士郎が原作と明らかに違いますが、そういうIF世界線としてご了承下さい。
「痛てっ……!」
衛宮士郎は自宅の居間で鈍い痛みを感じた。左手の甲を確認するとそこには赤く形作られた模様のようなものが浮かんでいた。
「これって……これがまさか……。」
「ん?どうかしましたか、士郎さん。」
義理の息子の態度に違和感を覚えた舞弥は士郎へと問う。そしてその左手を見て確信した。
「──!これは……令呪ですか。」
「なあ母さん。令呪が宿ったことは──」
「士郎さん、こちらへ。」
義理の母に導かれるがまま士郎は庭の奥にある納屋へと足を踏み入れる。士郎が魔術の修練をする際に利用する納屋とは違う、もう一つの納屋だ。
「ここって親父が絶対に立ち入るなって言ってた場所じゃないか。良いのか?」
「もし令呪が宿ったのならここへ入れるよう切嗣から言われています。聖杯戦争についてはご存じですよね?」
聖杯戦争。万能の願望器たる聖杯を巡って7騎のサーヴァントによる殺し合いを行う儀式。士郎は予備知識として10年前自身も参加していた聖杯戦争の概要を聞かされていた。舞弥の問いに頷くと彼女は話を続ける。
「令呪が宿ったということは聖杯に選ばれたということ。理由はどうあれ貴方は聖杯戦争に巻き込まれた形になります。」
「その聖杯戦争を勝ち抜くにはサーヴァントってのを召喚しなきゃいけないんだろう?」
「はい。サーヴァントを召喚しすぐに自害させて教会の保護を求めることも可能ですが、聖杯戦争を監視する聖堂教会の監督役は信用に足る人物ではありません。──戦う以外に道はありません。」
逃げる選択肢は無い。無論このまま冬木を離れる選択はある。聖杯戦争が終了するまで関係ない場所でエスケープを決め込めば何の危険もなく乗り切れる。だが士郎はそうはしない。正確には出来ないタチなのだ。
「俺は出来ることなら親父の夢を叶えてやりたい。どれ程それが馬鹿げていようとも。」
「──分かりました。では時間がありません。早速召喚を始めます。呪文は覚えていますか。」
「昔齧りだからな。まあ何となくは。」
詠唱はうろ覚えだ。こういうのもあると読み齧った本に呪文に何故か惹かれていただけだ。
────告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ───!
予め用意されていた陣が強烈な光を放つ。光は拡散しながら大きくなり、そして収束した。その先には一人の騎士、或いは少女、呼び名はサーヴァントと呼ぶべき存在が立っていた。
「問おう。貴方が私のマスターか。」
─────────
聖杯戦争とは夜に行われるが常である。それは魔術の隠匿やサーヴァントを公衆の面前に晒さないというルール、魔術師同士の取り決めだ。サーヴァントは英雄だ。着ている服も所持する武器も現代では明らかに浮いている。それを秘匿し監督する立場の聖堂教会の協力もあって聖杯戦争は成り立っている。
遠坂凛は深夜の学校の屋上に居た。日中でサーヴァントを実体化させているところを見られる訳にはいかないからだ。
「──やっぱり。ごく僅かだけど魔力の反応が残ってるわ。」
学校に登校してから感じていた僅かな違和感。微妙な魔力痕を調べるために深夜まで待っていた。そしてその違和感は確信に変わった。
「ふむ。魔力痕を残すとはそんな対処も知らない三流ということか凛?」
赤い服に白髪の男が話し掛ける。凛が召喚したサーヴァントでクラスはアーチャー。キザな話し方が偶にキズだが、思慮深く冷静なサーヴァントだ。
「いいえ。これは魔力痕に気付けるマスターを探しているのよ。いわば撒き餌ね。」
「撒き餌?何故そんなことをする必要がある。」
「この魔力痕は相応の力を持った魔術師で無いとまず見破れないわ。普通の魔術師なら違和感すら感じない。強い者にしか分からない魔力を残して選別してる訳。腹立たしいけどね。」
「なるほど。つまり私のマスターはとびきり優秀ということか。」
「──あんた素直なのか捻くれてるのかどっちなのよ!?」
そんなやり取りの最中、凛は何者かの気配を探知した。
「へえ、この距離で気付くなんざ中々勘が良いな嬢ちゃん。」
青い戦闘用の服、装甲は最小限で動き易さを重視したような格好、真紅の瞳を持つ男がそこに居た。
「──一応聞いておくけどランサーのサーヴァントで間違いないのよね?」
「ご名答だ。じゃ悪いが死んでくれや!」
問答無用で突き穿たれる槍。凛は魔術を足に掛け、咄嗟の加速でそれを交わす。その一瞬の隙がアーチャーが間合いに入れ込める時間を作った。
「行くわよアーチャー。着地任せた!」
マスターとサーヴァントの距離が近過ぎても良くない。屋上という限られたスペースから校庭へと舞台を変える為、凛は屋上から飛び降りた。
本来この高さからの落下は死を意味するが、サーヴァントはこの程度の落下ではダメージを負わない。凛を空中で抱えると難なく着地し校庭に戦いのステージを移す。
「へぇ、開けたところで戦いたいってか。別に構わないぜ。さあ武器を抜けよ。それくらいは待ってやる。」
「アーチャー。貴方の力、ここで見せて。」
「──了解した。」
凛の声にそう答えると両手に剣を錬成し構える。干将・莫耶と呼ばれる双剣だ。アーチャークラスのサーヴァントには似つかわしくない武器だ。
「はっ!?剣だと!」
ランサーは少なからず面を食らった。ランサー側からは赤い服の男のクラスはアーチャーだと認識している。故に取り出す武器は弓、いずれにしても飛び道具の類であろうと予測していた。だが出てきたのは剣、それも双剣だ。そんな面食らいの間も無く、アーチャーはランサーへと斬りかかった。
「っち!」
「はああ!!」
サーヴァント同士の戦い、それは人間の枠組みなど軽く超えている。圧倒的な速さと大地を抉る力、何よりその反応速度は並みの人間の目には追えきれない。互いの攻めと守りが至近距離で交差する。命のやり取り、純粋な殺し合いが繰り広げられている。
「てめえどこの英霊だ?まともな一騎打ちをするタイプじゃねぇとは思ってたが、てめえは筋金入りだ。」
「そんなことを聞いてどうする。素性の知れぬ相手とは戦えないとは英雄らしからぬ心情だなランサー。」
「──減らず口を。だがてめえ以上にいけ好かねえ奴がいる。戦いを覗き見るとは不届き者も良いところだ!出て来やがれ臆病者共!」
その唸り声と共に一人分の気配がスッと消えて行くのが凛にも分かった。逆にいえばそこまでは気配を悟れなかった。サーヴァントの中でも".気配遮断"のクラススキルを持つアサシンにしかできない芸当だ。
「ちっ、逃げ足の早い野郎だ。おらどうしたもう一人は!てめえも尻尾を巻いて逃げ出すなら見逃してやるぞ?」
挑発だ。かなりの見え見えの煽りだが、3騎士クラスのような戦いに格や誇りを重んじる英霊なら食って掛かるような台詞だ。逆にアサシンやキャスターにそんな煽りは通用しない。彼らにそんなことに拘るプライドは無い。勝てば官軍の聖杯戦争ではある意味正しい思考だろう。
「やれやれ、せっかく一騎打ちを邪魔しないでおいたのに見物を覗き見扱いか。」
「──え?」
凛から思わず声が漏れた。聞き覚えのある声だった。同じクラスの男子、よく生徒会長や慎二と連んでいる男子。慎二と上手く付き合えるなんて変わってるとかそんな印象は持っていた。ただそれだけのはずだった男子は眼前にサーヴァント、恐らくはセイバーを引き連れて現れた。理解も何も遅れを取る。
「一騎打ちの邪魔はしねぇだぁ?その割には随分とこちらを伺ってたじゃねえか。最初から漁夫の利でも狙ってたんだろ?」
「戦いは最後に立っていた奴が勝者だ。違うか?それともここで一騎打ちをするか?」
「──止めとくぜ。2対1も面倒だが、何より俺の雇い主は臆病者でな。誰がマスターか分かったのなら帰って来いと抜かしやがる。命拾いしたな。まあ別に追って来たいなら構わねえぜ?命の保証はしねぇがな。」
ランサーはそう言い残すと撤退していった。後には士郎とセイバー、凛とアーチャーだけが残された。
「──色々聞きたいことが多すぎて頭に来るわねぇ、衛宮くん?」
目の笑っていない笑顔を浮かべながら士郎を問い詰める凛がそこには居た。
戦闘描写が苦手です(今更)