麻生圭二という男から月影島にご招待されたので遠路はるばる月影島にお出かけである。依頼内容の手紙は新聞紙や雑誌を切り取りしたよくドラマとかで見るようなテンプレートなあれだったので怪しさ半端ない。
船で揺られることしばらく、ようやく月影島に到着したので、まずは村役場へと。そこでわかったことは、麻生圭二は十年以上前に死んだ月影島出身のピアニストであったということ。
とりあえず麻生圭二の友人の村長に話を聞いてみよう、ということで、近くの診療所から出てきた職員に声をかけた。
「すみません、公民館はどちらにありますか?」
「あ、はい……あの角を曲がった突きあたりに……もしかして本土から来た方?」
「はい、そうです。東京から来ました」
この浅井成実さんから話を聞くと、なんでも近々村長選があるらしく、話してる間にも選挙カーが横を通り過ぎていった。この車うるさいよね。
「看護婦さん、別に私達、選挙選に興味は……」
「父さん、この方は看護婦さんではありませんよ」
「そうです!ちゃんと医師免許持ってます!」
確かに、父さんが刑事時代に付き合いのあるような医者とは雰囲気が違うような人ではあるけれど。
その公民館で前村長の3回忌が行われるということで、私たちも向かうことになった。現状そこにしか手掛かりないもんね。
ちなみに公民館では村人による抗議活動が行われていたし、部屋の中でも何か悪い意味でやり取りがある。ドロっドロに人間関係が煮詰められている。
公民館で暇を持て余していたら、コナンくんが勝手に部屋を開けた。暇なのでついて行くと、ピアノが一台、埃だらけで鎮座している。
「掃除は、そんなにしてないみたいですね」
試しに指で触ってみると、そこそこ埃が付着した。公民館の鍵のかかってない部屋に置いてあるくらいだから問題ないだろうと、コナンくんと二人で観察してたら、後ろから触ってはいけないと叫ばれた。じゃあ張り紙くらいしておけばいいのに。
「麻生圭二さんと、前村長さんが弾いていた呪いのピアノ、と」
「別になんともないよこのピアノ……」
「コナンくん大概クソ度胸ですよね」
呪いとかお化けとか信じないタイプ。私は怖がるかどうかは別として、割と信じる方ではあるのだけど。超常現象の有無について激論繰り広げた懐かしき中学時代よ。
呪いのピアノの伝説について説明を受けた後、法事が終わるまでまた待つことに。暇を持て余していたら、突然ピアノの音が鳴り響き始めた。
「……コナンくん!?」
コナンくんが血相変えて走り出したということは、おそらくこれが月光だ。ピアノとか興味なさすぎて月光の曲が頭からすっぽ抜けていた。
先行するコナンくんを追いかけてピアノの部屋に飛び込むと、そこには死体が一つ置いてあった。過去を思い起こさせるシチュエーションに駆けつけた人たちがざわめく。
私は父さんに言われて、駐在所の警察官を呼ぶために走り出した。
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結局、夜遅かったので事情聴取は翌日から。といっても私たちの証言なんて、玄関から怪しい人が出入りしてないくらいのものだけど。
体は凝ってるし疲労はある。今日はなんだかぐっすり眠れそうだと思っていたら、コナンくんがまだ殺人は終わってないと言いだした。
まじかよ。でも人殺しが関係するとなると放っとく訳にもいかない。コナンくんが爆誕する前に行動してた怪盗キッドの予告とは訳が違う。
というわけで公民館に泊まり込むことに。旅館はもう仕方ない。
「コナンくんも泊まります?」
「うん!」
「じゃあ、旅館の人にお願いしておにぎりか何か、夜食もらえるか交渉してきます。先に行っててください」
「殺人犯がまだ捕まってないんだ。十分気をつけるように」
「はーい」
一度別れて旅館に着くのと、成実先生と合流したのはほぼ同時だった。夜食の件を伝えると、成実先生も同じことを考えていたらしい。旅館の人にはあったかい味噌汁と水筒のお茶をもらい、成実先生と一緒におにぎりを作って、公民館に戻った。
「わざわざありがとうございます」
「いえ、こんなことになってしまいましたし……桔梗さんも、せっかく月影島に来てもらったのに」
「別に、父さんの付き添いなので……」
成実さんは優しい人だな。間違いなく。おにぎりを作ってる途中でうっかり火傷した腕も手当してもらったことだし。
「父さんはいいとして、コナンくんには最近振り回されっぱなしな気がします」
「桔梗さんは、頑張ってお姉さんしてると思いますけどね」
「せっかくなら妹にもなってみたかった気がします」
そんな感じで話しながら公民館到着。
当時のことを聞きながら、途中で様子を伺っていた謎の人間を追いかけるイベントも挟みつつ、過ごすこと一晩。無事に本土から警察が到着したので、安心して寝た。
そして、夜。
放送室で二人目が殺され、夜更けに三人目が首を吊っていた。さらにピアノ室で村沢さんが襲撃されるという事態。とりあえずコナンくんと一緒にピアノ室で大人たちが調査に向かうのを見送った。きっと何か謎を解くならこの部屋だろうというのは素人の私でもなんとなく察しがつく。
「さてコナンくん、何かわかりますか」
「さっき、窓を破ってここから逃げた人がピアノの下に手を回していた。何かあるとしたらここ……」
「ふぅん……隠し扉、かあ」
怪しすぎる。からくり屋敷でもあるまいし。さて、こういう場所に物を隠すとしたらなんだろうね。金塊、宝石、もしくは……。
「白い粉?」
「麻薬だ!」
「……羽振りがいいって、そういうこと?」
この村の容疑者の中で何人か、そんな話を聞いた人がいた。コナンくんが走っていったので、見送ってからピアノ室のドアを閉めた。
探偵は何考えてるのかわからん。とりあえず追いかけるか。麻薬のことも警察に伝えないといけないし。
そして村役場にたどり着いたので、近くの警察官に見つけたものを大まかに説明してたらコナンくんがどっか行って、推理ショーが始まった。放送室かあ、父さんは多分寝てるな。
父さんの声を使うコナンくんが、放送越しに淡々と推理を進めて行く。そして、犯人を名指しする。
『───成実先生、あなたしかいないんですよ!』
じゃあ、あの手紙を送ったのも成実さんか。
自分では復讐心を止められない。だけど、殺したくない。
だから、止めてほしい。自分以外の誰かに。
と、いったところだろうか?本人の気持ちなんて本人にしかわからないけれども。
考えながら公民館に走る。けどそこは、とっくに炎に包まれていた。
「……どこ行ったんだろう、コナンくん」
そう思った瞬間、窓からコナンくんがガラスを突き破って投げ出されてきたので慌てて受け止めた。服が所々焼けてたり、煤がついているので、きっと中で本人を説得しようとしていたのだろう。
コナンくんを抱きしめて、建物の中に入らないように抑え込む。人を殺した成実先生が、最後に人を助けたのなら、それを無駄にするのはいけないことな気がした。
「コナンくん。成実先生は優しい人だったけど。それでも、悪魔になれるんですね」
燃え盛る建物から響いてくるピアノの音を聴きながら、ぼんやりと、そんなことを思った。
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麻薬の件やその他取り調べは警察の仕事なので、私たちはひと足先に月影島を後にした。
もう少し成実先生の話を聞いてみたかったなあと思う気がする。
そうだ、私にしては珍しく引っかかっていることがあるんだ。私の隣の名探偵なら分かるはずだから聞いてみよう。
「コナンくん、成実先生が奏でていた最後のピアノの意味、あれってなんだったんでしょう?」
「忘れたよそんなもん……」
「そうですか。では、そういうことにしておきましょう」
コナンくんにも……工藤新一にも、心に秘めておきたい言葉があるというのなら、無遠慮に詮索することはするまい。
私は、真実を探究する探偵でも、事実を突き詰める警察でもないのだから。