1週間ぶりの更新ですみません。エピローグを除けば一応本編完結です。エピローグは後日談になります(プロローグはまだです)
拙い文章と展開ではありましたが、最後までお付き合い頂きありがとうございました。
23話
「──またこうして君に出会えるとは、これも何かの巡り合わせかな?」
言峰綺礼の視線がシャドウを捉える。己の欲も分からず、ひたすらに時を費やしていた頃、突然の来訪者は己が求めた答えを授けるように口を開いた。彼がサーヴァントだということは分かっていた。一般人を装って中立地帯の教会を訪れる彼の様を言峰綺礼は訝しむことも恐れることも無く歓迎した。
── ぼくにはあります。例え、それ以外の全てを犠牲にしても叶えたい夢が
それだけで十分過ぎた。十分過ぎる言葉だった。誰にも話したこともない自らの歪み、話せるはずもない己の業。だが奴は否定も肯定もせず、言葉を続けた。何処までも不遜で傲慢、なのに否定できない言葉の強さ。おおよそ人として落第した生き方に私は20年以上の問いに解答を得た。
──それが私の業だと言うのなら私はそれを全うしよう。私の業が世界から見た間違いだったとして、私がそれを肯定するなら何の不都合がある?
「──神父さん。貴方はやはりその道を征くと信じていました」
「──そちらの君で良いのかね? 今はシャドウとしての姿では無いか?」
(──この人、ぼくの正体を見破ってる。初めて会った時から陰の実力者、或いはラスボスとしての資質は十分だったけど完全に目覚めちゃったな。こういう人が居るから陰の実力者は辞められない)
「──構いませんよ。貴方はぼくと同じ人間だ。隠すのは失礼だ」
「それは光栄だ。それで? 君はこの後どうするのかね?」
(──この後? あ、もしかして決闘に乱入しちゃったのかこれ。相手は……確か争いの無い世界とか言ってた宗教の人か。まあ不可抗力だし仕方ないね)
「──この聖杯戦争に決着をつけます。貴方も最後まで見届けるのでしょう?」
「無論だ。そのために私はここにいる。──さて、それでは私は一足先に行かせて貰おう」
「──! 待て! この状況で貴様らを見逃すと思っているのか!?」
セイバーがこの場に居ることを忘れたかのように会話をしていた言峰綺礼とシャドウに対してセイバーは待ったを掛ける。言峰綺礼は既に立ち去り始めており、シャドウはそんなセイバーの在り様を心底冷めた目で見つめる。まるでさっきまでの戦いなど無かったかのようにシャドウの興味は聖杯戦争の終幕と言峰綺礼に移っていた。
「──セイバー。貴様にはもう用はない。来るなら勝手にしろ」
そう吐き捨てると自らの剣を投擲する。その先には衛宮切嗣がおり、セイバーはそれを庇うように弾き返す。その一瞬の隙を突くようにシャドウは離脱していく。向かう先は魔力の高まりと強者の匂いを醸し出す場所。
冬木市民会館が誇る大ホールにして霊脈の中心地だ。
「──ほぉ、貴様が先に辿り着いたか。セイバーの奴はどうした?」
「──知らん。あの女が聖杯を求めるならそのうちここへ来るだろう」
「その口ぶりだと貴様も我の聖杯を狙っているようにも見えるが?」
「──その聖杯に興味はない。聖杯で叶えた願いなど虚しいだけだ」
「くっハッハッハッ! そうであろうな! 何故なら貴様の願いなど当の昔に叶えられているのだからなぁ」
「───────どういうことだ? 何を、言っている?」
「なんだ貴様、自覚が無いと来たか。これは熟面白いな。貴様が目指す姿とやらに既に貴様は辿り着いている。そんなことにも気付かず児戯に明け暮れる様は道化そのものだ。──敢えて言おう。
(何を言ってんだこの人。ぼくの願いが既に叶っている? 耳障りの良い冗談だ。そんなことはあり得ない。あり得ないはず……はずだよね? はぁ、こんな下らないことを考えるなんてぼくもまだまだだなぁ)
「下らんな。最早話すことはない。貴様はここで──」
そう言い切る直前に扉が開かれ、正面の入り口からセイバーが現れる。セイバーはその状況を見て臨戦体制に入る。
「ようやく来たか。気狂いの道化と戯れるにしてもこの我を待たせるとは不心得も甚だしい!」
「──アーチャー……!」
「何だその顔は? まるで飢えた痩せ犬。妄執に取り憑かれて尚、美しくすらあるのはどういう訳だろうなぁ」
「──貴様……!どこまで私を愚弄すれば気が済むのだ……!」
その言葉が発せられたとほぼ同時にアーチャーの宝具がセイバーを捉える。被弾したセイバーは呻き声を挙げるが、その目はまだ死にきっていない。
「──セイバーよ。剣を捨て我が妻となれ。聖杯などという下らんものに執着する理由がどこにある? これより先は我のみを求め我のみの色で染まるが良い。さすれば、万象の王の名の元にこの世の悦と快楽の全てを賜そう」
「ふざけるな!断じて私は…… グッ……」
アーチャーの宝具はセイバーを逃さない。その一撃は確実にセイバーの気力と精神を削り取っていく。
「恥じらうとはまた愛い奴め。良いぞ、何度言い間違えようとも許す。我に仕える喜びを知るにはまず痛みをもって学ぶべきだからな」
セイバーとアーチャーのやり取りを何やってのこの人らと眺めていたシャドウの元へマスターである間桐雁夜が現れる。状況を些か理解出来ていないが、中央に置かれた聖杯がここが決着の場だと語っていた。
「──バーサーカー。どうするつもりだ?」
「どうしようかなぁ。──正直に言って悩んでる」
バーサーカーの予想外の台詞に雁夜は驚きを隠せない。雁夜の知るバーサーカーとは常に自信に満ち、何手も先を読む知略と人の心を見透かしたかのような言葉を投げかけるカリスマであった。そのバーサーカーが初めて見せる弱気とも取れる発言に雁夜は逆に問いただす。
「──お前らしくもない。お前が最初に俺に言った言葉を今返してやる。『
「──全く。ぼくもまだまだだったなぁ。こんな姿をアルファたちに見せたらきっと幻滅されちゃうな。──ありがとうマスター。そして多分さようなら。最後に令呪でぼくを助けて欲しい」
「──なんださようならって……お前! 桜ちゃんはどうするんだ! あの子はお前に……」
「──君が側に居てあげて欲しい。君は『資格なんてない』とか言いそうだけど、君が彼女の幸せを願っていた事実は変わらない。彼女はもう自分の幸せの在処を知ってる。ただそれを見守って欲しい」
雁夜は言葉にならない声を挙げると黙ってそれを受け入れる。右手を翳すと令呪が赤く光る。
「──令呪をもって命ずる! バーサーカー! お前の征きたい道を征け!」
「更に重ねて令呪をもって命ずる! お前の最後の輝きを俺に見せろ!」
「──最後の令呪をもって命ずる……我が盟友に勝利の道を齎せ!」
全ての令呪が消失し、シャドウの肉体を魔力が駆け巡る。魔力が自信を呼び覚まし、傲岸不遜な陰の実力者シャドウは最盛を迎えた。
「──なんだバーサーカー? 婚姻の参列者とはいえ貴様の出る幕はもう終わったはずだが?」
そんなものは関係ないと言わんばかりにシャドウは愉悦に満ちた表情で魔力を練り上げる。シャドウの魔力が囲うようにしてボール全体を包み込む。当然聖杯もその中に含まれていた。
「何!? バーサーカー! 貴様何の真似だ!?」
「──アーチャー。貴様の問いに答えよう。願いが叶ったか否かを決めるのは我だ。それ以外の不純物など不要だ」
「おのれ貴様! 我が婚姻を邪魔立てをするかあ!」
アーチャーがバーサーカーを向いた隙を付くようにセイバーは全ての魔力を剣に集中させる。鎧も解き、全ての魔力をこの一撃に込める。それ以外に勝機は無いと英雄としての直感が告げていた。
「時は満ちた」
「我が真髄の果てを知るがいい!」
「地を砕き、天を穿つ」
「我が至高にして究極たる、最強無比の一撃を!」
シャドウの詠唱が始まるとセイバーの左手はが光り、正真正銘最後の宝具が放たれる。魔力もほとんど使い尽くした一撃がシャドウの宝具と再び衝突する。
「アイ」
「アム……」
「アトミック」
その一撃は未遠川でのものを遥かに凌駕しており、セイバーの
だがその判断すら遅かった。シャドウの
聖杯に詰まった泥が爆発によって剥き出しになった大地から外へと零れ落ちた。セイバーの魔力の大半を使い尽くした肉体が泥の汚染に耐えられるはずもなく、そのまま消滅した。
(あーこれが聖杯の中身か。何となく嫌な予感だけはしてたけどこれは何ともなぁ。──さてどうしようかな。まあ抗うのは簡単だけど実際のところ、この戦争も終着駅に送るべきなんだよね)
聖杯の泥の濁流の中でシャドウはそんなことを考えていたがその中で何かが、或いは誰かが声を掛けて来たのだった。
『お前さんこの中で生き残ってるってもしかして同業者だったりする?』
「──君は……所謂、悪の枢軸ゾイ的な人?なんかめっちゃ弱いね」
『その例えはよく分からんが、ホイっと呼ばれて即参上! 最弱英霊アヴェンジャーとは俺のことだ!」
「アヴェンジャー? 誰かが君を呼び出したから聖杯がこんな風になっちゃった感じ?」
『──お前さんちょっと察し良過ぎない?ネタバラシの甲斐が無くなるぜ。まぁ確かにその通りだ。俺はこの世全ての悪とやらを背負わされた青年、いや少年? とにかくそういう手合いの奴さ』
「──この世の全ての悪ねぇ。何ならぼくが全て引き受けてあげようか?」
「─────お前さんさぁ。頭おかしいって言われたこと経験ある? 何か俺ら似てるようで違う感じがしてどうにも気色が悪い」
「生憎そういう経験はあまり無いかなぁ。ぼくは友達とか居ないし」
「はいはい。お前さんがイカれてるのは十分に理解したから本題に移るぜ。──お前さん、受肉を望むかい?」
「え?なにそれ?」
「理由は分からんが、お前さんの魂を取り込む事は出来ないらしい。だから受肉して新しい生を謳歌するか、ここで肉体だけ綺麗さっぱり溶かして、はいさよならするか選べって話だ。本来なら勝者の特権なんだが、お前さんはちょっと出入り口が違うから特別サービスってやつだ」
──受肉ねぇ
──正直言えば受肉をする積極的な理由はない。この世界に残って陰の実力者として振る舞うのは面白そうだけど、ぼくは元々この世界の住人じゃない。それに──元の世界で確かめないといけない事が出来た。これは単なる確認だし、事実をただ確かめる作業であって決して揺らいでるとかそういう訳じゃない。ただ、陰の実力者になるという目指すべきものの形をちゃんと見直すタイミングに来てるかもしれない。──いい加減アルファたちにも顔合わせないと何言われるか分からないしね。
「良いよ。この戦いはぼくの勝ち逃げで。願いを叶えてくれると言うならぼくを元の世界まで帰して」
「ホイ来た。お前さんとはまた会う予感がするからその時までさいならと」
ぼくの意識はここで途切れた。
──帰ったらやる事が増えてしまった。でも不思議と嫌な気分じゃない。このイレギュラーな戦いは中々楽しめたし、陰の実力者候補も見つけられてぼく的には満足している。まあシナリオ的には景品が穢れてたのは残念だったけど。
バーサーカーが消滅したのと時を同じくして溢れ出た泥は冬木市を飲み込み、大災害を引き起こした。一人の男が涙を流しながら生存者を探すがその声は届かず、またその声に返す人間も居なかった。全てが燃え、灰となって無に帰する中で別の男が目を覚ました。
「──目が覚めたか。綺礼。瓦礫の下からお前を掘り返すのは難儀であったぞ。
「──ギルガメッシュか。あの崩壊から良くぞ無事で居られたな」
「業腹だがな。あの泥が俺を吐き戻したのだ。所謂、受肉というやつだ。再びこの世界で地上を治めよという天意らしい。お前の方はどうだ?」
「──問題はない。多少身体が瓦礫塗れではあるが、生命活動は良好だ」
「ならば綺礼よ。この光景をどう捉える?我々は聖杯戦争に勝利した。この光景こそがお前の望んだ結末だ」
綺礼は辺りを見渡す。広がっているのはこの世の地獄。あらゆる生命は死に絶え、建物は破壊され、燃え盛る炎だけが揺らめく灰の世界。その光景に綺礼は驚くが、すぐさま口角を上げ湧き上がる愉悦を爆破させた。
「クックックッ。わっはっはっはっは!」
「何なんだ私は! 何という邪悪! 何という鬼畜! こんな破滅が私の愉悦か! こんな嘆きが、汚物が! よりにもよって言峰璃正の種から産まれたと? フッフッフ、あり得ん。あり得んだろう! 何だそれは、我が父は犬でも孕ませたというのか!」
「───満たされたか、綺礼よ」
「──いいや。これでは足りん。確かに私は今、ようやく明確な解答を得た。だがな、一度知った快楽はそう簡単に捨てられない。こんなものを用意できた方程式が必ず存在するはずだ。問わねばならない、探さねばならない。そして私はそれを理解し享受せねばならない」
「どこまでも飽きさせない奴よ。良いだろう、神も世界も問い殺す貴様の求道。このギルガメッシュが見届けてやる!」
シャドウ揺らぎすぎだろう感はありますが、時系列的には陰の実力者の在り方について悩んでた時期なのと、ギルガメッシュのカリスマによる影響が多少はあったということにして下さい