さて、あんなことがあった次の日のことである。
今日もやっと、最後の授業が終わった。早く帰ること風のごとし!
部活?何それ。食べられるの?
教室のドアを開けるとそこには、悪魔がいた。
「やぁ、比企谷。今から部活かい?」
「……ええ、その通りです。」
「そうかそうか。それは良かった。逃げたらどうなるか、わかっているな?」
「わかってますよ。」
しぶしぶ俺は、奉仕部の部室へと向かう。その足取りは当然重い。
「ん?なんだこれ?」
三階から四階へとつながる階段で、俺は黒いバックルを見つけた。拾い上げてみてみるが、表にも裏にも何も書かれていない。真っ黒だ。
よく見てみると、バックルには2枚のカードが挟まれていた。
「SEAL」と書かれたカードと、「CONTRACT」と書かれたカードだ。
トレーディングカードか何かだろうか?まぁいいや。後で紛失物入れに入れといてやろう。
そう思い、ポケットの中にバックルを入れる。
部室に着くと、その鍵は開いていた。
椅子にすわり、一人読書をする。まぁ、こんだけでいいんならさほど生活に支障はないかな。
それは、突然の出来事だった。
「うっっ」
今までに味わったことのないような激しい頭痛に襲われた。
気持ちわりい。なんなんだこれ……。
次の瞬間、俺は自分の目を疑うことになる。
教室の窓から、突如糸が伸びてきて、俺の体に巻きついたのだ。そしてその窓の中には、巨大なクモの化け物が。
「が…はっっ…」
ものすごい力で糸に引っ張られる。
「や、めろ……くそ、ほんとに何なんだよ……」
そして俺は、
鏡の中に入った。
何を言っているんだと思うだろうが、事実なのだから仕方がない。
間違いなく、俺は鏡の中に入ったのだ。
その瞬間、重力が消えた。謎の浮遊感に見舞われる。頭痛はいつの間にか消えていた。
浮遊感が消え、目を開けるとそこは、先ほどと変わらぬもとの奉仕部の部室だった。
いや、変わらないわけではない。そこには、俺を引きずりこんだクモの怪物がいた。
「ひうっっ……」
俺は情けない声をあげてしまう。ふと、自分の手を見ると、それは先ほどまでの自分の物ではなかった。
灰色なのだ。手が、灰色。灰色で、金属質な感じがする。
「ああ?」
これは、夢だ。そうに違いない。いやだって鏡の世界なんて存在するはずがないし、俺の体おかしくなってるし。
すると、クモが巨大な脚で俺に攻撃を仕掛けてきた。
「ガァッ!」
痛い。めちゃくちゃ痛い。たとえ夢だとしても痛いのは嫌だ。俺は逃げようと思い、動こうとしたがその前に蜘蛛が糸を吐き出し、再び俺の体を拘束した。
身動きが取れない俺に、蜘蛛は容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
「ガキィン!」
その足が、俺の体を抉ろうとしたまさにその時。
何者かがその攻撃を止めた。
「驚いたわ。まだ契約していないライダーがいるなんて。」
どこか蝙蝠を連想させるような体の色をした、俺と同様金属で身を覆われたそいつは、俺にそう語りかけた。
「け、契約……?」
「どうやら何も知らずにきてしまっているようね。後ろで隠れてなさい。」
「Sword Vent」
そいつは俺が手にしたのと同じようなバックル(ただ、そいつのそれには中央に蝙蝠型のマークがあった。)からカードを取り出し、持っていた短剣にスキャンさせると、空から細長い槍が降ってきた。
その槍で蜘蛛に攻撃を繰り出す。
なるほど、あれで武器を出すのか。
「Sword Vent」
俺もバックルからカードを取り出し、(いつの間にかカードが一枚増えていた。)左手の機械にスキャンする。
同じように、空から剣が降ってくる。
「よしっっ!」
しっかりと剣を両手で握る。
「ウオオオオオオオッッ!」
「馬鹿、やめなさい!」
俺の振るった剣が、蜘蛛の足を切断する。
……そうはならなかった。無残にも砕け散ったのは俺の剣の方だった。
「ブランク体でモンスターが倒せるわけないでしょう!いいから下がってて!」
「す、すまん……。」
「キン!ガキィン!」
そいつは、蜘蛛と激しい戦いを繰り広げる。すげえ迫力だな。
「これで決めるわ!」
「Final Vent」
すると、どこからともなく蝙蝠が他のモンスターが現れる。
「ま、またモンスター!?」
「ダークウイングッ!」
そいつはそう叫び、高くジャンプする。すると、その体を蝙蝠が覆った。どうやらあいつは味方らしい。
蝙蝠と合体し、ドリルのような形で、敵に向かって急降下する。
「飛翔斬っっ!」
その攻撃は、蜘蛛の銅を貫いた。
大きな爆発を挙げて、蜘蛛が消滅する。
「すげぇ……」
戦いを終えたそいつが、俺の方に向かってくる。
「あなた、いったい何者?どうも巻き込まれただけのようだけど。」
「な、なぁ!これっていったい何なんだよ!教えてくれ!」
「本当に何も知らないのね。まぁ、いいわ。元来た道を戻りなさい。」
「元来た道?」
「鏡からこの世界に入ったでしょう。入ってきた鏡に体を触れれば、もとの世界に戻れるわ。」
「そ、そうか……グオッッ!」
突如空から、炎が降ってきた。見上げると、赤い龍のモンスターが空からこちらを見上げていた。
「無双龍、ドラグレッダー……。」
そいつはつぶやく。
「ハアアァァァッッ!」
叫び、龍のモンスターに向かっていく。
しかし、相手は空中にいるんだぞ?攻撃届くのか?
「Advent」
少女がカードをスキャンすると、再び蝙蝠のモンスターが現れる。
そして、そいつの背中にくっつくと、そのまま空中に飛び上がった。
なるほど、こうやって空中戦をするつもりか。
しばらくは力が拮抗していたが、敵は炎攻撃という遠距離技を持つのに対し、どうもあいつはそれを持たないようだ。
徐々に押されていた。
「グガァァッッ!!」
龍が頭からそいつに突進を仕掛ける。その勢いを殺しきれず、そいつは思い切り地面に叩きつけられる。
「ガァァーーーッ!」
追い打ちをかけるように、龍が空中から炎を吐く。
やばいだろ。このままじゃあいつやられちまうぞ。
俺はとっさにそいつのそばに駆け寄る。
「や、やめなさい。あなたでは何も……。」
いや、一つだけ可能性がある。おれがもっている「Contract」というカード。これは確か、「契約」とかそういう意味だったはずだ。
あいつが蝙蝠のモンスターを味方にしているのを見る限り、このカードを使えば、龍のモンスターを味方にできるかもしれない。
まぁ、この状況ではそれ以外に手はないだろう。
「おい!龍野郎!これを見ろっ!」
「ば、バカ……そんな事をしたら!」
龍が、俺に突進してくる。
くそ、無理だったか……?
しかし、俺が吹き飛ぶことはなかった。
龍のモンスターは、俺がかざしたカードに吸い込まれていった。
カードの絵柄が変わる。
先ほどまで渦が描かれていたそこには、赤き龍の絵が。
「Drug Redder」
「ドラグ……レッダー……。」
突如、俺の体に変化が起きる。
さっきまで灰色だったその体は、深紅の色に染まる。
力が、みなぎる。最後に、真っ黒だったバックルに、龍の紋章が浮かび上がった。
「仮面ライダー……龍騎……。」
そいつは静かに、つぶやいた。
「龍騎、ライダーになったからには、あなたは私の敵よ!」
そいつはいきなり、俺に攻撃を仕掛けてきた。
「な、何だ!何のつもりだ!」
「ライダーは、共存できないっ!」
「なに言ってやがる!」
「冥土の土産に聞きなさい。私は……仮面ライダー、ナイトっ!」
そいつ、いや、ナイトは、鋭敏な動きで槍を突き出す。
「くっそっ!とち狂いやがって!」
俺はバックルのカードを探る。契約したことで、そのカードは増えていた。
「何かないか……これだ!」
「Guard Vent」
龍の腕を模した楯2つを手に持ち、攻撃をしのぐ。
しかし、守るだけではジリ貧だ。
「この野郎、いい加減にしろっ!」
「Strike Vent」
龍の頭を模した武器を、左腕に装着する。
「くらえッッ!」
それを突き出すと、勢いよく炎が噴き出した。
「グウウッッ!」
敵がのけぞる。
ったく、こっちには戦う気なんかないっつーの!
「ちょっとだけ時間を稼いでくれよ、相棒。」
「Advent」
契約した龍が、敵に襲いかかる。
その隙に、俺は窓と俺の間にいたナイトを通り過ぎる。
「あばよっっ!」
入ってきた奉仕部の窓に飛び込み、俺は元の世界に戻った。
謎の世界から帰還した俺。夢オチかな?
そうだといいなぁ。
龍の紋章が浮かび上がったバックルを眺める。
「ガララッ」
そこに、雪ノ下雪乃が入ってきた。
「よお。」
「こんにちは、もう来ないと思った……え?」
「ん?どうした?」
「あなた、それ……」
「ああ、これか。俺もよくわかんねぇんだけどよ。」
「そう、ふふ。奇妙な縁もあったものね。」
「あ?何言って……」
雪ノ下はそう言って、ポケットに手を突っ込む。
「本当に、奇遇よね。」
彼女が手にしたのは、俺と同じようなバックル。そしてその中央に描かれているのは、蝙蝠のエンブレム。
「お前……。」
「そう、私は仮面ライダーナイトよ。比企谷君。いいえ、仮面ライダー龍騎。」
「お前!さっきは何なんだよ!いきなり襲ってきやがって!」
「当然でしょう?ライダーは共存できないって、言ったじゃない。」
「それが訳わかんねぇッつってんだ。何だよライダーって!」
「……そうね、別に教えてあげる義理はないけれど、何もわかっていない相手を攻撃するというのも卑怯かもしれない。いいわ、教えてあげる。」
「私も細かいところまでは知らないけどね。このバックルを手にして、モンスターと契約したものは、仮面ライダーと呼ばれる存在になる。そしてライダーは、モンスターや他のライダーと戦うのよ。」
「モンスターと戦うってのは、なんとなくわかる。だが、なんで同じ人間であるライダー同士が戦うんだよ。」
「最後に生き残ったライダーは、なんでも願いをかなえることができるのよ。」
「は、はぁ?なんでも願いがかなうって、お前それ本気で言ってんのか?」
「そうね、確かに普通ならあり得ないし、信じる方がおかしいんでしょう。でも、それでも、それにすがるしかない。そんな者がライダーになるの。どうしてもかなえたい願いがある者だけが。」
そうつぶやく雪ノ下の表情は真剣そのもので、とても茶化すことなどできなかった。
「仮面ライダーって、もっと単純な話だと思っていたんだがな。怪人を倒すとか、世界を救うとか。」
俺は毎週日曜日スーパーヒーロータイムを見ているが、そんなどろどろした仮面ライダー見たことない。クウガ、アギト、ファイズ、ブレイド、響鬼、カブト、電王、キバ、フォーゼ、ダブル、ディケイド、ウィザード、鎧武……そんな重い話はなかったはずだ。
「さぁね、これを作った人の皮肉なんじゃないの?」
「そんなもんかね……。」
「まぁ、そんなこと私の知ったことじゃないわ。というわけで、ライダー同士が戦う理由はわかったかしら?それじゃぁ、戦いましょう。」
「ま、待てって!それで、負けたライダーはどうなるんだ?」
「死ぬのよ。」
いとも簡単に、彼女はそういってのけた。
「戦いに負けたら死ぬ。戦うことから逃げて、モンスターにえさを与えられなくなったら、契約モンスターに食い殺される。」
「えさ?」
「倒したモンスターやライダーのエネルギーが、契約モンスターの力になる。エネルギーを与えれば与えるほど、モンスターの力は強くなり、それに比例してライダーも強くなる。さぁ、もういいかしら?」
「だから待てって!俺は戦う気なんてない!」
「あなたになくても私にはあるのよ。それに昨日言ってたじゃない?勝負に勝ったら私には死んでもらうって。そんなことを言っていいのは、死ぬ覚悟のある人間だけよ。」
「あれは……それとこれとは話が……ウオッ!」
鏡の世界から、蝙蝠のモンスターが飛来し、俺を襲った。幸い回避できたが、一瞬でも遅れたら危なかった。
「なんのつもりだ?」
「わかっているでしょう?戦わないというなら、私はこうしてあなたを襲わせるわよ?」
「言ってもわかんねぇ奴だな。なら、一発ぶん殴って無理矢理にでも言うことを聞かせてやる。」
「その言葉を待っていたわ。」
俺達二人は鏡の前に立つ。
雪ノ下が、バックルを前にかざす、すると、鏡の中からベルトが出現し、彼女の腰に巻きつく。
「ミラーワールドに行く時はこするの。まぁ、あなたは今日で行くのが最後でしょうけどね。」
「変身!」
バックルをベルトに入れると、彼女の姿は雪ノ下雪乃から、仮面ライダーナイトへと変わった。
「まっているわ。」
そう言い残して、彼女は鏡の中に入って行った。
「くそ!やるしかないのか!」
バックれたいが、あんな化け物にしょっちゅう襲われてはやってられない。それに、家で襲われたら家族にも危険が及ぶ。
小町への危害は絶対に許さない。
雪ノ下がしたように、俺もバックルをかざす。
「変身!」
俺は再び、謎の世界へと入って行った。
「来たのね。しっぽを巻いて逃げると思っていたのに。
「あんなふうに脅されちゃあかなわんだろうが。こんなバカなこと、俺が止めてやる。」
「戦いを止めるために戦うライダー、ね。馬鹿なのかしら。」
「馬鹿はそっちだろうが。テメェにどんな願いがあろうと、絶対止めてやるからな。こんなこと、認めてたまるか。」
「なら、あなたは勝っても私を殺さないのかしら?」
「悪いかよ。」
「ふん、お人よしね。そんなことを言ったら私が手加減するとでも思っているのかしら?だとすれば甘すぎると言わざるを得ないわね。」
「別にんなこと思ってねぇよ。お前には昨日会ったばかりだが、そんなことをする奴じゃないということくらいはわかる。」
「そう、それはよかったわ。なら、そろそろ始めましょうか。」
「Sword Vent」
ナイトが再び槍を手にする。
「Sword Vent」
こちらも剣を手にする。先ほどのよわっちい武器ではなく、龍のしっぽを模した立派な剣だ。
「行くぞ!」
先に動いたのは俺だった。
「Nasky Vent」
ナイトが新たなカードをスキャンすると、契約モンスターである蝙蝠が飛来する。
「キィィィィィィィィィンッッ!」
とてつもなく高い音が、俺の耳を襲う。
平衡感覚を失う。何だ、これ……。
「ガキィ!ガキィ!ガキィン!」
まともに動けない俺を、ナイトが何度も槍で痛めつける。
剣で応戦しようとしたが、どうやらいつの間にか放してしまったようだ。
「ウアアッッ!」
最後に思い切り振りあげた彼女の攻撃で、俺は勢いよく吹き飛んだ。
「くそ……。」
「Strike Vent」
先ほど彼女を撃退した龍の頭型の火器を呼び出す。
「くらえええっっ!」
しかし彼女はジャンプして、軽々とそれをよける。
「Advent」
蝙蝠が再び現れ、彼女の背中に装着される。
そして、彼女は空高く跳びあがる。
くそ、空中戦?そんなのできね……いや、そうでもないか。
「Advent]
「ガアアアアアアァァァッッ!!」
けたたましい咆哮をあげ、ドラグレッダーが現れる。
その背中に乗り、俺も空中へと舞い上がる。
「頼むぞ!ドラグレッダー!」
龍のはきだす炎と、俺の左手から出す炎で、ナイトに遠距離攻撃を仕掛ける。
「そっちに遠距離武器がないのはわかってんだよ!」
彼女はさっきから、回避行動しかとれていない。
「蝙蝠が龍に勝てると思うなッ!」
「そっちこそ、あなたごときが私に勝てると思わないことね!」
「Final-Vent」
やべぇ、さっき見たあいつの必殺技だ。
ドリル状になって急降下する超威力の技だ。あんなもんくらってたまるかよ!
どうする?もうあいつは攻撃態勢に入っている。
俺はカードを取り出し、眺める。
これだっ!
龍のエンブレムが描かれた、他のカードとは少し使用が違うカード。
俺はそのカードを急いでスキャンした。
「Final-Vent」
そのカードをスキャンすると、俺は自然と高くジャンプした。
そのまま、キックの体制をとる。そんな俺の後ろから、ドラグレッダーが勢いよく炎を吐く。その炎が俺にあたったが、不思議と何の痛みも感じない。
「飛翔斬っ!」
「ドラゴンライダーキックっ!」
即座に命名したはいいが、何ともダサい。
俺とナイトが激突し、大きな爆発が起きる。
「グアアアアァァッッ!」
「うううううっっ!」
俺達二人は、無様に地上を転がる。
何とか立ち上がるが、完全に肩で呼吸している状態だ。
「はぁ……はぁ……まだ、やるつもりかよ。」
「そうしてもいいんだけどね。まぁ、いいわ。今日はこのあたりにしておきましょう。」
「へっ、そりゃよかった。」
俺とナイト、雪乃は元の奉仕部部室へと戻った。
「はぁぁぁ……酷い目にあったぜ。」
「ライダーになった以上、それは宿命ね。」
「けっ、戦いを仕掛けてきたお前のせいだろうが。」
「勝手に契約したあなたが悪いわ。」
さっきまで命がけの戦いをしたというのに、彼女の態度は昨日と寸分たがわない。
何というか、きもの座った女である。
そういう俺も、あんな戦いをしたというのに、彼女に対して悪感情は抱いていなかった。むしろ昨日よりも好感を持っているとさえいえる。
本気で戦ったら友情が芽生えるというあれだろうか。
なら、なら、俺と彼女は。
「なぁ、雪ノ下。俺と友達に」
「ごめんなさい。それは無理。」
「えー、まだ最後まで言ってないのに。」
この野郎、断固否定してきやがった。こいつ、全然可愛くねェな。
やはり、俺の青春ラブコメはまちがっている。