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(──馬鹿な!?何故バーサーカーがこんなところにいるんだ……)
切嗣は言葉を失った。自らの切り札たる「起源弾」はバーサーカーによって打ち伏せられ、不発したこと、そしてこの距離で敵サーヴァントと遭遇してしまったことへの絶望に対して、今すぐ逃げ出してしまいたい気分だった。
(──そもそも、この距離に接近されるまで気付けなかったのはどういうことだ……。アサシン並みの気配遮断スキルとでも言うのか?
いや、有り得ない。ケイネスも同じような反応をしていることからも奴らがグルじゃないのは分かったが、誰がこんな芸当を考えたのか……)
「──破壊と再生、魂より湧きし混沌が貴様の力か」
(──!ば、馬鹿な!?どうしてぼくの起源弾が見破られたんだ!?やつは剣で弾き出しただけ、魔術回路には一切干渉していない。
その性質をどうやって知った……?マスターなのか?間桐雁夜が化け物だからなのか!?)
切り札の正体を看破され切嗣は追い詰められた。見破られたなんて信じたくもない。だが目の前のバーサーカーの台詞は間違いなく自らの「起源弾」の性質そのものだったからだ。
(うーん、剣で叩き落とした後、剣が微妙に曲がって変な形になったんだよなぁ。そういうアーティファクトは聞いたこともないしなぁ。破壊と再生、良いんじゃないこれ!口上としてもカッコいいし)
切嗣が半ば放心状態の間に我に返ったケイネスが退却の構えを取ろうとした瞬間、窓を蹴破ってランサーが現れた。
「──!ご無事ですか!?我が主よ!」
ケイネスの前に立ち、状況を瞬時に確認したランサーはバーサーカーに対して食ってかかる。
「──バーサーカー! 嫌な予感がして駆けつけてみれば、我が主を騙し討ちとは恥を知れ!」
(嫌な予感ってなに!?セイバーと仲良く共闘してたんでしょ!何で乱入してくるの、今は違う!お呼びでない!)
「──どうしたランサーよ?人妻を口説くに飽き足らず、セイバーとも仲良くなるとは。
相変わらずナンパに精が出るな「間男」」
「──今の発言だけは撤回してもらおう……
撤回せぬと言うのなら、今ここで我が槍の錆とするまで!」
「──ランサーよ。人妻を口説くとは、一体なんだ? 答えよランサー…… 答えよ!!」
「──主よ、今はそのような場合では!
それに私は誓ってそんな真似はしておりません!」
「──黙れ!貴様の逸話は既に聞き及んでいる! 私が貴様を信用できると今なお、考えているなら勘違いも甚だしい!撤退だ!今すぐ私を連れて撤退だ!」
「──ッ!」
ランサーは言葉を押し殺すとケイネスを抱えてその場を後にする。沈黙と切嗣とシャドウだけがそこに残る。
(あらら、ハウスしちゃったよ。もしかしてまた痴情の絡れ?深夜枠はもう沢山だよ、せめて夕方7時まで修正していかなければ」
「──お前は、お前は一体何なんだ、バーサーカーでありながらその口ぶり、こちらの動きを全て把握したかのような振る舞い……
お前は、何者なんだ!」
「──我が名はシャドウ。この名、この姿こそが、我が真実だ」
(──ダメだ……何一つ答えになっていない……)
切嗣は頭を抱えた。そもそも会話ができるといっても所詮はバーサーカー。まともな意思疎通が取れると思った方がむしろ負けであった。
「──一つ問おう。貴様はなにを為す?
聖杯に何を願う?何を求め戦う?」
「──そんなものをお前に話して何になる?」
シャドウはそれに対して何も返さない。
状況は何も変わっていない。
こんな狂人に何を話しても意味はない。
だが、あらゆることが裏目に出続けているここまでの聖杯戦争。心身共に疲弊している彼は弱音を漏らすかのように告げる。
「──全ての争いの根絶。人々が苦しまずに済む、恒久的な世界へ「ハックション!」だ」
(うぅ〜寒くないなんか?今日が冷えるだけかな?あ、最後のところの聞こえなかったけど、争いの根絶とか人が苦しまないとか言ってたけど、もしかして宗教?宗教だなこれ)
すると、シャドウは何も言わずにその場を立ち去った。
「──なんなんだやつは……」
壊されたアインツベルンの城に、切嗣の独り言だけが小さく響いた。
────────
翌日、シャドウは再び出掛けていた。
キャスター討伐には積極的に関わらないと言ったが、殺人犯自体は好きになれないので、探索はしようと考えていた。
今日は赴くのは冬木市に張り巡らされている地下水道だ。以前から微妙な魔力の痕跡を感じており、キャスターの拠点である可能性が高かった。放置していたのは、面倒臭かったに他ならないが、手を付けることにした。
(うわぁ魔力の反応が濃くなってる。しかも微かだけど、血の臭いがする)
僅かに漂う血の臭いを頼りにシャドウは地下水道を進んでいく。道中には侵入者の行手を阻むように触手のトラップが仕掛けられていた。キャスターは工房を作る能力に長けたクラスなのだが、シャドウにはあまり関係ない。触手を切り捨てつつ、進み続ける。
すると、向こう側から馴染みの魔力の反応があった。
「─お?なんだ、バーサーカーも来ていたのか。お前さんもここを怪しいと踏んでの到来か?」
「──そうだ」
筋肉モリモリの益荒男がやや嬉しそうにやってくる。ライダーのマスターも一緒だ。
「いや、なに、うちの坊主が初めてマスターらしい活躍を見せそうなんでな。余としても鼻が高いというものよ」
ライダーが高らかに笑いながら自慢してくるが、ライダーのマスターは文句を言っている。
「──この先にキャスターめの根城があると見ているが、ここは共闘といかんか?貴様とはちゃんとした形で雌雄を決したいんでな」
「──いいだろう。我が命運は貴様に、貴様の天命は我が手に」
「あっははは、一々仰々しいやつよの」
ライダーとシャドウは地下水道の奥を進んでいく。魔力反応が濃くなり、2人の間に会話は無くなる。
すると、ライダーが沈黙を破るように発する。
「──あぁ、坊主── あんまこの先は見ない方がいいぞ?」
「─はあ?何言ってんだよライダー。せっかくここまで来たってのに。そんなにボクが信用できないか?」
「─いやそういう意味で言った訳じゃない。
ただ、お前さんにはちょっと刺激が強すぎる気がしてなぁ」
「あのなー!ボクだって魔術師なんだ!そんなことくらいで動揺なんかするもんか!」
ライダーの制止を振り切って、ウェイバーは前に出ていく。
するとウェイバーの顔は引き攣り、悲壮に歪み、そして嗚咽したのだった。
目の前に広がったのは、吐き気を催す邪悪そのものだった。人間を生きたまま解剖したような後、生きたままアートの如く飾られた子供たち。まともな人間のできる所業じゃなかった。
「──だから、言わんこっちゃない」
「─う、うるさい!ちくしょう……馬鹿にしやがって……お、お前らは何で平気なんだよ!こんな、こんな……」
嗚咽とともに涙を流しながら、何とかウェイバーは言葉を吐き出す。
「──まあ儂らはなぁ。だがなあ坊主。こんなもんを見て、眉一つ動かさんやつの方がどうかしとる。慣れる必要などない」
ライダーがウェイバーを諭すように宥める。
すると、シャドウは魔力を練り上げ、子供たちを包み上げた。一瞬安らかな表情を浮かべると、子らは息絶えたのだった。
「──せめて安らかに逝け──」
「─バーサーカー。貴様も同じ気持ちか。ならば弔いは盛大にやってやらねばな」
ライダーは自身の戦車から迸る稲妻でキャスターの工房、この世の地獄ともいえる惨状を焼き払った。
それが無残に殺された子らへのせめてもの手向けであるかのように