成り代わり娘の原罪   作:サブレ.

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第三十七話:風邪を引いたら卵粥

しばらくゲームとホームズはいいかな……となる出来事を経験してしばらく。最近のマイブームは歴史に残る殺人鬼だ。今は工藤邸の書斎から借りてきたアルバート・フィッシュの書籍をめくっている。その対価として掃除はしてきたし、借りた本は都度返してるからこれくらい良いだろう。

夢みがちなお姫様を思わせる記述を脳に流し込んでいると、設定したアラームが鳴った。今日は園子ちゃんとジョディ先生と中華粥を食べに行こうかという話になってたんだった。

哀ちゃんが風邪ひいたって話してたし、テイクアウトできそうならお見舞いに買っても良いかもしれない。

しおりを挟んだ本を閉じて、学習机の真ん中にわかりやすく置いておく。コートを羽織って手袋をはめて、忘れ物がないか確認して部屋を出た。

 

食事に行く前に読む本の選択を間違えた気がする。

 

+++++

 

東都デパートの目的地樽雅亭、そこそこ並んでるけど、園子ちゃん曰く席の回転が早いそうなので、おしゃべりしてればあっという間だろう。列の最後尾に並ぼうとしたら、見覚えある二つの背中があった。

話しかけようかあえて無視しようか一瞬悩んだ隙に、ジョディ先生が二人を視認して話しかけていた。私も先生に追随するようにコナンくんと博士に視線を合わせる。

 

「あれ、コナンくん?今日はお見舞い予定ではありませんでしたか?」

「ああ、哀君なら実は……」

「ここに連れてきて卵粥を一緒に食べようと思ったんだけど、風邪が酷くて無理そうだから連れてこなかったんだ。ね?博士」

 

なるほど、“ここに灰原哀は来ていない”と。了解の意を込めて軽くハンドサインを送った。思っていた以上に混んでたからやっぱり帰ると言い残して去っていったコナンくんに、覚えていたらテイクアウトして持っていきますね、と言い残す。

さて、これで不自然でないように立ち回れていたら良いのだけど。

 

 

「あつ、美味しい……」

「ほんと。みんな並ぶだけあるわねー」

 

外の景色を眺めながら卵粥のセットを食べていたら、警察車両が駐車場に入っていくのが見えた。またコナンくんかな?と思ってたら、園子ちゃんも同じことを思っていたらしい。

早めに食べ終えて駐車場に向かってみたら、案の定というかなんというか、殺人事件が発生していた。

コナンくんを迎えに来た、と言って中に入れてもらう。遠目からちらりと阿笠博士の車の中を見たら、哀ちゃんが後部座席に寝ていた。

コナンくんがジョディ先生を見たあとアイコンタクトをしてきたので、念のためジョディ先生と車の視線を遮るように立ったけど、怪しまれていないか、本当に中を見られなかったかは自信がない。

 

「コナンくん、事件は解けますか?」

「ああ問題ねえ。桔梗、頼むぜ」

「了解です」

 

いつも通りコナンくんのサポートを受けながら、早急に推理を披露して事件を解決する。とはいえ、時系列の整理、物証の提示、犯人の自白の確認などある程度時間がかかってしまったことは否めない。

それでもなんとか事件のゴタゴタを終わらせたら阿笠博士と愛ちゃんがいなかった。そしてジョディ先生もまた。

 

「桔梗、博士と灰原、あとジョディ先生見てないよな!?」

「はい、見てませんよ。事件の解決で手一杯でした!」

 

コナンくんが慌てて博士に電話をかけたら、なんと博士は家に帰っていた。新出先生に相談したところ、警察に事情を説明した上で車を置いて外に出て、たまたま外にいたジョディ先生に送ってもらい、新出先生に来てもらったのだとか。

高校生とはいえ引率している未成年を無断で置いて何をやってんだジョディ先生!

 

「博士の車は明日にでも回収するとして……どうしますか?近々、何か動きがありそうですが」

「そうだな。桔梗、ジョディ先生についてどう思う?」

「ええ、そうですね。“いい大人”だと思いますよ複数の意味で。少なくとも何も知らないただの英語教師はありえないかと」

 

哀ちゃんと博士への接触方法が無理やりに感じられる。少なくとも、共にいる教え子の未成年の高校生二人に何一つ連絡も報告もなく姿を消すというのは不自然だ。

コナンくんだって、ちょっとトイレだの、新一兄ちゃんから電話だので、消える前には何かしら一言告げているというのに。

園子ちゃんのこともあるので、軽く相談したあと現地解散。コナンくんと一緒に帰るという名目で一度園子ちゃんと別れて、そのまま阿笠博士の家へと向かう。

 

「近々、何か動きがあったりしますか?」

「わかんねえけど、ここ最近灰原が尾行されてるのは確かだ。もしかしたら今後、桔梗に頼るかもな」

「それはまた」

 

そんな会話をしつつ、途中でスーパーに寄って適当に差し入れと、今日の夜ご飯の買い物をした。なんだかんだで昼食抜きになってしまったコナンくんにも軽く食べられそうなサンドイッチを買う。

イートインコーナーで、ドリンクの自販機で温かいコーヒーを二つ買って軽い休憩タイムとした。

 

「……なあ、嫌な予感がするんだよ」

「嫌な予感、ですか。コナンくんがそう言うのなら、警戒した方が良さそうですね」

「一応博士の家に泊まろうと思うんだけど一緒に来てくれるか?」

「無論です。ただ、父さんのご飯作ったり着替え用意したいので、私は一度帰ります。コナンくんだけ先に送りますね」

 

ついでに、途中だったあの本を持ってくるのもいいかもしれない。コナンくんも勿論だけど博士のご飯を代わりに作って、哀ちゃんの食べられそうなものも作ってあげた方がいいかな。

 

+++++

 

「すまんの、桔梗君」

「この程度ならいつでも。私は適当に読書でもして適当に寝るので、何かあったらお声掛けくださいな」

 

同性の方が良いこともあるだろうし。

ジョディ先生と新出先生は入れ違いになるように帰っていた。カットしたフルーツがあるので、悪くならないうちに一人前を残してサクッと三人で食べてしまう。その上ですぐに食べられるような夕食を代わりに作って置いておく。

やることはやった、としおりを挟んでいたアルバート・フィッシュの本を開いて読んでいると、コナンくんが覗き込んできた。

 

「父さんと母さんがあげたやつだ。まだ使ってたんだな」

「コレクションと実際に使うしおりは別物なんですよね、なんか。今の普段使いだとだんだん枚数足りなくなってきたので、そろそろ新しい子をレギュラーメンバーに加えようかと思ってるんですが」

 

優作さんと有希子さんから小学校の入学祝いにもらった、木製の春夏秋冬をテーマに猫をあしらった四枚のしおりは、もう愛用して十年以上になるだろうか。

なんでも、良いものを大切に使うと長持ちするんだなあと思いつつ、読書に没頭していたら夜になっていた。ソファを借りて仮眠するか、と大きく伸びをして、哀ちゃんと博士の様子を見にいく。

あー、博士トマトジュースこぼしちゃってる。ジュース缶を片付けて、ブランケットを博士にかけてあげると、偶然にも哀ちゃんが起きてきていた。

 

「起きましたか。何か食べたいものや、喉が渇いた、などありますか?」

「あの、あなたがなんでここに?」

「コナンくんから看病のお誘いを受けました」

「そう……食事はいいわ。今は、まだ」

「わかりました」

 

とりあえず、まだ起きてるコナンくんに状況伝えればいいかな、と頭の中で算段をつけていたら、そっと袖を引っ張られた。膝を折って目線を合わせる。

 

「どうしましたか」

「……怖くないの?私と関わり続ければ、いずれ組織に目をつけられるわ」

「そうですね。怖くないといえば嘘になりますけど……本当に一番こわいものが他にあるので、それに比べたら!と奮起できるんですよ」

 

一番恐ろしいのは、工藤新一に見捨てられること。

役に立てないこと。

足を引っ張ること。

断罪されるべき存在に成り下がること。

 

「哀ちゃんも、まだ熱が下がっていないようですし、休んだ方がいいかと。阿笠博士の周りの片付けは、もう私がやりましたから。元気になったら注意しておいてくださいね?」

 

哀ちゃんをベッドに誘導したら、すぐに寝息が聞こえてきた。それを確認して、ソファに移動する。

やっぱり疲れてたのかな、哀ちゃん。

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