荒野のコトブキ飛行隊 〜隼Ⅱ型の用心棒〜   作:庵間亜狐也

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第八話 トルム貿易の真実

 キリエは機体を繰り返し傾けながら、地表を見つめてエンマを探す。

 

「あ、いた」

 

 ちょうど開けたところに、エンマの隼が鎮座している。

 その横にエンマと思しき人影がこちらに向かって手を振っているのが小さく見えた。

 

 気付いていることを知らせるために、軽く機体を左右に振ってから高度を落とす。

 

 フラップと車輪を出して着陸。

 

 風防を開けてエンマに駆け寄る。

 

「エンマ、大丈夫!?」

「ええ」

 

 見たところ目立った怪我はなさそうだが、明らかにエンマの顔色は悪かった。

 

 エンマの隼は、傍目から見ても酷いありさまだった。二〇ミリ機銃をまともに食らったのだろう。翼や胴体には大きな穴がいくつも空いている。

 あれは修理できるのかな、とキリエは少し心配になる。

 

「こりゃ酷いやられ方したね」

「そうですわね。油断しましたわ」

 

 あれ、とキリエは内心首を傾げる。

 

 エンマの空賊嫌いはキリエもよく知るところである。

 落とされようものなら口から罵詈雑言が機関銃よろしく飛び出してくると思ったが。

 

 今のエンマは、妙に口数が少ない。

 落とされたのがそんなにショックだったのか、もしくは墜落の衝撃で頭を打ったか。

 

「ほら、乗って。羽衣に戻るよ」

「そうね」

 

 エンマはキリエの隼に向かって歩き出す。

 

 キリエはまたも首を傾げる。

 普段なら「くれぐれも揺らさないでくださいな。キリエの操縦は危なっかしいったらありませんもの」くらいの軽口は叩くだろうに。

 

 黙って機体後部に入っていくエンマは、ちょっと不気味だった。

 

 操縦席に乗り込んだキリエは早速スロットルを全開にして、隼を発進させた。

 

 加速した隼は地表からふわりと浮き上がる。

 

「本日はご搭乗、ありがとうございまーす。操縦手はコトブキ飛行隊所属一流パイロット、キリエが務めまーす」

「ええ、お願いしますわね」

「…………」

 

 ——調子狂うなぁ、もう。

 

 珍しい幼馴染の姿に、ただ困惑するしかないキリエだった。

 

 羽衣丸への道中、エンマはほとんど喋らなかった。キリエが話しかけても、何を考えているのやら、生返事しか返ってこない。

 

 ちょっとばかりバレルロールやら宙返りやら織り交ぜてやろうかとも思ったが、一応は怪我人なので、キリエもさすがに自重した。

 

 羽衣丸の格納庫入口が近付いてくる。

 

「こちらキリエ。到着まもなくー、エンマも無事でーす」

 

 無線に呼びかけると、ナツオの声が返ってきた。

 

「よし、そのまま入ってこい。気ぃ抜いてどっかに引っ掛けたりすんなよ」

「はーい」

 

 キリエは、無事に羽衣丸へと帰投した。

 

 車輪を軋ませながら、キリエの隼は無事甲板で静止する。

 整備班と、コトブキ飛行隊がわらわらと駆け寄ってくるのが見えた。

 

「あー……疲れたー……」

 

 背もたれに体を預けて、だらりと全身の力を抜く。

 硬い操縦席の椅子の上でもふかふかのベッドよろしく熟睡できる気がした。少なくとも今のキリエはそのくらい疲れている。

 

 整備の邪魔だとナツオにどやされるまではこうしていようかとキリエが目を閉じ……。

 

 機体後部から聞こえたけたたましい音に、びくりと体が跳ねた。

 

 後方確認用の鏡に、エンマが飛び降りるところが映った。

 

「こらぁ、もっと丁寧に扱えー」

 

 風防を開け、一応文句を言っておくが、キリエの声に覇気はない。

 

 コトブキ飛行隊の仲間たちは皆キリエとエンマの帰還を待っていてくれたらしい。 

 こちらへ歩いてくる仲間たちは、揃って安堵の表情を浮かべている。甲板の隅にはアキトの姿もあった。

 ようやく、帰って来れたという実感が湧いてきた。

 

「ふぅ、これで一件落着っと。……お?」

 

 エンマの様子がおかしい。

 大股でずかずかと甲板を横切り、口々に無事を喜ぶみんなに応じることもせず、アキトの方へ一直線に歩いていく。

 

 何か、嫌な予感がする。

 

 そして、こういう時のキリエの予感はよく当たるのだ。

 

 ◆◆◆

 

 エンマは上手く纏まらない思考を持て余していた。

 

 頭の中をぐるぐる渦巻くのは零戦の残骸に刻まれていた、トルム貿易護衛飛行隊に所属することを示すあのマーク。

 

 キリエの隼に揺られている最中も、エンマはずっとそのことを考えていた。もっといえば、想定しうる最悪の可能性。

 

 つまり、今回の襲撃はアキトが手引きしたものであるという可能性だ。

 

 そんなはずはないと自分に言い聞かせようとしても、考えれば考えるほど、アキトが敵と内通していたという説がしっくり来てしまう。

 

 偶然にしては出来すぎている所属マークの一致。異様に練度の高い空賊。最も致命的なタイミングで現れた九機の増援。エンマが撃墜された時も真横にいたのに攻撃一つされなかったアキト。

 

 これら小さな疑問は、全てアキトが内通者であれば説明がついてしまう。

 

 アキトの目の前で仁王立ちしたエンマは、アキトを真正面からほとんど睨むように見つめた。

 

「エンマ、どうした……? アキトに何か用があったのか?」

 

 後ろから困惑したレオナの声が聞こえる。

 しかし振り向く余裕は今のエンマにはない。

 

「どうかしましたか、エンマ?」

「私たちに何か言うべきことがあるのではなくて?」

 

 アキトは目を伏せた。

 

「すみません。俺がもっと周囲を警戒していれば、エンマが落とされることはなかったかもしれません」

 

 しらばっくれているのか。それとも本当に何も知らないのか。

 アキトの表情からは何も読めない。

 

 レオナの手がエンマの肩にそっと置かれた。

 

「エンマ、落とされて頭に来ているのは分かるが、アキトを責めるのは——」

「違いますわ、レオナ。そんなことは問題ではありません」

「じゃあ、どうしたんだ?」

 

 エンマは深呼吸を一つした。

 振り向くと、レオナを筆頭に、コトブキ飛行隊の面々が不安げにこちらを見つめてくる。

 

「落ちていた零戦の残骸に、トルム貿易護衛飛行隊のマークがつけられているのを見ました。これがどういうことかご存知なのではなくて?」

 

 周りにいた仲間たちからどよめきが上がる。

 

 アキトの顔から表情が抜け落ちた。

 図星を突かれて焦っているようにも、疑いをかけられ憤っているようにも見える。

 

「エンマ、それは本当なのか」

 

 明らかにレオナの声が動揺している。

 

「はい。私のそばに墜落した零戦の塗料が炎で融けて、そこから。おそらく急ごしらえで白く塗っていたのでしょう」

「ちょちょちょ、待ってよエンマ!」

 

 駆け寄ってきたキリエがエンマの手首を掴んだ。

 

「じゃあ、今回の襲撃はアキトが手引きしてたって言うの?」

「可能性はゼロではありませんわ」

「本気で、言ってるの?」

「…………」

 

 エンマはキリエの目を真っ直ぐ見れない。

 

 ザラがアキトの方を見た。

 

「エンマが撃墜された時、横にいたアキトに攻撃せず、零戦は真っ直ぐ私に向かってきた。定石ならまずはアキトを狙うはず……っていうのは私の考えすぎかしら」

 

「でもさ、アキトは一人で零戦の大群に向かっていったじゃん。裏切り者だったらそんなことするかな」

 

 チカが不安そうな顔でエンマを見てくる。

 

「アキトと二人で零戦を相手にしていた時、ケイトを落とす絶好のチャンスだったはず。それをしなかったことから、アキトが空賊と裏で手を組んでいたとは考えにくい」

 

 もっともな指摘を口にするケイト。

 

 レオナはアキトの顔を覗き込む。

 

「どうなんだ、アキト」

 

 アキトの口は固く閉ざされたまま。

 

 レオナは腕組みをして続けた。

 

「お前が空賊と内通していたとは考えにくい。だが、エンマが嘘を言っているとも思えない。トルム貿易についてお前が話していないところがあるのは、みんな薄々察しているだろう。そしてそれを話したがっていないことも」

 

 アキトの体がわずかに震えた。

 

「だが、話してくれないか。今回の件、トルム貿易と無関係とは思えない。それに共に戦う仲間に疑心暗鬼を持ったままでは、仕事に支障が出る。コトブキ飛行隊の隊長として、ここだけは譲れない」

 

 アキトは観念したように、深くため息をついた。

 

「本当は話したくありませんでした。ですが、話さなければならないでしょう。それに事態は俺の想像よりも深刻らしい。もしかしたら皆さんの力を貸していただくことになるかもしれません」

 

 レオナがアキトの肩を叩く。

 

「同僚のよしみだ。マダムの許す限りなら協力は惜しまないさ」

 

 アキトはこくりと頷いた。

 

「まず、誓って俺は空賊とグルだったことはありません。ただ、今回の襲撃はおそらくトルム貿易と関係がある。マダムも呼んでください。知っていることを全部話します」

 

 ◆◆◆

 

 アキトたちはレオナを先頭にルゥルゥの先日を訪れた。

 一行をマダムは労いの言葉と共に出迎えた。

 

「みんなよくやってくれたわ。おかげで積荷は無事よ。報酬は弾ませてもらうわね」

 

 キリエとチカが顔を見合わせガッツポーズを取った。

 

「それで、みんな揃ってどうしたのかしら?」

「お伝えしなければならないことがあります」

 

 レオナが言うと、ルゥルゥはそれほど意外にも思っていなさそうな顔で先を促した。

 エンマが一歩前に進み出て、敵の零戦がトルム貿易護衛飛行隊の所属機であったことを話し始める。

 

 エンマの話が終わると、ルゥルゥは煙管を吹かしてアキトを見た。

 

「空賊と裏で繋がっていた裏切り者を連行してきた、ってわけじゃなさそうね」

 

 アキトは頷いた。

 

「今回の襲撃と俺は一切関係ないことを誓います。ただ、トルム貿易とは関係がある可能性があります」

「長くなりそうね。疲れてるでしょう、みんな座って頂戴」

 

 ルゥルゥはいつも通りの穏やかな表情を浮かべている。

 アキトがこれから話そうとしている事も察しがついているのかもしれない。

 

 全員が手近な椅子に腰掛けてから、アキトは口を開いた。

 

「俺がいたトルム貿易は、ルーデという町ひとつの輸送業界をほとんど一社で牛耳っていました。もう十年近くその調子でした。

 昔はルーデもいくつかの商会が運送業に従事していましたが、トルム貿易という会社は設立してからわずか一、二年でルーデの運送業界を掌握しました」

 

 キリエが目を丸くする。

 

「すごいね。社長が優秀だったのかな、ウチみたいに」

「おだてても報酬の上乗せはしないわよ?」

「ダメかぁ〜」

 

 ひとしきり笑いが収まってからアキトは続ける。

 

「ルーデはイジツの中でも水資源が豊富な町です。農作物や木材が財源となっています。今回の荷物もルーデから木材や食料品が多く積まれていると聞きました」

 

 マダムは頷く。

 

「ルーデからいくつかの商会を経由してね。途中で積み下ろしもあったけど、概ねルーデから来た積荷よ」

「ルーデは財政に余裕がある町です。表向きは農作物や木材の輸出によってね」

 

 アキトの言葉にレオナが反応する。

 

「『表向き』というのは?」

「はい。裏ではもう一つ、大きな財源となっている生産物があります。"カタクリコ"って聞いたことありますか?」

 

 レオナとザラ、ルゥルゥの表情が強張った。

 対してエンマやチカ、キリエは首を傾げる。

 

「カタクリコ? 揚げ物に使う、あの片栗粉ですの?」

「唐揚げ美味しいもんねー」

「でも片栗粉ってそんなに高く売れるのかな」

 

 ザラとルゥルゥが吹き出し、レオナはため息をつく。

 

「お前たちなぁ……」

 

 呆れるレオナをザラがなだめる。

 

「まあまあ、この子たちに馴染みがないだけ良かったじゃない」

「まぁ、それはそうだが……」

 

 訝しむ三人に、ケイトが説明する。

 

「アキトが言った『カタクリコ』は隠語。一部の薬品をそう呼ぶことがある。由来は見た目が片栗粉にそっくりだから。

 摂取すると脳から快楽物質が過剰分泌され、一時的に気分が高揚する。副作用としては極度の依存性、幻覚、幻聴などが挙げられる」

 

 頬を引きつらせて、恐る恐るキリエが尋ねる。

 

「それって、ヤバいお薬ってこと……?」

「当然。イジツの大半の町では違法。所持しているだけで極刑になる町もある」

 

 キョッケイって? とチカが聞くと、隣に座っているエンマが首をかき切るジェスチャーをした。チカが震え上がり、首筋をなでる。

 

 ルゥルゥが結論をまとめた。

 

「じゃあ、ルーデは違法薬物によって財源を確保してたってことね」

「はい。イジツで流通しているカタクリコの多くはルーデ産のものでしょう」

「じゃあ、それを輸送していたのは——」

 

 アキトは絞り出すような声で言った。

 

「……トルム貿易です」

「知っててやってらしたの?」

 

 エンマの声が少し冷たい。

 

「いいえ。俺たち護衛にそのことは一切知らされていませんでした。社内でも知っていたのは重役だけだったのでしょう。俺ら用心棒には噂すら伝わってませんでしたから」

 

 トルム貿易はフリーランスの用心棒は雇わずに、専属の飛行隊だけで輸送をこなしていた。今思えば外部にこのことが漏れないようにしていたのだろう。

 

 キリエが手を挙げた。

 

「はいはい質問。ルーデじゃカタクリコは違法じゃなかったの?」

「当然、違法でした。ですが摘発される量よりも市場に出回る量が圧倒的に多かった。自警団が敵発したものも、恐らく市場に流れていたのでしょう」

「摘発した薬物を集めてまた売って……町全体が自作自演をやってたってことね」

 

 ザラが呆れたようにため息をついた。

 

「やっていたのは議会や町の重役たちだろうな。止めようとする奴はいなかったのか?」

 

 アキトは首を横に振る。

 

「形式的な法案を出すばかりでした。昔は本格的に動こうとした議員もいたようですが、いつのまにか顔も見なくなりました」

 

 ルーデの歪んだ財政事情に、部屋にいる誰もが閉口していた。

 

 アキトが続ける。

 

「ルーデは財政に余裕がありながら、孤児が多かった。町の外れには孤児だけが集まったスラムもあったくらいで。……原因は言わずとも察しがつくでしょう」

 

 ルーデの孤児たちの経歴を辿れば、大半にどこかで薬物が絡んでいる。

 

「俺も孤児院の出身です。トルム貿易護衛飛行隊にいた人間の多くも孤児院やスラム街からやってきた人たちでした。……皮肉なもんです。薬物のせいで家族を失った人間が、命懸けでその薬物を運んでたんですから」

 

 重い沈黙が降りる。

 

「ルーデの財政状況は把握したわ。オウニ商会としてはルーデの絡んだ交易は慎重にならないといけないわね。それで、それがトルム貿易倒産と今回の襲撃にどう関係してくるの?」

 

 アキトは少しだけ口を開くのを躊躇した。ここからが本題なのだが、同時にアキトが一番話したくないところでもあった。

 

「トルム貿易が倒産する数日前、積荷の中にカタクリコが混ざっていることが偶然めくれました。見つけたのはグニラが率いる小隊でした」

「グニラ? あなたの知り合い?」

 

 ルゥルゥの質問にザラが補足を入れる。

 

「アキトのフィアンセですよ」

「あら、恋人がいたの」

 

 ルゥルゥが意外そうに眉を上げた。

 

「ええ、まあ……。とにかく、それがきっかけとなってトルム貿易が違法薬物を運んでいることが、俺たち飛行隊の間で明るみに出ました。

 大半の隊員が怒り、トルム貿易に不信感を抱きました。特にスラム出身の人はこれ以上ないほどにね。

 中でもグニラの憤りは凄まじかった。スラム出身の上に、幼少期はかなり辛い目に遭ったそうですから」

 

 アキトは虚空を見つめながら続ける。

 

「そしてある日の夜、四十機余りの戦闘機がトルム貿易本社を襲撃しました。所属は全てトルム貿易護衛飛行隊。先導していたのはグニラの隼Ⅱ型でした。つまり、トルム貿易に所属している飛行機乗りの大半が、離反したんです」

 

 満月を背に、戦闘機が大編隊を組んで襲ってきた光景は、忘れようにも忘れられない。

 

「迎撃に上がったのは俺を含めた、トルム貿易所属の約二十機と、ルーデ自警団の十数機。仲間と、仲間だった飛行機は次々と小蝿みたいに落ちていき、気付けば味方は俺だけになっていました」

 

 部屋にいる誰もがその光景を想像し、うなだれた。

 

「朝になって残ったのは、廃墟と化した社屋と、飛行機の残骸。裏切ったグニラたちはどこかへ去って行きました」

「アキトは、トルム貿易を裏切らなかったんだよね? どうして?」

 

 アキトもまた、違法薬物の売買に手を染めていたトルム貿易に思うところがあったはず。

 キリエが問うと、アキトは自嘲的な笑みを浮かべた。

 

「実は襲撃の前日、グニラから協力するよう声は掛けられていました。ですが、俺は全力で反対しました。

 リノウチで死にかけて、行く宛のなかった俺を拾ってくれたトルム貿易に対してそんな真似はできなかった。何よりそんな手段をとっても根本の問題は解決しない、とね。

 グニラはその場では頷いてくれましたが、結局襲撃は起こってしまいました」

 

 ケイトが納得した様子で口を開いた。

 

「それじゃあ、今回の空賊たちは」

「トルム貿易から離反した飛行機乗りたちでしょう。そしてエンマを撃墜し、ケイトを落としかけたあの零戦は、おそらくグニラです。隼Ⅱ型でなく零戦三二型だったのは意外ですが、あんな動きができる飛行機乗りは、他にいない」

 

 ザラが神妙な面持ちでレオナにささやく。

 

「思っていた以上に厄介な事情があったみたいね」

「義憤に駆られた人間ほど止めるのは難しいからな」

「どんな事情があれ、空賊行為に走るなんで本末転倒ですわ。許すわけにはいきません」

 

 拳を握りしめ、毅然とエンマが言い放つ。

 厳しい物言いだが、アキトも頷いた。

 

「俺もそう思います。トルム貿易を襲撃したあと、グニラたちの行方は俺も知りませんでした。素性を隠してどこかで用心棒稼業を続けているものと思っていましたが、まさか空賊行為を働くなんて……」

 

 飛行機乗りの中には用心棒から空賊へ身をやつす者も少なくない。グニラたちも例外ではなかったということか。

 

「奇妙なことがある。空賊へ転身したなら、なぜルーデではなく遠く離れたポロッカの近くまで来たんだ?」

 

 レオナの疑問には誰も答えられない。

 

「それは分からない。ただ、零戦三二型は航続距離が短い。相手が潜伏するならポロッカ周辺の可能性が高いと推測できる」

 

 ケイトの言葉に頷いたレオナは、ルゥルゥを見た。

 

「どうしますか、マダム」

「そうねぇ……」

 

 ルゥルゥは煙管を咥えてしばし考え込む。

 

 少ししてから艦内無線を取り、二言三言やり取りをしてから、そっと置いた。

 

「ポロッカの市長に連絡を入れるわ。空賊の対処は自警団に任せることにしましょう。みんな、時間を取らせたわね。各自船室に戻ってゆっくり休んで頂戴」

 

 全員がばらばらと立ち上がり、ルゥルゥに軽く挨拶をしながら部屋を後にした。

 

「アキト」

「はい」

「話してくれてありがとう。随分と厄介な事情を抱えていたのね」

「すみません。もっと早くに話していれば」

 

 ルゥルゥは軽く手を振ってアキトを制す。

 

「気にしないで。物事には好機ってものがあるのだから。オウニ商会はあなたの味方ってことは覚えておいてね。もちろんあの小鳥ちゃんたちも」

「はい。ありがとうございます」

「こちらでも色々と動いてみるわ。あなたの仲間たちのためにもね」

 

 アキトはルゥルゥに深く一礼してから、自室へと戻っていった。

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