陰の実力者は聖杯戦争に巻き込まれて!   作:リゼロッテ

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更新ペースは大体これくらいだと思って頂けたら幸いです。
皆さんドエムケツハット好きですねえ。


18話 陰の実力者は修羅場を回避したくて!

 

衛宮切嗣は自身が用意した隠れ家である古民家の一角にある土蔵に来ていた。土蔵の扉を特定の間隔と回数で叩くと中からは久宇舞弥が応対する。

 

中に入るとそこにはアイリスフィールが身体を横にして休んでいた。既に三体の英霊の魂が入ったその肉体が人としての形を保っているのは奇跡でしか無く、自ら動くことすら難しくなっていた。

 

 

「──ああ、切嗣だ……夢じゃないのよね……? 本当にまた会いに来てくれたのよ……」

 

「──あぁ、勿論だよ」

 

切嗣の表情は一段と険しくなる。これが夫婦の交わす最後の会話であるかように二人は一言一言を拾い上げる。

 

「──最後にこれを返さないとね」

 

そう言うとアイリスフィールは自身の身体からセイバーの礼装である「アヴァロン」を取り出す。

 

「──この『アヴァロン』はあなたにこそ必要なもの。あなたが最後の戦いに挑む時、きっと役に立つ」

 

「──私はね……幸せだよ……恋をして、愛されて、夫と娘と、9年も……あなたは全てを与えてくれた……空っぽだった私に、望むべくも無かった私にこの世の幸せの全てを……」

 

「──済まない。君にはもっと外の世界を見せてあげたかった」

 

「──ううん、もういいの。わたしが取りこぼした幸せがあるなら……残りは全部、イリヤにあげて。あなたの娘に──私たちの、大切なイリヤにいつかイリヤを、この国に連れてきてあげて。あの子に、私が見られなかったものを全部……見せてあげて。サクラの花を、夏の雲を……」

 

「──分かった。──じゃあ、行ってくるよ」

 

「──はい。お気をつけて……あなた……」

 

切嗣はセイバーの鞘を抱えて土蔵を後にした。その顔付きは覚悟を決めていた。

 

「──僕はこれから遠坂時臣を仕留める。君は引き続き、アイリの警護を頼む」

 

「──分かりました。……あの、切嗣。──やっと戻りましたね、昔の貴方に」

 

切嗣はただ振り返るだけに留め、歩みを進めたのだった。

 

 

 

───────

 

 

遠坂邸の書斎を位置取れる木々の中で衛宮切嗣は狙撃の構えを取る。しかしその中である異変を感じる。

 

(──結界が機能していない)

 

遠坂邸は西洋風の建物で品のある趣きの外観だが、来客は歓迎していない。幾重にも張られた魔術結界は本来ネズミ一匹通さない。

 

しかしその庭にはカラスの存在が確認され、やや荒れた印象を受ける。魔術結界を突破するには自力による突破か術者の無力化が基本である。聖杯戦争が大詰めを迎えるこの局面で自ら魔術結界を解除する魔術師は居ない。それはつまり、遠坂時臣の身に何かがあったことを示していた。

 

切嗣は慎重に遠坂邸へと侵入するが誰一人として迎撃に来ない。家族を避難させているのは知っているが、時臣がこれほど容易く侵入を許している事実が予感を更に確信へと変えていく。

 

時臣が居ると仮定していた私室へと入ると、その床には只事ではない血溜まりがあった。

明らかに致死量の出血をしたであろう跡。

 

切嗣は冷静に地下工房へ向かい、時臣のサンプルを確認すると血溜まりに特殊なスプレーを吹きかける。男性の血液や汗に反応する代物で時臣のサンプルとその血溜まりの反応は一致した。

 

(──亡くなったのは遠坂時臣で間違いない。ではアーチャーは、言峰綺礼はどこへ行った?)

 

切嗣にとって遠坂時臣は始末すべき対象であったため、それが亡くなったことは喜ぶべきことだが、同時にとてつもない悪魔が目を覚ましたような感覚に襲われていた。

 

 

───────

 

昼間の散策から帰ってくるとマスターが何やら荒れていた。

 

「──今更何の用だ、ふざけるな!」

 

マスターは手紙のようなものを破り捨てるとそのまま二階へ行ってしまった。ぼくはその破り捨てられた手紙をこっそり読んでみることにした。プライバシー? 証拠隠滅で燃やさないのが悪いから気にしないでおこう。

 

そこに書かれていた内容を要約すると遠坂時臣がこの前の戦いも含めてもう一度話し合わない?というものだった。

 

この前の戦いについては全く記憶にない、マスターがぼくに内緒で遠坂時臣とバトってたってことかなぁ。よく分かんない。

 

そんなことより重要なのは話し合わないかという明らかに怪しい誘い方についてだ。

 

あんな短剣を用意してるくらいだしマスターを行かせるのは良くない、そもそもあの怒り方だと絶対行かないだろうし。かといって誘いを無視するのも何となく美学に反する、うーん

 

あ、そうか。ぼくが行けば良いのか。ぼくからマスターのストーカーは辞めて下さいって言えば万事解決だよね。ちなみに時間は……今日の0時かぁ。暇だし行って来るか。マスターの身を守るのも一応はサーヴァントの仕事だしね。

 

 

 

 

───────

 

シャドウは夜0時に冬木教会を訪れる。マスターの代わりに時臣と話すためだ。本来サーヴァントが教会に近づくことはルール違反だが、もはやそれを咎めることは詮無きことだろう。

 

シャドウが扉を開けるとそこには遠坂時臣が座っていた。こちらを振り向くこともなく招待側にも関わらず応対する素振りを見せない。

 

「あの〜マスターの代わりに来たんですけど、あんまりストーカー紛いなことは辞めてくれますか?」

 

歩みを進めながらシャドウは問いを投げかけるがやはり時臣からの反応はない。そこでシャドウは異変に気付き、時臣の身体に触れる。すると肉体は力無く倒れ、そのまま床へと打ちつけられた。

 

「──死んでる。なんでだ?」

 

時臣の身体には鋭い何かで貫かれた後があった。これは雁夜がやったものである訳も無く、自分がやって記憶にない訳でもない。第三者によるものだと、そしてその第三者がこの面会を仕組んだのだとシャドウは直感した。

 

そしてこのタイミングで思わぬ来客が現れる。

 

「──誰……? あなたは一体……?」

 

その声の主は遠坂葵だ。恐らくは第三者による仕込みなのだろう。でなければタイミングがあまりにも出来過ぎている。既に事切れた時臣の目と葵の視線が合い、葵は状況を把握できないながらも理解し狼狽える。

 

「──ええっと、どちら様?」

 

相手からの質問に質問で返すシャドウ。

 

「──わ、わたしは遠坂葵、時臣さんの妻です」

 

「──時臣の、妻?」

 

シャドウは思考する。召喚時の雁夜の言葉、時臣に対する執着、それら点が線で繋がった感覚があった。

 

「──あぁ、マスターの痴情の相手かぁ」

 

「──ま、マスター……? もしかして雁夜くんの……? あなたが、あなたが雁夜くんの命令で時臣さんを殺したの!?」

 

「──なんのことだ?」

 

「──恍けないで! 雁夜くんが時臣さんを恨んでいるのは知ってるのよ! それとも雁夜くんがやったの!?」

 

「──女。自分の見たいように世界を見るのは辞めろ」

 

葵の前に居たのは謎の少年ではなく、フードを被り、唯ならぬオーラを発するサーヴァント、シャドウそのものだった。葵はその赤く光る目と言葉の強さに気圧されている。

 

 

 

夜0時を少し回った頃、雁夜は冬木教会へ向けて走っていた。一度は破り捨てた招待の手紙、しかし冷静に頭を冷やして考えると中立地帯である教会で戦闘が起こる可能性は限りなくゼロに近い。話し合う事は無くとも一体何を今更こんな場を設けたのかは気になった。そしてその行動はプライドの高い時臣らしくないと判断した雁夜は遅れながらも面会に応じようと考えた訳だ。

 

雁夜が教会に着くとその扉は既に開けられており、そこには見慣れた服を着た女性が居た。

 

「──あ、葵さん……?」

 

背後から現れる雁夜に怪訝な表情を浮かべる葵。シャドウはフードで顔を隠しつつもあちゃーというような表情をしていた。

 

「──雁夜くんなの? 時臣さんを殺したのは? それともあそこに居る彼に頼んだの?」

 

「はぁ!? 時臣が殺されたって、なんで……」

 

雁夜にとっても寝耳に水なことだ。教会の奥側に行くとそこには確かに時臣の亡き骸があった。最後に交わした言葉も対峙したことも覚えている仇敵の最期に雁夜は流石に驚き狼狽える。

 

「──これで満足? 雁夜くん……これで聖杯は間桐の手に渡ったも同然ね……」

 

「ち、違う!俺は殺してない! そもそも時臣が桜ちゃんを間桐に養子に出すのが悪いんだ! あいつは人間の皮を被った人外だ、報いを受けて当然の男だ!」

 

「ふざけないで! 私から桜を、時臣さんまで奪っておいて。あんたに、あんたなんかに時臣さんの何が分かるって言うのよ!」

 

葵は魔術師である遠坂時臣の妻として時臣の非人間的な価値観を理解しているつもりだった。それでも時臣を盲目的と言って良いほど愛していた。桜の件も時臣の下した決定に従いつつも魔術師の家の定めに心は軋んでいた。そして目の前に広がる光景はそんな軋みを完全な断裂に至らせるには十分過ぎた。

時臣の亡き骸とその側に居るサーヴァントとそのマスターである間桐雁夜。彼女の幸せを見る影も無く崩れ去った、もはや冷静な判断はおろか、言葉一つ彼女には届かないだろう。

 

「──お、俺は葵さんに幸せになって欲しかっただけだ……その幸せを時臣が壊したのに……何故……」

 

「あんたに私の幸せの何が分かるって言うのよ、分かったようなこと言わないでよ! あんたなんか……誰かを好きになったことさえないくせにッ!」

 

雁夜の中で何かが弾ける音がした。その言葉は葵が自分と時臣の世界から自らを完全に閉め出していることが分かるものだった。葵の幸せの輪の中に自分は決して入れない。近づくことはあっても決して交わらない平行線。

 

かつて好きな人が居た。温かくて、優しくて誰よりも幸せになって欲しかった。だからこそ、痛みにも耐えて耐えて耐えて耐えてきて聖杯戦争に臨んだ。否定されていいはずがない、今までの自分の行いも戦いに挑んだ理由も貶されることは許せない。

 

雁夜は魔術師の家に生まれ、間桐の魔術を嫌悪して一般人となった。価値観は一般人でも魔術師がどれだけ非人間的かは知り得ている。つまり本質的には魔術師であり、葵は魔術師の家に居ながら、本質的には一般人のままだった。聖杯戦争は命の奪い合い、魔術師が競うとなれば、殺し合いは必至な訳だが、それを本質的に理解できている雁夜とそうではない葵との会話の歯車はズレていく。

 

雁夜はバーサーカーの言葉に再び気付かされる。

 

『生きる世界の違う人間に何を問いかけても無意味だ』

 

二人は決して分かり得ないのだと気付いてしまった。最初は同じだったのかもしれない。良き幼馴染として振る舞い、自らの恋心はどこに隠して、唯々彼女の幸福を願った。

だが、今は明確に二人は生きる世界、正確には見えている世界が違うと確信できた。

貴女という光に自分という影は近づけないことを。

 

「──くっふはははははは!!」

 

突如として笑い出した雁夜に葵は不気味そうに引く。渇いた笑い声が教会に響く。

 

「──バーサーカー、彼女を殺せ」

 

「──!」

 

葵は突然の殺害予告に動揺し、心臓の鼓動が早くなる。

 

「──良いのか? その、貴様のあれ、なのだろう?」

 

シャドウは二人の会話を聞いてはいたが内容がイマイチ分からなかったためそれらしい表現で誤魔化す。

 

「──もう俺の戦う理由の半分以上は消えて無くなった。それに彼女は目撃者だ、目撃者は処置をしなければならない。それに俺がいくら違うと語り聞かせても無意味だ。ならもう必要がない」

 

雁夜はそう言うと教会の入り口へ向かっていく。この扉を出ればもう二度と彼女に会うことはない。桜との約束も守れそうにない。いや、そもそもその約束が叶う日なんてどう足掻いても難しかったのかもしれない。許してくれ、桜。

 

立ち去り際に雁夜は消え入るように葵へ言葉を贈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──葵さん、ボクは貴女が好きだったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に葵がハッとしたのも束の間、雁夜は扉を閉じて外へと出て行った。

 

「──女、お前はこの戦いが命の奪い合いだと知っていたはずだ。覚悟なき女に覚悟を決めた男を侮辱される謂れはない」

 

残されたシャドウは葵に向けて自らのスライムソードを構える。この女を殺すことは容易いことだ。如何にして殺すかを考えていた時、シャドウは懐の短剣の存在を思い出しそれを取り出す。

 

「──そ、それは……?」

 

「──時臣の部屋から預かった。やつの短剣で死ねるのなら幸せなんだろう?」

 

「ま、待って、辞めて、お願い、だから……」

 

そんな命乞いを聞くはずもないシャドウは葵の心臓目掛けてダーツの要領でアゾット剣を投げる。剣は的確に心臓を貫き、声を上げる間も無く、彼女の意識は消え果てた。

 

(うーんブルズアイにヒット! ただ汚れちゃったし回収は辞めとくか。一応彼の物だった訳だし、返したってことで良いよね)

 

そのままシャドウはアゾット剣をそのまま放置して教会を立ち去った。

 

 

静まり返った冬木教会に残されたのは遠坂葵だったモノとこの様子を上からずっと鑑賞していた言峰綺礼とギルガメッシュだった。

 

「──ハッ、招かれざる舞台役者の乱入があったとはいえ、まあまあの喜劇であったな」

 

ギルガメッシュはワインのグラスを口に運ぶ。

 

「──どうだ綺礼、感想は?」

 

綺礼は同じくワインを口に含むと一気に飲み干した。

 

「──酒の味とはいうのは、案外化けるものだな」

 

「フッフッフ、お前も見識を広める事の意味を理解したようだな」

 

「──これほど美味いと感じる酒ならば、是非また、飲んでみたいものだ」

 

二人の愉悦が誰も居ない教会で繰り広げられる中で綺礼はアゾット剣を回収にし向かう。

 

「──にしてもその短剣、あの道化が拝借していたとはな。つくづく面白いやつよ」

 

「──元は私に対して贈られた品だ。これは私が頂くとしよう」

 

「──良かったのか綺礼?その女を見殺しにして。確か時臣が言っていただろう、後見人だとかなんとか」

 

「──フッ、私が預かったのは()()()()についてだ。それ以外のことは私の預かり知らぬことだとも」

 

「くっははは! そうでなければなぁ綺礼」

 

誰も知らぬ冬木教会での劇場は閉幕したのだった

 

 

 

 

 





葵さんに酷くねとも思ったけど、原作も中々酷いから許して。
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