遠路はるばるやってきたは京都。わざわざ京都から東京にまで依頼が来るなんて、父さんの名前も有名になったものだ。コナンくんも一緒にいることだしなんとかなるだろう。
依頼人はお寺の住職さん。見せてもらった暗号文ならぬ暗号絵を解けば、八年前に盗まれた仏像の在処が分かるらしい。
こりゃまた、父さんが苦手としているタイプの依頼だ。父さんは頭でぐるぐる考えるよりも足で調べる方が得意なタイプであるがため。
「父さん、写真撮りますね」
「あ、ああ」
「友達に送っていいですか?口が硬い人なのは保証します」
「ちょっと待て……」
父さんがお寺のお坊さんから許可をもらってきてくれたので、写真をパシャリと一枚。そのままカチカチとメール文を作成する。
暗号のプロフェッショナルといえばコナンくんより黒羽くんだろう。
『この暗号を解いたら仏像の在処がわかるそうです。解けますか?』
具体的な依頼内容を伏せてメール送信。何も言わなければゲームか遊びにでも思ってくれるだろう。
さて、私は暗号の答えは正直そんなに興味ない。
「園子ちゃん、折角ですし観光しませんか?」
「いいわね!どこ行こうか?」
「明日、和葉ちゃんに案内してもらうことになってるんですよ」
「さすが!」
+++++
翌日。
和葉ちゃんの案内で清水寺にやってきた。高台から眺める桜は絶景の一言に尽きる。ほう、と一息ついた。
「二人とも、京極さんと平次くんがいないのが残念ですか?」
「な、なんで平次がでてくんねん!」
「そういう桔梗だって、萩原さんと一緒だったら……って思ってるくせに」
「なんで萩原さんを出すんですか!平次くん京極さんとは前提が何もかも違うではありませんか!」
「えっなに、桔梗ちゃん好きな人おるん?」
「実はね〜……」
「園子ちゃん!」
恋バナという名の尋問を受けていたら、少しずつ和葉ちゃんの顔が曇っていった。よくよく話を聞いてみたら、ここ京都には平次くんの初恋の人がいるらしい。それが気になっているとのこと。
「大丈夫ですよ!平次くん和葉ちゃん一筋ですので!」
「なんで分かるん?」
「勘です!」
「勘か〜……」
園子ちゃんに若干呆れられるが、でもこの前シレーヌとかいう銃持った人に私の勘を頼られるくらいだから多分、間違ってない。
はず。
「平次くんいい男なんですから、和葉ちゃんが胸張って隣にいないと取られちゃいますよ!」
「せ、せやろか?」
「そうよ!」
この後、休憩のために入った喫茶店でお返しと言わんばかりに萩原さんに惚れた経緯について尋問を受けた。
だから、ただの吊り橋効果だと言っているでしょうが!運命だとか白馬の王子様だとか表現しない!
夜は茶屋に行って、テンションが上がりすぎた父さんを鎮めておく。父さんは調子に乗りやすいから、今はすこしキツめに言っておくくらいで丁度いい。
少し落ち着いたところで外を見ると、鴨川を挟んで桜が見えた。昼に清水寺から見えた桜も凄かったけど、夜桜もまた風情がある。
「キミら、下のベランダ行って夜桜見物してきたらエエ!今晩はじきに雲も晴れて、エエ月が出るそうやで!」
「行こっか!」
「はい!和葉ちゃんも行きましょう!」
三人で連れ立って下のベランダに行く。テーブルに料理を運んでもらい、桜と月を眺めるという贅沢をしながら三人でご飯を食べた。
あっ美味しい。
「桔梗ちゃん、萩原さんって何歳なん?」
「29歳だとお聞きしました」
「そしたら、一回り離れとるんね」
「叶わぬ恋だとは自覚済みです……」
「あんた、そういうところは冷静なのよねえ」
「一度はっきりフラれるまで好きだと伝えたいのですが……バレンタイン、多分、命を助けてくれたお礼と捉えられてる気がするんですよ」
黒羽くんの教えてくれた、受け取り時の態度を聞くに、あえてなのか本心なのかはともかく、“命を救われた高校生がバレンタインを期にお礼に作ってくれたお菓子”として扱っていると思う。J氏改め柴田純さんと一緒に食べたってのも、そういう意思表示だろう。
「でも、好きなんでしょう?」
「好きですね……初恋、ファーストラブです……」
「いい人なん?」
「そうね、面倒見の良い人だとは思うわよ?」
そんな感じで私の先行きのない恋について盛り上がっていたら、女性の甲高い悲鳴が聞こえてきた。女将さんの声だと気付き、じゃあこの悲鳴の原因は?となる。思考が一瞬で切り替わるのを感じながら、すぐさま席を立って父さんの後に続いた。
「桔梗、警察を呼べ!」
「はい!」
持っていた携帯電話機を操作して、少し離れながら警察を呼ぶ。すぐに警察が到着して周囲は騒然となった。
コナンくんと平次くんは何かに気がついたようで、視線を合わせて悪巧み中。
これは、私の出番はなさそうだ。
+++++
旅館に戻ってしばらく、コナンくんと平次くんの二人組が、殺された桜さんが窃盗団源氏蛍のメンバーであることが判明した。ほんと探偵って、どこからこういう事実見つけ出してくるんだ?と思う時がある。
平次くんたちは、既に犯人候補に目星をつけていたので、凶器をどこに捨てたのか、という話題になりつつも、その日は夜遅いこともあり解散した。
風呂を浴びて軽くドライヤー、園子ちゃんと一緒の部屋で寝る前に携帯電話のメール欄を開く。
「あ」
「どうかしたの?」
「いえ、なんでもないです」
黒羽くんからメールの返信が届いていた。殺人事件の発生でバタバタしていたせいで気づくのに遅れてしまった。
メールを開いてメールの件名にまずは目を通す。
『京都』
よくあの文章と絵柄だけで京都だって分かったな。若干戦慄しつつ本文を開く。
『窃盗団源氏蛍首領の遺言の暗号絵なんてよく見つけたな』
いやだから、どこまで知ってんだこの人!?
園子ちゃんにメール画面を見られないようにさりげなく距離を取る。幸い、園子ちゃんは荷物の整理をしていて私のことは特に気にかけていない。
『暗号は解けたけど、直接現地見ないと断言できないから、明日そっち行くぜ。チケット取れたらまたメールする』
………………はい!?
「来るの!?」
「え、何が!?」
「いえなんでもありません、大丈夫です!おやすみなさい!」
訝しむ園子ちゃんを誤魔化しつつ、大急ぎで布団をかぶって就寝体勢に入る。明日和葉ちゃんと園子ちゃん置いて単独行動するための言いくるめを考えておかなければ。
黒羽くんといい平次くんといい、人のために気軽に関東と関西の壁を越えすぎではないだろうか。
お人好しに生かされていることを感じながら、アラームの時間をいつもよりも早めにセットした。
二通目のメールに簡単な到着予定時間と待ち合わせ場所が書いてあるのを確認してから、携帯電話機を枕の下にしまい込んだ。
「とりあえず、会えたら拝むか」
あとお土産予算からお礼の八ツ橋代を控除しておかねば……と考えていたら、いつのまにか意識は夢の中へと旅立っていた。