「問おう、貴様が我のマスターか?」
その問いかけを聞いた瞬間、間桐雁夜は2つの意味でやってしまったと思った。1つは雁夜の付与した「狂化」はサーヴァントのパラメーターを上昇させる代わりに思考や言語能力を低下させるものだ。本来ならここまで流暢な問いかけは返って来ない。
そしてもう1つは召喚したサーヴァントが少年だったからだ。全身黒の服を纏い、フードを被ってはいるが、年齢は15歳くらいだろうか。
見たこともない子供を呼び出してしまい雁夜は不安に駆られていた。
そんな雁夜をシャドウこと、シド・カゲノーは不思議そうに見つめていた。
(あれ?何で何も反応しないんだ?
多分だけど、この顔色悪そうな人が僕のマスターだよね。何か妙に薄暗いし、僕の姿が見えないのかな)
反応を示された理由などいざ知らずシャドウは更に問いかけを続ける。
「もう一度問う、貴様が今宵、聖杯の寄るべの元に我を招き入れた契約者か?」
その言葉で雁夜を現実に引き戻される。
「狂化」には失敗したが、確かにサーヴァントは呼び出せされたのだと。そしてそのサーヴァントは確かに自分をマスターだと認識していることを。
「そ、そうだ、私が…いや俺がお前のマスターだ!」
「良かろう。ここに盟約は成った。これより我が剣は貴様のものであり、貴様の命運は我のものだ」
バーサーカーとは思えないほど流暢に話す少年を見て不安が口から出そうになった。
しかしその少年のステータスを確認した瞬間、雁夜はその不安が間違いであったと認識した。いや寧ろ不安を抱いたことが失礼に値するのではと考えるほどだった。
筋力:A 耐久:A + 敏捷:A
魔力:EX 幸運:A + + 宝具:C+
ほぼ全てのパラメータがA以上、魔力はバーサーカーでありながら規格外を示すEX。ステータスだけなら最強と言って良いだろう。
そんな驚きで沈黙した空気を近くにいた怪物、間桐臓硯の嘲笑めいた声が切り裂いた。
「カカカ……雁夜よ。貴様の才に多少なりと期待はしておったが、とんだ肩透かしよの。素性も知れん小僧を呼び出すとはな」
「黙れ…ジジイ!」
臓硯の言葉に一瞬イラッとした雁夜だったが、このステータスを見る限り自分の召喚は成功していた。或いは成功し過ぎていた。
そしてシド・カゲノーはそんな雰囲気はお構いなしに別のことを考えていた。
(一応マスターに認識はされたし一先ずはOKかな。にしてもマスターは明らかに魔力が乱れてるし隣のお爺さんは魔力が汚いんだよなぁ。歪というか醜いというか。
ん?もしかしてあれは悪魔憑きなんじゃないか?悪魔憑きって女性しか発症しないはずなんだけど、新しい症例かな?実験してみたいなあ)
「…醜いな、貴様の魔力は」
「なんじゃと…?」
「複数の魔力が入り乱れている。暴走しては死に、また生まれるを繰り返す。酷く憐れで歪な魔力だ」
「カカカ……使い魔風情がこの儂を愚弄するか。戯言も大概にせよ小僧……」
「悪魔に憑かれし憐れなる者よ、今から貴様を救済してやる、有り難く思え」
するとシャドウは悪魔憑きを治療する要領で魔力を臓硯に向けて流し込んだ。
「な、なんじゃぁ!?貴様、儂に何をしたぁぁぁ、あああ肉体がががぁぁぁぁぁ!!!」
臓硯はシャドウの紫を帯びた魔力に触れると突如として踠き苦しみ始めた。悪魔憑きによって変化した肉体を魔力の流れを制御することで治療するのが、本来のやり方なのだが、全身が変化した肉体である臓硯にそれをやれば……
結果は火を見るより明らかだった。
臓硯の肉体は自我も形も保てないまま息途絶えたのだった。500年以上生きながら得た化け物の最後は全身が化け物であったが故だった。
この様子を驚き、唖然した表情で見つめていたのは間桐雁夜
……そしてシャドウこと、シド・カゲノーだった。
(え?あのお爺さん消えちゃったんだけど!?
いやいやいや、ちゃんと治療したよ!
アルファたちにやったみたいにさぁ
……多分あの人ここの家主だよねえ、マスターに怒られちゃうかな)
「お、お前、臓硯をどうしたんだ…まさか、殺したのか…?」
(ほら!やっぱり怒ってるじゃん
汚い魔力だったし死んだのはどうでも良いけど、正直マスターが機嫌損ねるのは面倒なんだよね)
無言でただ佇み予想外の出来事に困惑するシャドウに詰め寄る雁夜は驚きと同時に感謝を告げた。
「よくやってくれたバーサーカー!
あの男はこれまで何人もの人間を食って生き続けてきた化け物だ、殺されて文句は言うやつは居ない、寧ろ感謝したいくらいだ!」
(あれ?怒ってない、何故か感謝されてるなぁ。まあいっか、マスターの機嫌が良いならこっちも色々と自由にやれそうだし)
「ああうん、気にしないで良いよ」
「……お前もしかしてそっちが素か?」
「まあね、あ、でもこれは秘密ね。陰の実力者的にはバレると色々マズいから」
「陰の実力者…?まあ分かった、とにかくお前を召喚できたのは運が良かったよ」
「ところでマスターは随分弱ってるね。魔力も乱れてるし、悪魔にでも憑かれてる?」
「──! あぁ、悪魔といえば悪魔かもしれん
俺は即席の魔術師だから身体の中に刻印虫を入れてるんだ。それで身体はこんな状態なんだ……」
興奮が収まり、雁夜は力無く地面に座り込む。確かに強力なサーヴァントを呼び出し、最大の難敵だった臓硯も死んだ。しかし満身創痍の自分とこれだけのサーヴァントの魔力をどう工面するかという現実が襲ってきたのだ。
するとシャドウは雁夜の身体を魔力で包んだ。臓硯にしたことと同じことをした。すると体内の刻印虫が死んでいくのが雁夜自身にも分かった。身体の欠損が回復し1年前の健康体へと戻っていく感覚が確かにあった。
「……これがお前の魔力なのか…?」
「うん、まあなんか苦しそうだったし」
「済まないバーサーカー、恩に切る」
刻印虫が身体から消え去り、肉体も回復したはずの雁夜の身体に刻印虫とは違う痛みが走った。
「な、何だこの痛みは!?
ま、まさか魔術回路が開いたのか?」
魔術回路を開きそこに魔力が流れるとショートしたような痛みが走ることを雁夜は知っていた。ただ刻印虫に身体を食い破られる痛みに比べればまだ耐えられるものだった。
それどころか、刻印虫によって急造された魔術回路とは比較にならない魔力が身体を巡っているのを感じた。
「これもお前の魔力なのか?こんな感触生まれて初めてだ、これならお前の魔力供給もそこまで問題じゃない」
「我が魔力をその身で受けたものは想像し得なかった己に出会うことができる。だが貴様の場合、努力を重ねてきた結果だろう」
「努力…?俺は魔術から逃げた男だ、努力らしい努力なんて……」
「貴様が何故この戦いに身を投じたかは知らんが、ここまで来るのは決して平坦な道のりでは無かったはずだ。貴様は自分の努力を誇っても良い」
その言葉に雁夜は思わず感涙の目を浮かべる
拷問のような修練と痛みに耐えてきた自らの1年は決して無駄では無かったと、報われた気分だった。だがシャドウの言った「何故この戦いに身を投じたのか」この一言で雁夜は自らの目的を改めて認識した。
「そうだ!バーサーカー、桜ちゃんが!
桜も救ってくれないか!?」
「桜?それは少女か?悪魔憑きなのか?」
「ああ、女の子だ。臓硯の虫たちに身体を蝕まれている。助けてあげて欲しい」
(やっぱり女性の悪魔憑きも居たんだ。この世界も随分と荒れてるなぁ)
「良いだろう、案内しろ」
その言葉にホッとすると雁夜は桜の居る部屋へとシャドウを案内した
シャドウの解像度がイマイチ分かりません。