聖杯戦争という大きなイベントを完走した僕は元居た世界に戻って来た。久々に日本を体験出来たのは良かったし、陰の実力者の種を育てることも出来て満足している。
僕のコレクションの一部にしようとも思ったけど、聖杯そのものは紛い物のガラクタ以下だったし、見た目もありきたりだったから止めた。何より中身がダメ過ぎる。部屋が汚れちゃうからボツにした。
この世界に帰って来てからも僕のやる事は変わらない。陰の実力者として物語に介入して圧倒する。それを目指している間は楽しかったんだ。
───あの金ピカアーチャーの言葉の意味を考え始めてから僕のプレイは少し変わった。
僕がお遊びで作った気になっていたシャドウガーデンはどうやら実在するらしい。エキストラだと思っていた人たちもみんな組織に属する団員という途方も無い事実に気付いてしまった。
まあ気付いたからって何を思うでも無いんだけど、それからは出来るだけ本気でディアボロス教団と事を構えた。というかこの組織も本当にあったんだね、僕って小説家になれるんじゃないかな。勿論ベータとは違う本物のだけど。
そして10年程の歳月を費やして遂にシャドウガーデンはディアボロス教団を滅ぼした。実際に滅ぼして見ると意外と呆気ないという感想が出てきた。どうせならもう少し時間を掛けても良かったんだけどね。
それから月日は流れた。ディアボロス教団が無くなったということはイベントが無くなったということだ。陰の実力者と色々と手を変え品を変えてはいるが、どうにもしっくり来ない。勿論楽しめてはいるのだ。だがどんなものにもマンネリというのは訪れる。
「あの聖杯戦争は面白かったなぁ。」
ついそんな事が頭を過ってしまう。アルファたちももう居ないし本格的に向こうの世界で受肉でもしてしまおうかな。
多くの人が死んでいったけど、僕にとっては登場人物の一人に過ぎない。まあ強いて言えばアルファたちは少し違うんだけどね。
すると空中に不思議な魔力を帯びた魔法陣が現れた。見覚えのある形の陣、僕は一切の躊躇なく陣の中へ飛び込んだ。
どうやら天は、運命は僕の望みを叶えてくれるらしい。召喚までのこの時間も懐かしさすら感じる。いつも通りに膨大な知識を頭の中に叩き込まれる。
ん?ちょっと待って欲しい。これから行く世界の時代の知識も教えられるけど、前回の世界とほとんど同じじゃない?そんな偶然ってあるんだなぁ。てか誰だろ僕を呼び出すような人って。まさかマスターじゃあるまいし。
まあ良いか、召喚されれば分かることだ。前回は僕の勝ち逃げだったから今回は完全なる勝利を目指すのも悪くは無さそうだ。
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ようやくこの時が来た。本当に長かった。
でも不思議と嫌ではなかった。あの人を呼ぶ為の時間、あの人との再会を思えばこのくらいのことは大した時間じゃない。
私を絶望の淵から救い出してくれた救世主
私という影を照らしてくれた一筋の月光
私だけが知っている陰のヒーロー
あの人を召喚し、聖杯戦争を勝ち抜き、あの人を受肉させる。そうすれば人間とサーヴァントの垣根なんて関係なく、私たちは共に生きられる。ウェイバー先生の元で魔術師とは、魔術とは何かを学んだ。先生曰く稀代の素養があるという私の力は時計塔という魔境で十分に高められた。
そして3年間の時計塔生活を終えて、ようやく私は日本、冬木の地へ帰ってきた。中学校には通っていないため経歴を幾つか誤魔化して帰国子女という形で穂群原学園に転入した。冬木における間桐の力は思った以上に強い。雁夜おじさんに頼めば造作もなかった。
ウェイバー先生が前回の聖杯戦争での聖杯は力のごく一部しか使われていないと言っていった。それは炉に魔力が溜まり再び聖杯としての形を成すのに時間はそう掛からないということ。およそ10年、待つには長いが過ぎてみればあっという間の10年間だった。
今日、あの人を召喚する。召喚には触媒が必要だけど、私にはこれがある。あの人が残していってくれた指輪。指輪の宝石には魔力が込められていてあの人の魔力と同じ紫紺に輝いている。指輪は二対で一つ、もう一つはおじさんが持っていた。その二つのうち、一つは私が身につける。
素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する
────告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者。
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ───!
召喚に必要な呪文を告げる。詠唱中にも陣は光を放ちながら荒れ狂う。突き出した右手に伝わる波動が強くなり、やがてそれは閃光と共に辺りを包んだ。強烈な輝きが収まると陣の中心に人影が現れた。
「サーヴァント、ライダー。召喚に応じ現界した。貴様が我のマスターか?」
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夢にまで見た光景が桜の目の前に広がっている。サーヴァントの召喚に成功したこと、そのサーヴァントが自らが心から渇望し、欲した存在であることに歓喜した。サーヴァントからの呼び掛けさえも無視して桜はシドへと歩み寄った。
「あぁ……!!シド兄さんシド兄さんシド兄さん……!!」
抑え得ぬ衝動のままにシドへと抱擁する桜。本来僕たるサーヴァントに対してマスターが取る行動としては不適切だが、10年蓄えられた欲求には抗えない。
(えぇ……誰この子。魔力反応的にはマスターだと思うけど……知らない人に抱き付くのは良くないよ?)
シドにしてはまともな反応だ。サーヴァントとして呼び出されて間も無く抱き付かれれば困惑は必至だ。
「──覚えていませんか?桜です、間桐桜です。貴方に救われ、貴方ともう一度逢うためにここまで来ました。私が貴方のマスターです。」
間桐桜という単語を聞いてシドはようやく腑に落ちたような顔をする。
「本当に桜ちゃん?いや凄いよ君の魔力。本当に成長したね、僕は嬉しいよ。」
「そ、そんな。ただ私は自分の為るべきことをしただけですから……。」
(上質な魔力にこのオーラ。間違いなく陰の実力者として育ってるなぁ。これなら一緒に楽しいロールプレイが出来るかも)
「マスターということは聖杯戦争に参加するんだよね?君の望みはなんだい?」
その質問をすると何故か顔を赤らめて言葉に詰まる桜。その様子を見てシドは思わず「あ」という抜けた台詞が出そうになったを抑え込んだ。
──これ地雷ってやつでは?
そもそも僕、何でライダーのクラス?流石の僕も乗り物は持ってないからね。あれ飛行で飛ぶより遅い上に目立つからさ。見せびらかすにしてもスペースを取るからあの世界でも縁が無い。
しかしあの子が成長してくれたのは嬉しいけど、多分別の意味合いでも成長してて何か怖い。今回の聖杯戦争は色々試したいこともあるからね。昼間の内にやってしまおうかな──
FGOマテリアル風紹介
・セイバーやバーサーカー、果てはエクストラクラスと様々なクラスでの召喚適正を持つが、此度の聖杯戦争により、元居た世界を2度に渡って乗り越えたことでライダーでの召喚が可能となった。但しあくまでも限定的かつ特殊な条件下でしか呼び出すことはできない。
どのクラスで召喚してもクラススキルとして「狂化」と「陰の実力者」を有するためクラスによる差違はほとんどない。──あくまでまほとんどではあるが。