陰の実力者は聖杯戦争に巻き込まれて!   作:リゼロッテ

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お久しぶりでございます。仕事や個人的な忙しさもありましたが、書く意志だけはあります。生きていますのでよろしくお願いします

第5次聖杯戦争、始まります。5次の1話目なので触り程度です


fate stay night 編
23話 冬木の日常


冬木大災害。

 

 突如して現れた赤い濁流のようなそれは多くの建物を侵食し燃やし尽くした。泥に飲み込まれた者、倒壊した家屋の下敷きになった者を含めて500人以上の死者を出した。

 

 未曾有の大災害は冬木市に大きな傷跡を残した。だが、時間はそんな大災害を過去へと流していく。その大災害から10年の月日が流れた。小学1年生が高校生になるほどの時間が経てば、街は復興を果たし冬木は新しいステージへと向かっていく。

 

 衛宮士郎もその一人である。あの災害で両親を亡くし、一時は天涯孤独となったが、衛宮切嗣によって助け出され救われて、彼の養子としての人生を始めた。

 

「おはようございます士郎さん。」

「おはよう母さん。」

 

母さんと呼ばれた女性。切嗣が連れてきた、というよりは同居している彼女の名は久宇舞弥。かつては切嗣とともに聖杯戦争を戦い抜いた彼女も今や母親業が板についている。といっても切嗣と舞弥は籍を入れていないので苗字は異なるのだが、その違いにツッコミを入れる野暮は冬木市には滅多にいない。それだけ冬木大災害が齎した災禍は根深い。

 

「おっはよー士郎!」

「──藤ねぇ、毎日毎日飯を食いに来てほんとに教師か?」

 

「ひっどーい!私はお姉ちゃんとして士郎が心配だからこうして来てるというのに!昔はもっと素直だったのになぁ……。」

 

「まあまあ。大河さん、ゆっくりして行って下さい。」

 

「母さんがそうやって甘やかすからこのタイガーが入り浸るんだぞ。」

「おい誰だ今私をタイガーと呼んだのは!?」

 

 喧しい朝が過ぎていく。何気ない日常、何気ない毎日。そんな当たり前がどれだけ貴重なことかを噛み締めるように。

 

 

 

─────────

 

「早朝から済まないな衛宮。おかげで助かった。」

「気にするなよあれくらい。困ったときはお互い様だろ。」

 

朝早くから学校に来ているこの男は柳洞一成。穂群原学園の生徒会長でもあるのだが、衛宮とは良き友人であり、学園内の細かな厄介事を解決してくれる頼もしい助っ人でもあった。

 

「それにしてもお前の修理は手早く的確だ。一体何処でそんな鍛錬を積んだのやら。」

 

「──親父がそういう機械弄りが好きなんだよ。それを見てたら俺もって感じで。」

 

一成は納得した様子だ。嘘は吐いていない。父親である衛宮切嗣に手解きを受け、士郎固有の"魔術"を鍛錬して来たのは事実だ。無論それを吹聴することは無い。魔術を尊く秘匿すべきものとは考えていないが、魔術が使えることを公にすれば無駄な敵を作るという父親の言のままに士郎はこれを隠匿している。

 

「む、あいつは……。」

 

一成がふと目を向けた先には一人の女子生徒がいた。名前は遠坂凛、黒髪のツインテールにニーハイソックスを履いた多くの生徒から容姿端麗と高嶺の花扱いされている少女だ。だが一成は知っている。それが単なる猫被りなのだと、本性は女狐も良いところだと。

 

「済まない衛宮、先に行っていてくれ。俺はこの女狐を相手せねばならん。」

 

「あら、朝から随分なご挨拶ね柳洞くん。」

「女狐って……一成、流石に失礼じゃないか?」

「流石にってどういうことかしら衛宮くん。私になら多少の失礼は良いみたいに聞こえたけれど?」

 

「ええい言葉尻を捉える真似ばかりしおって!」

 

 凛と一成は同じ中学出身の因縁の間柄である。凛は精々揶揄って楽しんでいるだけだが、真面目一貫の一成からすればそれも憎たらしいらしい。

 

「おっと、女狐に構っていたら時間が押している。行こうか衛宮。」

「あ、あぁ。じゃあな遠坂。」

 

 一成に連れられ足早に立ち去っていく士郎を意味深げに見つめる遠坂凛がそこにはいた。

 

 

────────

 

「衛宮聞いたか?美人転校生の話。」

「転校生?うちの学年にそんなやついたか?」

「いや1年生らしいんだが、何でも帰国子女らしい。確かイギリスとか言ってたなぁ。」

 

自分のクラスに戻った士郎はクラスメイトからの噂話を聞かされている。転校生というだけで湧き立つものだが、それが美人の帰国子女となれば色めき立つのが男子高校生である。

 

 イギリスと聞けば英国、ロンドンか、等が一般的な感覚だろう。だが魔術使いである士郎は切嗣からロンドンの時計塔の話を聞かされていた。切嗣にとっても士郎にとっても縁遠き世界であるため話半分に聞いていたが、この冬木という地にイギリスからの転校生、引っ掛かりを覚えて当然だった。

 

「どんな子なんだろうなぁ。遠坂くらい美人だったりして。」

 

同じクラスの遠坂凛も高嶺の花、一般生徒には近寄り難い空気を孕んだ女傑である。成績優秀で品行方正、目を惹く整った容姿はマドンナと呼ぶに相応しいだろう。

 

 士郎はといえばそうしたことにあまり頓着が無い。会ったこともない転校生に何考えてるんだかと呆れ気味な士郎であった。

 

 

 

 

────────

 

「よぉ衛宮。相変わらず辛気臭い顔してるなぁ。」

「その声は慎二か。」

 

軽快な口調で親しげ、ある意味馴れ馴れしく話しかけて来たのは間桐慎二。士郎にとっては中学時代からの友人である。二人は妙に馬が合い不思議な関係性であった。慎二は成績優秀で運動神経も良い上に顔立ちも中々である。なので女子にもモテるのだが、士郎はあまりそういった女気はない。運動神経も良く面倒見の良い性格とふとした際に見せる幼さの残る表情から比較的人気はあるが、本人が鈍感さや絶妙な歪さを抱えてるせいでその気持ちには気付いていない。

 

 慎二は調子に乗りやすいタチだが、士郎がそれを適度に諌めつつ慎二の良い部分は屈託なく褒めたりする。この関係性は学園内でも七不思議の一つに数えられているとかいないとか。

 

「今度また家に遊びに来いよ。」

「あぁそうさせて貰うよ。そういや慎二、転校生の噂って知ってるか?」

 

 ほんの僅かに慎二の表情が強張る。だが間を置かずに話を続ける。

 

「──衛宮にしちゃ珍しいじゃんか。噂話に耳を傾けるなんてさ。まあ知ってはいるけど興味はないね。」

 

「興味がない?」

「あぁ正直全然これっぽっちも全く湧かないね。噂話なんて庶民のすることさ。衛宮のそういうことに無頓着なところ、僕は気に入ってるんだからさ。」

 

そう言いながら肩を叩く慎二の声色は僅かに低くなっていた。機嫌が悪いというよりも触れたくないという方が正しいだろうか。

 

「じゃあな衛宮。八方美人も大概にしとけよ。」

 

そう言い残して慎二は去って行った。

 

「慎二にしては珍しく口籠ったな。」

 

 士郎の疑問が解消されるのはまだ先の話。

 

 

─────────

 

「凛、既に空きはアーチャーとセイバーのみだ。選りすぐりたい気持ちは分かるが、そろそろ召喚しなければ聖杯戦争の開始を待たずしてリタイアすることになるぞ?」

 

 帰宅した凛は留守番電話に入っていた言葉を微妙な心情で聞いていた。電話の相手は言峰綺礼。冬木教会の神父であり、聖杯戦争の監督者であり、凛の後継人である。だが凛にとっては食わせ者であり、信用を置ける相手かといわれるとかなり怪しい。

 

「──あんたに言われなくたって分かってるわよ。」

 

 吐き捨てたその言葉を聞く者は居ない。

 

 遠坂家現当主、遠坂凛。

 

 遠坂は冬木の地で御三家と呼ばれる由緒正しい家の魔術師である。ルール無用で正気を失ったアインツベルン、魔導の血が途絶えた間桐の中では比較的まともかもしれない。

 

 だが凛の父、遠坂時臣は10年前の聖杯戦争で命を落とした。母もまた聖杯戦争の被害者として亡くなり、その生涯は天涯孤独となった。それでも必死に家を守り、遠坂の魔術を鍛え上げ聖杯戦争に参加する。そこに戦いがあるからというシンプルな理由で。

 

 もう一つは妹の存在だ。

 

 遠坂桜、今は間桐桜と名前を変えているが、足取りは掴めていない。

 

 遠坂と間桐の間で交わされた約定の元、互いに干渉することは出来ない。約定を交わした当主同士が死んだ今となっては意味のない約定だが、間桐側からは一切の返答も提案もない。

 

 桜が、妹が魔術師としての道を歩むのならこの聖杯戦争でぶつかる可能性はゼロじゃない。実の妹との再会が、戦いの場とは自らの血の性を感じずにはいられない。

 

 それでも期待していない訳じゃなかった。

 

「──待ってなさいよ、桜。」

 




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