成り代わり娘の原罪   作:サブレ.

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過去一でルビ使った気がします


第四十話:彗星と魔女

ベルモットに腕時計型麻酔銃の狙いを定める。呼吸で照準がブレないように息を吸って、少しだけ吐いて、止める。

そして麻酔針を発射しようとした途端、顔にかなりの衝撃が来た。念のために追跡メガネのレンズを、スコーピオン対策のための防弾ガラス仕様に変えていてよかった。

狙撃されたな、これ。メガネというか顔に当てる気満々だった。

弾丸掠めるし、あぶないな。

 

「あー、もう!」

「やめなさいカルバドス!」

 

腕時計型麻酔銃は狙撃されたので誤射してしまい使い物にならなくなったが、ベルモットの銃口は何故か私でも哀ちゃんでもなく待機しているカルバドスに向いたので、そのまま走って哀ちゃんを庇うように腕の中に抱え込む。

これで、良いはず。

 

「さあ、退きなさい。その茶髪の子から……死にたくなければ早く!」

 

死にたくなければ?おかしな問いかけだ。

ここで退けば、工藤新一の役に立つという私に取って一番大事なことができなくなってしまう。

私が私である意味がなくなる。

存在意義が消え去ってしまう。

それは、死より恐ろしいというのに?

 

「move it,ark!」

 

ark、あーく。

……アーク?

多分私のことだよねアークって。何故ベルモットが私のことをそんな呼び方をして、引き金を引こうとしない?

そして何故にアーク。

 

その呼び名に、一瞬で脳裏を疑問が通り過ぎる。その間にも、背後から何発もの発砲音と英語のやりとりが聞こえてくる。

かつん、こつん、と二つの足音も。

 

「……」

 

まずいな、守り切れるか分からない……と思っていたが、その疑問は不要のものだった。

何故ならば、その二つの足音の持ち主は、二人とも味方であったから。

 

「ホー……あの男、カルバドスって言うのか……ライフルにショットガンに拳銃三丁。どこの武器商人かと思ったぞ」

「それ、よりにもよって赤井秀一(コメット)さんが言いますか?オマケにFBI(ビュロウ)はそこの魔女に好き勝手翻弄されたくせして」

「赤井秀一に、そっちは悪魔(シレーヌ)かしら?」

 

片方はわかる。赤井秀一、何度か邂逅して会話もしたことがあるから。

もう片方、シレーヌが誰か分からない。しかし、哀ちゃんをベルモットから庇っている以上どうにも後ろを振り向く訳にもいかない。

じっとしていたら、ベルモットはコナンくんを盾にするように動いて、車で逃走した。もう一つの近くに停めてあった車のガソリンタンクを撃ち抜いて、使い物にならなくして。

 

「あっつ。哀ちゃん……あ、気絶してますね」

 

火傷しそうになって慌てて車から距離を取った。さっきのドンパチがダメだったのかな。念のため腕の中に抱え込むようにして、ようやく会話をしている大人たちの方向を向いた。

そこにいたのは三人。ジョディ先生、赤井秀一さん、そしてやや小柄なタクシー運転手。全員銃で武装している。

……タクシー運転手?

 

「……は!?」

 

哀ちゃんが単独でここまで来るなら、確かにタクシーくらいしか選択肢がない。私たちの行動を見越して、タクシー運転手として潜伏していたのか、シレーヌと呼ばれた人間が!?

 

「お前がここにいるとはな」

「我々がどの情報網を使ってどう動こうが勝手でしょう。元々ここは我々の領分ですしね」

「いつからここに?」

「私は彼女らと共に来ましたが、それこそあなた方が魔女の手先で踊り包囲網を解散した時には既に。そうですね、赤井秀一(コメット)さんからすれば、“スコッチ”の名前が分かりやすいでしょうかね」

 

タクシー運転手(シレーヌ)がちらりと遠方に視線をやる。あの距離は、狙っているとしても狙撃手の距離だ。

文句を言いたげなジョディ先生がタクシー運転手(シレーヌ)を睨んでいたが、素知らぬ顔だ。耳につけている通信機から何か連絡が入ったのか、少し集中する素振りの後につい、と視線を赤井さんに向ける。

 

「さっき、我々の仲間が自殺寸前のカルバドスを確保したそうです。しばしこちらで預かった後にCIA(カンパニー)を介してFBI(ビュロウ)に移送する、との言伝が。幹部を放置するなら、銃はきちんと全部奪っていただかなければ困ります」

「あの狙撃はカルバドスの銃を弾いたものだったか。慈悲深いことだな」

「そこまで全部見てたなら、手助けくらいしても良かったんじゃないの?」

 

ジョディ先生の問いかけはもっともに思える。しかし、タクシー運転手(シレーヌ)がジョディ先生に向けたのは、凍てつくほどに冷ややかな視線と、慇懃無礼なほどに艶やかな、猫を思わせる笑みだった。

 

 

 

「お戯れを。我々と共闘する“リスク”をFBI(ビュロウ)はよくご存知のはずでは?」

 

 

 

スッと、タクシー運転手(シレーヌ)の視線がこちらを向いた。思わず腕の中の哀ちゃんを守るように抱き込んだ。

普通に、怖い。

しかし、私に向いた視線の中にあったのは陽だまりのような温かい慈愛だった。

 

「それに、私はきちんと一般人たる彼女らを守れるように潜伏していたのですが?」

「ホー……それにしては、あのガキは連れ去られたようだが」

「魔女は名探偵を殺しませんよ。心配なら彼女に聞いてみましょうか」

「は、私!?」

 

なぜ私に聞くんですかタクシー運転手(シレーヌ)さん。三対の目がこちらを向いて、背中に冷や汗が流れた。

 

「勘で構いません。魔女(ベルモット)名探偵(江戸川コナン)を殺すと思いますか」

「お、思いません」

 

つっかえつつ勘で答えると、タクシー運転手(シレーヌ)の手がこちらに伸びた。思わず歯を食いしばるけど、その手は私の頭を軽く撫でて終わる。

 

「と、言う訳です」

「ずいぶん彼女の勘を信頼してるのね?」

「ええ。彼女に収められたものこそがこの世界の(おやくそく)、彼女そのものがこの世界の約櫃(アーク)に他ならない」

「その割には、何もわかっていないようだが?」

「彼女自身はあくまでも(いれもの)ですからね。それでは、警察もそろそろ到着の頃合いのようなので、私はお暇します。口裏合わせはご勝手に」

 

あ、タクシー運転手(シレーヌ)さんがいなくなってしまう。哀ちゃんを抱き込んだまま、思わず声をかけていた。

 

「あ、あの!シレーヌさん!」

 

返事はない。しかし、足が止まった。振り返りはしない。そのまま、背中に向かって言葉を続けた。

 

「あの時、私のメガネを撃ってカルバドスの弾丸が当たらないようにしたの、シレーヌさんですよね!」

「……」

「ありがとう、ございました!」

 

タクシー運転手(シレーヌ)さんは言葉で答える代わりに、かるく手を振って返事をすると、タクシーに偽装した車に乗り込んで、そのまま軽やかに走り出した。

赤井さんも、ジョディ先生に後始末を任せていなくなる。あとには私とジョディ先生、哀ちゃんが残された。

口裏合わせの打ち合わせをして、ぼんやりと壁に体重を預ける。

 

「アーク、かあ……」

 

正直、まっっったく心当たりがなさすぎてどうしようかと思うレベルだ。ベルモットが私を撃たなかった理由もわからないし。

コナンくんもクールガイと呼ばれていた、それはまだいい。

問題は、ベルモットとシレーヌという、多分敵対している二人が、私のことを同じ単語で呼んでいたことだ。

何故に。

分からないことだらけだけど、一つわかったこともある。

 

 

私、なんか厄ネタ持ってるらしい。

 

 

その後、警察に保護されて哀ちゃんと一緒に病院に搬送され、コナンくんも無事を確認した。

ベルモットには逃げられてしまったけれど、どうやら彼自身にも得られたものがあったようだった。




「背後から音もなく忍び寄って人を気絶させるの上手いな……」
「いえい」
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