コナンくん、新一くん時代からホームズに並ぶくらいサッカーファンだからなあ……と、テンション激高の幼馴染を観察しつつ間近に迫った全国模試の勉強に励んでいた。
確かに私でも見入ってしまったくらいの激戦だったけれどもね。
コナンくんが少年探偵団と阿笠博士に誘われて東京スピリッツの優勝パレードを見るのだと出かけて行った。集合場所は阿笠博士の家とのことだったからみんなで並んでテレビ観戦といったところだろうか?
そんなことを思いつつコナンくんを見送り、私は模試の関係でずっと勉強三昧、そのあとスーパーで買い物、帰ってきた。
「ただいま帰りましたー」
「おう」
そのままご飯の支度を先に済ませていたらコナンくんから、郵便強盗事件に関わったので遅くなると連絡が入った。いやなんでだ。
相変わらず事件に巻き込まれてるなあ、でもコナンくんと少年探偵団が一緒なら事件も早期解決するし結果オーライかな?
父さんがお酒を飲んでいたので、一声かけてからバイクで乗りつけた。警視庁で待っていたコナンくんに一声かけて、阿笠博士と佐藤刑事に挨拶、ヘルメットを投げ渡す。
「桔梗姉ちゃん、テスト勉強忙しいのにお迎えありがとう」
「いいえ、いい気分転換になりました。何もなくても、どうせ軽く走ってましたしね」
ツーリングは私の気分転換の一つである。コナンくん曰く明日は午後から事情聴取と実況見分とのこと。事件に巻き込まれるとこれが大変なんだよなあ、毎回付き合う探偵は大変だ。
ばいばい、とお別れして夜道を走る。
「桔梗、今日のご飯は?」
「親子丼です。せっかくですし、コンビニでデザート買って帰りませんか?父さんはいつも通り酔ってますし、たまには私たちだけでいい思いしましょう」
「ああ、いいなそれ」
この後コンビニでお菓子買って帰った。
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探りを入れたところ、和葉ちゃん平次くんの改方学園と蘭ちゃん黒羽くんの江古田学校も今週末に全国模試らしい。大変だね頑張ろうねとお互いに慰め合いながらさて、模試前日。
この模試が終わったらシートン動物記を読み耽るんだ……と思いながら数学の問題集と格闘する。
しかしながら工藤新一だけ全国模試受けなくていいのか……なんかずるいな……と内心思うけど、新一くんは出席日数という壁が立ちはだかっていることに気がついた。隣の芝は青いとはこのことか。
そんなことを思いながら、休憩も兼ねて夜ご飯を終わらせてお酒を飲む父さんをあしらっていると、携帯電話が着信を告げた。
「はい、もしもし」
『桔梗か?悪い、今日帰れなくなった』
「それはまた物騒な。何かありましたか?」
『ああ。実は、この東京のどこかに爆弾を仕掛けたと犯人から犯行予告があったんだ』
「本当に物騒すぎる案件ですね?」
大まかな経緯を聞くに、コナンくんが関わったこの爆弾事件は三年前、そしてさらに遡って七年前から警察と因縁があるらしい。
「私に犯行予告の暗号を解けとは言いませんよね?」
『当たり前だろ。桔梗はそういうの不得意だしな』
「それで、私に求めることは?」
『萩原さんと連絡取れねえか?』
「萩原さんですか?黒羽くんを介してならなんとかなるかもしれませんが……一体なぜ」
『七年前と三年前、両方の本命の爆弾の解体現場にいたのが萩原さんみたいなんだ。当時の事件について聞きたくて、こっちも伊達刑事が連絡を試みたんだけど連絡つかねえし、今は一般人の萩原さんにかかりきりになる余裕はねえしな』
「なるほど」
コナンくんは今、伊達刑事と一緒にいるらしい。バスジャック事件で事情聴取を担当した刑事さんで、ちょっとイカつい見た目のいい人だ。
しかし、連絡を取りたければ鈴木財閥に……と思ったら、すでに問い合わせ済みで萩原さんは有給取ってるそうだ。だめだったか。
「しかし、退職済みの萩原さんを探すより、当時関係していた刑事さんを巻き込む方が確実では。萩原さんは暗号を解いたのではなく、解体した人ですよね。暗号を解いた人は?」
『それができねーから、萩原さんを探してるんだ』
「……なにか問題でも?」
『三年前の事件で暗号を解き、囮の爆弾を解体したのは当時刑事一課だった松田陣平刑事。この人は事件から半年後、今から二年半前に行方不明になっている』
「行方不明……それはまた物騒ですね」
なるほど、三年前の事件で解決の中核を担った松田刑事はもうどこにいるのかすら分からないのか。
それなら、過去の事件に深く関係した萩原さんを探しているのも納得いくというもの。
「了解しました。黒羽くんに萩原さんと接触できそうか確認を取ってみます」
『悪いな、頼む』
「この程度お安いご用です。コナンくんも、謎解きは任せましたよ」
『……なあ』
「はい」
『松田陣平って……名前のイニシャル、J.Mだよな?』
「J氏が松田陣平であると?」
アルファベットに直せばJINPEI.MATSUDA。確かにJから始まるが、しかしそれを言えばうっかり誘拐されたジェイムズ・ブラック氏だってJから始まるわけで。
それに、Jから始まる名前はまだある。
「萩原さんと共にいたJ氏の名前、事情聴取の時に確認しましたが、柴田純でしたが……気になるなら、近くにいる伊達刑事に確認を取るのも手かと思います。アルファベットに直すとJUN.SHIBATAなので、彼がJ氏なのは嘘偽りなく事実だとは思いますが」
少なくとも、過去に刑事一課に所属していたのだから、何かしら引っかかる人もいるはずだ。それこそ伊達刑事とか。
その旨を伝えて、頼まれごとを遂行するために一度電話を切る。連絡先一覧から黒羽快斗を呼び出してコールを鳴らしたが、出ない。
しかし、黒羽くんが通っている江古田高校もまた、明日に全国模試を控えている。勉強に集中するために携帯電話の使用を絶っているということなら、私に文句を言う権利はどこにもない。
「父さん、もしも黒羽快斗くんから電話が来たら、折り返すと伝えてください」
ぐでぐでに酔った父さんに一応伝えてから、頭をスッキリさせるために一度シャワーを浴びる。湯船に入るのを我慢して手早く体を洗い、ドライヤーももどかしくリビングに戻れば、ちょうど黒羽くんから折り返しの電話が入っていたところだった。
『よ、久しぶりだなワトソン君』
「お久しぶりです。単刀直入にお聞きします、萩原さんと連絡取れませんか?」
『え?試しにやってみるけど……繋がるかどうかわかんねーぜ?Jちゃん、萩原さんと出かけるって言ってたし』
「飲んでたりしてたら、つながらない可能性高いですね……」
誰も何も悪いことはしていないんだけど。警察を辞めた萩原さんが今の仕事でお休みとって友人と遊びに行くって、当たり前の行動だしね。
とりあえず試してみる、と電話が切れた数分後、やっぱり無理だった、折り返しあったら連絡する、というメールが入った。
その旨を今度はコナンくんに伝えてひと段落。
諸々と大変なことになってるけど、今回は私の出る幕はこれくらいしか残っていない。
せめてもと、激励のメールを送ってから両頬を叩いた。
「よし」
できることがないなら、いつも通りを。コナンくんと警察の負担が増えないように、パニックになることなく、いつもの生活を。
愉快犯であると思われる爆弾犯の思うがままにならないように、気合いを入れ直す。
「勉強、するか……」
模試は逃げてはくれない。かなしい。
私、爆弾事件と模試が終わったらシートン動物記読むんだ……。
「あいつが松田陣平?そりゃねえよ、全くの別人だ」
「確かに松田刑事には似てたけど……伊達刑事が違うって言うなら違うわよ。だって伊達刑事、松田刑事と同期で同班だったのよ?」