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雁夜に案内されるがままに部屋に入ると1人の少女がやや苦しそうに眠っていた。
珍しい紫色の髪が特徴的な少女の名は間桐桜。1年ほど前に間桐に養子としてやって来たらしい。普段は地下の虫蔵と呼ばれる場所に放り込まれ拷問と言って差し支えのない虐待を受けているらしいが、今日はサーヴァント召喚の大一番だったため自室に戻っていた。
(虫蔵かあ、流石の僕もその修行は思い付かなかったなあ。第一気持ち悪いし、修行はやらされるんじゃ意味無いからね)
シャドウは少女の前に立つと悪魔憑きを治療する要領で魔力を流し込んだ。少女の身体に入っていた虫は死滅していき徐々に顔色も良くなっていた。
(ん?何か胸辺りに微弱な魔力反応があるぞ
しかも生きてるみたいだ、もしかして生きる悪魔?)
少女の胸付近の反応に気付いたシャドウは躊躇い無く心臓部分を手刀で貫いた。
「!?」
雁夜が驚きの声を挙げる間も無く、シャドウは手を引き抜くと魔力で傷を防ぎ始めた。
そしてシャドウの右手に何やら小さい虫のような生き物が握られていた。
(何だこれ?魔力の反応的には消しちゃったお爺さんのものに似てるけど。まあいっか)
シャドウは左手の虫を魔力で浄化した。臓硯の本体であったそれは魔力に焼かれ息絶えた。間桐臓硯の生涯が永遠に幕を閉じた瞬間だった。
「──バーサーカー、今のは?」
「心臓部分に何やら魔力反応を感じた。
故に引き抜いた、案ずるな、傷は残らん」
間桐雁夜はバーサーカーがバーサーカーであることを再認識した。確かに理知的な発言とコミュニケーションが可能だが、いきなり女の子の胸を貫く行為を躊躇いなくできる精神性と傷を治せば問題無いと開き直る感覚はやはりバーサーカーであると。
数時間後、桜は目を覚ました。
自分の身体の状態が頗る良い感覚で目が冴えたのだ。何故か服は破れ、血塗れになっていたが、それが些事と思えるほど、自分を蝕まんでいた虫は感じず清々しさすら感じた。
「──ッ!桜ちゃん!目が覚めたんだね!」
「……お、おじさん?私、どうしちゃったの?」
「バーサーカーが治療してくれたんだよ?
おじさんの身体も元気になったんだ」
桜が起き上がるとそこには黒い服にフードを被った少年が家具の上に座っていた。
「目が覚めたかい?
君を蝕んでいた呪いは消え去った。
もはや君は自由だ」
「──私、本当に自由なの?もう蟲蔵に行かなくても良いの?でもお爺様は…?」
「臓硯は死んだよ、バーサーカーが倒してくれたんだ。だからね、桜ちゃん。今は思いっきり泣いても良いんだよ?」
「うっ……うっ…うっ…うわぁぁぁぁん!」
一頻り泣き終えると桜は疲れたのか、また眠りに着いた。間桐家に来て初めて心からの安眠を貪り、桜は夢の世界へと落ちていった。
翌朝、有り合わせの食材で作られた朝食を雁夜たち3人で食べていた。桜はシャドウの隣の席に座ると嬉しそうにしている。
「──あの……バーサーカーさん?」
「何だい?」
「──お名前、聞いても良いですか?」
「僕の名前はシド、シド・カゲノーだよ」
「──!シドさんですか、あのもし宜しければシド兄さんって呼んでも良いですか?」
「別に構わないよ」
「──ありがとうございます……シド兄さん///」
朝早くからこんなやり取りがあったからなのか食卓には何とも甘い雰囲気が漂っていた。
雁夜もこの雰囲気は流石に察しているのだが、命の恩人に好意を持つのは別におかしくないし、バーサーカーも下心を一切出さないので純粋に微笑ましいくらいの気持ちで眺めていた。
食事を終えるとバーサーカーと大事な話があると言って桜を自室に戻した。今後の戦いに向けて色々と話し合いをしなくてはならない。聖杯に託す願いは何か、そもそもどんな英霊なのか、聞きたいことはあったが先に口を開いたのはシャドウだった。
「まずはマスター、貴様の聖杯戦争の目的を聞こうか」
「お、俺の目的は桜ちゃんを救うことと桜ちゃんをこんな目に合わせた時臣を殺すことだ」
「時臣?誰だそれは(また新しいネームドか?)」
「桜ちゃんの父親だ。あいつが桜を間桐の養子にしなきゃこんなことにはなってない」
雁夜は遠坂時臣について、間桐の家についてそして葵のことについて話した。自らが戦う理由、聖杯戦争の目的をシャドウに開示したのだ。彼ならきっと理解してくれるという期待と勘違いも乗せて。
(──えーっと、後半あんま聞いてなかったからよく分からないけど、これって痴情の絡れ?そういうのはドエムくんでお腹いっぱいなんだよねえ)
「憐れだな、己が見たいように物事を見るのは」
「──ッ…!」
「貴様の最も叶えたい願いは何だ? 遠坂時臣を殺すことか? 葵とやらの幸せか? それとも、桜の幸せか?」
突然の否定に雁夜は言葉に詰まる。
「矛盾した大望は、いつかお前を殺すことになる。己の欲求を研ぎ澄ませろ」
思考の末、雁夜は答えを出す。
「───お、俺は、桜ちゃんが幸せで居てくれたらそれで良い、それ以外には何も要らない!」
「フッ、貴様の願いは聞き届けた。ならば我も応えるとしよう。言い忘れていたが、我が名を聞くがいい」
「我が名はシャドウ、陰に潜み、影を狩るものだ」