これをもって「fate/zero」編を完結致します。繰り返しにはなりますが、初小説の拙い文章と展開に最後までお付き合い頂きましてありがとうございました。後書きと設定だけは近い内に更新しますが、現状「5次聖杯戦争」を書くかは未定です。
改めて皆さんのコメントに色々助けられました。ありがとうございます
「──バーサーカー……」
俺の聖杯戦争は終わった。バーサーカーと繋がっていた魔力のパスが消えた。帰宅した時の桜ちゃんの表情には心が痛んだ。
暫く悲しそうにしていたかと思えば「魔術を教えて欲しい」と言ってきた。だが俺は本来、即席の魔術師だ。修行らしい修行なんて20年くらい前だし臓硯の手解きなんて修行という名の拷問だ。だから俺には魔術の修行をしてやることは出来そうにない。
俺は桜ちゃんに魔術師になって欲しいとは思わない。だが今の俺に彼女の意思をどうこう言う資格はない。バーサーカーとの約束もあるし彼女を尊重したい。やれることは全部やってやる
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「あの人無事にイギリスに着いたかしら」
「今朝方、向こうから連絡したよ。時差が考えられてなくてムカついたけど」
ウェイバーはマッケンジー家の一室で朝食を取りながら夫妻と言葉を交わす。
ウェイバー・ベルベットの聖杯戦争は終わった。結果は敗退でも遺された意志と命がある限り彼の疾走は終わらない。聖杯戦争が終わっても人生は続く、その先にある栄光を掴むためにウェイバー・ベルベットは進まなければならない。
「───あのさ。一つ相談があるんだけどいいかな?」
「──旅をしようと思うんだ。自分の目で世界を観てみたい、あいつみたいに。──それでさ、ここからが本題なんだけど先立つものも色々必要だし、もし迷惑じゃなければもう暫くここで厄介になってもいいかな?」
「もちろんですとも!ウェイバーちゃんとまだ一緒に居られるなんて素敵だわ!そうだ今日はお祝いね!」
マーサは心から歓迎し夫はその様子を微笑ましく眺めていた。ウェイバーがやや照れ臭そうにコーヒーを飲んでいると玄関のインターフォンが鳴った。
「あぁ僕が出るよ」
ウェイバーは気恥ずかしさを隠したかったのか来訪者の応対に出るべく部屋を立ち去った。
「──話を聞いてもらえないか?」
扉を開けるとそこにはバーサーカーのマスターである間桐雁夜がやや真剣な面持ちでそこ居た。
「あんたバーサーカーの。って何でこの家が分かったんだよ! それにもう聖杯戦争は終わったはずだろ」
雁夜の耳元で囁くように問いただすウェイバーの後ろから声が掛かる。
「あらウェイバーちゃん、お友達?」
「え、いやその。──うん友達というか知り合いというか。ちょっと近くの公園で話してくる」
ウェイバーは半ば強引に雁夜を連れ出す。
「それで話ってのは一体何なんだ?ちなみにあの人たちに関する質問は無しだからな」
「──ある子供に魔術を教えて欲しいんだ」
「……………え? いやあんたも一応魔術師だろ」
雁夜は事情を話す。自分が即席の魔術師だということ。桜という養子を色々あって引き取ったが魔術師として一人前にしたいことを。
「もちろんタダとは言わない、金銭は払う」
ウェイバーはこの言葉に反応した。正確にはしてしまった。アルバイトをしようと考えていたウェイバーにはお金は幾らあっても良かった。バイトに加え、魔術の手解きで臨時の収入が入るとなればウェイバーには渡りに船だ。
「──事情は何となく分かった。けど僕に出来る範囲内でしか無理だからあんま期待しないでくれよ」
「済まない!恩に切る」
「いや別にいいんだけど。あんたとバーサーカーには何度か助けて貰ったし借りは返しておかないと後が怖いからな」
こうしてウェイバー・ベルベットの簡易授業は始まった。これが彼の最も優れた才覚であったことを当時の誰も知る由は無いがそれはまた別のお話
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衛宮切嗣にとってこの聖杯戦争は何だったのか。一言で言い表せば「最悪」に尽きるだろう。
初戦闘ではアイリスフィールが真のマスターでは無いと看破されたことで自身の存在が事実上バレてしまったり、完璧に決まったはず起源弾をバーサーカーに叩き落とされ、セイバーの左手の呪いを解くべく仕組んだ暗躍もバーサーカーの横やりで御破算。
どうしてもセイバーの左手が必要となる場面が迫りつつある中で一騎打ちを装っての令呪による作戦の決行。
作戦は初めて成功を収めたが、令呪を使わされた挙句、マスターを取り逃すという対価に対して微妙な成果に終わった。
何もかも上手くいかずバーサーカーに振り回された切嗣の精神は限界だった。アイリスフィールを失い聖杯を持ち帰らなかった切嗣はアインツベルン当主たるユーグスタクハイトから帰還を拒絶され、イリヤスフィールとの再会は叶わなかった。
そしてあの聖杯の泥、あれが齎したのは純粋な破壊だった。願望者の願いを破壊という手段をもって成立させる穢れた聖杯であったことは被害の状況を見れば明らかだ。
破壊された聖杯から溢れ出た泥は後に「冬木大災害」と呼ばれる未曾有の被害を生み、500余りの犠牲者を出した。
その惨状の中、切嗣は必死に生存者を探した。自らが本当に恒久的世界平和をこの聖杯に願ったとしたら───考えるだけでも恐ろしかった。
そんな罪悪感と後悔だけが切嗣を突き動かし、ようやくたった一人の生存者を見つけることができた。
「……生きてる……生きてる……!」
男は何かに感謝するように生存者の手を握った。救われたのがどちらか分からないほどに涙を流すその男はなんとも可笑しかった。
──今回の聖杯戦争は血生臭い人生を歩んできた僕でさえ嫌になるほど全てが上手くいかなかった。だが今更それを言っても何も始まらないし、今の僕にもやれることはある。
あの後、助け出せた少年「士郎」を養子として引き取った。隠れ家の拠点だった古民家を改築して舞弥と3人で暮らしている。いやたまに4人になるけどそれは今は置いておこう。
何の因果か生き残ってしまった僕と舞弥は士郎という義息子の父と母なんて役割を演じてるとは何とも可笑しな話だ。
今はただ士郎の成長を見守ろう。
──それが今、僕が生きる理由なのだから
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|「I know that my Redeemer lives,and that in the end he will stand upon the earth. And after my skin has been destroyer,yat in my flesh I will see God;I myself will see him with my own eyes── I,and not another.How my heart yearns within me……Amen」《わたしは知っている、わたしを贖う方は生きておられ、ついには塵の上に立たれるであろう。この皮膚が損なわれようとも、この身をもって、わたしは神を仰ぎ見るであろう。このわたしが仰ぎ見る、ほかならぬこの目で見る。アーメン》
曇天の空、小雨の降る灰色の世界で遠坂時臣と遠坂葵の葬式は執り行われた。
葬式は遠坂と禅城の親族に加え、魔術協会絡みであろう西洋人が参列した。喪主を務めるのは次の遠坂家当主となる遠坂凛。父親は聖杯戦争の戦いの中で命を落とし、母もまた聖杯戦争に巻き込まれて亡くなった。だというのに毅然とした態度を崩さない彼女の姿に参列者は心の中で感嘆していた。
──若干1名を除いては
「──凛。喪主の務めご苦労だった。新たな当主の初舞台としてまずは十分な働きだ。お父上もさぞ鼻が高いことだろう」
訝しむような視線を送る無言の凛を意に介さない綺礼は更に続ける。
「身体の状態はどうだ?最初の魔術刻印は問題なく移植されたとはいえ痛みはまだ残っていると思うが?」
「問題ないわ」
「そうか……お母上も居ない今、お前は一人で遠坂家を支えねばならないが大丈夫かね?」
「あんたに心配される義理はないわ」
(遠坂葵が亡くなった経緯など無論凛は知らない。分かっているのは聖杯戦争に巻き込まれた犠牲者ということだけだ。凛は父を失った悲しみと母を失った喪失感を誰とも分かち合えないまま家紋の重みを背負い、魔術刻印の痛みに耐えていかなければならない。だがこれ程の苦境にありながら凛は涙も見せず、弱音一つ漏らさない。──全く、面白くない話だ。あの時臣の種ともなれば、さぞ歪な感情を露わにすると期待していたのだが)
「私はまた暫く日本を留守にする。今後について何か不安はあるかね?」
「無いわよ、あんたに頼ることなんて何も!」
「──次に会うのは半年後だ。その時には二度目の魔術刻印の移植も執り行う。体調管理には十分気を付けるように」
「言われるまでもないわ」
「今後も益々、私は外地での任務に駆り出されることが多くなる。悪いが当分日本に腰を据えることは出来そうにない。──後見人としては不甲斐ないと思うがね」
「お忙しそうで結構ね。良いわよ、あんたが居なくたって遠坂の家は私一人で背負っていく。あんたは異端狩りなりなんなりこき使われて来るが良いわ」
「──凛。お前はこれから名実ともに遠坂の当主となる。今日この日のために私から門出の品を贈りたい」
綺礼は刀身を布で覆われた短剣を懐から取り出して凛に手渡す。
「──アゾット剣だ。時臣氏から凛が一人前の魔術師になった折に渡すようにと預かっていた品だ。これはお母上が選ばれた品だそうだ。以後、君が持つといい」
「……これがお父様とお母様の……」
父と母の遺品。思い出というには鋭利だが、形見と呼ぶには十分な短剣を握りしめ凛は溜まっていたものが溢れ出す。それは涙となって少女の目から流れ落ちた。そんな声にならない声で泣く凛を眺める男は腑でほくそ笑む。
(凛は知らない。その短剣が遠坂葵の心臓から血を啜ったことを。凛はその短剣に父と母の想いを託し、さぞ大切に貯蔵することだろう。それが他ならぬ母を殺めた凶器だとも知らずに──
──かくして外道は外道を征く
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私にとってシド兄さんとは何だろうかと考える。
絶望の淵から救ってくれた救世主
私という影を照らしてくれた月光
私だけが知っている陰のヒーロー
どう言い表そうとあの人が私にとっての特別であることに変わりはない。間違いなく私の人生の中で一番好きな時間だった。シド兄さんが笑いかけてくれたこともくれた言葉はずっと忘れない、忘れることなんて出来ない。
そんなあの人は消滅してしまった。聖杯戦争で最後まで勝ち残らなければシド兄さんとはお別れだということは分かっていた。
最後に交わした会話から覚悟はしていた。
それでもその現実は受け入れ難かった私はおじさんからそのことを伝えられてから半日以上泣いた。
泣き疲れた頃に自らの右手に付けた指輪が紫紺に煌めく。これがあの人との繋がり、シド兄さんとの思い出、私と彼を繋ぐパス。
──そうだ。次の聖杯戦争があったなら私がシド兄さんを召喚しよう
──今度は私がマスターになって聖杯戦争に勝利しよう
──そして聖杯にはシド兄さんの受肉を願おう。そうすれば聖杯戦争に関係なく私たちはずっと一緒にいられる
──あぁなんて素晴らしい考えなんだろうか
そのためには魔術師になってマスターの資格を得る必要がある。ならばやるべきことは一つしかない。それは身近な魔術師であるおじさんに魔術を習うこと。
よく分からない後ろめたさを私に感じているおじさんなら私の頼みは断らないはずだ。
──────待ってて下さいね。シド兄さん
5次への匂わせだけしていくスタイル。
本当にありがとうございました。