ここから3日に1話の更新ペースになるかと思います。よろしくお願いします。
聖杯戦争は夜に行うのが理だ。
魔術の隠匿はもちろん、一般人を巻き込まないようにするためだ。
じゃあ昼間は何をやってるかというとモブofモブとして日常生活を送っている。最近、桜ちゃんがぼくと出かけたがっているとマスターから聞いたけど、モブのぼくが可愛い幼女を連れてたら通報されそうなので、やんわり逃げている、というのはクラスのみんなには内緒だよ?
今、ぼくは街の裏道に入ったところにある骨董屋に来ている。骨董屋と聞くと人によってはガラクタ売り場みたいなイメージを持ちがちだけど、こういう穴場にこそお宝が眠っていたりするんだよね。他人にとって価値がないものも、自分にとって価値があるならそれで良いし。
骨董屋には色々なものが置いてある。宗教に使われそうな壺から名画に似たナニカまで千差万別だ。その中から、ぼくは碧い宝石が施された指輪を見つけた。デザイン自体はシンプルだが、魔力の胎動を感じる碧の宝石が目を引く逸品だ。
『指輪』
契約、資格、誓いなどの意味を含んだ装飾品だ。所持する人間は選ばれし者だったり、資格を有するかのような特別感が出たりする。
ぼくは迷わず、その指輪を購入した。ペアリングになっていて二つで一つの品だ。
マスターからお小遣い貰う陰の実力者ってカッコ付かないから貰ってはいないよ。
え? ぼくが街を練り歩く際の遊興費はどうしてるかって?
それはまあ、色々とね───
カツアゲしてる人間を背後からカツアゲし返したり、ゴミをポイ捨てしたやつからこっそり財布を拝借したり、まあそんな感じ?
気にしたら負けだと思う。
教会からキャスター討伐の任が発令された後、最初の夜。バーサーカーは窓の外から戦いに出て行った。あいつはよくあの部屋でワインを飲みながら、月を見ているが、あのワインは何処から手に入れたんだ?
あのクソジジイにそんな趣味はなかったはずだし…… いや今はそんなことどうだって良い。
何故か妙な胸騒ぎがした。今日、マスターとして外出しなければ、何か良くない事が起きる予感と自分が後悔する予感だ。
これまで戦闘もその方針もバーサーカーに一任してきた。今の俺はバーサーカーの現界や戦闘に支障をきたすような状態ではない。
だが、やはり魔術師としての技や策は何も持ち合わせていない魔術師かぶれだ。
今の俺は、果たしてマスターと呼べるのだろうか。桜ちゃんを助けたいという目標は既に達成された。だが、本当にこのままで良いのかと頭の中を何度も何度も駆け巡った。
……やっぱり俺も戦いに出よう。キャスター自体の討伐は出来なくてもキャスターのマスターの手掛かりが掴めれば、何かしら攻略の糸口が見つかるかもしれない。
──何より凛ちゃんと同じくらいの子供が行方不明になってるのは、他人事じゃない。
とはいえ、俺のマスターとしてのアドバンテージなんて顔が割れていないことくらいだ。
一応、蟲の使役はできるが、気休め程度に考えるべきだろう。
外に出てキャスターのマスターの足掛かりを探ることを決めた雁夜は不意にシャドウが居た部屋に立ち入った。開きっぱなしの窓を閉めて振り返ると、シャドウが普段座っている家で1番良い椅子の上に何かが落ちていた。
(──これは、指輪か?どうしてこんなものが。そもそも何処で手に入れたんだこれ)
雁夜は碧い宝石が施された指輪を手にして、良いデザインだと感心しながら考える。
(──これはバーサーカーの落とし物か?
いや、あいつがそんな間抜けな真似をするはずが無い。あいつの行動には全て、何かしらの意味があるはずだ。──もしかして、これは、俺への餞別か?あいつが俺の心情を汲み取った上での計らいなら、確かに説明が付く)
雁夜は指輪を左手の人差し指につけると間桐邸を出て、街へと飛び出していった。
フードで顔を隠し、蟲を近場で待機させて慎重に足を進めていく。
夜はまだ序曲を奏でたばかりだ。
遠坂凛にとって、遠坂時臣は偉大な魔術の師であり、尊敬できる父親だった。遠坂の家訓である「常に余裕を持って優雅たれ」を体現する父のような魔術師になりたいと願っていた。
そんな父親に一歩でも早く近づくために地下室で本を漁ったこともある。しかし本の中に魔力が篭っているものもあるらしく、本の魔力に凛はやられそうになったことがある。
「凛に、この本はまだ早いな」
そう言って本を片付けると、時臣はコンパスのようなものを凛に手渡す。
「これは魔力針といって、魔力の痕跡が少しでも残っていると反応して知らせてくれるんだ。さっきの本に魔力針を向けてごらん」
凛は先程の本に魔力針を向ける。すると針は強い拒絶の反応を示した。
「こういう反応をするものは、まだ凛の手に余るから近づかないように。少し早いが、誕生日プレゼントだ。これは凛にあげよう」
嬉しそうに魔力針を受け取る凛。これから父は聖杯戦争に身を投じていく。何とか協力したいと考える凛であったが、戦場となる冬木市に置いておくのは危険と判断した時臣は家族を母親の実家である禅城に避難することになった。
聖杯戦争が始まってから同級生が一人、また一人と行方不明になっていった。そして、その子供たちは無惨な姿で発見され、生きて帰ってくる者は居なかった。
そして、遂に自身の友達であるコトネが居なくなってしまった。イジメられているところを助けたこともある優しい子。
自分にとって大切な友達がいなくなり、居ても立っても居られず、凛は避難先である禅城の家から単身で冬木市に戻り、調査を開始した。
静まり返った冬木の街を探索していると、魔力針が四方八方に反応を示した。こんな反応は見たことが無かった。そこら中に魔力の痕跡があることを指しており、明らかに異常だと凛は察知した。
すると子供を連れた青年を発見、こんな時間にどう考えても怪しい。凛は尾行する。
そしてある部屋に入っていたのが見えた。今は使われていないバーのような場所だ。凛は後からその部屋に入るが、そこで見たのは、意識を抜かれたコトネや学校のみんなだった。何とかしなければと思った矢先
「あれ〜?どうしたの迷子かなぁ〜?」
子供を連れ去っていた青年が朗らかに話しかけてくる。髪は茶髪で耳にはピアス、軽薄そうな見た目と軽い口調。凛は恐怖で体が震える。
「ま、ちょうど良いや。今から俺たちパーティー始めるところなんだよねぇ」
「でもまだ人手不足でさぁ〜。君も、手伝ってくれない?」
男は手を伸ばしてくる。凛は振り払うかのように逃げる。男の腕に怪しく光るブレスレットがつけられていた。あれを壊せばみんなの意識も戻るはず、そう考えた凛は部屋にあった物を片っ端から投げ付け、隙を作ると男の手首を掴んで魔力を込めた。
しかし、ブレスレットから発せられる魔力は想像以上の邪気を放ち、凛に襲いかかる。
「なぁんだ、やっぱり手伝ってくれんじゃん」
ニヤついた男の声が遠くに聞こえる。魔力に呑み込まれ、意識が、と、おのいて、い、く
──間桐雁夜がその場所に至ったのは単なる偶然だった。それは殺人犯であるキャスターのマスターが隠れそうな場所、裏路地の入り組んだ場所を中心に探索しようとした矢先だった。
見慣れた少女が一人でいるのを目線に捉えた。
名前は遠坂凛、遠坂時臣の娘であり、雁夜とも親しくしていた。ここ1年はもう会っていないが、その姿を見間違えることはない。
「──なんで凛ちゃんがこんなところにいるんだ」
理由は分からなかった。だが遠坂凛が今この場に居るという事実は覆らない。魔術師の娘とはいえまだ小学2年生の子供にここは危険過ぎる。声を掛けるべきだと思った、ここは危ないからと帰ろうと言うべきだ。
しかし、声を出そうとしたその刹那、雁夜はその一言を飲み込んだ。
「──俺はどんな顔をして声を掛ければ良い? 凛ちゃんは俺が魔術師になったことを知らない。俺が声を掛けるのは魔術師としてなのか? それとも知り合いのおじさんとしてなのか? 知り合いのおじさんだとして、桜ちゃんと離れ離れにしてしまった原因である俺が声を掛ける資格があるのか……?」
罪悪感と恐怖で言葉が出てこない。しかし時間は待ってはくれない。凛は更に入り組んだ道を進み、遂に使われていないであろう部屋へと入って行ってしまった。
『己の欲求を研ぎ澄ませろ』
頭の中にバーサーカーの言葉が浮かんだ。目を覚まさせてくれた言葉が、雁夜の思考をクリアにしていく。
「──俺は、凛ちゃんに無事で居て欲しい!
凛ちゃんと桜ちゃんがまた仲良く暮らせる平穏な世界を守りたい!例え、恨まれようとも嫌われようとも!」
果たしたい願いを定めた雁夜は凛を追って部屋へと足を踏み入れる。そこには何人もの子供が倒れていたが、それよりも凛が一人の男と対峙していた。
男の腕から強力な魔力が溢れ出ており、雁夜でもその異常さを窺い知れるほどだった。
「──意識を強く持て! 凛!」
─────────
遠のいていく意識の中で自分を呼ぶ声が聞こえた。意識を強く持てと、堕ち行く自分を現実へ引っ張りあげるような声。
その声で私は正気を取り戻した。
「──集中して魔力を込めろ、落ち着け!」
背後からその声が聞こえた。誰かはよく分からない、でもその言葉は何故か信用できた。
私はありったけの魔力を込める、背後の人も魔力を込めていた。左手の指輪からはとても強力で。でもどこか暖かい魔力が流れ出ていた。
「──こ、こんなものおぉぉぉ!」
すると、腕のブレスレットは焼き切れたように破壊された。
「─な!?ぐッうぅぅ!」
ブレスレットの割れた衝撃と魔力のぶつかり合いによって生じた光が目に入り、男は目を抑えて怯んでいた。
ブレスレットの効力が切れ、コトネたちが意識を取り戻す。凛はコトネを介抱する。
「コトネ!」
「──え、凛、ちゃん? わたし、どうして……」
コトネは泣き出す。それは他の子供たちも同様だ。死を目の前にした恐怖を味わったのだから当然だろう。
「──泣いている場合じゃない、逃げるぞ!」
空気を切り裂くようにフードの男が叫ぶ。
私も呼応し、何とか全員で逃げ出すことができた。
「──あ、おい待てよ……。あちゃー、こりゃ旦那に怒られるかな?」
焼き切れたブレスレットを手にした男のボヤキだけが部屋には残った。
警察に誘拐された子供を引き渡すと、凛は呼吸を荒くしながらもホッと一息をついた。
フードの人が誰かは結局分からなかったけど、魔術師として優秀な人なのだろうと思索した。
「──良かったぁ。──さぁ、帰ろう。──やったよ、お父様」
魔力針を撫でながら、自らの成果に満足する凛。しかしその魔力針は再び強い反応を示した。
針は振り切れ、魔力針本体は歪むように動く。地下室の本と同じ、いやそれ以上の見たこともない反応だった。
魔力針の指す方角を見ると、そこにはイソギンチャクのような海魔が居た。邪気を放ち、強烈な魔力で凛に狙いを定めるかのように近づいて来ていた。
凛は恐怖と緊張で動けなかった。度重なる恐怖に加え、先程の魔力行使による疲労で凛の精神は限界だった。
そこへ背後から凄まじい羽音が聞こえた。振り返ると大量の虫のようなナニカが凛の身体をすり抜け、海魔に襲いかかり、諸共食い尽くしていった。その様子を最後まで見る間もなく、凛の意識は途切れた。
「──あの子まさか冬木に行くなんて……」
遠坂葵は車を走らせていた。
凛が姿を消したからだ。
冬木へ行くという言伝は家の者に残したらしいが、聖杯戦争の地であり、連続殺人も発生している場所へ行くというのは危険極まりない。凛が才能に溢れた魔術師の子であってもまだ小学2年生、心配は当然の感情だ。
──無事でいて欲しい
そう願いながら車を走らせていると見慣れた公園の前で車を停めた。
凛、かつては桜とも一緒によく訪れていた公園だ。この冬木で家を除けば、凛にとって1番馴染み深い場所かもしれないと、一縷の望みを託して公園内を探す。
すると、一人の少女がベンチで横になっていた。見間違えるはずがない凛だ。
「──! 凛! 凛……」
「──凛ちゃんなら大丈夫。気を失って寝てるだけだ──」
背後から聞こえた男の声に遠坂葵は振り向く。
「──雁夜……くん……? なに…?どういうことなの…? どうしてあなたがここに……」
少しの驚きと畏れを含んだ遠坂葵の質問に雁夜はフードをとり、左手をポケットに入れたまま、右手の令呪を葵に見せつける。
「──! そ、それは……!」
「──令呪だよ。つまり、俺は間桐の魔術師ってことさ」
「──魔術師……?だって雁夜くん、魔術とは縁を切ったって……」
「──桜ちゃんが間桐に養子に出されたって聞いた後だよ。あいつと、臓硯と約束したんだ。俺が聖杯を手にすれば、桜ちゃんを解放すると、あいつが欲しいのは聖杯だけだからな」
間桐雁夜が魔術師という事実にも驚いたが、その後の言葉が引っ掛かった。桜を解放するとは一体どういうことなのかと。
「──ねぇ雁夜くん。桜は、桜はどうしてるの?」
「安心して良いよ、桜ちゃんは無事だ。バーサーカーが全てやってくれた。あいつは凄いんだ、桜ちゃんを救ってくれて、臓硯も始末してくれた。あいつのおかげで俺の全てが上手くいった!」
「──!」
臓硯、間桐の当主が死んだことを今、初めて知る遠坂葵。桜の養子縁組は間桐の当主である臓硯との間に交わされた約定だ。臓硯が死んだ今、桜を無理に受け入れる積極的な理由は存在しない。
「──聖杯はもう必要ない。だが俺は、やっぱり遠坂時臣を許すことはできそうに無い。あいつが間桐に桜ちゃんを渡さなければ、地獄を見ることは無かった! 俺はあいつと決着を付けなければならない、例えそれが葵さんの気持ちに背くことになろうとも!」
力強い言葉が誰も居ない寝静まった公園に響くと、雁夜はフードを被り直す。
「──この戦いが終わったら、また昔みたいにみんなで遊ぼう」
そう言い残すと雁夜はその場を立ち去った。
「──雁夜くん、あなたは……」
すると、凛が目を覚ました。
「──ん、お母様……?」
「──凛! もう心配したんだから……」
「ごめんなさい……ごめん…なさい……」
一人の少女の涙が母の手の中で溢れ出た。
──あれ、今どこかで陰の実力者らしいことをした人が現れた気がしたぞ?気のせいかな
字を震わすやつをやりたかっただけです。不評でしたら止めます。