「ビッグジュエルショーに探偵役?」
まず、ビッグジュエルショーとは今年から始まった鈴木財閥主催のビッグジュエルを用いたショーのことだ。鈴木財閥がビッグジュエルとそれを守るための防衛設備を用意、怪盗キッドがこれを突破してお宝を盗むというもの。怪盗キッド自体は去年の短い間に活動していた本物の国際指名手配の犯罪者だが、このショーのキッドは普通に怪盗キッド“役”なので鈴木財閥が契約したスタントマンが中に入っているし、ショーの後はカーテンコールにも出てくる。
このビッグジュエルショー、めちゃくちゃ人気でなんなら私も大ファンというやつだ。これに新しく探偵役を出したいらしい。端的にいえばテコ入れというやつか。
「で、これが探偵役候補に送る暗号文!これが解けたら、本番のビッグジュエルショーに探偵役としてご招待ってワケ!」
「はあ、まあ。父さんにも見せてみますけど、父さんどちらかというと現場肌なので、こういう謎解きは不得手気味だと思います」
カードをもらって読んでみると、なるほど確かに暗号文だ。この暗号を解いて、カードが指し示す場所にたどり着いた者に怪盗キッドへの挑戦権が与えられるというものだ。
雨に濡れないように鞄にしまった。園子ちゃんの期待に応えられるかは微妙な所だ。少なくとも、父さんの方は。
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その数日後。
父さん、コナンくん、そして私は鈴木財閥の所有するビルの一室に招かれていた。予想通り、コナンくんはカードの謎を解いて待ち構えていた怪盗キッドに会い見事挑戦権を手に入れたというわけだ。
怪盗キッドと警備隊はガチンコ勝負とはいえ、本質はショー。よって打ち合わせのために事前に足をはこんだ。
大きな会議室に何人かの主要メンバーが集う。私たちも席に座ったところで、まず挨拶から始まった。テレビクルー代表や鈴木財閥からの責任者など裏方と言える人たちが挨拶を終えて、次は表舞台のメンバーだ。
私たちをのぞいて、女性が一人と男性が一人。まず、女性の方が口を開く。かなり小柄で学生と見紛うほどに若く見えるけど、話す姿は堂々としていた。
「では改めまして、私は藤代紫苑です。“チーム怪盗キッド”において
「ねえねえ、怪盗キッドって複数いるの?」
コナンくん鋭くいくなあ。しかし紫苑さんもこの質問は想定内だったようで、コナンくんを向いて落ち着いて答えた。
「正確には主演となるスタントマンと、そのアシスタントの方ですね。打ち合わせ時は名前の頭文字から、スタントマンの方をK氏、アシスタントの方をJ氏とそれぞれ呼称しています」
K氏とJ氏、名前の頭文字としてはそれほど突飛なものでもないアルファベット。これだけでは何を特定もできはしない。コナンくんもそこに突っ込む気はないのか、大人しく引き下がる。次に、男性の方が話し始めた。
「改めて、俺は萩原研二、鈴木財閥の警備隊の代表です。探偵と協力して怪盗キッドを迎え撃ちます。よろしく」
ぱちん、と軽くウインクをした男性は警備隊というだけあってしっかりとした体つきをしている。いくつかの会話を聞くに、元は警察官であるらしい。なるほど、どうりで。
打ち合わせ自体は簡素なもので、当日のスケジュールや大まかな目的のすり合わせなどで終わる。なにせビッグジュエルショーは鈴木財閥とチーム怪盗キッドのガチンコ勝負が売りなのだ。
打ち合わせが最低限でとどまるのも当然と言えた。
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舞台は豪華客船で行われる鈴木財閥主催のパーティの中で行われる。このビッグジュエルショーは色んなところで話題となっているようで、期待に胸を膨らませる声もあちらこちらから上がっていた。
当然、私はコナンくんの足役として参加。コナンくんの隣には警備隊隊長の萩原さんがスタンバイしている。
「君も参加かな?」
「足役として、ですが。よろしくお願いします」
私もビッグジュエルショーの大ファンの一人、怪盗キッドとの対決を間近で見られるなら足役でも戦闘役でもなんでもこなして見せようぞ。ちなみにキッドの変装じゃないか確かめるために頬をムニっと引っ張られた。容赦ないですね萩原さん。
コナンくんの隣に待機しててわかったけど、萩原さんめちゃくちゃ切れ者。コナンくんとぽんぽん話が進む人平次くん以外で初めて見た。
このめちゃくちゃ推理力高い人を相手にして危なげなくビッグジュエル盗めてたキッドチーム凄いなぁ。
あと萩原さん、元警察官の中でも機動隊所属なだけあって身体能力高い。これ私いらなくね?と思わないでもないけど、それを言ったら私がお役御免で最前線から外されるから我慢。キッドが警備隊に変装していた時の符牒や行動パターンも組まれていて、変装への警戒心の強さを感じた。
「───じゃあ、任せたコナンくん」
「よろしくね、萩原さん」
端折りまくったよくわからない会話でも二人の中では通じていたらしい。楽しそうだな。とりあえず萩原さんたち警備隊がキッドの罠にかかったフリをしてキッドを誘導、コナンくんと私が捕まえるというシナリオのようだ。
じゃあ、足役の出番だな。コナンくんを抱えて猛ダッシュする。
「怪盗キッドが今誰に変装しているのか分かります?」
「ああ、萩原さんに乗船者リストを見せてもらったからな!」
テンション高っ。まあ久しぶりに工藤新一のような行動を取れたと思えばそれもそうかと納得してしまう。今まで江戸川コナンとして制約多かったもんね。
そうして追い詰めた先にあるボイラー室。そこに一人の女性が立っていた。警備隊が上手い具合に観客を分断して、ここにしか逃げ込めないように追い込んだらしい。萩原さんの指示だろうか?
そこに立っていたのは一人の女性だった。年齢は私と同じ高校生くらい。他の参加者と同じくドレスアップしている。
見たことあるというか、会ったことあるわ。
具体的には、一年くらいの前に。
コナンくんを盗み見すると、堂々としていたけど、多分中身が別人だって分かってるからだな?
ドヤ顔で推理を披露するコナンくんを、その女性はじっと真剣な目で見ていたが、やがて盗んだビッグジュエルを手にホールドアップした。
「負けだ、名探偵。この宝石は諦める……で、この後は俺を捕まえてみるか?」
「ハッ、そのつもりはねえよ。オメーは稀代のマジシャンかもしれないが、犯罪者じゃねえからな」
「光栄だな。レディ、宝石をお渡ししても?」
「はい、確かに取り戻しました」
このショーは、キッドが宝石を盗んで逃げ出せればキッドの勝ち、宝石を盗まれないもしくは取り返してキッドが逃げたら引き分け、宝石も守ってキッドを捕まえたら探偵の勝ち。コナンくんは引き分けを選んだ。もらってた通信機を使って萩原さんに状況報告。コナンくんに代わって宝石を受け取って、ショーは終了。
これで舞台は終わり、今はカーテンコールまでの幕間の時間。そのためか、女性に扮した怪盗キッドもフランクな雰囲気を漂わせていた。
「その代わりじゃねーけど、その……」
ゴニョゴニョ、と口ごもる姿に吹き出しそうになる。カッコつけてたけど、要するに見逃すから情報くれってことだ。首を傾げる女性もとい怪盗キッドに説明するか。
「彼、あなたが変装してる女性に惚れているので、どういう知り合いか、この女性がどういった方なのか知りたいようです」
「桔梗!?」
あ、怪盗キッドが吹き出しそうになって堪えている。わかる、面白いもん。少しの間笑いを堪えていたキッドは、やがて面白いものを見せてもらったお礼だと、“彼女”について教えてくれた。
「関係性は、マネージャーの妹さんだよ。名前だけ教えるから、具体的なことはそっちに聞いてくれ。俺の一存で話せる内容じゃないからな」
「それもそうですね」
「彼女の名前は藤代蘭。ただ、彼女にも心に想う人がいるらしいからな……がんばれ、名探偵!」
語尾にハートマークが付いてそうな口調でそう言い残し、地面に投げつけた煙幕玉で視界が覆われる。次に見通しが効くようになった時、怪盗キッドが扮した藤代蘭はどこにもいなかった。
「くそッ……心に想う人って誰だぁ!」
「その前に君、小学生ですからね?」
すでに顔を合わせて一目惚れしたと側から見て明らかだった推定同い年の工藤新一はともかく、小学生の江戸川コナンはあしらわれて終わりだろう、と思う。
まあ小さくなったならこれくらいの壁は生まれるだろうし、人が誰を好きになろうと自由だからなあ。がんばれ。
その後カーテンコールの収録を終え出番終了。そしてコナンくんに紫苑さんを探すのに付き合う。紫苑さんは結局、萩原さんと二人で喫煙スペースにいた。二人とも喫煙室で携帯電話を耳元に当てていたが、紫苑さんはコナンくんを見つけると電話を切って出てきた。
「何かありましたか?」
「お電話の邪魔でしたでしょうか」
「留守電を入れただけなので心配せずとも大丈夫ですよ」
コナンくんが藤代蘭さんについて話すと、紫苑さんは上機嫌で大笑いして、次の収録に妹たちを連れてくると約束してくれた。
「良かったですね。藤代紫苑さんの妹なので多分怪盗キッド側応援すると思いますけど」
「くっそ〜!覚えてろキッド!」
キッドに八つ当たりするな。
次の話は14日に投稿します
その後は偶数日に更新予定です