陰の実力者は聖杯戦争に巻き込まれて!   作:リゼロッテ

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批評は甘んじて受け入れます。完結までお付き合い頂ければ幸いです。


20話 最果ての先に

 

衛宮切嗣が向かっていたのは冬木市民会館。

信号が上げられた方角であることもそうだが、切嗣はずっともう一つの霊脈がある場所に構えていた。しかし一向に現れる気配が無いまま時間は夜、即ち戦いのターンへと移っていく。

 

(──舞弥からの定時連絡が途絶えた。何者かによって排除、あるいは連絡を取れない状況に陥ったと見るしかない。言峰綺礼が事を起こしたのならアイリはもう……)

 

最後に睡眠をとってから40時間の身体を前に進めながら最後の闘いへと思考する。

 

(──セイバーの左手があるとはいえ、アーチャーとバーサーカーは一筋縄ではいかない相手だ。それに言峰綺礼、奴の腹の底も見えない──これが最後の戦いになるのならぼくは……)

 

 

 

───────

 

間桐邸の中から信号を確認した雁夜とシャドウは玄関口で最後の作戦会議をしていた。作戦会議なんて今までしてたか、という野暮な話はさておき今夜で決着するという空気感を二人とも感じていた。

 

「──顔色が悪いぞマスター」

 

「──済まないバーサーカー。一先ずは大丈夫だ」

 

「──その、桜には…「言える訳無いだろ……そんなこと」

 

直接手を下したのはシャドウだが、それを命じたのは雁夜自身だ。無論あのまま何もせず立ち去ったとしても遠坂葵が無事に帰れる保証など無い訳だが、自らの手でかつての想い人であり、桜の母を殺してしまった十字架に苛まれていた。

 

「──そうか、もう最後なんだな。──俺はもう進むしかない。戻る道など焼き尽くしたからな。最後まで頼むぞバーサーカー」

 

「──無論だ」

 

「そう言えば、お前の聖杯に託す願いって何なんだ? 聖杯に呼び出されてるってことは願望はあるんだろう?」

 

「──我があれに願うことはない。あれで叶えられるものに意味などない」

 

「──じゃあお前は一体何が目的で…「シド兄さん!」

 

「──! さ、桜ちゃん……」

 

第六感か何かの予兆を感じたのか桜はシャドウと雁夜の元へ駆けてくる。その目は悲しそうにシャドウを捉える。一方で雁夜は葵の一件もあって後ろめたそうにしている。

 

「──桜ちゃん。ぼくはこれから最後の戦いがある。だから最後に覚えておいて欲しいことがあるんだ」

 

「──最後? さ、最後なんて……そんな……」

 

「──君がその道を征くのなら、自分の魔力を完全に支配することが大事だ。陰を怖がるのでは無く、陰そのものになることを心掛けるといいよ」

 

桜は黙ってシャドウの言葉を聞く。一言一句逃すまいと真剣な眼差しを向けている。

するとシャドウは桜の手を握る。実際には桜が付けている指輪なのだが、桜は恥ずかしそうに赤面している。

 

シャドウは指輪に魔力の一部を込め始める。その魔力はやがて桜の身体を包むように燃え上がり、揺らめき、そして消えていった

 

「──君が目指す道に幸あれ」

 

そう言い残すとシャドウはそのまま間桐邸に別れを告げる。向かう先は冬木市民会館、信号が上げられた方角に主要霊脈地だ。

 

(いやぁいい感じに決まったんじゃないかな!この世界にも陰の実力者の種がすくすくと育っててぼくは嬉しいよ。あの子、魔力も多いし、ぼくの指輪をいつの間にか盗むしでポテンシャル高いよねぇ。時を越えて陰の実力者がぶつかる、なんて展開も面白そうだし。それはそうとあの子はなんで顔が赤かったんだろう、風邪でも引いたのかな?)

 

 

 

 

──────

 

イスカンダルとギルガメッシュが冬木大橋で対峙する。互いに歩みよって行ったかと思えば、いきなり一杯酒を注ぎ口に含む。ウェイバーは「酒宴でもやるのか」とやや呆れ顔だ。

 

「──我の決定を忘れたか? 貴様は万全の状態で倒すものと告げておいたはずだが?」

 

「確かに今の余は消耗しておる。──だが、今宵のイスカンダルは完璧ではないが故に完璧以上なのだ」

 

「──なるほど。確かに充溢するそのオーラ、いつになく躁狂だ。フッ、どうやら何の勝算も無く我に挑む訳ではないらしい」

 

二人は酒を酌み交わす。

 

「──最後に一つ、宴の締めの問答だ」

 

「許す、述べるがよい」

 

「──例えばな、余の『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』を貴様の『王の財宝(ゲートオブバビロン)』で武装させれば間違いなく最強の兵団が出来上がる」

 

「フンっ、それで?」

 

「改めて余の盟友にならんか? 我ら二人が手を組めば、きっと星々の果てまで征服出来るぞ!」

 

そんな子供が夢を語るようににキラキラした顔でイスカンダルは言い放った。

 

「フ、フフハッハッハッハハ!! 熟愉快な奴よ。道化でも無い奴の痴れ事でここまで笑ったのはいつ以来か──生憎だがな、我が朋友は後にも先にもただ一人のみ。そして王たる者もまた二人は必要ない」

 

「孤高なる王道か。その揺るがぬ在り様に余は敬服を持って挑むとしよう」

 

「よい。存分に己を示せよ、征服王。お前は我が審判するに値う賊だ」

 

二人は互いに橋の端まで引き返していく。杯を投げ捨て背を向け、最後の戦いなのだと分かり合ったように。

 

 

「──お前ら、本当は仲が良いのか?」

 

「──邪険にできる訳も無かろう。余が生涯最後に矛を交える相手になるかもしれないのだ」

 

「──バカ言うなよ……お前が殺されるわけないだろ!承知しないぞ!ボクの令呪を忘れたか!!」

 

「──そうだな──そうだったな。その通りだ」

 

イスカンダルは剣を空高く掲げ、勇ましく声を張り上げる。

 

「──集えよ我が同胞! 今宵は我らは最強の伝説に勇姿を示す!」

 

イスカンダルの固有結果が発動し、辺りは砂漠の荒野に姿を変える。征服王に仕えた誰もが心に焼き付けた心象風景は一片の曇りもなくそこに顕現する。

 

「──敵は万夫不当の英雄王、相手にとって不足なし! いざ益荒男たちよ、原初の英雄に我らが覇道を示そうぞ!」

 

「「「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」

 

地響きのような雄叫びが荒野に響き渡り、イスカンダルの掛け声と共に勇士たちは疾走する。猛々しい声を挙げ、人類最古の英雄に真正面から立ち向かっていく。

 

「──来るがよい、覇軍の主よ。今こそお前は真の王者の姿を知るのだ」

 

 

 

 

 

「AAAAAALALALALALAie!!」

 

イスカンダルの叫び声に兵たちは続く。しかしその先に立ちはだかるのは原初の英雄、バビロニアの王、そして世界の全てを見た存在であった。

 

 

「──夢を束ねて覇道を志す。その意気込みは買ってやろう。だが兵どもよ、弁えていたか? 夢とはやがて悉く、醒めて消えるのが道理だと」

 

ギルガメッシュは自身の宝物庫から最上の武器を取り出す。赤い刻印のようなものが現れたかと思えば、その光は収束し剣の形を模していく。

 

「──なればこそ、お前の行方に我が立ちはだかるのは必然であったな。征服王、さぁ見果てぬ夢の結末を知るがいい。この我が手ずから理を示そう」

 

「──さぁ! 目醒めのエアよ! お前にふさわしき舞台が整った!」

 

いざ仰げ! 天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)を!

 

 

「乖離剣エア」

 

ギルガメッシュだけが持つ「神造兵装」であり、剣の形こそしているが、本質は現代の杖に近い。赤い光を放つ文様を備えた三つの円筒が連なった見た目は独特の美しさを内在している。

 

イスカンダルはその威力に身構え飛翔する。しかしエアから放たれた衝撃波が世界を揺らし、大地を割る。地面は砕け、空は堕ち、歴戦の勇士たちは大地の崩壊、即ち世界の崩壊に飲み込まれていく。

 

ウェイバーはそのあり様を言葉に出来ず狼狽えるが、イスカンダルの顔は無表情。無念としか言いようがない。口を硬く結んで死にゆく同胞を振り返ることはしなかった。

 

 

「対界宝具」

 

森羅万象、世界を崩壊させるその宝具と固有世界を作り出すイスカンダルの宝具。

結果は火を見るより明らかだった。

 

イスカンダルの世界は終わり、ブケファラスとイスカンダル、そしてウェイバーだけが元の世界に取り残された。ウェイバーは不安そうにライダーを見つめる。

 

 

 

 

「──そういえば一つ聞いておかなくてはならないことがあったのだ。──ウェイバーベルベットよ、臣として余に仕える気はあるか?」

 

その言葉にウェイバーは涙交じりに答える。

 

「──あなたこそ、あなたこそ僕の王だ……あなたに仕える。あなたに尽くす。どうかボクを導いてほしい。同じ夢を見させてほしい……」

 

「うむ、よかろう」

 

 

「夢を示すのが王たる余の務め。そして王が示した夢を見極め、後世に語り継ぐのが臣たる貴様の務めである」

 

ウェイバーを馬から下ろすとイスカンダルは満面の笑みで続ける。

 

「生きろ、ウェイバー。すべてを見届け、そして生きながらえて語るのだ。貴様の王の在り方を。このイスカンダルの疾走を」

 

ウェイバーは目を伏せる。そこにあったのは絶望か喜びか悲しみか定かではない。それでもこの王を臣と見送らなければならない。

 

「─────さぁ、いざ征こうぞブケファラス!」

 

「ライダー!」

 

 

彼方にこそ栄えあり。

届かぬからこそ挑むのだ。

覇道を謳い、覇道を示す。

この背中を見守る臣下のために!

 

ライダーの最後の戦いにウェイバーは涙を拭きしっかりと目に焼き付ける。

 

 

イスカンダルは勇ましい雄叫びと共にギルガメッシュへと挑む。ギルガメッシュの王の財宝がブケファラスとイスカンダルを捉える。

 

愛馬を失おうと構わずイスカンダルは向かっていく。肩を撃たれ、脇腹を抉られ、太腿を刺されようとその疾走が止まることはない。

 

そして、遂に自らの剣がギルガメッシュに届く場所まで辿り着いた。イスカンダルは最後の力を振り絞り、剣を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

その一撃が届くことはなかった。その寸前で鎖によって動きを封じられる。

 

天の鎖(エルキドゥ)

 

神性を持つ者ほど縛られる特殊な鎖。イスカンダルはゼウスの子孫であるという逸話があり、神性を持ち合わせていた。故に鎖の拘束から逃がれられないの必然だった。

 

「───貴様……次から次へと、珍妙な、ものを…… グフっ!?」

 

乖離剣は深々とイスカンダルを貫いた。最後は至宝たるエアによるトドメであった。

 

 

「──夢より醒めたか?征服王。」

 

「──────あぁ……此度の遠征もまた存分に…心踊ったのう……」

 

「──また幾度となりとも挑むといいぞ、征服王。時の果てまでこの世界は余すことなく我の庭だ。故に我が保証する。ここは決して其方を飽きさせることはない」

 

 

 

 

───そうか、この胸の高鳴りこそがオケアノスの潮騒だったのか

 

 

 

 

イスカンダルは消滅した。その生き様と散り様は征服王として誇り高い最後としてウェイバーは生涯刻み付ける。

 

 

イスカンダルが消えた後、ウェイバーの元へギルガメッシュが歩み寄る。

 

 

 

「──小僧、お前がライダーのマスターか?」

 

「違う、僕はあの人の臣下だ」

 

ウェイバーの右手には令呪がない。それはつまりマスター権を手放した証でもある。ギルガメッシュは右手を見ながら「そうか」

と頷くと更に問う。

 

「だが小僧、お前が真に忠心であるならば、亡き王の仇を討つ義務があるはずだが?」

 

「──お前に挑めば僕は死ぬ」

 

「当然だな」

 

「それは出来ない。僕は生きろと命じられた」

 

たた真っ直ぐにウェイバーの視線がギルガメッシュを捉える。恐怖が無いと言えば嘘になる。それでも揺らぐこと無き瞳で見続ける。

 

「──忠道、大儀である。ゆめ、その在り方を損なうな」

 

何かに納得したかのようにギルガメッシュは霊体化して立ち去った。

 

 

ウェイバーは力無く地面に膝から崩れ落ちた。止まらぬ涙が地面を濡らす。

 

ウェイバーベルベットの聖杯戦争は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

セイバーは冬木市民会館の地下駐車場へバイクで乗り入れるとエンジンを止める。

 

バイクから降りると周囲を警戒しながら歩みを進めるセイバー。その行方には因縁浅からぬ相手が佇んでいた。

 

「──久しいな、女」

 

「──ッ! バーサーカー……!」

 

ブリテンの騎士王とシャドウガーデン盟主、共に孤高を選び取り、何かを犠牲にしてきた者たちだ。アルトリアとシャドウ、その在り方も矜持もまるで違うのに根底は似た者同士。始まりは違えど道筋は同じ、されどその結末も信念も噛み合わない二人。

 

二人が抱いているものがあるとすれば「同族嫌悪」だろうか。いや違う。シャドウはセイバーに対して息苦しそう程度の感情しか向けない。セイバーは否定するだろうが、本質的に二人は似ている。だからこそ運命は再び双方を巡り合わせたのだろう。

 

「──女、今一度問おう。貴様が剣を取った理由は何だ?」

 

剣を携えたシャドウが問いの刃を向け、戦いの序曲はメロディを刻み始めたのだった──

 

 





小説を書くのは大変だ……
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