郵便物を整理していたら、見慣れない手書きの封筒が届いていた。消印がないので直接投函されたものだろうか。
試しに中身を開封してみたら、季節外れのハロウィンパーティーへの招待状だった。えーと、差し出し名は……。
「ゔぁー、むーす?」
なんだこれ。そして、中身は父さんのことを無能な探偵と称して、要するに挑戦状みたいな内容だった。夕食の席で父さんに報告、その後メールで写真と一緒に招待状について教えたら、後になってメールが入った。
父さんは園子ちゃんと仮装しているのを確認して、念のため自分の部屋に戻ってから電話をかける。
「どうも、コナンくんこんばんは」
『よお。おっちゃんは?』
「事務所の方にいます」
前置きののち、手短に状況を聞く。工藤邸にも同じ封筒と宛名で招待状が届いていたのだという。
季節外れのハロウィンパーティー、幽霊船への招待状が。
『桔梗、その幽霊船に乗るって話したか?』
「いいえ、メールの指示通り断っています。何か引っかかることでも?」
『ああ。ヴァームースは酒の名前だが、英語読なんだ。日本での呼び名はベルモット。灰原も心当たりがあるそうだ』
「成程、例の組織の手引きである可能性が高いのですね」
ふむふむ。コナンくんも本腰を入れて対決に挑むということか。
『つーわけで、桔梗にも頼みたいことがある』
「勿論です、お役に立ってみせましょう。でも一つ確認したいことが」
『なんだ?』
「哀ちゃんはなんと申しているのですか?」
最近の哀ちゃんの様子を見るに、この本格対決に賛成するとは思えない。そう考えて聞いてみたが、返答は眠らせて決行だった。
ち、力技……。
「……あまり、本人の意思を無碍にするものでもないと思いますけどね」
『だったら桔梗がなんとかしてくれよ』
「まあ、メールの一本くらいなら入れておきます。あと、ここから先は直接話したほうがいいと思うので、適当に言い訳つけて阿笠博士の家に向かいますね」
『頼む』
さて、メールになんと書こうかな。
えーっと、確か。バスジャックの時に哀ちゃんがJ氏から言われていた言葉があったから、引用させてもらおう。内容は……
『気張れよ、正念場だ』
…………あの時は混乱で気付いてなかったけど、正念場がバスジャックのことを指しているのだとしたら、伝えるの遅くないか?
まるで、これから正念場が待っているような言い方だったような……。
+++++
「平次くんが工藤新一に化けて工藤新一名義で招待状持って出かけるんですか!?」
「おう!よろしゅうな!」
そのためだけにわざわざ大阪から出向いてきたと……!?
本当にありがとう、工藤新一へのお節介と友情に頭が上がりません。お世話になります。
九十度直角のお礼をしたら大袈裟なやっちゃなあ、とお返事が返ってきた。頼りになりすぎる男だ平次くん。
「でも驚きました。有希子さん帰ってきてたんですね」
「まあね!だから私が腕によりをかけてメイクしちゃったってわけ!」
頼りになる平次くんに頼りになる有希子さんが加わった布陣、コナンくんの本気度が伺える。
テンション高めの有希子さんは置いておく。
計画については盗聴の危険を鑑みて、メールで全て送られている。すでに目も通していたが、私の役割は要するに保険だ。
役に立たないほうがいいが、万一への備えといったところか。
作戦決行日。
阿笠博士の家の外で身を隠すことしばらく。中の様子は盗聴器と犯人追跡メガネの盗聴機能で丸わかりになっている。
そういえば以前、犯人追跡メガネ欲しいなあ……って思ってたことあったな。確か、優作さんと有希子さんが帰ってきて誘拐騒動引き起こした時だったっけ。
その時にポロッとこぼしたことを覚えていてくれたらしく、予備とは別に私用に作っててくれたらしい。
ありがとうございます阿笠博士。
「……っと、来たか」
ジョディ先生の車が玄関の前に停まる。ここまで全て予定調和。
コナンくんが変装した姿である灰原哀が引き付けている間に、トランクに入り込む。無論、誰にも見られてないことは確認済み。
あとはコナンくんに取り付けられた盗聴器越しに状況を確認して、時に応じて臨機応変に対応するだけ。
「臨機応変って、なんだ」
トランクの中で一人ごちる。念のため貰った同じく複製品の時計型麻酔銃を手に考える。それから、持ち込んでいた携帯電話機のメール受信欄を開いた。哀ちゃんからの返信がある。
【正念場だから、戦うことにしたわ】
そうだよね。
自分の意思の介在しない場所で何もかもが進行していたら、それが自分のためだとしたら、動きたくもなるよなあ。
というか狭いなここ。私がもしも閉所恐怖症だったらどうしたんだ。
考えながら、メールを打つ。
「……んー、幽霊船で殺人事件発生してるなこれは」
コナンくんが通信で受けてる内容を又聞きしている状態なので詳しいことが分からない。ただ、推理に関しては工藤新一に服部平次という高校生探偵二大巨頭が揃っているから、必要以上に心配する必要はないだろう。
「人を殺すための道具と殺害方法を完璧に準備して、実行させる、か」
まるで
犯人が高確率で自殺するのも特徴だし。だから迷宮入りしやすいんだよなあ。
「ベルモットとジョディ先生の様子は?」
『一対一で睨み合ってる。FBIを配置してくれている筈だから、このまま取り押さえられる筈だ』
「そうですか」
ジョディ先生はFBI捜査官であったらしいと聞いたときは、驚きと同時に納得したものだ。
ぱちりと、携帯電話機を開いた。哀ちゃんとのメールの送信欄を開く。
【死ぬつもりですか?】
マナーモードにしてあるので、着信音はしない。送信してすぐに、返信が来た。
【逃げたくないだけよ】
【本当に?】
死ぬ気で戦うと、死ぬつもりで戦うは、天地ほどの差があるのはただの女子高校生の私にもなんとなく分かるような。
でも、どういう言葉をかければいいんだろう。哀ちゃんの意思を尊重したいと思いながら、行動は新一くんのものを尊重している。
どっちつかずさに自嘲する。
【正念場の向こうにも、人生はありますよ】
ただ、それだけを送った。
生きるために乗り越えなければならないから、正念場と言うのではないだろうか。
返信を待っていたら、コナンくんの割って入る、という言葉の直後にガシャン!と大きな、ガラスが割れる音がした。多分コナンくんが割って入ったな、と判断する。
計画に修正が入る。私の出番が近いかもしれない。
『江戸川コナン、探偵だ!───おっと動くなよ……アンタの体がライフルの死角になってんだ』
時計型麻酔銃を構えて脅している、というあたりだろうか。少しの変化も見逃さないように、息を潜めて体勢を整える。
『警察までドライブしようぜ!……っ!?』
息を詰める気配、おそらく哀ちゃんが取っているだろう行動。
私だけじゃない、平次くんだって懸念していたことだ。哀ちゃんが自分の意思でここに来ることは。
『に、逃げろ灰原!早くここか、ら……』
『
……まずいな。
判断は一瞬。トランクの天井を蹴り上げて一瞬で躍り出る。その勢いのまま、手にしていた時計型麻酔銃で、金髪の女性……ベルモットに狙いをつけた。
二時間前
「いやいや、ちょっと待って?変装の達人の相手をするのに変装に対して何も対策とってないのおかしいでしょ。ほっぺた引っ張らないの?せめて符牒は?まさか解散しないよな、あーーー!!!」
「うるせえ」