きっかけが何だったのかは覚えていない。
ただ物心がついた頃には僕はもう『陰の実力者』に憧れていた。
主人公でもなく、ラスボスでもなく、物語に陰ながら介入し実力を見せつけて征く実力者。僕はそんなものになりたいと思い、周りのみんなが夢と現実の間で妥協する中、努力を重ねた。
空手、ボクシング、剣道、総合格闘技、etc……強くなるために必要なことは全力で、されどひっそりと習得し、学校ではひっそりと人畜無害なモブ学生を演じた。
だがそんな僕もやがて現実を受け入れなくては行けない時が来た。
「こんな事をしていても、無駄なのだ」と。
巷に溢れている格闘技をいくら習得しても、僕が憧れる物語の世界にいる陰の実力者のような、圧倒的な力は手には入らない。
僕に出来るのはせいぜいチンピラ数人をボコれるだけ。銃のような飛道具が出てきたら厳しいし、完全武装の軍人に囲まれたらお終いだ。 軍人にボコられる程度の陰の実力者……失笑するしかない。
僕がこの先何十年修行しても、たとえ世界最強の武人になれたとしても、おそらく軍人に囲まれたらなす術がないだろう。
頭上に核が落ちて来ても大丈夫な陰の実力者。現実と向き合いそんなものを目指して迷走した末、僕は既存の物理法則を否定する力、魔力を求め始めた。
魔力、マナ、気、オーラ、名前は何でもいい。とにかく人類史上最高火力の核に耐えるには、今まで存在が確認されていないその力を取り入れるしかない。そう僕は結論付けた。
そこからの修行も迷走の限りを尽くした。何せ魔力、マナ、気、オーラ、そんなものを習得する方法を誰も知らないのだから。
座禅を組み、滝に打たれ、瞑想し、断食し、ヨガを極め、改宗し、精霊を探し、神に祈り、自身を十字架へ磔にした。森や花畑で服を脱ぎ捨て全裸になり、大木に頭を打ち続ける、全裸で踊り祈りを捧げたこともある。
自分が信じた道を、ただ突き進み、そして時が経ち、僕は高校最後の夏を迎えて、僕はまだ魔力もマナも気もオーラも、見つけられていない……。
その日の修行を終えた時、手応えを感じていた。 頭の中がチカチカと輝き、視界がグラグラと揺れている。 魔力か……あるいはマナか……あるいは気か……あるいはオーラか……ともかく、その影響を確かに感じるのだ。
ふわふわと空を飛ぶかのような足取りで、僕は森を下りていくその時、まるで宙を泳ぐかのように、横切っていく二つの不思議な光を見つけた。まるで僕を誘うように怪しく導いている。僕はおぼつかない足取りで近づく。
きっと……きっと魔力だ! ついに僕は未知なる力を見つけたのだ!
いつしか歩みは駆け足へと変わり、木の根に足を取られても、そのまま転がるように、獣のように光へと走り続ける。
「魔力! 魔力! 魔力! 魔力魔力魔力魔力魔力!!!!」
僕は二つの光の前に飛び出し、捕まえ……。
「あ……?」
ヘッドライトが白く世界を染め、けたたましいブレーキ音が頭の中に響いた。
少しだけ残った判断力が、あの光は車のヘッドライトだったと告げている。衝撃が身体を貫き、 僕の体が宙を舞い、地面へと落ちる。その時、僕の中で何かが折れる音がした。
そして僕は魔力のある世界に生まれ変わった。目覚めたら周囲は魔力で満ちていた。どうして転生したのかはわからないが、解明しようもないし、どうでもいい。
確実なことは、かつてあれほど渇望した魔力が存在するという事実とようやく「陰の実力者」になれるというワクワクだ。
僕は「陰の実力者」になるべく陰ながら努力を重ねた。家では凡庸な息子、あるいは弟を演じた。裏では盗賊を相手に金を稼ぎ、悪魔憑きの少女を救っていき、陰の実力者プレイのキャストも増えていった。
そんなある日、ディアボロス教団との戦いの中でラウンズ第9席「人越の魔剣・モードレッド」を倒し、地上に降り立とうとした時だった。空中に不思議な魔力を帯びた魔法陣が現れたのだ。見たこともない形の陣を見た僕は好奇心と期待を胸に陣の中へ飛び込んだ。
それが僕の「聖杯戦争」の始まりだった。
陣を潜ると「聖杯」と呼ばれる見えないナニカから知識を送り込まれた。
これから僕が「聖杯戦争」なるものに参加すること。聖杯戦争が何たるか、ルールは何か、召喚される時代の知識などを頭に流し込まれた。どうやら僕は何やら儀式めいたことに巻き込まれたらしい
(聖杯戦争!何て魅惑的な響きだ。聖杯自体はどうでも良いしどんな願いでも叶うというのは在り来たり過ぎてちょっとマイナスだけど、7騎と7人のバトルロワイヤルってのも面白そうだし昔の英霊?とかとも戦える訳だし。しかも戦いは夜限定というのも良い!聖杯は美学が分かってるよねえ)
所謂ここは召喚に際してのインターバル空間。
あと数秒もすれば僕はサーヴァントという形で召喚される。サーヴァントは過去の英雄たちが呼び出される、ようは全員死人な訳だ。
僕は生きてるよ?と聖杯に尋ねたら「現代の君は死んでるだろ?」と凄い解釈をした解答が返ってきた、まあ確かに前世で1度死んでるけどさ。仮に聖杯戦争で僕が死んでも肉体は元いた世界に呼び出される以前の姿で返されるらしい。まあ負けるつもりは全然無いんだけどね。
あと召喚には陰の実力者らしい現れ方があるよね、どんな感じで行こうかなあ。呼び出してくれてありがとう!は違うよなぁ、やっぱりここは僕らしく行こうかな
そんなことを考えていると召喚まで秒読みに入っていた。頭上には光る魔法陣、戦いの序章を告げていた
雁夜side
今の彼の有様を見たら普通の人間は目を見張るだろう。髪の毛は色素が抜け落ちたかの様に真っ白で、左半身は魔術回路を補う刻印虫の影響で殆ど動かない状態だ。
……だが、彼はこんな姿に成り果てても、叶えなければならない願いがあった。
───桜を救う
雁夜は『間桐』の非人道的な魔術を嫌い、11年前に家を出奔した。
そのため本来その身は冬木に留まらず、フリーのルポライターとして生計を立て、様々な場所へ赴いていた。
そんな彼だがここ冬木には定期的に帰って来ていた。その理由が彼の初恋である「遠坂葵」の存在であった。
彼は幼馴染である葵に好意を寄せていたが、
魔道と称し非道の数々を行う間桐に彼女を近づけたくないという思いから、只の幼馴染として振る舞っていた。
また、遠坂時臣のプロポーズに対して笑顔を浮かべる彼女を見て、自身の幸せより葵の幸せを優先しその身を引いた。
彼女の夫である時臣は気に入らない存在だったが、葵を幸せにしてくれるとそう信じ、雁夜は普通の幼馴染として、彼女の人生を見守ることに決めたのだ。
彼女の第一子である凛が生まれ、翌年には桜が誕生し、新しい家族に囲まれた彼女の嬉しそうな姿は自分の選択が間違っていなかったと思わせてくれた。
……桜が間桐の養子にされたと聞かされるまでは
「何故、奴は……娘を…桜をこんな
地獄へ追いやったッ!!」
自らが家を出奔したせいで桜が養子にさせられたと考えると罪悪感で頭がいっぱいになった。だが聖杯さえ勝ち取ればあの化け物、間桐の当主たる臓硯とは桜を手放すと約束した。この1年、魔術の修練と称した拷問に耐えて耐えて耐えてきた。痛みも苦しみも葵さんと桜ちゃんのことを思えば何とか耐えることが出来た。
そして今日、いよいよ召喚の日が訪れる
「雁夜よ。いよいよ今宵、貴様にはサーヴァントを召喚してもらう。じゃが召喚の呪文には途中に二節、別の詠唱を挟んでもらうぞい」
「どういうことだ?」
「お主の魔術師としての格は他のマスターどもと比べて些か以上に劣るのでな、そうなるとサーヴァントの基礎能力にも影響しよう。お主には『狂化』の属性付加によってパラメーターの底上げがなされている『バーサーカー』を召喚してもらう。」
不気味な笑みを浮かべた老人、間桐臓硯は愉快そうに口を開く。臓硯にとって雁夜が聖杯を掴むことなどまるで期待してはいなかった。勝ち取れば儲け物、むしろ雁夜の悶え苦しむ様を楽しめれば満足であった。
バーサーカーを召喚させるのも雁夜を苦しめる嫌がらせだ。確かに1年の拷問に耐えた雁夜には令呪が宿り、サーヴァントを御せるレベルの魔術師ではあった。しかし刻印虫は魔力行使の度に雁夜の肉体を食い破り、身体には激痛が走る。ただでさえ魔力消費が多く、燃費の悪いバーサーカーでは苦しむのは目に見えていた。その苦しみ悶える様が見たいだけであった。
「──告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
されど、汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る。
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」
動かない身体を動かし、召喚の呪文を唱える雁夜が願っていたことは一つだった
……桜を救える強いサーヴァントが欲しい
自分が魔術師として未熟なことは分かっていた。それでも聖杯戦争に勝利し、桜を救い出したい、その気持ちだけは譲れなかった。
有りったけの想いを込めた詠唱が薄暗い地下に響く。召喚陣が光り、サーヴァントの気配がする。
そこに現れたのは漆黒のフードを被る少年であった。
「問おう、貴様が我のマスターか?」