前回のセリフの一部変更あり
誰よりも速く走る
走れなかったあの娘の分まで
アドマイヤベガの走る理由は昔から変わらない。
自分が生まれてくる代わりに犠牲になってしまったあの娘のために走るということ。
それはトレセン学園に来てからも何も変わらない。たとえどんなに速いウマ娘に出会おうとも、どんなに強いウマ娘に出会おうとも。
そう考えながら彼女は真夜中の河川敷を走っていた。なぜこんな時間かというと今日のトレーニングはトレーナから止められてしまってできなかったからだ。トレーナは彼女の体調を考えて休ませたのだが本人からしたら余計なお世話だった。
「ッ…!」
勢いよく走り出すがいつものような走りができてない。
…疲れてなんか、いない。…休んでなんて、いられない。
けれど足の痛みが少しあるので一旦止まって息を整える。
あの娘のためにもこんなところで止まっていられない。
無理をしてでも走りだそうとすると後ろから走ってくる音がしたので振り返ってみると
変な服装をした人がこっちに近づいてきていたのだ。
新手の不審者?と思わしき人は自分の前で止まり、
「君の走りに惚れた!その走りに尽くさせてはくれないか?」
わけが分からないことを言い始めた。
「……ハァ?」
突然のことにアヤベさんは困惑していた。
見ず知らずの人に話しかけられたと思ったら自分に尽くしたいと言い始めたのだ。
どんな神経してるのよ…
一方のいった本人も固まってしまっていた。
一時の衝動で声をかけてしまったがそもそも彼女が何者なのかも知らないので言葉が続かなかったのである。
気まずい無言の時間がしばらく続いた。
この時間を終わらせたのはアヤベさんの一言からだった。
「…誰かも知らない人に尽くしてもらう事なんてありません」
こういう不審者は相手していると面倒なことになる。早いところ話を終わらせて去った方がよいと考え、一方的に話を切る。
「あっ、ちょっと待っ…」
何か言おうとしてしていたがそれを聞く理由などないと言っているかのように走り出すそうとする。
「ッ…!」
しかし先ほどの痛みで走り出せずしゃがみこんでしまった。
「君!大丈夫か!」
急いで駆け寄っていくポンズ
「来ないで!」
「そんなこと言っている場合じゃないだろ!」
軍人のような強い口調で言われ、たじろぐアヤベさん。
「さあ、早くそこに座って」
誘導されるように近くのベンチまで連れていってもらい、ポンズは携帯用メディキットを出して痛めている左足を確認し、
「やっぱり捻挫のようだね、湿布貼っておくよ」
携帯用メディキットから湿布のようなものを出して痛めている左足に手慣れたように貼っていく。
「……手慣れてますね」
「治療関係の訓練はしっかりしているからね、こんなことから蘇生法の知識もあるし実践したこともある」
「どうしたらそんな状況、実践するのよ……」
多少困惑しながらも特に暴れずに応急処置を受けるアヤベさん。その後、左足にしっかり巻き付けられたかポンズが確認し
「よし、できたよ」
「ありがとう…ございます…」
「いいよこれぐらい、それよりも君の走っているところを見て思ったけど随分疲れを溜めてるね?」
「…どうしてそう思ったの…」
「動きにぎこちなさがあったからね、そんな状態だと怪我もするよ」
そう言って立ち上がったポンズは
「こんな時間にその怪我で1人で帰るのは危ないから送っていくよ」
「いや…1人で帰れ…」
無理に立ち上がろうとするアヤベさん。その瞬間、再び左足に痛みを感じて座ってしまう。
「無理をするんじゃない、こういう時は大人を頼りなさい」
そう言いながらアヤベさんをおんぶしようとするポンズ。
「ちょっと!」
「暴れるんじゃない、それとも歩けるようになるまでこんな寒いところにいるつもりか?」
ポンズの言っていることは何も間違っていなかった。こんなところで一夜過ごしてはそれこそ体を壊してしまう。妹に捧げるこの体を駄目にしてしまう。
「…分かったから…」
そう言ってポンズの背中に乗ったアヤベさん。
「乗りにくい…」
「我慢してくれ、こういう装備なんだから」
そう言いつつもしっかりと支えられているポンズ。
「それでどこまで行けばいいんだ?」
「寮までお願い、トレセン学園の」
「トレセン…学園…?」
「…貴方、トレセンを知らないの?」
「いやぁ、実はここら辺は初めて来てところだし君がいったい何者なのかも知らないんだよ」
「…嘘でしょ…」
アヤベさんは衝撃を受けた。トレセンどころか自分のようなウマ娘の存在もよく分からないとこの男は言い始めたのだ。そんな状態のなかでよく話しかけようと思ったのか、アヤベさんは心底不思議に思った。
「まあ、分からないから君が案内してくれ」
やはり不審者かも知れない。アヤベさんはそう思いつつもトレセンまで送ってもらうことにした。
その後、迷いながらも無事にトレセンに着いた二人。
「ここかぁ…」
さすがのポンズも人を一人のせながら歩くのは疲れるので目的地に着いたら一気に肩の力が抜けてきた。少し安堵していると、
「アヤベさん!!」
こっちに走ってくる人影が見えた。
「知り合いか?」
「私のトレーナー…」
少し気まずそうに言うアヤベさん。それもそのはず、トレーナーに無断で練習していたからだ。
「あれほど無茶するなって言っただろう…!今の君は疲れが溜まっているから休む必要があるからって…!」
「…何ともないわよ、これくらい」
「その少しの無茶が体を壊すことだって…」
まだ何か言おうとしたトレーナーを遮るポンズ。
「とりあえず先に彼女を休ませた方がいいだろう」
「いや、そもそも貴方は誰ですか!?」
豪快にツッコムトレーナー。
「自分のことは後にして、早く彼女を休ませましょう」
いろいろ言いたいことはあったがとりあえずポンズの意見に同意したトレーナー。寮の近くまで一緒に送っていくと寮の中から二人出てきた。
一人は黒髪のクールそうな女の子。二人目は白毛の女の子。特に二人目の方はだいぶ心配していたのか勢いよくこっちに走ってきた。
「アヤベさん!!」
勢いよくやって来たカレンチャンは、
「走りに行っていることに気づいてから、カレンすっごく心配してたんですからね!」
と言いながらアヤベさんに抱きついてきた。
「ちょっと…!」
「そうだよポニーちゃん、夜中に抜け出すなんて」
フジキセキは心配そうにしていた。
「…すみません」
「まあ、とにかく早くお休み、先生方には明日は休むと伝えておくから」
そう言ったフジキセキは二人を寮に返した。
「…すまんなフジキセキ、うちの子が迷惑をかけて」
「いいんですよハシトレーナー、とりあえず明日1日は彼女を休ませておきますよ?」
「よろしく頼む!」
頷いたフジキセキは寮の中に戻っていき、
「…さて、それじゃあ話を聞こうか」
ハシと呼ばれているトレーナーと二人きりになったポンズなのであった。
いきなりオリジナルトレーナーを出しましたがこの後も何人か出す予定なのでそこのところはよろしくお願いします。