陰の実力者は聖杯戦争に巻き込まれて!   作:リゼロッテ

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自分にはこういうシナリオしか書けなかったんや、許して下さい。



16話 イエスマイロード

 

「殺された!?」

 

遠坂時臣は言峰綺礼の報告を受け、声を荒げる。監督役であり、自身と長きに渡り親交を保ってきた璃正神父が何者かに殺されたという報告は時臣を持ってしても予想外だろう。

 

「──そんな……何故神父までもが……あってはならない……あってはならないことだ……!」

 

時臣は悔しさと憎しみの感情を露わにしながら座る椅子の肘掛けを拳で叩いた。協力関係にあった璃正神父の死は時臣にとって重かった。何より祖父の代より続く懇意にしていた人が亡くなったという事実も無念でならなかった。

 

報告を終えた言峰綺礼は終始神妙な面持ちで再び宿った令呪を見られぬよう右手を隠しながら、部屋を後にした。その帰り道、ギルガメッシュは綺礼に対して言葉を投げかけた。

 

「──何故本当のことを言わなかった?」

 

「──何のことだ」

 

「──憐れな父親だ。聖人と信じた息子に殺される最期とはな。──いやむしろ幸運か、息子の行く末を見ずに済むのだから」

 

綺礼はそれに対して何も返さない。素知らぬ顔を続ける。

 

「──それにしてもあの堅物だったお前がこうも吹っ切れるとはなぁ。しかし綺礼よ、父親の死に何の感情も抱かないのか? ()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──その質問は嫌味か? ならば答えてやる、残念でならないさ」

 

「──残念、か。それは父親に理解されていなかったことか? それとも父親をその手で葬っても何の感情も湧かないことか?」

 

綺礼はやや怪訝そうに振り向きざまにギルガメッシュを睨むとそのまま自室へと帰って行った。

 

「──核心を突かれて感情を出すとは、まだまだ青いな。いや熟れる見込みがあると言うべきか」

 

残されたギルガメッシュは愉快そうに呟いた。

 

 

 

────────

 

バーサーカーによるキャスター討伐から一夜明け、衛宮切嗣は隠れ家で再び思索していた。ランサーの騎士道精神を利用し、セイバーの左手の呪いを解く算段はバーサーカーの横やりによって御破算し、未だセイバーは宝具を封じられている。如何にセイバーが最優クラスのサーヴァントであっても、切り札の宝具が使えないというのは、この先の戦いにおいて払拭しきれない懸念であった。

 

(──あのバーサーカー、何回僕の思惑を打ち砕けば気が済むんだ!? バーサーカーを後回しにしたツケか? いや、挑めばこちらが深傷を負うことなる。左手を封じられている今のセイバーが、バーサーカーと正面から戦うなんて馬鹿げてる。──やはりランサーとそのマスターを始末する必要があるな)

 

ランサーかランサーのマスターを倒してランサーを消滅させない限り、槍の呪いは解消されない。衛宮切嗣は表情にこそ出さないが、内心では焦りを隠せなかった。

 

(やつらの騎士道精神を利用するのは悪くなかった。実際、後少しのところまで行きかけてた。今回もまた、使わせて貰おう)

 

ネガティブな思考にならないように気をつけながら、切嗣はタバコに火を付けるのだった。

 

 

 

─────────

 

キャスターが討伐された翌日の夜、セイバーとアイリスフィールはランサー陣営の元を訪れていた。

 

「──セイバーよ、こんな場所に一体何の用だ?」

 

「ランサーよ、我らの決着を今夜つけないか? 昨日の戦いでライダー、バーサーカーは双方宝具を使用し、相応に疲弊しているはずだ。つまり、今夜荒事を起こすのは得策ではない。よって我らの戦いに余計な横やりが入る心配はない」

 

「──なるほど、騎士として決着をつけるなら今夜が最善だと?」

 

セイバーのその問いに頷く。セイバーとしてランサーとの決着を納得のいく形で付けたかった。切嗣、実際にはアイリスフィールからこの内容を伝えられた時、一瞬驚きは決着をつけさせてくれるのならと気には止めなかった。

 

「俺としては願ってもない誘いだ。だが今の俺は主君を持つ身、主と相談をする時間をくれないか?」

 

「もちろん構わない、こちらとしても納得のいく形で戦いたい」

 

ランサーはその問いに笑みを浮かべ頷くとケイネスの元へと馳せ参じた。

 

「──主よ。如何いたしましょうか」

 

ケイネスはセイバー側からの提案に違和感を感じていた。

 

(──何故このタイミングで一騎打ちを申し込む? 横やりを入れられたくないのなら昨日が最善のはず、このタイムラグが妙に引っ掛かる──それにランサーの呪い、これは未だ解けていない。ランサーを倒して呪いを解除したい気持ちは分かるが…… あのセイバーのマスターがそんな正々堂々を挑むはずがない!)

 

「──この申し入れ、罠やもしれん」

 

「──! どういうことですか主よ!?」

 

「落ち着けランサー。セイバーのマスターとは一度対峙しているから分かる。あれは真っ当な戦いを挑むような人間ではない。十中八九何かあると考えるべきだ」

 

ケイネスの言葉は事実正しかった。今日というタイミング、騎士として決着をつけようという如何にもな誘い方、悪辣とすら捉えられるほどだった。ランサーはただ主たるケイネスの言葉を待つ。

 

「──私とソラウを連れて撤退も考えていた。だが、ここでセイバーを討ち取れるのならそれに越したことはない。──改めて問う、お前の槍はセイバーの剣に勝るか?」

 

「──我が槍の冴えと主の信頼を得られるのなら、このディルムッド、誰が相手だろうと負けはありません!」

 

「ならば、ディルムッドよ。全力をもってセイバーを討ち果たせ、私の信頼に応えて見せよ!」

 

「御意に!」

 

主の言葉を噛み締めるように聞き、頷くとディルムッドはセイバーたちの元へと戻っていく。その背中はとても強く頼もしく見えた。

 

 

 

「──待たせたなセイバー。お前の申し入れ、受け入れよう。今こそ、我らが騎士の誓いを果たす時だ!」

 

その言葉にセイバーを笑みを浮かべ両者は戦いの間合いに入る。そこに交わされる余計な言葉はない、あるのは互いの技と闘気だけだ。

 

「──フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナ、いざ尋常に参る!」

 

「応とも! ブリテン王、アルトリア・ペンドラゴンが受けて立つ!」

 

双方、武器を構えて対峙したかと思えば、その緊張感は一瞬で破裂し、互いの槍と剣が交錯した。打撃による摩擦音、飛び散る火花、間合いと体勢を変えながらの鬩ぎ合いは永遠に感じるほど緩やかに、瞬きに感じるほど早く繰り返された。

 

 

──ディルムッドとアルトリアの戦いは拮抗状態を保っていたが、徐々にアルトリアが押され出す。左手の制約に加え、今のディルムッドは主と心を通わせ、心身ともに充実し、憂うものなど何もなかった。互いに笑みを隠さない、騎士として正面から戦えること、最高の相手と対峙できる喜びを享受しながら、二つの剣撃が音を奏でる。

 

 

──この戦況を隠れ見ていた衛宮切嗣は覚悟を決めたように右手を掲げて準備に入った。マスターを狙撃する予定だったが、死角に入られて射線は通らない。もはや、手段は選べない。

 

 

「──我が傀儡に、令呪をもって命ずる。

今すぐランサーのマスターを殺せ」

 

 

切嗣の右手が光るとセイバーを強力な呪いが支配し、セイバーを動きを止める。突如苦しみ始めたセイバーにランサーは虚を突かれる。

 

「ッく……うっうぅぅ………」

 

セイバーは抵抗しようと必死に己を律しようとするが、令呪の強制力の前に屈する。眼前のランサーを無視し、ケイネスの潜んでいた場所まで猛スピードで突進する。

 

ケイネスはセイバーの接近に対して為す術が無かった。ケイネスが一流の魔術師といえど相手はサーヴァント、それも最優と名高いセイバーでは万に一つも勝ち目はない。それはランサーへの魔力供給を担当し、この場に居合わせたソラウも同様だ。

 

セイバーの一振りがケイネスらを切り裂こうとしたその刹那、ランサーは横から飛び込みながらケイネスの身を守った、自らの身を盾にして。

 

一瞬の硬直の隙を付いたセイバーの凶行にランサーはギリギリで間に合った。しかしマスターを守るという大義と引き換えにしたものは大きかった。セイバーの一振りをほぼ無抵抗で受けたランサーの肉体は、致命傷ともいえる一撃を受けてしまった。

 

「……ご、ご無事ですか、我が、主よ……」

 

「──! ラ、ランサー…… ッく!

ランサーよ、令呪をもって命ずる。私とソラウを連れて今すぐこの場から去れ!」

 

令呪の魔力ブーストを利用した強制転移によってランサー陣営は戦場から離脱する。後に残されたのは、仕留め損なったと苦虫を噛む切嗣と失意と怒りの感情が抑えきれないセイバーであった。令呪の効力が切れ、正気に戻ってはいたがその表情は当然穏やかではない。

 

「──衛宮切嗣。今ようやく、貴様を外道だと理解した。道は違えど、目指す先は同じだと、信じた私が愚かだった。私がいま貴様を斬り伏せることが出来れば、どれ程良かったか──これまで私は、アイリスフィールの言葉を信じ、貴様の性根を疑う真似はしなかった。仮に我が剣が聖杯を勝ち取ろうと、貴様のような人間に聖杯を渡すことは断じてできない! 答えろ切嗣! 貴様の言う救済とは一体なんだ!?」

 

「──ねぇ、答えて切嗣。いくら何でも今回の件は貴方にも責任の義務がある」

 

アイリスフィールは怒りとも悲しみと取れる声で切嗣に問いかける。

 

「──僕たちの戦いをここで終わらせる訳にいかない。そのために最善策を取っただけさ、アイリ」

 

「ねえ、私では無くセイバーと話して。彼女には貴方の言葉が必要よ」

 

「いいや、栄光だの名誉だの、そんなものを嬉々として持て囃す殺人者には何を語り聞かせても無駄さ」

 

「我が眼前で騎士道を穢すか、外道!」

 

「──騎士なんぞに世界は救えない。──こいつらはな、さも戦場に尊いものがあると謳いそれを演出して魅せるんだ。そんな歴代の英雄共の武勇だの名誉に憧れて、どれだけの若者が戦場で血を流したと思う?」

 

「幻想などではない! 例え命のやり取りがあろうとも、それが人の営みである以上、法と理念がある! でなければ戦果の度にこの世には地獄が具現化することになる!」

 

「ホラこれだ。聞いたかいアイリ、この英霊サマはよりにもよって、戦場が地獄よりもマシなものだと思ってる。冗談じゃない、あれは正真正銘の地獄だ。戦場に希望など無い、あるのは掛け値無しの絶望だけ。敗者の痛みの上にしか成り立たない。勝利という名の罪過だけだ。なのに人類は、その真実に気付かない。いつの時代も、勇猛果敢な英雄サマが華やかな武勇談で人の目をくらませ 血を流すことの邪悪さを認めようとしないからだ。人間の本質は石器時代から一歩も前に進んじゃいない!」

 

「──切嗣、貴様の過去に何があったのかは知らない、だがかつての貴様は正義を成そうとしていたはずだ。そのための英雄を求め欲していた、違うか?」

 

切嗣は怪訝に振り向きざまにセイバーを睨んだ。交わされる言葉はない。

 

「世界の改変、人の魂の変革を、奇跡を以て成し遂げる。僕がこの冬木で流す血を、人類最後の血にしてみせる。そのために、たとえ『この世全ての悪』を担うことになろうとも──構わないさ。それで世界が救えるなら、僕は喜んで引き受ける」

 

そう言い残すと久宇舞弥が運転する車に乗り込み、その場を離れていってしまった。

 

「──! アイリスフィール!」

 

切嗣がその場を立ち去ったのを確認すると、アイリスフィールは顔色を悪くしその場に倒れ込む。セイバーはその身体を支えるが返事はなかった。

 

 

 

 

────────

 

令呪による強制転移によって辛くも戦場からの帰還を果たしたランサー陣営。しかしそれは同時にランサー陣営の敗退を意味していた。ケイネスを庇って負った傷は想像以上に深くランサーの霊基を抉っていた。ランサーも一瞬の怯み、そして迎撃か否かを迷った中での行動であり、不本意ではあるが戦いという勝敗においては敗北してしまった。

 

「──申し訳ありません、主よ。貴方様に聖杯を捧げることが出来ず……」

 

「──これは私の決定の末の結果だ。やはり退避するべきだった。私のミスだ、お前に落ち度はない」

 

ケイネスの言葉にディルムッドは押し黙る。

非難は覚悟していた、しかし飛んできたのは自らを慮った言葉だった。

 

「──ケイネス様、ソラウ様。至らぬこの身に数々の支援と慈悲あるお言葉、このディルムッド、至上の喜びにございます……」

 

「──ディルムッドよ。お前を召喚したのはアクシデントから来る偶然だった。──だが今となってはお前を召喚出来て良かったとすら思っている」

 

「──! あ、あるじ、よ……わたしは忠義を果たせたのでしょうか……?」

 

「主人を置いて先に逝く点は不忠だが、お前は主人の命を守ったのだ。そこは誇ってよい」

 

「──わたしは、貴方に出会えて、よかった……」

 

「──最後の令呪をもって命ずる。ディルムッドよ、せめて楽に逝け」

 

ケイネスが第三の令呪を唱えるとディルムッドの身体から痛みだけが引いていく。生前、仕えた王に見殺しにされた最期を遂げたディルムッドは今生の主に救われる形で消滅していった。

 

「──全く、私ともあろう男が──何なのだこの感情は。聖杯も手に入れられず、敗北したというのに、この満ち足りた感覚は」

 

「ケイネス……」

 

「──帰ろう、ソラウ。別に逃げ出す訳じゃない。ランサーの犠牲を無駄にするのは魔術師としての心理としてだな……」

 

「はいはい分かってますよケイネス」

 

ケイネスとソラウは教会へ聖杯戦争の敗退を告げると時計塔へと帰還して行った。経歴に付いたのは箔か、はたまた経験という名の財産かはケイネスのみが知るところだ──





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