カス小説オキバ   作:ゲボナポリタン共和国

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ウンチェスト・ウンチ

 

———セット。

 

響き渡る指示に従って、鷹揚に腰を屈める。足は肩幅程度に開き、踵は数センチだけ上げる。前方へ視線を向けると、油汗の浮かんだ深刻な顔をお目に掛けることができる。数刻前に私に侮蔑の言葉を浴びせかけていた、あの余裕ある姿は見る影も無い。

 

「ブレス・ユア・バース」

 

余裕をもってそう伝えると、彼は鋭い感情の籠った目でこちらを睨む。それに私は人差し指を横に振って応えた。

ここは神聖な場。遺恨も、軋轢も、今だけは流されて消えるのだから。

 

『準備のできた者から、開始の合図を示しなさい』

 

指示が反響する。

 

 

 

 

 

西暦2035年。突如新興した国際テロ組織、『No.2』はニューヨーク、ジュネーブ、ウィーン、ナイロビに在る管理事務所を一斉に襲い、瞬く間に国際連合を壊滅させた。

彼らの優れていた点は、情報の掌握にある。彼らの手には、各国の代表者の犯罪の記録から、一発で地球そのものを脅かす兵器の設計図まで握られている。

 

世界は、彼らに屈するほか無かった。

 

 

 

 

 

眼前の男から目を離した私は、一足先に審判へ準備完了の意を示す。両の拳を固く握り、肘は四十五度程にして脇を締める。

カチリと小気味の良い音が鳴り、ランプが緑に発光した。

 

 

 

世界の秩序がリセットされた。『No.2』の定めた正義が真とされ、その他の全てが塵芥と化した。彼らが茶といえば、それは茶色になる。

当然反発する者は絶えない。しかし、その激動の中でたった一厘の者ども。適応者達は、既に新たな世界を掴み始めている。

 

 

 

 

カチリ。やがて、前方からも、覚悟の音が聞こえた。もう一度視線を向けてやると、もう彼の顔は怒りに満ちていなかった。ゴーサインを示すランプの光が、僅かばかり彼の顔に反射している。凛々しい男だと思えた。

直ちに開始の秒読みが始まる。ひとつまみの緊張と、たっぷりの余裕と、溢れんばかりの高揚。もう止まらない。止まれない。

 

 

 

 

 

 

最早、人の価値は富で決まらない。知性でも、職でも、もちろん徳であっても。秩序は生まれ変わったのだ。

 

人間の価値。

 

 

 

 

「ブリブリブリブリュリュリュ!!!!!!!!!!

!!!!!!!!!!!!!!!ブツチチブチチブヒリュイイリュイブイブイブブブブブブッウウウウウ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

それは、『いかにウンチっぽいウンチ』をするか。

それだけだ。

 

 

 

 

 

 

全く同時に排便が終了する。肺に溜め込んでいた空気を一つ出した時、自分もまた緊張の禍に僅かながらも飲み込まれていたことを自覚する。

 

『開示しなさい』

 

機械的な声の通りに立ち上がり、左側へと逸れる。しかしクリーン・アップはまだ先だ。ここでは「決着」が問答無用のプライオリティ。人間として最低限の礼儀である。

 

結果が既に見えているのだから、当然気になるのは作品の出来。しかし私は敢えて、自分のものよりも先に相手の作品に目を向けた。

その意味が分からない彼では無い。

赤く赤く染まった顔で、怒声を必死に抑えている。彼を傍目にそれを見ると、そこには三つの歪な球体。

 

悪くない。それにも関わらず、私の笑みは決して崩れなかった。

結果は見えている。次第に集中がほどけていき、私の耳に周囲の声が聞こえるようになる。それは、どよめきである。

 

バナナ。

 

真円を切り取ったかのような完璧な弧。先の細くなる様子は非常にシンプルだ。完璧。その一言に尽きた。

 

男は崩れ落ちる。同情はしない。それがこの世界のルールだ。

 

「彼のものを1オンス程包んでくれるかい?」

 

そう審判に頼むと、彼はまるで皇帝に話しかけられたかのように、ぶるぶると身体を震わせながら私の言葉に従う。

 

「……ベン=リリース」

 

畏敬を滲ませた声が私の名を呼ぶ。かつてユナイテッド・ステイツと呼ばれたこの地。ここは最早私の国だ。

用は済んだとばかりに会場に背を向ける。その時、私の対戦相手であった男に視線を向ける者は、もう一人として存在していない。

 

 

 

 

 

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