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家に帰ると、ライダーから聖杯問答なるものに誘われたこと、そして参加を了承したことをマスターから聞かされた。
まあそんな話知る訳も無いし、陰の実力者的には王様と友達というのは気が進まないけど、欠席したらしたで後が五月蝿そうだから渋々行くことにした。まあ聖杯戦争の秘密を共有する者同士と考えたら密談みたいで悪くはないし。
──それとぼくの買った指輪を何故か桜ちゃんが付けていて、凄く嬉しそうにしてるのはどうしてなのだろう。一体どうやって盗んだのか、侮れん。
シャドウは招待された通り、アインツベルン城を訪れていた。日本ではまず他にお目にかかれないこの中世欧州風の古城に当たり前のように庭園は備えられている。
絢爛により創り出される美と静寂。この四方を城の柱に囲まれた、まるで箱庭のように整えられたこの庭園を堪能するには、秋も深まるこの時期の夜は最高だろう。月に照らし出される造形的な緑と、元々この城が放つ厳粛な雰囲気が魅惑的な空気を醸し出す。
だが、それだけでは役者が足りない。
そこに立つに相応しい人物がそこにいて、初めてこの空間は完成する。相応しいのは古の王か、征服王か、はたまた麗しの騎士王か、陰を生きる者か。
そういう意味ではこの城にとって今宵は時が満ちたと言えるだろう。時代を越え、国を越え、集うはその全てなのだから。
英雄達の格をかけた争い、いよいよその幕が上がる。
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「お?バーサーカーが一番乗りとは、案外と乗り気か?」
「──招待されたまでだ」
「まぁ良い良い。貴様が居れば酒宴も盛り上がるというものよ、わっはっは」
益荒男が嬉しそうにシャドウの肩を叩く。
シャドウは角度をズラしてジト目をしている。
「バーサーカーのマスターも一緒であったか!今宵は語らいの場だ、そう緊張せずとも良い」
「──分かった、分かったから背中を叩くのは辞めてくれ……」
マスター同伴可ということで雁夜も今回は参加している。ライダーの手荒い歓迎に戸惑いながらも、マスターとして毅然とした態度を崩さないように心掛ける。
すると、城の主であるアイリスフィール・フォン・アインツベルンとセイバーの陣営が現れた。
「──おう、来たかセイバー」
その言葉にセイバーはやや怪訝な表情を浮かべる。
「なあに、そう身構えるな。これだけの猛者が揃っているのだ。腹を割って話してみたいと思うのは当然のことであろう?」
かつて、世界征服という夢に生涯を捧げた大王は豪快に笑った。
「どういう思惑かは知らんが、正面切ってくる相手に背を向けるのは主義ではない。問答であろうとなんであろうと私は受けて立つ」
セイバーは凛として答える。これで3人が集まった。あとはあの金ピカだけなんだがとライダーが口を開いた時だった。
「──戯れはそこまでにしておけ、雑種」
アーチャーが主役は遅れてやってくると言わんばかりに登場した。これで役者は揃った。
「──よもやこんな鬱陶しい場所を『王の宴』に選ぶとは。王たる我に、わざわざ足を運ばせた非礼をどう詫びる? それに何故道化がこの場に居る? 王が語らう場と聞いているが?」
港で見せた傲岸不遜ぶりはそのままに、アーチャーは吐き捨てる様に言う。
「まあ、そう固いことを言うでない。此奴は儂が客として招いた、貴様とてバーサーカーの正体に興味がない訳ではあるまい?」
「─はっ、気狂いに興味はない。だがこれの業には些か興が乗る。道化として同伴することを許す」
「そうこなくっちゃな。ほれ、貴様も駆けつけ一杯」
アーチャーの言い草を特に気にすることなく、気さくにイスカンダルは柄杓を差し出す。それを受け取ったアーチャーは中身を飲み干す。
「──何だ、この安酒は、こんな物で本当に英雄の格が量れるとでも思ったか?」
一杯飲み干したところでアーチャーは顔を顰めながらそう言い、柄杓をライダーに向けて放り投げる。
「そうかぁ?この街の市場で仕入れた中じゃこいつは中々の逸品なんだがなぁ」
自らも味をみて買った酒をアーチャーにその様に言われたイスカンダルは頭を掻きながらそう言う。
「そう思うのは、お前が本当の酒というものを知らぬからだ。雑種めが。
見るが良い、そして思い知れ。これが王の酒というものよ」
そう言ってアーチャーは小さな波紋を手の上に作り出すと、その中から酒が入っていると思われる黄金の酒器が出てくる。
グラスを配り、酒を注ぐと4人はそれぞれ器の酒を飲み干した。
「っほぉ!美味い!」
感嘆の声を上げたのは征服王だ。
征服に捧げた生涯でも、アーチャーの美酒に匹敵する様な物は無かった。ブリテンの騎士王たるセイバーも同じであり、声こそ上げぬが、イスカンダルと同様に舌鼓を打っている。そして不敵な笑みを浮かべながらシャドウもまた一人驚嘆していた。
(何これめっちゃ美味しいんですけど。あとであの宝物庫?から失敬できないかなぁ)
「──我が宝物庫には至高の財しか有り得ない。これで王としての格も決まった様なものであろう」
「まあ待てアーチャー。確かに貴様の極上の酒は至高の杯に相応しい。だが生憎と聖杯は酒器とは違う。まずは貴様が聖杯にどれだけの待望を託すのか聞かせてもらおうか」
「仕切るな雑種。第一、聖杯を『奪い合う』という前提からして間違えている」
「というと?」
征服王に問われたアーチャーは己の考えを語り始める。
「そもそも、アレは我の所有物だ。
世界の宝はひとつ残らず、その起源を我が蔵に遡る。些か時が経ちすぎて散逸してはいるが、それら全ての所有権は今もなお我にあるのだ」
「ほう、では貴様は昔聖杯を持っていた事があるのか?アレがどんなものなのか正体を知っていると?」
「昔では無い、今も我が宝物庫に収まっておるわ。聖杯と呼ばれる願望機、その起源たるウルクの大杯がな」
「──なるほど、暴論ではあるが、筋は通ってる。だがなぁアーチャー。貴様、別段聖杯が惜しい訳ではないんだろう?」
「無論だ。だが我の宝を狙う盗人には然るべき裁きを下さねばならん。つまりは筋道の問題だ」
「──うむ、つまり何が言いたいんだアーチャー? そこにはどんな義がありどんな道理がある?」
「法だ。我が王として敷いた、我の法だ。」
ギルガメッシュの答えはシンプルであった。それ故に完全に納得でき、尚且つ共感できるものであった。
「完璧だな。自らの法を貫いてこそ、王。
だがな~、余は聖杯が欲しくて仕方がないんだよ。で、欲した以上は略奪するのが余の流儀だ。なんせこのイスカンダルは、征服王であるが故に」
「是非もあるまい。お前が犯し、我が裁く。
問答の余地などどこにもない。」
「応ともよ。であれば後は剣を交える他あるまいて」
征服王がニヤリと笑いながら口を開けば、アーチャーも薄く笑って言外に同意する。2人は同時に酒を呷った。
「征服王。お前は聖杯の正しい所有権が他人にあると認めた上で、なお力づくでそれを奪おうとしている。貴様がそうまでして聖杯に望むものとは何だ?」
セイバーのそれは当然の問いであったし、そもそもそれを話し合う為にイスカンダルが開いた聖杯問答だと言うのに、イスカンダルは照れ臭そうに笑った後、注いだ酒を一口飲んで語った。
「……受肉だ」
その予想外の答えにシャドウを除いたその場にいた全員が一瞬首を傾げた。
「お、おお、お前!
望みは世界征服だったんじゃっ」
ウェイバーはイスカンダルに詰め寄ろうとして、デコピンで弾かれた。相変わらずの扱いである。
「馬鹿者。たかが杯なんぞに世界を獲らせてどうする?──いくら魔力で現界しているとはいえ、所詮我らはサーヴァント。余は転生したこの世界に1個の生命として根を下ろしたい。何故ならそれが、征服の基点だからだ。身体1つの我を張って、天と地に向かい合う。それが征服という行いの総て。そのように開始し、押し進め、成し遂げてこその我が覇道なのだ」
ライダーの王道に納得したかのように小さく頷くアーチャーが口を開く。
「決めたぞ、ライダー。貴様はこの我が手ずから殺すこととしよう」
「フフン、今さら念を押すことでもなかろうて。余もな、聖杯のみならず、貴様の宝物庫とやらを奪い尽くす気でおるから覚悟しておけ」
口を開いたアーチャーが宣戦布告と取れる台詞を吐けば、征服王は不敵な笑みを以って答えた。
──パチパチパチパチ
すると、2人のやり取りを聞いていたシャドウが拍手と共に話し出す。
「──見事だ。それこそが光の道を征くもの
覇王が進む道はそうでなくてはならん」
「──バーサーカーよ、貴様の考える王道とは一体何だ? 貴様とて英霊に名を連ねる者として信念の一つくらいあるはずだが?」
ライダーがバーサーカーに問いかける。
「──我は王の道を征くものではない。我は我の道を征くのみ。だが、王とは覚悟と決意を持って己の道を征くもので無ければならない。それが他人にどう思われようと、強く輝く光で無ければならない。光があるからこそ陰はより輝くのだから」
「──なるほど。中々に愉快な答えだ。
貴様の人となりも何となく掴めて来たわ。貴様は自らの征く道と王の征く道は表裏一体と言いたい訳だな?」
シャドウは無言で頷くように酒を飲んだ。
シャドウとライダーの語らいに対してセイバーが口を挟む。
「──そんなものは王の在り方ではない」
セイバーの横槍にライダーが答える。
「──ほぉ。では貴様の懐の内、聞かせて貰おうか」
「──私の願いは故国の救済だ。万能の願望機を以ってして我が故郷、ブリテンの滅びの運命を変える」
この一言で比較的愉快に進んでいた宴の空気が硬直した。シャドウは苦笑を隠せず、ライダーやアーチャーは訝しんでいた。
──宴の雰囲気が変わっていく