お気に入り2000突破しました。ありがとうございます。
もしかしたら次回更新は遅れるかもしれません。すみません
夕暮れ時、目を輝かせ、紅潮した頬で笑みを浮かべながら、川に向かって楽しそうな大声で呼びかけている雨生龍之介の姿があった。
「旦那ー! 神様もビックリなスッゲェツッコミ、頼んだぜ旦那ーッ! 楽しみにしてっからさあ〜」
「ご期待あれリュウノスケー!」
そう言うとキャスターは川の中心で何やら呪文のようなものを呟いた。すると、キャスターを中心に水が畝りだす。魔力を帯びて波紋のように広がっていく。儀式の前段階であることを予感させる。
(これから見た事もないスッゲェ面白いことが始まるんだ!)
それを橋の上から眺めていた龍之介はこれから始まる最高のショーを見逃すまいと視線が釘付けになっていた。
────────
間桐邸に居たシャドウは川の方角から異常な魔力反応を感知していた。これまでに感じたことの無い魔力の波動に口角が上がる。
(──これはキャスターの魔力かな?儀式的なあれで魔力がどんどん膨れ上がってる。街もサーヴァントもピンチ! ってタイミングで突如現れた陰の実力者が、怪物を倒す。うーん、ありきたりだけど悪くない。そろそろぼくのこの世界での全力も確認しておきたいしね)
そんなことを考えていたシャドウの元にライダーが現れた。
「──おう、居たかバーサーカー。ちょうど良かった」
(なんでこの人は家にいきなり来るの?)
そんなシャドウの愚痴を知る由もないライダーは続ける。
「お前さんも気付いてるんだろ? あの馬鹿でかい魔力を。あんなものを放置してたら満足に戦えん。そう言って回ってるんだが、お前さんも来んか?」
「──崩壊の時は近い。時間が無い。暴走が始まる。──真なる最強をお見せしよう」
「っほぉ!そう来なくっちゃなあ。ではな、儂はランサーにも声を掛けねばならんでな」
そう言ってライダーはチャリオットで走り去っていった。そこへマスターである間桐雁夜が現れた。
「今のはライダーか? 行くのか?」
「──今こそ我が最強を見せる時だ」
雁夜はその言葉に驚く。バーサーカーの宝具は未だに解放されていない。そもそもとしてバーサーカーがどんな英雄であるかを雁夜は知らない。雁夜にとってバーサーカーは最強のステータスを持ち、自らを救ってくれた神にも等しき存在であり、それ以上は必要なかった。これまでの戦いを見ても、アーチャーやセイバーと互角以上に渡り合う猛者であったバーサーカーに奥の手があることに笑みが溢れた。
「──そうか、宝具か。お前ほどのサーヴァントの宝具があれば時臣のサーヴァントなんて目じゃない!」
(あれ?また何か痴情が縺れそうな匂いがするぞ? 恋敵にたまたま出会いでもしたのかな?)
シャドウは雁夜が召喚された当時の状態に戻ったことを懸念した。
「──マスターよ。生きる世界の違う人間に何を問いかけても無意味だ。それは光と陰、背中合わせでありながら、決して交わることはない」
「──なにを言ってるんだ……バーサーカー?」
「──時が来れば分かる。忘れるな」
雁夜はよく分からないまま頷いた。
(遠坂の家は少し見物して来たけど、あれだけの家に住んでる時臣?って人と無職のマスターじゃ話合いそうに無いしね)
話が終わると、バーサーカーと雁夜は戦場へと向かっていったのだった。
────────
アイリスフィールとセイバーは河岸に向かって車を走らせていた。新都と深山の間に流れる川で名前を未遠川と言う。川を中心とした一体から尋常ならざる魔力の反応を察知し、駆けつけたのである。
岸に着くとキャスターことジル・ド・レェは大規模魔術の行使を続けていた。すると、セイバーに気が付いたのか詠唱を止め、深々と一礼をした。
「ようこそ、聖処女よ。再びお目にかかれたのは恐悦の至り」
「性懲りも無く、外道め! 今度は何を為出かすつもりだ!」
「申し訳ないがジャンヌ、今宵の宴、主賓は貴女では無い。……ですが貴女もまた参列して頂けるというのなら、私としては至上の悦びですとも」
「不肖このジル・ド・レェめが催す死と退廃の饗宴を、どうか心ゆくまで満喫されますよう!」
するとキャスターの周りの海魔たちが暴走したようにキャスターを取り込んでいく。
「今ふたたび、我らは救世の旗を掲げよう!
見捨てられたる者は集うがいい!
蔑まれし者は願うがいい! 私が率いる! 私が統べる! 我ら貶められたる者たちの怨嗟は、必ずや神へと届く!!」
「おおぉ天上の主よ! 私は糾弾を持って御身を讃えよう!」
「傲岸なる『神』を! 冷酷なる『神』を!我らは御座より引きずり下ろす! 」
キャスターが巨大な海魔に吸収され、膨張していく。その高さは橋の頂点さえも更に越え、尚増え続けていた。
そこへライダーがチャリオットで乗り合わせて来た。突然の敵サーヴァント出現にセイバーは身構える。
「よおぅ!騎士王!」
「──征服王……」
「よせよせ、今夜ばかりは休戦だ。あんなデカブツを放っておいては、殺し合いの一つも出来んわ。さっきからそう呼び掛けて回っとるんだ。ランサーとバーサーカーは承諾した。直にここへ着くはずだ」
セイバーとアイリスフィールは顔を合わせ互いに頷く。
「了解した。こちらも共闘に異存はない。征服王、暫しの間だが、共に忠を誓おう」
セイバーが胸の前に手を掲げ、誓いの意を示す。
「なぁアインツベルン。そっちの作戦は?さっきランサーから聞いたけど、キャスターと戦うのはこれが最初じゃないんだろ?」
チャリオットに乗ったライダーのマスター、ウェイバー・ベルベットはアイリスフィールに質問を投げかける。
「あれがキャスターの魔力供給で現界を保ってる内に速攻で倒すしかないわ。あれが糧を得て自給自足を始めたらもう手に負えない。そうなる前に……!」
「なるほど。あれが岸に上がって食事をおっ始める前にけりをつけなきゃならん訳か。しかしキャスターはあの分厚い壁の奥底に守られている。さあてどうする?」
「──引き摺り出す。それしかあるまい」
霊体化を解き、ランサーが合流する。
「奴の宝具さえ剥き出しに出来れば、俺のゲイジャルグは一撃で術式を破壊できる」
「──ランサー、その投撃で岸からキャスターの宝具を狙えるか?」
「見えてさえしまえば、造作もないさ」
「ならば先鋒は私とライダーが務める。いいな?征服王」
「構わんが、余の戦車に道は要らぬとして、セイバー、貴様どうやって川の中のキャスターを攻める気だ?」
「──この身は湖の乙女から加護を得ている。水がどれだけ溢れていようと我が歩みを止めることはできない」
「ほぉ、そいつはまた稀有なやつだ。──益々我が幕下に加えたくなったのぉ」
「──ツケは必ず払って貰う。今はまずあの化け物の奥底からキャスターを引き摺り出すのが先決だ」
「ははっ然り。では、一番槍は頂くぞ!」
ライダーのチャリオットが稲光を発しながら空高く上がっていく。突然の加速と浮遊にウェイバーは面食らっているが、構わず全速力で駆け抜けていく。
「──セイバー、武運を」
アイリスフィールの言葉に軽く頷くとセイバーは鎧に換装し、水の上を走っていく。
「決着をつけるぞ!」
セイバーとライダーの接近に海魔は反応し、戦いの火蓋は切られたのだった。
──────────
キャスターの呼び出した化け物とセイバーたちの戦いは苦戦を強いられていた。化け物の再生速度は予想を遥かに上回り、切っても切ってもキリがない。そんな戦いを上空から眺める王が居た。英雄王・ギルガメッシュ。インド神話の乗り物であるヴィマーナの玉座に座り、不満そうに下界を見下ろす。
「──なんとも醜悪な眺めよ。如何に雑種とはいえ、少しは名を馳せた猛者共であろうに、それが揃いも揃ってあのような汚物の
始末に明け暮れるとは。──嘆かわしいにも程があるわ。そうは思わんか?時臣」
(これ以上、目撃者が増える前にあの怪物は抹消しなければ……遠坂家の威信にかけて)
ギルガメッシュのマスターである遠坂時臣は焦っていた。化け物の出現に集まった野次馬は増えてきており、放置すれば街単位で被害が出てしまう。冬木のセカンドオーナーであり、魔術師として魔術の隠匿を是とする時臣からすれば看過できない状況だった。
「──王よ。あの巨獣は御身の庭を荒らす害獣でございます。どうか、手ずからの誅戮を」
「──そんなものは庭師の仕事だ。それとも時臣、よもや貴様は我の宝具には庭師の仕事が似合いとでも愚弄する気か?」
「滅相もありません。しかしご覧の通り、他の者どもでは手に余る有様です。真の英雄たる真意を知らしめる好機です。どうか、ご英断を」
ギルガメッシュは不機嫌さを隠せずにいた。
そもそも真の英雄など、知らしめる必要もなく自らと決まっていると。その上での発言となれば、苛立ちは尤もだろう。
重い腰を上げたように標準を定め、上空から光が指したようにアーチャーの宝具が放たれた。それは怪物の肉体を切り裂くが、致命傷には至らず再生していった。その様子を時臣も驚きながら見ていた。
「──引き上げるぞ時臣、もはやあの汚物は見るに耐えぬ」
「そんな──英雄王、どうかお待ちを!」
「──時臣、お前への義理立てと思って宝剣宝槍の類を使い捨てた。あんなものに触れて穢れた以上は、もう二度と回収する気にもならん。──我の寛容を安く見るでない」
「あの怪物を倒し得る英雄は御身しか在らせられませぬ! あれ程の再生力がある以上、奴の総体を一撃の元に消し飛ばすしかない!
それが叶うとすれば英雄王、御身の乖離剣を置いて他には…「痴れ者が!」
「我が至宝たるエアをここで抜けと? 弁えよ時臣! 王に対してその妄言、刎頚にも値するぞ!!」
時臣は英雄王の怒りを受けて跪く。そして下を向き苦々しい表情をしつつ自らの手、既に一画を失った手の甲の令呪を見ながら思考する。
( ──令呪を使う手もあるが、間違いなく英雄王との関係は決裂してしまう……そもそも、失った令呪を取り戻すために璃正神父と計ったキャスター討伐のはずが、どうしてこうも思惑が裏目に出る……)
遠坂時臣は二律背反に押し潰されそうになっていた。冬木を預かる者としてこの現状は見過ごせない。しかし現状を打破しようとすれば、自らのサーヴァントとの関係は終焉に近づくことも理解していた。そんな動くに動けない状況が時臣には歯痒くてならなかった。
「──おや、あそこにいるのは気狂いの道化ではないか。これを宴か何かと勘違いしているのか? ハッハッハ!」
「──何故バーサーカーがここに。ということはマスターも近くにいるのか」
「──バーサーカーのマスターといえば──確か雁夜と言ったか。あれは存外に飽きぬ雑種よなぁ」
「──英雄王、私はマスターの相手を」
「好きにしろ。精々足元を掬われんようにな」
遠坂時臣はこの忠告が腑に落ちなかった。
間桐雁夜、一度は魔道を捨てた落伍者。聖杯に未練を残し、1年前に戻ってきた急造マスター。そんな男に遠坂家の当主たる自分が負けるはずがないと、時臣は確信していた。
未遠川の戦いは終焉に近づいていた。ただし悪い意味での話だが。
セイバーが斬れどライダーが蹂躙しようと怪物の侵攻を止めるには至らない。肥大化を繰り返し、岸まで上がるのも時間の問題だった。
その様子を岸から眺める野次馬に混じってキャスターのマスターである雨生龍之介は狂喜乱舞していた。
「やっちまえ青髭の旦那! ブッ潰せ! ブッ殺せ! ココは神様の玩具箱だぁ!」
龍之介にとっては死を観察できる、それが全てであった。海魔によってどのように人間が死ぬのか、どうやって殺すのか、想像するだけで笑みと高揚が抑えられない。
「っくっふふひふふ、もう退屈なんてサヨナラだ! 手間暇かけて人殺しなんてすることもねぇ、放っておいたってガンガン死ぬ!潰されて、千切られて、砕かれて、喰われて、死んで死んで死にまくる! また見た事もないハラワタも次から次へと見られるんだぁ! 毎日、毎日、そこいら中で! ひっきりなしのお、っ!」
龍之介は何らかの衝撃に言葉が止まる。
すると、同時にキャスターの動きも止まった。あれ程の再生と増殖を繰り返していた化け物の動きも制止したかのように静まった。
「──え、なに、え、なんだよ……?」
周りの野次馬たちは龍之介の状況を見て、驚きと恐怖を抱く。
龍之介が腹を触るとそこには、自身の血がべったりと付いていた。そしてそれを恍惚そうに見つめていた。
「──わぁ、スッゲー綺麗〜…」
その一撃を放ったのは衛宮切嗣だった。サーモグラフィーで魔術師を見極め、狙撃したのだった。マスターを無力化すればキャスターも無力化できると考えたからだ。
「──そっか、そりゃあ気付かねぇ訳だ。
灯台下暗しとはよく言ったもんだぜ──誰でもねぇ、俺の腹の中に探し求めてたもんが隠れてやがったんだ…… 何だよ、ずっと探してたんだぜ……俺が中にあるなら……言ってくれりゃあ良いのにさぁ……」
まるで何かを悟ったように、別れを告げるかのように一瞬笑みを浮かべる龍之介。
そして、放たれた第二撃は頭部を直撃。
ヘッドショットで吹っ飛ばされた龍之介は最後まで笑ってこの世を去った。最期に見つけたかった物を見つけられて、満足しながらの死だった。
「リュウノスケ……我がマスターよ……。私を残して先に行くとは……ですがリュウノスケ、ご心配なく。このジル・ド・レェ、貴方との約束は果たします故……!」
「リュウノスケよ照覧したまえ! 私からの手向けを! 最高のCooooooLを!」
すると、動きを止めていた化け物は再び活動を開始した。まるで龍之介の死を悼むように、天上全てに轟くように。
「──キャスターのマスターと思わしき男を射殺したところだが、どうやら当たりだったらしい」
衛宮切嗣は相棒である久宇舞弥と連絡を取り合っていた。
「──他のサーヴァントが怪物に気を取られている間に、次のターゲットを見つけますか?」
「──いや待て舞弥、あれはただの怪物じゃない。無限再生を繰り返す不死の怪物だ。消失する前に河岸に辿り着くのは目に見えている。それで奴が捕食を開始すれば、新たな魔力源を得たキャスターは現界し続ける。考えたくもない終わりがそこにはある」
「そうなれば、被害は益々拡大し聖杯戦争そのものが破綻する恐れがあると」
「──そういうことだ。だが手が無いわけじゃない。あの怪物を一撃の元に、肉片一つ残さず焼き払う。対人宝具でも対軍宝具でもない、対城宝具が必要だ。そしてセイバーにはその対城宝具がある。今はランサーの槍の呪いで使えないがね」
その声は僅かな笑みを含んでいた。やや馬鹿にしたような、下らないものだと一瞥するかのように。
「──ここは一つ、奴らの騎士道精神とやらを見せてもらおうじゃないか」