幕間だったので早めに更新します。雁夜が陰の実力者ムーヴしたのは完全に偶然です。
遠坂凛を助けた翌日、朝早くからインターホンを鳴らす音が聞こえた。一体、朝から誰だとやや不機嫌そうに雁夜が扉を開けた。
すると、そこには筋肉益荒男ことライダーとそのマスターが居た。
「おお!出迎えはバーサーカーのマスターであったか!こりゃ丁度いい!」
「えぇと、取り敢えず何の用で家にまでライダーとそのマスターが来たんだ?」
当然の疑問だ。更にいえば何故、俺がマスターとバレているのか等、疑問は多々あるがこれが聖杯戦争なのかと自分に言い聞かせることにした。
「こんの、大馬鹿野郎!いきなり僕を連れ出したかと思えばバーサーカーのマスターの家に朝っぱらから突撃とかなに考えてんだよ!?」
ライダーのマスターが頭を抱えている。随分と手を焼かされているのが分かる。ライダーは特に気に留めず、本題に移る
「だからなぁ、さっきも言っただろう?良い事を思いついたとな」
「それがなんなのかを教えろって言ってんだよ!? こっちは!」
「まあ、そう焦るな坊主。此度のこの戦、王と名の付く者が多いときた!であればだ。聖杯を手にする前に!一度王としての格を問うてみようと考えた訳だ。まあ、そうさな。言うなれば、聖杯問答、だな。」
「──バーサーカーは王様じゃないぞ?」
「──確かに彼奴は王では無いかもしれん。
だが、先の戦いといい物言いといい、やつも海千山千を越えてきた強者には違い無かろう? それにアーチャーやセイバーを相手取っての大立ち回りには正直血肉が湧いてな。余が客人として招待したいと考えた訳だ」
やたらと嬉しそうにライダーが語る。
「なるほど、そういうことか。分かった、バーサーカーに伝えておく」
「おぉ!話が早くて助かるわい!」
「お前はほんっとに僕の意見を聞かないよな。はあ、もういい。好きにしろよ。僕は朝から疲れた」
「坊主もやっと分かったか!では今夜、そうだなぁ、セイバーの城にてまた会おうではないか? バーサーカーとそのマスターよ」
ライダーとそのマスターは嵐のようにやってきて風のように去っていった。勝手に了承してしまったが、良かったのだろうかと後になって考える雁夜であった。
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「…………………」
「……………….」
沈黙が部屋を包み込む。ここはケイネス一派の隠れ家であり、第二の拠点である。冬木ハイアットホテルを爆破された後、予め確保しておいた保険の家にケイネスとランサー、そしてケイネスの許嫁であるソラウ・ヌァザレ・ソフィアリが重苦しい雰囲気の中に鎮座していた。
「──ランサー、貴様がこの聖杯戦争でやりたかったことは女を口説くことだったのか?」
「……主よ、このディルムッド、誓ってそのようなことは致しておりません!」
「──ではバーサーカーの言っていたことはデタラメか? 人妻を口説いていたというのは偽りか? 答えよランサー」
「──そのような事実はございません。バーサーカーは戯言を繰り返して煙に撒こうとしているだけです」
「──ソラウ、ランサーにそのようなアクションを取られていないか? ランサーの言葉に偽りはないか?」
「大丈夫よ、ケイネス。そんな事実はないわ。──貴方まさか嫉妬してるの?」
「当たり前だ! ……ソラウ、君はもしかしたら嫌々の政略結婚かもしれない。だが私にとっては一目惚れだったんだ…… 君を心から大切に思っている──そんな君に、粉をかけようとする男がいて、黙っているほど私は臆病者じゃない!」
ケイネスの鬼気迫る声に気圧されるソラウ。
魔術師の結婚は政略がほとんどであり、損得勘定が常であったが、少なくともケイネスは婚約者を真に愛していたのだ。
「──ありがとうケイネス──なんだか照れ臭いわね。──私たちはもっとちゃんと対話をするべきだったのかもね」
「──そうだなソラウ。──そして、それは我々もだな、ランサー」
「──! 主よ……」
「──ランサー。貴様を色眼鏡で見ていたことは認めよう。その上で今一度問う。貴様の言う忠義とは、騎士道と天秤に掛けても優先できるものか?」
ランサーは沈黙した後、思考する。
「──主よ、私は生前、仕えるべき王への忠義を果たせませんでした。だからこそ、今生こそは、最後まで主に仕える覚悟です! そのためなら、我が騎士道は主に捧げましょう!」
「もう良いランサー、意地の悪い質問をした。忘れてくれ──お前の覚悟は確かに受け取った」
ケイネスとランサーが互いの意志を再確認し合った瞬間だった。召喚自体はイレギュラーといっても良かった。本来、喚び出すはずの征服王は教え子に奪われ、急遽用意した触媒で喚び出したランサーは信用ならなかった。
だが、バーサーカーの横槍という別のイレギュラーによって互いに本音を語り合う機会を得たのだ。もはや、憂うものは何もない。
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間桐家に養子として引き取られた私に待っていたのは、果てしない絶望だった。得体の知れない蟲に身体を弄られる日々。何より苦しかったのは、助けを求め泣き叫ぼうとそれが無意味だと気付いたこと。
泣こうが喚こうが、この家で救いはない。
家族と過ごしていた穏やかな時間との落差が私を更に苦しめる。まるで最初から私はそこに居なかったかのように、あの人たちの時間は進んで行き、私だけが行き止まり。
家族だった人たちは、私にもう会いにも来ない。そういう約束だったとしても、私からすれば捨てられたも同然。居場所を奪われ、間桐の家では陵辱される日々。これ以上の絶望を他に用意できるなら見せて欲しいとすら思う。
ある日、雁夜おじさんが家に帰って来た。
聖杯を勝ち取るためと言って、私と同じように蟲たちに侵食されていった。目に見えて弱くなっていくおじさんをただ見送ることしか出来ない私。
今日は大事な儀式があるから蟲蔵には行かないで良いと言われた。その道中でおじさんに会った。片足を引き摺り、今にも死んでしまいそうな身体で私を抱きしめた。
「……じゃあ、遠坂さんちの葵さんと凛ちゃんを連れて、おじさんと桜ちゃんと、四人どこか遠くへ行こう。また昔みたいに一緒に遊ぼう──それはおじさんが約束してあげる」
そう言っておじさんは地下へと消えていった
「──バイバイ、雁夜おじさん──バイバイ」
やっぱり、見送ることしか出来なかった。
私は自分の部屋で眠りに着いた。と言っても熟睡できる訳じゃない。夢にまで出てくる蟲たちに苛まれながらの就寝は休まる気がしない。当然、目覚めも良くなかった。
だが、その日だけは違った。自分の身体が自分のモノじゃないみたいに調子が良かった。紫色の暖かい魔力が全身を包むような感覚。身体の中の蟲が居なくなっていき、間桐の家に来る前の状態よりも更に良かった。何故か胸元部分の服が破けて、血が滲んでいたけど、傷は特に無かった。そんなことはどうでもよくなるほどの清廉さ、清々しいとでも言うべきか。
そして、そこには一人の男性が座っていた。
「目が覚めたかい?
君を蝕んでいた呪いは消え去った。
もはや君は自由だ」
あぁ、この人が私を救ってくれたんだと思った。物語に出てくる王子様が居るのなら、それはこういう人なのだろうと思った。
これまでの苦しみや我慢が涙という形で溢れ出た。声にならない声と共にこれまでの全てを流し切った気がした。
あの人の名前はシド・カゲノーというらしい。私しか知らないあの人の名前、そう思うと妙に嬉しかった。全てを見透すかのような瞳と黒髪、たまに見せる少年のような顔に私はどんどん惹かれていった。
今はまだ、兄さんと呼ぶことしかできないけど、いつかは、とも思っていた。
最近、シド兄さんと会える時間が少ない。
私とおじさんが公園に行く時も来てくれない。夜は戦いがあるからと出て行くのは分かるけど、昼間まで出掛けるのはどうしてだろうか。シド兄さんにはシド兄さんにしか見えない世界があるのだと自分に言い聞かせる。
聖杯戦争が終わってしまえば、シド兄さんは居なくなってしまう。バーサーカーというクラスを依代とした仮の生であることは、おじさんから聞かされて何となく理解はしているが、それでも受け入れ難いものがある。
そんな不安を抱えていた中で、私は不意に兄さんの部屋を開けた。使われた形跡の無い机の上に指輪が無造作に置かれていた。
碧い石が綺麗で落ち着いたデザインの指輪だ。私は思わず見惚れてしまった。かつて、何かの本で読んだことがある。指輪は大切な人に贈るものだと、それはお互いの絆を象徴するものだと。
碧い宝石は微量の魔力を秘めていて、紫色にも見えた。私の髪の色と同じ紫、間桐の家に来て変色してしまって好きになれなかった紫。でも今は、シド兄さんの魔力と同じ色、この指輪と同じ色、そう考えると心の中が溜まらなく満たされていく気がした。
私はその指輪を手に取り、左手の薬指に付けようとするがサイズが合わない。ただ親指にはピッタリとハマったので、付けることにした。いつか薬指にピッタリとハマるくらい大きくなったら、その時こそ。
くっふふふふふふふふふふふふ!
「──あれ?指輪が無い。また誰かが盗んだのか? うーん、許せん」
ネタバレ 次回から、聖杯問答します