何一つ連絡が入らなかったので、今のところコナンくんは爆弾のありかを突き止められていないのだろう。
念のため、何かあったらすぐに連絡を入れるようにメールを送ってから学校に向かった。蘭ちゃん和葉ちゃんとエールを送り合ってから、席についた。
あの後気になったので自分でも調べてみたのだけど、七年前、三年前共に囮の爆弾と本命の爆弾が仕掛けられ、うち三年前は二つとも解体されているのだ。七年前に関しては本命は爆発したけど警察含め犯人以外の死者はいない。
もっとも、怪我人はかなり出たはずだが。
「正常性バイアス」
「桔梗、何か言った?」
「なんでもないです」
今回もなんとかなるだろう、と思ってしまった理由がここにある。犯人こそ捕まっていないし、状況が大変なのはコナンくんが帰ってこないことや警察全体が慌ただしいことからもわかる。
それでも、今までなんとかなったから今回もなんとかなるでしょう、という思いがあるのは否定できない。七年前の爆弾ともなれば、事件そのものより、そのニュースを見て私が大きな不安で家出したり帰宅を拒否したり、そんな思い出の方が強いし。
いつでも緊張感持って推理できる探偵と警察ってすごいなあと思いつつ、テストに集中した。
そんな感じで時間は過ぎ、いくつかのテストが終わった頃。
マナーモードにしていた携帯電話が振動する。相手を見れば、江戸川コナンの名前が表示されていた。
「すみません少し外します」
園子ちゃんにそれだけ告げて、携帯電話機を片手に席を立つ。人気のない場所まで移動してから通話ボタンを押した。
「コナンくん?どうされました」
『爆弾、一つ目を見つけたぜ。二つ目、本命を今探している』
「何か、私に動いてほしいことが?」
『帝丹高校に、機材や道具類が積まれている場所はないか?』
「心当たりならあります。ここで明言しない方が?」
『ああ。盗聴されてる可能性が高い。念のため、音を立てないように探してくれ』
「了解」
心当たり……体育倉庫に何故か積まれているドラム缶の存在を想起した。そのまま可能な限り音を立てないように目的地に向かう。
そこには、確かにドラム缶があった。整然と並べられた様々な道具と共に。
『どうだ?』
「ええ、ありました」
『何があった?』
コナンくんにしては珍しく、曖昧で抽象的な言葉だ。私は手近な、わかりやすく異物であると主張する文章を、まずは脳内だけで読み込む。
チラリと、文章の隣に置かれた盗聴器と思われる機械を見た。周囲一体を見渡してから、言葉を発する。
「勇敢なる警察官へ。あなた方の勇気に敬意を表する一人の人間として心ばかりの力添えを。試合終了を彩る無粋な花火は頂戴しました。
怪盗キッド」
『───もしかしてお前の目の前にある爆弾って!』
「素人の私にも分かるほど完膚なきまでにバラバラですね。これ、かなり大きい爆弾なのではないでしょうか。うっかり爆発したら私も園子ちゃんも無事ではすまないような。盗聴器と思わしき者にも細工されてますよ」
『携帯電話機は!?おそらく遠隔操作できるようになってるはずだ!』
「何か箱に入ってるかと……推測するに、犯人はそもそも爆弾が解体されていることに気づいてないのでは?」
すごい展開になったな、と思いながら念のためハンカチ越しにメッセージが載ったキッドカードを持ち上げた。このカード、実のところ『君も予告状を作ってみよう!』のコンセプトでつい最近販売が開始された子供向けのオモチャの一つだ。
「コナンくん、一つ目の爆弾の所にいます?」
『ああ。こっちも最初から解体されてたよ。ご丁寧にヒントまで表示された状態でな』
「それはまた、丁寧な犯人ですね?」
いや、爆弾を解除して去った人は犯人と言っていいのか?
『オメーは一度その場を離れてくれ。犯人はまだ、二つ目の帝丹高校の爆弾が機能していると思ってるはずだ』
「呑気に見物か何かしているところを捕獲する、と。了解しました。警察への連絡はお任せしても?」
『ああ』
「それでは、よろしくお願いします」
とりあえず少し離れて、昨日も電話した相手を呼び出す。時間が経ったのか、偶然にも休憩時間中だったらしい。ざわざわと騒がしい声が微かに聞こえる。
『よお、どうした?』
「そうですね、黒羽くん。爆弾解体の技術ってお持ちだったりします?」
『まあ一応。どうしたんだよ』
「……怪盗キッドが爆弾盗んだんですけど、解体した覚えあります?」
『え、マジ?』
持ってるのか爆弾解体技術、と内心思いながらも、なるべく落ち着きながら黒羽くんに問いかける。黒羽くんは言葉では驚きながらも、内に秘めた感情は間違いなく面白がっている。一枚噛んだのは明白だ。
「『勇敢なる警察官へ。あなた方の勇気に敬意を表する一人の人間として心ばかりの力添えを。試合終了を彩る無粋な花火は頂戴しました。』一体どういう心算で、警察に通報することなく爆弾を盗んだのでしょうか?」
『さあな。盗んだのは俺じゃないから、これはあくまで“俺の推測”になるけど───』
自分自身の個人的見解である、と前置きしてから、黒羽くんは話し始めた。口を挟めるような空気ではなく、黙って聞くことに徹する。
『犯人を追う警察官は、勇敢だ。間違いなくな。そして強い思いで犯人を追い続けることで、警察官にしかわからない、ある種の信用さえ生まれることもある。だからこそ長年戦い続けた爆弾犯のことは、警察の手で捕まえて欲しかったんじゃないかな』
「……まるで、見てきたように言いますね」
一種の郷愁にも似た何かを感じる、強い確信。想像だなんて形のないものではないだろう。
黒羽くんに対するその問いかけは、気がつけば飛び出ていた。するりと、自然に。
「もしかして、黒羽快斗は、怪盗キッドですか」
怪盗キッド。八年前に姿を消し、その後数ヶ月だけ復活、工藤新一の探偵デビューの直前に再び姿を消した月下の魔術師。ICPOが追いかける国際指名手配犯。
黒羽くんはふっと笑って、嗜めるように私の言葉を肯定する。
『ああ。俺は、怪盗キッドだ』
「はは」
この返答が、私の問いかけの答えにならないなんて双方分かっている。
黒羽快斗はビッグジュエルショー怪盗キッド役スタントマン。
世間に隠しているとはいえ、間違いようのない真実だ。故に私の問いかけの本質は肯定の中に消えるしかない。
真実が二つの事実を含んでいる。黒羽快斗と怪盗キッドの関係は、そういうことだ。
「怖い人ですね」
思わずそう評してしまったことは、許してほしい。黒羽くんはけけっと笑って、私の心からの感想を寛大に受け止めた。
その後爆弾犯は逮捕された。なんでも捕まるときに「頭の中で誰でもいいから殺せという子供の声がした」という旨の言い訳をしていたらしいけど、「その
うん、怪盗キッドといえば今やビッグジュエルショーのヒーローだからね、なんでその場でその名前が出てくるんだ、と唖然とするのも無理はない。
私だってコナンくんだってびっくりしたんだから。
「東都タワーにもキッドカードがあったのですか?」
「そうだな。色々あって俺が爆弾の所に上ったけど、見事にバラバラだったぜ?」
「帝丹高校はともかく、東都タワーのエレベーターでしょう?よく犯人にバレずに盗聴器を掻い潜りましたね?」
「確かに盗聴器は厄介だけど、鈴木財閥の防犯システムに比べたらオモチャだろ」
それは、確かに。
一応爆弾を勝手に
兎にも角にも、事件は解決したし犯人も捕まった。そして、チーム怪盗キッドが文書声明を出したりと、後始末はもう少しだけ続くだろうけど、コナンくんから伝え聞く緊迫感とはかけ離れた、少なくとも爆弾よりは平和な騒動だ。
あの後、なんとか時間をずらしてテストを受けて私の全国模試は無事に終わった。
さて、シートン動物記読むかー。
「なんで伊達刑事に教えなかったんだ?」
「我々の想定通りの場所に爆弾がなかった場合、通常通り犯人のメッセージから爆弾を突き止める必要があるからですね。航くんにはあえて先入観を持たずに推理する役割をお願いしました」
「ま、想定通りあったんだけどね」