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不完全燃焼な一夜を終え、シャドウは間桐邸に帰宅していた。夜が明けると桜たちと朝食を取り、雁夜と桜は公園に遊びに出掛けた。
「シド兄さんは来ないんですか?」と問われたシャドウは「やらなきゃならないことがあるから」と断った。
少し残念そうにする桜を見送ると、シャドウはシド・カゲノーとして街の探索を開始した。
ぼくは今、冬木教会を訪れている。ぼくの居た世界にも教会はあったけど、現代とは教会が持つ役割も違っていた。この聖杯戦争の地とされる冬木に教会があったのは、ある意味好都合だった。こういう場所は、物語の鍵を握るキャラが隠れていたりする穴場スポットだったりするのだ。
冬木教会は中立地帯らしく、サーヴァントが立ち寄ることは基本禁じられているらしい。ぼくはサーヴァントとしての気配を断ちつつ、一般人を装って冬木教会の扉を開いた。
流石に気付かれるだろう、というツッコミもあるだろうけど、ぼくの繊細な魔力コントロールが成せる技ということで見逃して欲しい。
中に入ると、1人の男が座っていた。
「──おや?珍しい来客というやつかな?」
男は黒っぽい服を着ていて、年齢は20代後半に見えた。目のハイライトは無く、些か神父と呼ぶのを躊躇したくなる男だった。
「──最近この街に来まして。入って良いですか?」
「──構わないとも。教会は常に開かれている。君の場合は少し変わっているようだが」
引き締まった空気の中、重々しい会話が交わされる。互いに互いを値踏みしているようだ。
(──間違いない。この人の佇まい、鍛え上げられた肉体、そして底知れぬ歪み。最後には誰かを裏切って、ラスボスとして君臨するような逸材だ)
目の前の男を見て、シドはそう確信した。すると、男の方から声を掛けてきた。
「──君には、願いというものはあるかね?」
「──ぼくにはあります。例え、それ以外の全てを犠牲にしても叶えたい夢が──」
「──それ以外の全てだと?」
「ぼくはその夢のために、それ以外の全てを切り捨てて来ました。ぼくは適当な人間でして。もし仮に世界の裏側で不幸な事件が起きて、100万人死んでも、割とどうでも良いんです」
「──人として、とても褒められたものじゃないな」
「褒められるために生きてる訳じゃないですから」
「──それを悪しきことだと悔いたことは?」
「特に何も。悪しきことだったとして、それが自分の願いなのなら、関係ありません」
「──お前はつくづく面白い男だな。──ときに聞くが、その願いを持たない人間はどうするべきだと思う?」
「もっと素直になれば良いと思います。願いは漠然としていても、シンプルに他を削ぎ落とせば、最後に自分の願いは残ると思います」
「──ただの少年がそこまで達観できるとはな。私もまだまだ修行が足りないということか。今日は良い話が聞けたよ」
「あぁ、はい。それではまた」
そういうとシドは扉を開けて、教会を後にした。
「──全く、白昼堂々、教会を訪れるとは。流石はバーサーカー。常識が通用せん」
静まる教会に1人残された男の漏らした独り言がただ響いた。
夜も深まって来た頃。ぼくは山岳地帯の道路を暴走気味に走る車を見つけた。ぼくの居る時代には車がまだ無いから久々に見る車だが、あれは死因なのであまり良い思い出が無い。
すると、道の真ん中に目の飛び出した奇怪な男が現れた。見た目的にはキャスターだがその男は車を運転していたセイバーを知り合いかのように話しかけている。
「お迎えに上がりました、聖処女よ!」
「─セイバー、あの人は知り合い?」
「いいえ、私はあれを知りません」
「おお!何とご無体な!この顔をお忘れになったと仰せですか!? 私です!貴女の忠実なる永遠の僕、ジル・ド・レェにて御座います!貴女の復活だけを祈願し、今一度、貴女と巡り会う奇跡だけを待ち望み、こうして時の果てにまで馳せ参じてきたのですぞジャンヌ!」
「ジル・ド・レェですって……!?」
話を聞いている限り、このジル・ド・レェというキャスターはセイバーをそのジャンヌという人と勘違いしてるらしい。その人と会うためだけに、この戦いに馳せ参じたみたい。
(いーやなにそれ……完全にストーカーじゃん。しかも会話が成立してないのお構いなしだし、話の通じない人は苦手なんだよね)
キャスターはセイバーに向けて攻撃を放つが、あまり通用していない。そして、キャスターは手を変えて出直すと言わんばかりに消えて行った……
そのまま、セイバーに攻撃しようかとも思ったけど、キャスターの放った触手がやたらと残ってて気持ち悪かったので、止めた。
市街地に戻ると、街で1番良いホテルの周りが騒がしかったので、モブの一般人を装って野次馬に参加する。そこは冬木ハイアットホテルと呼ばれていて、ぼくも1度訪れたことがある。
すると、ホテルが突然爆発した。
──なんだかこの街物騒過ぎない?
ホテルの最上階から魔力反応が伺えた。
あそこにマスターとサーヴァントが居るのかな?そのためだけにホテルを爆破するって大胆というか人でなしというか。ホテルに罪はないのに。
これといった戦闘も起きず、触手と爆発が残るだけの夜が静まった頃、ぼくは家へ帰った。すると監督役である教会から通達があったとマスターから聞かされた。
マスターの話を要約すると、キャスターとそのマスターが巷を騒がす連続殺人の犯人であることが判明し、聖杯戦争のルールを逸脱した行為として処分を降すらしい。
その処分として聖杯戦争の一時停止とキャスターを全員で討伐せよとのことだ。
キャスターを打ち破ったサーヴァントとそのマスターには令呪を1画与えられる。
とのことなのだが、令呪はぼくにとってあまり意味が無い。魔力の補填にはなるが、命令や指示は基本的に効力が薄くなるっぽい。
ぼくのマスターは、ぼくを救世主みたいに見てるから変な命令はしなさそうだし。
「──バーサーカーはどうするんだ?」
マスターである雁夜が口を開く。
「──積極的な参加はしない。他のマスターを攻撃しても咎が無いのなら関係ない」
その答えに雁夜は頷いた。聖杯戦争を勝ち残る上で余計な戦闘や手札を見せるのは、好ましくないと考えたからだ。またバーサーカーがやりたいように動くのが、最も効率的と考えたのも事実だった。
それとは裏腹に、子供ばかり狙われて行方不明と聞くと凛を想像してしまう。彼女と同い年の子供も居ると聞く。何か自分に出来ることはないかと考える間桐雁夜がそこには居た。
──何度目かの夜が訪れる。
ぼくは今、セイバーたちを追って薄暗い森に来ている。キャスター討伐自体は興味がないけど、あのセイバーにやたらと御執心なキャスターの近くなら戦況が動くと思ったからだ。
そして、そこに颯爽と現れる陰の実力者!
うーん、悪くない。キャスター退治はヒーローに任せるのが1番だよねやっぱり。
薄暗い森でキャスターが複数の子供ともに現れる。セイバーを誘い込む罠ではあるが、子供たちを目の前で惨殺される様に痺れを切らし、セイバーが森を駆ける。
「ようこそジャンヌ。お待ちしておりましたよ」
やたらと晴れやかな笑みを浮かべてキャスターがセイバーを出迎える。セイバーとしてはキャスターの陣地に突っ込むのは得策では無いが、状況が状況だけにそうも言ってはいられない。
子供を人質に取る悪辣な手法。自分を「ジャンヌ・ダルク」と勘違いしてくることへの苛立ち。何より英雄としての誇りがキャスターの行い、全てを許せなかった。
幾つかの問答を繰り返した後、キャスターの召喚した触手の化け物がセイバーに襲い掛かる。触手自体はそう厄介な敵ではないが、数の暴力はセイバーを持ってしても厳しい。
しかも先の戦いでランサーの槍による呪いを片腕に受けたセイバーでは尚更だった。
「無様だな、セイバー。もっと魅せる技でなければ騎士王の名が泣くではないか」
「ランサー!? どうしてここにいる!?」
そこに現れたのは、ランサー。
罪作りなほどの美丈夫が、セイバーに向けてウィンクをしている。突然の乱入者にキャスターは激昂する。
「何者だ!? 誰の許しを得てこの私の邪魔立てするか!?」
「─黙れ外道!セイバーは俺が討ち果たすと決めた天命の敵。こちらこそ、貴様如きに邪魔立てされる道理はない!」
「──ランサー……」
「─勘違いするなよ、セイバー。俺は主から『キャスターを討ち取れ』と命を受けただけだ。ならばここは共闘が最善だろう、違うか?」
セイバーはそれに頷き、共闘の構えを見せる。当然、キャスターは我慢ならない。
「貴様ァァァァッ!! キサマ貴様キサマ貴様貴様キサマキサマもう許さぬ! 彼女は私のものだ!肉の一片から血の一滴まで、その魂に至るまでなあ! この匹夫めがァァァ!!」
時を同じくして、アインツベルンの隠れ城の前に立つ男がいた。
「──
時計塔においても最高峰の魔術師であるケイネス・エルメロイ・アーチボルトが唱えた一言で液体金属のようなものが、城の入り口を破壊した。本人は単なる暇つぶしの一環で作った代物だが、彼の持つ魔術礼装の中でも最強と言われる一品だ。
城へと侵入したケイネスをブービートラップによる銃弾が襲う。アインツベルンのマスター、衛宮切嗣の手法だ。
しかし、その銃弾がケイネスに命中することは無かった。月霊髄液の自律防御によるものだ。銃弾を捌くとケイネスはため息と共に言い放つ。
「──ここまで堕ちたか、アインツベルン。
宜しい、ならばもうこれは決闘ではない、誅罰だ」
高らかに宣言すると、ケイネスは液体金属の塊を伸ばしていく。自動索敵によるネズミの探知だ。
この様子を背後から眺めていたのが、シャドウであった。魔力を徹底的に制御し、心臓の動きすらも制限しながら、ケイネスの魔術に見入っていた。
(あれって水銀だよね。魔力を得る過程で飲むか試そうとしたから分かる。あれだけ繊細な動きを体現できるなんて、魔力の使い方が上手なんだなぁ。まあ、ぼくに全く気付けてないのはまだまだだけどね)
ケイネスの操る月霊髄液は高水圧の刃となって建物をいとも容易く破壊していく。
しかし衛宮切嗣は追い詰められながらも、自律防御を突破するほどの一撃でケイネスに深傷を負わせた。誇り高い魔術師であるケイネスには、衛宮切嗣の騙し討ちや拳銃を使った手法が我慢ならなかった。冷静さを失い、憤怒の形相だ。
(あ、これは隠してた切り札で負けちゃうパターンか?あのイケメンくんのマスターならもう少し生存して欲しいんだよなぁ。今後のシナリオのためにも)
───ケイネスが衛宮切嗣を見つけ出す。
「もはや楽には殺さぬ。肺と心臓だけを治癒で再生しながら、爪先からじっくり切り刻んでやる……! 悔みながら、苦しみながら、絶望しながら死んでいけ……!」
──
ケイネスは月霊髄液に対して、最大防御の術式を命令する。もう二度と、子供騙しの攻撃に油断などしないと。二度と被弾などしないと固い決意共に高らかに術を唱えた。
──これを待っていたのは衛宮切嗣だった。
先の戦闘でケイネスを被弾させた一撃は、コンテンダーから放たれたもの。凄まじい威力で月霊髄液の自律防御を突破したのだ。
つまり、自律防御では防御不可能な切り札があること、そしてそれを既に使ってしまったことをケイネスにあえて見せつけたのだ。
──切り札は、先に見せるな
──見せるなら、奥の手を持て
今、ここで放つ一撃こそが、衛宮切嗣の持つ奥の手「起源弾」である。
自身の肋骨をすり潰して作られたこの魔術礼装は、弾丸を撃ち込まれた相手に、衛宮切嗣の起源である「切断」と「結合」が同時に現れる。
「修復」ではなく「デタラメな配線」
「破壊」ではなく「機能不全」
魔術師として優秀であればあるほど、その魔術回路は暴走し、魔術師として再起不能に陥る。魔術師を幾人も葬って来たこの一撃を各自に当てるべく餌を撒き、対象を罠に嵌めた。
この一撃を持って、勝負は決する。
──はずだった。
窓の外から黒い影が現れると、切嗣の放った「起源弾」をスライムソードで叩き落とした。窓が割れる音と「起源弾」が不発に終わったことを自覚するまでの数秒は時が止まったようだった。
「──今宵の月は美しい。フィナーレにはまだ早い──」
2人の魔術師の間に、シャドウが割り込む。
沈黙と驚きが交差した夜はまだ終わらない
また少し空きます。