生存報告を兼ねた更新。短いですがお許しください。
幕間の物語も次で終わり予定です。
……第5次? 何のことでしょうか?
爺さんに魔術を教えてくれと頼み始めてもう2年になる。今日も今日とてダメ元で頼みに行くといつも違う返答に面食らった。
「──士郎はどうして魔術を習いたいんだい?」
「──最初は単なる興味本位だったんだ。でもその内に俺は切嗣みたいになりたいって思ったんだ。助けられてばっかの俺が今度は誰かを助けたい、助けられる人間になりたい」
「──そうか、士郎がそんなこと考えてたなんて知らなかったなぁ。──分かった、そういうことならちゃんと教えよう。改めてになるけど辞めたくなったらすぐにでも辞めていいからね」
そう言うと切嗣は初めて魔術について教えてくれた。使われていない土蔵、危ないから立ち入るなと言われていた場所に足を踏み入れる。そこは妙に整備されているが側から見ればガラクタ置き場にも映った。
「──まず士郎には魔術師について教えよう。魔術師っていうのは魔術に対して誇りだの矜持だのを持ってる連中のことを指す」
明らかな敵意、というより侮蔑を感じる鋭利な物言いで切嗣は続ける。
「奴等は魔術師であることを誇りに思っている。魔術という神秘を扱っている優越感とそこに秘匿のプライドを持っている。──僕からすれば実に下らないがね」
「爺さんは魔術師じゃないのか?」
「僕は奴等に言わせれば魔術使いに相当する。魔術を尊いと感じることも無ければ秘匿すべきとも思わない逸れ者って訳さ」
「さっきから言ってる秘匿ってなんだ?魔術は隠すべきものなのか?」
「いいや、僕はそうは思わない。だが自分が魔術を使う人間だと大っぴらに宣言するのは止めるべきだな。──無駄な敵を増やすだけだからね。例えば手から火を出すだけならマジックショーのタネとでも言い訳できるが、火の球を打ったらどうだい?色々な意味で単なる火遊びじゃ済まなくなる」
確かにと納得できる。切嗣の魔術に対する考え方はやや捻くれているようにも感じるが、魔術を隠すことは自らの身を守るためでもあるという内容は理解ができる。
「士郎がこれから目指すのは"魔術師"ではなく"魔術使い"だ。魔術を自らの願望に近付く手段、道具だと割り切っても良い。合わないなら武器を変えれば良いからね」
その日から俺は"魔術使い"としての修練を積んでいくことになった。切嗣の教え方は俺にとって分かりやすいものだったし常に一歩引いたところから俺を見守るように指導していた。
「──ところで士郎はどうして僕を"爺さん"と呼ぶんだい?」
「だって最初に会った時、何もかもに疲れ切ってて生気が薄かったし……趣味もなんだか年齢からしたらちょっと、な」
切嗣は自らの稼業からはほとんど足を洗っていた。年齢的には働き盛りだが既に隠居染みた生活を送っており、縁側で日向ぼっこをしたり庭の手入れをしていた。それは士郎からすれば年寄り趣味に映った。
「でもそうすると舞弥はばあ「それ以上言ったら母さんに言い付けるからな」
──ぼくの息子はかなり手強いらしい
─────────
時は少し遡る
間桐雁夜には兄が居る。
名前は間桐
故に弟の雁夜が後継者に指名されたのは必然だった。雁夜も決して才覚に恵まれた訳では無いが、兄と比べれば遥かに優れてはいた。
だがそんな雁夜は間桐の魔術に嫌気が差し間桐家から去っていった。必然的に鶴野は間桐家の当主に祭り上げられた。
──お飾りの当主として
実権は化け物、父たる臓硯が握っており鶴野の役割など殆どない。息子である慎二は魔術回路を持たずに生まれてきた一般人であり、臓硯からは失望された。
間桐の魔術師としての灯火は消え去ったが臓硯は悲願の成就のために御三家の遠坂に協力を仰ぎ、桜という娘を後継者として養子に引き取った。
まだ10歳にも満たない少女に対して行われる修練という名の吐き気を催す邪悪、悍ましいとしか言い表せない鬼畜、拷問すら生温い狂気に間桐鶴野の精神は耐えられなかった。
臓硯を前にする重圧、桜を蟲蔵に放り込み日々鬼畜な調教をさせられる事にストレス、恐怖、罪悪感、無力感だけが鶴野を蝕んでいた。
聖杯戦争が始まる1年ほど前に弟の雁夜が戻ってきた。何を今更と思った。お前が逃げるから俺はこんな地獄を見るハメになった。
だがそれを雁夜にぶつける気にはならなかった。どう見ても衰弱していく弟の身体と生気の通わない虚な瞳。あれを見て文句を吐き捨てられるほどの気概など当に失っていた。
俺が自室に篭り酒を煽って夜をやり過ごし続ける中で聖杯戦争は終了していた。聖杯戦争は魔術師同士の殺し合い、間桐の当主たる俺の身は危険と隣り合わせだ。そんな恐怖を酒で強引に捩じ伏せる。気絶するように眠り夜が明けるのを待つ生活は誰がどう見てもまともな人間じゃない。
するとその扉はノックと共に開かれる。入ってきたのは間桐雁夜。衰弱はどこへ消えたのは健康的な顔色と生気に満ちた身体付きの雁夜がそこには居た。
「──兄貴。聖杯戦争は終わった。もう隠れる必要はない」
「どうやらそのようだな。……今更何をしに戻って来たかと思えば……お前が逃げたせいで俺は! ……済まん、こんなこと正に今更な話だな……。それで?あの爺いはどうした?」
「奴なら死んだよ。もうこの世に肉片一つ残っちゃいない」
「馬鹿な!?あの化け物が死んだだと……!?」
「色々あったんだ、話せば長くなる。それより兄貴、桜の件なんだが臓硯亡き今、桜を間桐に引き留める理由はない。だが遠坂は両親共々死んだ。つまりだな……」
「ああ分かった分かった。お前が正式に家督を継げば良い。あの娘が大きくなったら継がせるか否かもお前が決めろ。……俺はもうこの家も魔術も真っ平ごめんだ」
「兄貴……」
「……俺は避難させてる慎二と合流して家を出る。臓硯が死んだなら財産の半分は俺にも受け取る資格があるはずだ。──それにしてもお前が生き残るなんてどんなサーヴァントを引いたのやら」
「バーサーカーのおかげだ。あいつは凄い、やつ、だったんだ……」
「雁夜……そのバーサーカーの話、詳しく聞かせてくれないか?どうせ夜は長いんだ」
久々に再開した兄弟は酒を飲みながら語り明かした。その日だけは酒には酔わなかった。少しだけ心地良い浮遊感を初めて感じ取れた気がした