成り代わり娘の原罪   作:サブレ.

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第三十四話:ベイカー街の亡霊【1】

シンドラーカンパニーと日本のIT企業が共同開発した体感型シュミレーションゲーム機、コクーン。その完成披露パーティに招かれて行ってみれば、そこにはたくさんの人、各界の著名人や有力者一族で溢れていた。名探偵眠りの小五郎とその娘なんてこの中のネームバリューからすれば木っ端、工藤優作や工藤有希子でようやく釣り合いがとれるというものだ。

というわけで、周囲の観察もそこそこに立食パーティらしく料理を取って無言で詰め込む作業に入った。父さんも高いお酒が飲めることに満足そうにしてるので、飲みすぎないように釘は刺しつつ、あっ美味しい。

一応父娘だからか、この辺の行動は似ていると幼馴染二人に視線でつっこまれたが気にしない。

視線の先ではコクーンの参加資格を得た子どもたちが集まっていた。そのほとんど……否、全員が何かしらの有力者の子世代孫世代だ。

 

「日本の悪しき世襲制が凝縮された光景ね」

「世襲制が全て悪とは申しませんが、概ね同意します。しかし、実子だからといって同じ道に進みたいとも限りませんしね。故に親世代や一族の仕事におけるメリットをわかりやすく提示して、定められた将来に対する心理的なハードルを下げている面もあるのでしょう」

 

私なんか、父さんと母さんの職業を考えてか法学部に進むことを期待されることがままあったけど、希望は獣医学部だしなあ。園子ちゃんだって家族構成を考えれば跡取り一択なのだが、今の所本人にその気はないし。

家族というか、一族ともなれば問題もプレッシャーも存在するだろう。それにしても、今回集まった子どもたちは特別に甘やかされている選りすぐりのようだけど。

 

「ただ我が親友(マイフェアレディ)があの年頃のときは、もっときちんとしていたので、あれらは単に躾の失敗です」

「言葉がキツいんだよオメーは」

「有力者の次世代という意味では新一くんと園子ちゃんも同じではありませんか。正直、彼らと二人を並べて同一視されると腹が立つというものです!」

「言い過ぎだって言ってんだ」

「はい」

 

怒られた。

 

+++++

 

ゲームステージのうちの一つに関わった人ということで、工藤優作先生がステージに登壇しているのを聞いていたら、一瞬視線がこちらに向いた。見てますよー、と軽く手を振っておく。

その後、いよいよコクーンのお披露目ということで別会場まで移動。その際、園子ちゃんからコクーンの体験券を譲り受けた。

 

「いいのですか?」

「いいのよ。私、こういうのまったく興味ないし、あの子のこと気になるんでしょ?」

「まあ、どんな風に遊ぶのかは気になりますが」

「後で内容教えてくれればそれでいいよ」

「お言葉に甘えます」

 

私たちの視線の先には、子供たちの列に並んでゲートを潜るコナンくんの姿がある。おそらく阿笠博士か、もしくは優作さんの関係で手に入れたものだとは思う。

事件の捜査はともかく、こういうゲームでコナンくんが少年探偵団を置いて一人だけやるかなあ?と思っていたので、多分これは事件の捜査関連だろうと推測をつけた。

なんの事件が起こってるのかは知らないけど。

 

 

コクーンの中に入ってヘッドギアをセット、意識を電脳世界に委ねればあっという間にコクーンの支配するゲームの世界だ。

何もない、上から光が降り注ぐだけの空間に子供たちが集まっている。高校生……十代後半は私だけだ。

あ、少年探偵団もいる。推理とか捜査に関しては私より頼りになる子たちだ。

 

「桔梗姉ちゃん!?どうしてここに?」

「コナンくんが少年探偵団に先駆けて“ゲーム”に単独で挑むなんて、何かあったと言っているようなものでしょう?」

 

それにしても、リアルだ。五感の全てがリアルに感じ取れる。

上からアナウンスと思われる少年の声が降ってくる。ノアズ・アークと名乗った声が解説するに、私たちの誰もゲームをクリアできなければ脳が破壊されるらしい。

 

「つまり、デスゲームというわけですね」

 

とんだ理不尽かつ一方的なゲームであることだ。狙うは日本のリセット……いや、私はともかく少年探偵団を巻き込まないでいただきたい。話を聞くに自力でコクーンの権利を得てきた四人はともかく、最初から参加券のあったコナンくんは脳を破壊される謂れはないと思います!

あと園子ちゃんが脳を破壊される可能性があったことも怖い。代わってよかった。

 

『そろそろゲームを始めよう!』

 

ノアズ・アークに案内された五つのステージ。元々子供が遊ぶことを想定していたなら、難易度も相応になっているはずだ。子供達も不安に襲われているが、パニックにはなっていないのは幸いかな。

パン!と柏手を一つすれば思った以上に音が鳴り響き、注目がこちらに集まった。私は高校生だけど、子供たちから見たら立派な大人の一人。

せめてこの空気だけでもどうにかしなければ。

 

「落ち着いてください、みなさん。これはゲームです。真剣に、本気で取り組めば、ゴールまで辿り着けます。チャレンジ前から気持ちで負けてはいけません」

「そうだよ!たった一人でもゴールに辿り着ければいいんだから!」

「さあ、自分が生き残れそうなステージを選んでください」

 

コナンくんの援護射撃ももらいつつ促せば、なんとか子供達は動いてゲームのステージ選択が終わった。私たちは当然、19世紀のロンドンを舞台にしたオールド・タイム・ロンドン。

コナンくんのホームズ知識があるのにここを選ばない理由もない。

少年探偵団と、同じステージを選んだ子供達が喧嘩になりそうなのを諌めたりしつつも、ステージに向かって歩き出す。

そうして到着したステージは見事な19世紀のロンドンだった。薄暗く霧がかかっている世界にコナンくんからの解説を聞きつつ、状況把握に努める。

その過程で、言語は複数設定できて外部から日本語設定されたことや、コナンくんの持ってるアイテムは一切使えないことなどか判明する。

英語が日本語に変化するところなんか、ゲーム世界だなあ……と感じる部分だ。

 

「痛くても怪我をしないのはこういったゲームの利点ですね」

「マジで痛かったけどな……」

 

一旦ジャックザリッパーの犯行現場から離れてこれからの行動を考えようと橋の上で屯していたら、次に降ってきたのはノアズ・アークではなく阿笠博士の声だった。

攻略方法を伝えてくれようとしているらしいと察して、どうせこれもノアズ・アークに見られてそうだなと警戒態勢を取る。こんなにいるなら必要事項はコナンくんとか哀ちゃん聞いてくれてるでしょう。

案の定、通信が遮断されて橋が崩れるというピンチを迎えつつ、ギリギリのところで全員生還。あ、危なかった……。

 

「全員いますか?……いますね。ノアズ・アークも乱暴な手を使うようで」

 

メタ知識(チート)を使おうとしたのは私たちなので、遮断はむしろ必然といったところだろうか。

しかし問題は、このメタ知識(チート)がノアズ・アークにすでに把握されていた場合だ。大まかな達成条件などは変わらなくても、細部が変わっている場合、中途半端なメタ知識(チート)がむしろ足枷となる可能性だってある。

つまり、自分の目や耳で見聞きしたことを糧に自分の手でゴールを探り当てなければならない……要するに、普通にゲームクリアしろよ、ということだ。

NPC(モブキャラ)の会話からレストレード警部、およびシャーロックホームズの存在がいることはほぼ確実……というか、この舞台設定で監修が工藤優作先生なら出すよね。

 

「お助けキャラクター、どこを探せばいいと思います?」

「それは勿論、ベイカー街だ!」

 

次の行き先は決まった。では向かうか、ベイカー街。

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