学園の中にあるトレーナ室
そのうちの一部屋にいるポンズとハシトレーナー
部屋の中を見回すポンズ。周りには様々な資料が落ちていた。その一つを手に取ると"リハビリ診療"という題名の本だった。他のものを見てみても同じ内容の書籍や資料だった。
「散らかっていてすまんな、なかなか整理する時間がなくてな、空いているところに座っていてくれ」
資料を整理しながら言うハシトレーナー。
「いえ、自分はここで大丈夫です!」
そう言ってその場で立ち続けるポンズ。元々生まれながらの兵士なのでそれが習慣になっていたのだ。
「まあまあ、そんなに堅くなるな」
そう言いながら適当なイスをもってきてポンズを流れるように座らせた。さすがのクローンでも数時間、人を背負いながら歩くのは疲れるので座れて少し楽になった。するとトレーナーがポンズの方を向いて
「まずは彼女を介抱してくれてありがとう、君がいてくれなかったらどうなっていたことか…」
深々と頭を下げるハシトレーナー
「ちょ、頭を上げて下さい!」
これほどまで感謝されたことはないポンズはなんと返せばいいのか分からず固まってしまった。
「しかし、"また"ウマ娘に怪我を負わせようとしてしまったなんて…トレーナー失格だ…」
「…あの~、そのウマ娘とは?」
「彼女たちのことだが?まさか君、ウマ娘を知らないのか!?」
「そもそもここがどこなのかもよく分かっていないんです…」
「よくそんな状況で人助けをしたなぁ、君はいったい何者なんだ?」
驚きを隠せないハシトレーナー。ポンズはヘルメットを取ってトレーナーの方を向いて、
「自分は認識番号CC-6454、通称ポンズと呼ばれております、共和国グランドアーミー所属第91偵察コープスのライトニング中隊を指揮するコマンダーであります」
と自分のことを説明した。トレーナーは明らかに呆気に取られていた。
「…つまり、君はクローンということなのか?」
「そういうことになりますね」
さらに頭を抱えてしまうトレーナー。こんなに変なことを言うヤツはなかなかいない。けれど明らかに嘘を言っているようには見えない。
「…君が嘘を言っておるとは思わないがそんな国、この世界には存在しないよ」
思いきって本当の事を伝えてみると意外な返事が
「…何となくそんな気がしてました…」
「気づいていたのか」
「誰だってこんな状況になったら気づきますよ、けど本当の事を言われるとなかなか応えますね、帰るべき場所もないわけですし」
少し疲れたように言うポンズ。するとハシトレーナーから
「じゃあ、行くところがない俺のところでサブトレーナーやらないか?」
「えっ、いきなりですか!?それって大丈夫なんですか!?」
「だって働くところもないんだろ、ちょうどサブが一人欲しかったからどっちにもwinwinだろ」
「いや、しかし自分はウマ娘のことは何も知らなくて免許なども何もないのであって…」
「それは全部俺がなんとかする!」
「えぇ…」
何か言おうとしたポンズの言葉を遮って
「君がアヤベさんを助けた時、君は彼女のことやウマ娘のことを一切知らなかったのにも関わらず足の怪我を見破った、そういう力が今、うちのチームには必要なんだ!頼む!!」
と言って土下座までして頼むトレーナー。こんなことまでされては断りようがないと考えたポンズ。
「…分かりました、こんな自分でも良いのならポンズ、サブトレーナーを拝命します!」
こうしてポンズはハシトレーナーのチームのサブトレーナーになったのである。
「ところで一つ聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「なぜそこまで彼女らのケアを他の人にさせようとするのですか?わざわざ二度手間のようなことをしなくても良いのではないかと思いまして…」
すると突然、黙りきってしまうハシトレーナー。何か不味いことを聞いてしまったと感じ取ったポンズ。
「言いにくいことでしたら無理に話さなくても大丈夫なので…」
「…いや、君にはしっかりこの事を伝えておかなければいけないね…」
そういうと机の上に置いてある一つの写真を手に取ってポンズに渡してきた。そこにはハシトレーナと一人のウマ娘が写っていた。赤色の長い髪で耳には緑色のメンコをつけていて、その表情は嬉しそうに笑っていた…
一方その頃、寮にいるアヤベさんはあまり良い気分ではなかった。同室であるカレンチャンに1日休むように言われて寝ていたのだが昨日は布団乾燥機をかけていなかったのでベッドがふわふわではなくて休もうにも満足に休めていなかったのである。
「はぁ…」
するとドアの方からノックする音が聞こえてきた。失礼しますと言って入ってきたのは同期のナリタトップロードであった。
「すみません、こんな朝早くから、アヤベさんが怪我したと聞いて居ても立っても居られなくて」
そう言って袋を差し出す。中には怪我の治りに良い食べ物や飲料がびっしり入っていた。
「そこまでひどい怪我じゃないんだからここまでしなくても…」
「でも!アヤベさんには早く元気になってもらいたくて!みんな心配してるんですよ!」
するとドアの向こうからまた新しい子が二人ほど入ってきた。
「スズカ…、フェイト…」
一人は同じチームに所属しているサイレンススズカである。後輩だがアヤベさんより先にデビューをしていた。
「ベガ先輩、そこまでひどい怪我じゃなくてよかったです」
「本当にそうですよ!アヤベ先輩!私たちすっごく心配したんですからね!」
そう言っているのは同じチームに所属しているアルタイルフェイト。アヤベさんとは同じタイミングでのデビュー予定である。
「だからアヤベ先輩はもう少し自分の体を大切にしていかないと…」
「それよりあなたたち、時間は大丈夫なの?」
長々と話し出しそうと感じ、別の話題にもっていくアヤベさん。時間はもう8時を過ぎているところだった。
「大変!ポッケちゃんを起こさないと!それでは、アヤベさん!朝早くから押し掛けてしまいすみませんでした、早く元気になるのを楽しみにしていますから!」
そして急いで部屋を出るトップロードとそれに続くフェイト。しかしスズカだけが部屋に残りアヤベさんに話しかける。
「ベガ先輩…頑張りすぎて足を壊さないでくださいね…私のようにならないために...」
「……」
何も言葉をかけられずスズカを見送るアヤベさん。彼女に起こったことを考えると自分の愚かさが身に染みて出てくる。
「はぁ…何やってるのよ…私…」
トレーナーから渡されたタブレットで一つのレースを見ているポンズ。そのレースはサイレンススズカの走った最後のレースである"天皇賞 秋"。彼女の得意な逃げの戦法で先頭を走る。もはや彼女の勝ちは誰もが予想していた展開だった。
それは突然起こった。大ケヤキを過ぎた辺りで失速し始めるスズカ。そのまま競争中止になってしまった。幸い彼女の命は助かったがレースを続けていくことは出来なくなってしまった。
このレースの事を受けてハシトレーナーは特に健康に気を使わせていったということである。そしてその役目をポンズに任せようということである。
「本当に自分で彼女の事を止められるのか?」
責任重大な事を任され、少々お腹が痛くなってくるポンズなのであった。
今回、新しくオリジナルウマ娘を出してみました。
実馬をモデルにしたので受け入れにくい方には申し訳ありません。
次回からようやくレースになると思います。