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1年半の旅が終わり世界をこの目で確かめることが出来たのも束の間。私はロンドンの空港で黒服集団に囲まれていた。
3年近く時計塔には帰っていない。何より自身の師にして聖杯戦争では敵同士だったケイネス・エルメロイ・アーチボルトが先に帰国している。正直言って時計塔に戻りたくは無いが、イスカンダルの家臣として恥ずかしく無い自分でありたかった私は意を決して帰国した結果がこれである。
「ウェイバー・ベルベット様。ケイネス・エルメロイ・アーチボルト様よりお伝えしたい事がございます故、ご同行願えますか?」
物言いは丁寧だが、複数人で取り込んでその圧は最早脅迫だろうと思う。拒否権など無いと判断し、彼らに身を委ねた。人攫い紛いの連行じゃないだけマシと考えるしかない。
──私はどうなってしまうのだろうか
途中から目隠しをされ、ある部屋に入るよう促された。目隠しを外す許可が降り、最初に飛び込んで来た光景は自らの師であるケイネスその人だった。
「──やあ久しぶりだな、ウェイバー・ベルベットくん」
鼻に掛けたような喋り方といいその見た目といい間違いなくケイネス本人だった。
「……お久しぶりです、ケイネス先生」
「あぁ本当に久しぶりだとも。聖杯戦争が終わって時計塔に帰ってくる君をどうしてくれようかと考えていたが、まさか3年近く戻らないとは。そんなに私と会うのが嫌だったかね?」
「…………」
「なに、そんなに身構えることはない。私はただ君に
「……お願いですか?」
どう考えても碌なお願いじゃない。だが拒否権は無いだろう。このまま消されたとて文句は言えない状況。──あぁ胃がなんだか痛い
「私は近々世界を探索したいと考えている。時計塔に閉じこもっているだけでは真理の探究も行き詰まる。何より私自身がこの目で見聞きしたいのだ。──1年半前の君のようにね」
「よって私は暫く時計塔を離れる。しかしだ、私個人の都合で生徒から学びの機会を奪うのは忍びない。そこでだ、君には我がエルメロイ教室を継いで貰いたい」
「──は!?な、何を仰っているのですか先生!私のような人間にそのような大役は……」
「まあ落ち着きたまえ。確かに君の魔術師としての才覚も力量も凡愚と言わざるを得ない。だが柔軟な発想と使えるものは使う躊躇いの無さはある程度評価している。──それに冬木に残って魔術の授業の真似事をしていたそうじゃないか、それをもっと広く行えば良い。君に任せるよ」
恐らくケイネス先生から初めて褒められた気がする。先程からの発言含めてこの人はあのケイネス先生かと疑いたくなる。
だがエルメロイ教室の講師など作り話にしても趣味が悪い。
「……し、しかし……」
「まさか断る、なんて言う訳じゃないあるまいね?まあその場合、ライダーの聖遺物と急遽調達したディルムッドの聖遺物に掛かった費用をそちらに請求するが構わないかね?」
「ッ……!わ、分かりました、謹んでお受けします……」
ウェイバーの選択肢は最初から一つしか無かった。断った先の結末を聞くの怖かったのもあるが、聖杯戦争への参加費を友人から借りているウェイバーにとって更なる出費は流石に看過できない。冬木で稼いだ軍資金は旅費として消えたため今の懐事情はまさに風前の灯だ。
「──さてそろそろ時間だな。入ってきたまえ」
ケイネスがそう言うと奥の部屋から一人の少女が出てきた。まだ10歳にも満たない小さな女の子。間桐桜と年齢は近いか、そんなことを考えていると少女側から口が開かれる。
「はじめましてウェイバー・ベルベット様。
エルメロイ一族の傍流、アーチゾルテの正式な後継者であるライネス・エルメロイ・アーチゾルテです。以後お見知り置きを」
「あ、どうも初めまして」
丁寧、あまりに丁寧で妙な違和感のある挨拶に思わず普通の返答をしてしまった。
「まあ後は若い二人で話し合うと良い。では私は失礼するよ」
そう言ってケイネス先生は部屋を去ってしまった。部屋には少女と自分だけが残る。しかし若い二人でとは?嫌な予感しかしない誰か助けてくれ。
「さて何故私が呼び出されたかについてと君の今後について話をしよう」
ケイネス先生が座っていた場所に我が物顔で座り、さっきまでの態度が猫被りだったと分かるような口調で少女は言葉を紡ぐ。
「君については色々と調べさせてもらった。叔父上の聖遺物を盗み出し聖杯戦争に参加。征服王イスカンダルを擁して聖杯戦争を終盤まで生き残り生還を果たした無名の魔術師、それが君だ。別に必要以上に卑下することはない。結果的に君は生き残った、その事実だけで十分さ」
「それでそんな私を捕まえて何を企んでいる?」
「叔父上は弟子に聖遺物を譲り、急遽調達した聖遺物で召喚したサーヴァントで聖杯戦争に参加。不利な条件ながら善戦し、婚約者のソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ共々無傷で生還。これが我々の描いた物語だ。その方が外聞が良くてね。実際帰還後の叔父上は頗る評判が良い、まるで別人のようだとね」
「それで何故君が呼び出されることになる?分家とはいえ同じエルメロイにあたるのだろう?」
「君をロード代行として据えるための方便さ。エルメロイの魔術刻印に高い適合率を持つ私が出向き、ケイネスが密かに目を付けた弟子を我がエルメロイで囲い込む政だと思ってくれたまえ」
「……えっと、それはつまり、どういうことだ……?」
「──もしかして君はその辺り鈍いのかい?単刀直入に言うのなら私と君は許婚なのだよ、
「──は?え?いいなずけ?済まないがもう一度言ってくれないか」
「おやおや恥じらうとは中々可愛らしいところもあるじゃないかぁ。けど難聴系主人公にしては仏頂面が過ぎるけどね、ハッハッハッ」
「……どうしてこうなったんだ私は……」
「まあ君の今後の評価はエルメロイ教室の評判も参考にするからそのつもりでね。じゃあまたね、ダーリン!」
「その気色の悪い呼び方をするな!」
激動の1日が終わった。既に胃がキリキリと痛むがもはやそんなこと些事にすら感じた。
つい3年ほど前までケイネス先生に厚顔無恥な意見をしていた青二才がエルメロイ教室の講師を務めるハメになっただけで無く、あんな性格の捻じ曲がった嗜虐心の塊みたいな少女と婚姻関係を結ぶなど昔の自分に言ったら間違いなく病院を勧められるだろう。
──とにかく胃薬だ。あとはストレスを緩和させるもの全てだ。こうなったら経費で落としてやる
強く生きろウェイバー