目が覚める。どうやら、俺はまだ生きているらしい。
俺が彼女との戦いで倒れた野外ではなく、何処かの屋敷に在るような客間には肌触りや寝心地で最高品質だとすぐ分かる布団で寝かされていた。
『起きたか、徳重』
左腕からドライグ殿の声がした。
「ドライグ殿、俺はどれぐらい寝ていた?ここは何処なんだ?」
『そう、一度に尋ねるな。
まず、お前は二日間ずっと寝ていた。そのボロボロの体で禁手を使ったんだ。
《赤龍帝の鎧》の負荷に耐えきれなかったんだ。
次にここはあの女、ぬらりひょんの奴良雅の実家、日の本の妖怪の総元締め奴良組の本家だ』
「そうだったのか……」
『安心しろ。お前が寝ている間に此処の妖怪たちと話してみたがとても良いやつらだった』
俺が二日間も寝ていた事とここが裏の退魔関連では有名なあの奴良組には驚いた。しかし、何故かそれ以上に俺は彼女の名を知れた事が嬉しかった。
そして、暫くすると襖が開き雅殿が入ってきた。雅殿は俺が起きている事に少し驚いていたが直ぐに柔らかな笑みを浮かべ俺の布団の横に座った。
「起きたか」
「お陰さまでな。まずは俺を治療してくれた事を礼をさせてくれ」
俺は頭を下げる。
「別にそれぐらいで謝らなくても良い」
「それでもだ。ところで、一つ聞いて良いか?雅殿、貴女が最後に使った『
「ん?《直死の魔眼》の事か」
『そうだ。まさか、あれは天然物の魔眼なのか?』
ドライグ殿が率直に雅殿に尋ねる。雅殿は苦笑いを浮かべながら俺とドライグ殿に自身の眼の事を教えてくれた。
「その通りだドライグ。万物にはその始まりの時から内包している『いつか来る終わり』が存在している。
そして私の眼は万物の死にやすい場所や死の根源を線と点で見ることが出来る。
線に刃を通せばその部分は死に切断出来るし、点を突けば文字通り回避不可能な死を迎える。
だから、私は生きているなら神様だって殺せる。私の眼はまさに死神の眼なんだ」
その言葉に思わず思考が停止し息が停まる。ドライグ殿も神器の中で驚いているのが伝わってくる。
俺は理解出来なかった。いや、理解することを拒んだのかもしれない。
だが彼女が俺の技を意図も簡単に消し去ったあれを見てしまった以上否定できない。
もしかしたら、雅殿はその力を使って災いを撒き散らしている存在なのかと一瞬疑ってしまうがそれは直ぐに間違いだと知った。
「そうビビるな。私は極力眼は使わない様にしている。この眼を使うのは殺す時と本気を出さないと死ぬと思った時だけ。
それこそ、この眼を死ぬべき下衆な存在以外に使ったのは異世界からやって来て更に異国の王の娘の親友の綾、いやアリシアと各神話形態の神達だけだ。
だから、人の身で私に眼を使わさせたのは誇って良い。それに眼の事を話したのは家族とアリシア以外では徳重お前が初めての存在なんだ」
それを聞いて安心した。が、それ以上に雅殿の声で俺の名を呼ばれるとなんだか嬉しくなる。
そして、やはりまだ体力が回復していないのか再び眠気が俺を襲ってくる。そして、そんな中で雅殿は俺に人生最大の爆弾を放り込んできた。
「ちなみに組員や家族に徳重の事は私の旦那だって言ってるから覚悟しろよ?」
「(まぁ、嫌じゃないし……別に良いかな……)」
そんな、事を薄れ行く意識の中で考えてしまった俺は既に彼女に惚れていたのかもしれない。そして、俺は意識を手放し夢の中にダイブした。
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俺が起きた後は色々と大変だった。何故なら弱い奴に雅はやれんとノリノリな雅の父上や母上、親友の綾殿、白夜叉殿と言った面々と一騎討ちした末に実力を認められた。
その後は奴良組が総力を挙げて俺と雅の結婚を祝ったり、その一年後には俺達の子供が生まれ一児の父になり、親になる喜びを知ったりした。
また、少しでも長く生きれるように雅や鈴音ちゃんに仙術を教わったりしてして毎日を過ごしていく。
だが、俺は既に後が短いただの人間だ。雅や娘の優衣(ゆい)はこれからも長い時の中を生きていくことだろう。だから、俺は雅や優衣の側に出来る限り側に居て優衣や雅に楽しい思い出をたくさん残すために。それが、俺に出来る精一杯の事だから。
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雅と俺の子供である優衣が産まれて十年もの月日が経った。攘夷戦争が終決し新たな時代が幕を開けるそんな時期に遂にこの暖かな生活に終わりが来た。
この頃には体が常にダルく自分でも死期が近付いているのがよく分かった。
そして、今日は何時にも増して倦怠感が激しく、今日が俺の人生最後の日だと悟るには十分だった。
先日ちょうど十回目の誕生日を迎え、俺のお袋と雅に似てどんどんと綺麗になっていく愛娘の優衣と俺には勿体無い位の最愛の妻、雅の三人で縁側に腰掛けている。
ヤバい……気を抜いたら直ぐにでも天に召される……。
「お父様………」
「徳重……お前……」
仙術を使える雅は勿論のこと優衣も俺が死ぬ寸前だと気が付いたか様だ。
そして、優衣は今にも泣きそうな顔で俺に抱き付き、雅は必死に泣くのを我慢しているのか目を赤く充血させながら俺を見守っている。
「雅、俺はお前と出会えて良かったと思う………。優衣、ごめんな……。お前の花嫁姿見てやれなくて……。あぁ………この十一年は本当に楽しかった……人を愛する幸せも親になる喜びも知れた。俺は幸せ者だな。雅、優衣、今までありがとうな。そして………幸せにな………」
俺はそう言い残し二人に微笑みながら静かに目を瞑る。すると、体が異常に軽くなる感覚がして意識が希薄になっていく。
何時しか、俺に抱き付く優衣の柔らかい感触さえも感じなくなる。
「(これが死か…………。それと今までありがとうな……『ドライク』。再び二人に巡り会うのなら二人を頼んだぞ)」
『(あぁ……分かった……。だから、お前は安心して眠れ)』
赤龍帝の籠手が俺から離れてドライクとのリンクが途切れるのを感じる。
そして俺は本当の意味で一人になり何か大きな流れに身を任せて、俺はこの世から消えた。
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side 雅
「お父……様………?」
たった今、徳重が逝った。
その事を考えただけで自然と涙腺から涙が流れ出る。
私はしばらくの間、涙を流しながら呆然としてしまい微動だも動けなかった。
そして優衣は息を引き取った徳重の骸に泣きながらすがり付いているその姿を見て、哀しさで胸が溢れて更に涙が溢れる。
『悲しみ』、この世界に転生して初めて感じるその感情は私の心をキリキリと締め上げて来る。
「死んじゃ嫌だよ………お父様………お父様!!お父様!!!お父様ぁぁぁぁ!!!!」
「徳重………」
「お嬢!?姫!?どう…し………と、徳重………お前………」
その後、優衣の声を聞いた親父の幹部の一人である破戒僧の黒田坊が様子を見に来て無気力に涙を流しながら座り込んでいる私と徳重の亡骸にすがり付き泣いている優衣を見付け、本家は大騒ぎになった。
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side 黒田坊
「お嬢!?姫!?どう…し………と、徳重………お前………」
お嬢の娘で我々奴良組の者は姫と呼ぶ次期総大将の優衣様の悲鳴にも近い叫びを聞き、駆け付けてみるとお嬢の婿である徳重が息を引き取っていた。
お嬢は無気力に座り込んで静かに涙を流し、姫は父親の徳重の亡骸にすがり付きながら泣きわめいていた。
「バカ野郎………なに幸せな顔して逝ってんだよ………」
拙僧は思わず幻影と出会う前の言葉遣いに戻ってしまいながらもあることに気が付く。
徳重の死に顔は何か幸せそうに満足してる表情だった。
そして直ぐ様、人柄も良い徳重が死んだことに多くの徳重を慕っていた奴良組の構成員達が総力を挙げて徳重の葬儀をした。
徳重の葬儀には多くの彼を慕う妖怪や徳重の行き付けの店のオヤジ、更には京の八坂殿や徳重の事を魂がイケメンだとか言って徳重を気に入っていた白面金毛九尾の狐の玉藻の前と言った妖怪勢力の大物が来たりと盛大に執り行われた。
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~三週間後~
side 優衣
お父様が三週間前に死んだ。お母様が言うにはお母様と出会う前に白龍皇との戦いで覇龍を使い寿命を著しく失ったらしい。
そして、ここまで生きれたのは最早奇跡に近いのだとも聞いた。
それでも、私とお母様は泣きに泣いた。それだけ私達二人にとってお父様の存在は余りにも大きかった。
そして今現在、気持ちの整理が付いた私とお母様はお父様が眠るお墓の前で手を合わせていた。
私、奴良優衣は前世の記憶を持つ転生者だ。そして、ハイスクールD×Dの世界に転生した私は主人公、兵藤一誠から見て数代前の赤龍帝の奴良徳重と何処からどう見ても空の境界の両儀式さんに瓜二つな母親の大妖怪ぬらりひょんとスキマ妖怪のハーフと言う混ぜるな危険を素で体現しているぬらりひょんでスキマ妖怪な奴良雅の間に産まれた。
そんな、正史では見たことも無いようなイレギュラー達の間に産まれた私はこの十年を両親や祖父母、お母様の唯一無二の親友の衛宮綾さん、お父様に宿っている未来にはおっぱいドラゴンとして名を轟かせるドライク、そしてお母様の幹部の人達と楽しく過ごしていた。
だけどもお母様、お父様が居て、お祖父ちゃんにお祖母ちゃん、綾さん、鈴音お姉ちゃん、白夜叉伯父さん達が居る日常はお父様が亡くなった事で容易く砕けた。
「(お父様………私は赤龍帝のお父様の娘だと胸をはって行けるようにお母様やお祖父ちゃん、お祖母ちゃん、綾さんの様に強くなります………。だから、私を見守っていてください)」
私はお父様のお墓の前でそう誓う。
この世界には私の家族以外にもまだまだ強い存在がたくさんいる。
そう言った存在達と戦わなければならないことも有るだろう。
だから、私は大切な存在を守る為に強くなりたい。そして、このまま私の知る歴史通りに世界が進んで行くと仮定すると将来赤龍帝と言う名は乳龍帝と呼ばれてしまい、過去の赤龍帝を知らない者から見れば印象はやはり乳龍帝なのだ。
それに絶対に歴代乳龍帝の娘なんて言われたくない。だから私が胸をはって歴代赤龍帝の一人、奴良徳重の娘だって言える位強くならないといけない。
私にはお祖父ちゃんやお祖母ちゃんには無い力が有る。それは転生するときにアミダくじで引いた特典。一つ目がNARUTOの《写倫眼》。
そして、二つ目が大当たりだと言うアニメのキャラの能力、知識、才能、武器と言った物を全て引き継げる特典だった。私が引いたのはとある魔術の禁書目録のキャラのお気に入り、聖人と聖母の体質を両立して有している《二重聖人》の後方のアックアこと《ウィリアム=オルウェル》。
最後に《神崎火織》の容姿。これが、私の人として受け取った特典の3つである。
そして生まれはランダムだった為に私は偶然にも半妖としてこの世界に生を受けた。
そして半妖としての力は私の母から受け継いだ種族特性とも言えるぬらりひょんの祖父の《認識をずらす程度の能力》とスキマ妖怪の祖母の《境界を操る程度の能力》と言う破格の力を授かった。
あれ、これ改めて考えると特典無しでも十二分にチートです……。
妖怪としての私はぬらりひょんとスキマ妖怪に血を受け継ぐ半妖、人間の私は聖人と聖母の《二重聖人》の魔術師にして写倫眼保有者なのだ。
ちなみにちゃんとあのバカデカイあのアスカロンは異空間に収納して持っています。
そして、私はお墓から視線をずらしお母様の顔を真っ直ぐと見据えて私の決心を口にする。
「お母様………私を強くしてください」
前世では一般人で争い事に縁が無かったオタクのOLだった私には力を扱う術も持っていないし戦う術も知らない。これでは子供が抜き身の刃物を闇雲に振り回しているよりも質が悪い。
「…………優衣、何でお前が強くなりたいか私には良く分からん。
私達、妖怪は冥界の悪魔や堕天使、天界の天使共の戦いには無関係だ。だから、私達は戦う必要なんて無いんだ」
「でも、奴等は何時私達を巻き込んで戦争を始めるか分からないじゃないですか……。
家族とも言える存在の奴良組の皆が突然居なくなるかもしれないのが私は恐いんです……。
だから、私はお母様やお祖父様が支えている物を私も一緒に支えたい。奴良組の皆を守っていくためにも」
私はお母様の顔をじっと見詰め続ける。そして、その状態で一分位過ぎた頃にお母様が諦めた表情になった。
「はぁ……分かったよ……。本当は優衣には戦いなんてして欲しく無いけどな。そうだな……取り合えず幻想郷の猛者達に揉まれる所から逝こっか」
「え゛」
そして、私は有無も言われずにお母様に開いたスキマに落とされ幻想郷に幻想入りをした。
スキマが開き、私の視界に入ってきたのは推定約200mから望む手付かずの美しい自然だった。
多分一番デンジャラスな幻想入りかもしれない。
「てっ……落ちるううううううう??!」
私はまだ飛ぶ技術を持っていないので自由落下していく。
そして、地面が目の前に近づいたその時、お母様やお祖母ちゃんのスキマとは違うスキマが私の真下に開く。そして、スキマを通りすぎると私を誰かが受け止めてくれた。
「大丈夫か?全く、雅の奴……要らん手間を増やして……」
「あら?良いじゃない。最近は結界も安定しているし特にやることないし暇潰しにはもってこいよ」
「ですが、紫様」
「ふふふ、あのお堅い雅が私を頼って来たもの。姉貴分としては答えてあげたいのよ」
「紫様、姉貴分は無理があるのでは?」
「五月蝿いわよ、藍」
心当たりが有りすぎる声が聞こえ、顔を上げるとそこには幻想郷の賢者でお母様やお祖母ちゃんと同じスキマ妖怪の八雲紫さんと私を抱えている紫さんの式神、八雲藍さんが居た。
「あれ?紫さんに藍さん」
「久しぶりね、優衣。雅から話は聞いてるわ。《境界を操る程度の能力》の扱いの事は任せなさい。あと、ぬらりひょんの力は幻ちゃんと雅が担当するわ」
「私は取り合えず鍛練の相手になろう。修行が終わった頃にはお前を大妖怪の娘、孫に恥じない猛者にしてやろう」
やばい……。この二人ノリノリだ……。
「お、御手柔らかに……御願いします」
「「無理ね(だな)」」
あははは……。私、生きて帰れるかな?