成り代わり娘の原罪   作:サブレ.

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第三十八話:遺した物と愛情の話

自分で卵粥作ってみたはいいけど、やっぱり樽雅亭には劣るなあ……と思う。専門店と私の自作では差ができてしまうのは仕方ないとはいえなんか悔しい。

哀ちゃんに卵粥を渡しつつ、コナンくんと阿笠博士にも焼きおにぎりと豚汁という簡単な組み合わせの朝食を作った。腹が減っては戦はできぬと言うが、あまり博士に食べさせすぎたら哀ちゃんに怒られてしまうな。

うーん、焼き加減は最高、しかし醤油の割合が多すぎただろうか……もう少し甘くしてみても、いやしかし。

 

「桔梗君もくるじゃろ?」

「へ?すいません聞いてませんでした」

 

おにぎりの味に真剣になってたからか、会話を聞き逃してしまった。阿笠博士が言うに、博士が宮野志保及び明美姉妹の父親、宮野厚司博士の友人を見つけ出すことができたのだと言う。コナンくんは私も当然ついてくるだろ?と言う態度だったので、念のため博士が私に聞いてみた、ということらしい。

いや、行くけど。

 

「今からですか?」

「俺としちゃそうしたいけどな」

「私も、それで」

「バイク持ってきてないんですよね、実は」

「わざわざバイクを持ち出さなくてもいいじゃろう、儂の車がある」

「では、お言葉に甘えます。哀ちゃんも、それでいいですか?」

 

宮野厚司の名前が出てから、明らかに興味があるという瞳でこちらを見ていた哀ちゃんに振り返って問いかける。さっき熱を測ったら平熱まで回復していたので、出かけようと思えば出かけられるはずだ。

 

「どうして私に聞くのかしら」

「哀ちゃんのご家族のお話です、当事者に意見を聞くのは当然ではありませんか。家族の話ほどデリケートな話はありませんよ」

「どこかの探偵にも見習ってほしいわね……」

「でも、その探偵のお節介に救われることもあるのではないでしょうか?」

 

もちろん、第三者が首を突っ込まなければならないほど絡み合ってしまった事柄はあるだろう。それこそ、探偵の力が必要となるような。しかし、当事者の意思を蔑ろにしていい理由にはならない。

私の問いかけに、哀ちゃんは頷いた。

 

「ええ、一緒に来てくれるかしら」

「じゃあ、暖かくしましょうか。外は雪ですしね」

 

バイクで外を走ったら寒そうだ。阿笠博士の好意に感謝しなきゃな。

 

+++++

 

アポイントメントを取り、車で宮野厚司博士の生家、今はデザイン事務所である一軒家に向かう。

友人だという出島さんに話を聞くと、宮野厚司博士はこの家を貸した後はとあるスポンサーの所有する大きな研究施設に居を移したとのことだった。例の組織だな、と哀ちゃんとコナンくんが頷き合っている。

様子を聞くに、何も知らない彼らからすればちょっと変わった家族程度に映っただろう宮野一家の様子は、組織の存在を知る私たちから見ると全く別の形となる。

絶えず組織から監視される日々は、あまりに息苦しく恐ろしい生活だったに違いない。生まれた時から組織にいた宮野志保でさえ苦しんだのだから、普通の日々を知っている宮野夫婦と明美さんにとっては、特に。

いくつかの話を聞いて、コナンくんと哀ちゃんがトイレに駆け寄ったのを眺める。どうやらヒントは、あのトイレにあるらしい。

 

「ここに来た甲斐は、確かにあったみたいですね」

「そうじゃのう」

 

部外者の阿笠博士と二人、何かを懸命に探す小さな背中を見やる。

その後もコナンくんが出島さんたちに色々と宮野博士について詳しく聞いていると、突然ハンバーガーを食べていた出島さんが苦しみ出して、そのまま息を引き取った。

 

 

警察を呼んで、コナンくんも含めて色々と状況を整理していく。組織の犯行である可能性も視野に入れて聞き込みをしたが、このデザイン事務所は二回ほど空き巣に入られた程度で、その際も何も盗られることはなかったそうだ。

何も盗まない空き巣は組織の犯行であり、盗聴器の設置と回収だろうという結論に。それに関しては、私も同感だ。

 

「では、今回の事件は彼らは関係なさそうですね」

「目的は私……私がここへ来ると予測して父の友人を殺し、精神的に追い詰めるつもりだったとしら……どう?」

「うーん、ちょっと回りくどい気がしますね。もし精神的に追い詰めるつもりなら、もう少し距離が近い方にしそうですけどね」

「オメーそれ慰めてるつもりなのか?」

 

率直な感想を口にしたら、コナンくんに突っ込まれた。だって下手な慰めとか今の哀ちゃんには逆効果だと思ったんですよ。

 

「でも、感じたのよ。杯戸町のデパートに行ったあの日……薄れていく意識の中で私を蔑むような冷徹な視線を……」

「じゃあ、次にその視線に晒されたその時は、私を呼んでくださいね。視線の盾になることくらいはできますから」

 

哀ちゃんより物理的に大きい背丈なので、小学一年生くらい隠すために抱きしめることくらい余裕だ。こちとら十七歳だぞ。

しかしながら、私は組織の仕業ではないと思っているけど、哀ちゃんは組織の人間の犯行だと思っている。

 

「……私や哀ちゃんが意見を堂々巡りさせていても仕方ありません。ここはひとつ、名探偵の意見を聞きましょう」

 

視線で合図を送ると、私たちが話している間に何かを見つけたコナンくん曰く。この殺人事件は組織は何も関係ないそうだ。

私は自分の推理力には毛ほどの信頼も置いていないため説得力はない自信があるが、コナンくんが言うなら確かに、この件は組織は無関係でいいだろう。

さて、あとは頼んだ名探偵。と思ったら、コナンくんに服の裾を引かれた。そっと膝を折って内緒話の体勢になる。

 

+++++

 

「回収しておきましたよ」

 

車の中で、阿笠博士とコナンくんの推理ショーの間に言われた通りにこっそり回収しておいたビニール袋を見せた。1から20にかけての番号が振られたそれになんの意味があるのだろうか。

コナンくん曰く、これは宮野明美さんが残したものらしいが。

 

「これが、お姉ちゃんが残したもの……あら、意外に子供っぽいものもあるわ」

 

小さなおもちゃの宝石を、哀ちゃんが手にした。プラスチックでできた、ガチャガチャなんかで手に入りそうな小学生向けのおもちゃだ。歩美ちゃんあたりなら喜びそうだけど、本物のブランドを知っている哀ちゃんからすれば、ちゃちなおもちゃにしか見えないのだろう。

 

「……?」

 

なんだろう。何か引っかかる。

結局、そのカセットテープは組織の手がかりではなく、厳しい監視の中で哀ちゃんのお母さんが娘の宮野志保に向けて残した二十年分の音声メッセージであったのだと判明した。

それは、本当に良いことだ。母親から愛情を向けられていたと、本当の意味で愛されていたのだとしたら、それに越したことはない。

全く、羨ましいほど素敵な話ではないか。

 

「うーん……」

 

そして、違和感は未だにある。

 

「桔梗?何か引っかかるのか?」

「ええ。そのおもちゃ。特に仕掛けも何も施されていない、本当にただのおもちゃですよね」

 

珍しい。私が違和感を持って、コナンくんが気付いていないなんて。

工藤新一の役に立てないなんて恐ろしい。なんとか思い出そうと頭を捻っていると、様子を見ていたコナンくんが思い出したら教えてくれ、と言ってくれたので唸るのをやめた。

 

「とはいえ、これは宮野明美さんが哀ちゃんに当てて残したものと同じ袋に入っていたもの。通信機や盗聴器の類がないのであれば、哀ちゃんが持つのが妥当でしょう」

「ま、そうだな」

 

そう言えば、ピスコが私に遺した腕時計もイミテーションだったっけな。

なんだ、イミテーションとかおもちゃを遺すのが流行りなのか?

絶対違うと思うけど。

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